表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/10

束の間

 書き溜めが付きました。次回はだいぶ間が開きそうです。

「ほぉ……」

 私は景色を眺めながら、1つ息を吐きました。今居る場所は、領主の屋敷に設けられた浴場、この度の褒賞として特例的に使用許可が出たのです。あの後、私はいつの間にか消えていたことについて、大いに詰められる事となりました。意外かも知れませんが、特に強くこの事を咎めたのはフレイでした。じっと私を見つめ、ゆっくりと言葉を紡いで行くその様子に、もう彼を怒らせるような事はすまいと、私は誓いました。何はともあれ事件は全て解決、被害者達は全員生存し、考え得る限り最良の結果であると言えるでしょう。

 それにしても、領主の屋敷の浴場だけあって、柱の装飾から床のモザイク画に至るまでまで、全てに嗜好が凝らされ、中央に飾られた女神像には、天窓から陽の光が差し込んでいました。

「古い死の神……」

私はぽつりと、小さく独り言ちました。名前すら忘れ去られたというキリクの言葉通り、それにまつわる逸話などは、ここ数日、私が調べた中では何1つ見つかっていません。正直、苦し紛れに吐いた妄言の類なのではないかと思えます。そういった眉唾物の情報ですから、いらぬ混乱を招くと考え、皆さんには伝えていません。

 目を閉じ、お湯に溶けるようにして湯船に身を預けます。慌ただしさと無縁のゆるゆると流れていく時間は、一時の平穏を実感します。コタコンベへの突入から1週間、近々街を立つ事になるのもあって、エリクシルアクエリウスに入り浸り、香水の作成と呪術師(ソーサラー)の扱う魔法について学んでいました。それもあって、全てが片付き何者に追われることも無く、湯に揺蕩う平穏さは心に染み入るというものです。

「……あれ?こんな時間なのに、誰か居るみたい」

 浴場の入り口から声が聞こえました。いったい誰でしょうか、この時間を失うのは惜しいですが、仕方ありません。浴場を立ち去ろうと、私は立ち上がりました。

「えっ……」

 来訪者の顔を確認した瞬間、私の思考が止まりました。何故ならそこに立っていたのは、フレイだったからです。

「……?どうしたの、そんなじっと見つめて。もしかして……溜まってる?」

 フレイが何か言っていますが、私の耳には届きません。呆けたように視線を落としていくと、なだらかな、しかし確かなふくらみがありました。

「女性……?」

「もしかして……フィリア、僕の事男だと思ってた?ふっ……ふふ」

 私の口から洩れた言葉に、フレイが噴き出しました。

「ごめんね、聖職の人ってそういう趣味があるっていうから。ふふっ、まあ見ての通り、僕は女だよ」

 その後しばらく、私は呆けたままでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ