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地球は青かったが

作者: 雉白書屋

 ――地球は青かった。


 人類初、宇宙へ行き、その目で地球を見た宇宙飛行士、ガガーリンが残した言葉だ。

 実にいい言葉だ。完璧すぎる。

 そう、だから私は今、困っているのだ……。


 衛星Y-455679通称、アーレは地球でいうところの月である。

 そしてそのアーレに着陸した宇宙船の船長である私は、目的の惑星をこの目で見た。

 D-5667通称、ガルモアは今では青さを失った地球を後にし人類が永住、新たな故郷となる予定の星だ。

 その美しさたるや、かつての地球に劣らぬほど。で、あるからして、この後の通信による記者会見にて必ずこう問われるだろう。


『ガルモアをその目で見てどうでしたか?』


 ……何と答えればいいのだろうか。

 ここで『ガルモアは青かった』などと言えば二番煎じ、冷笑ものだ。それに正確に言えばガルモアは緑豊かな星だ。

 では『ガルモアは緑色だった』はどうだ?

 ……いやいや、それこそ二番煎じ、パロディーもいいとこだ。

 私の言葉が後世に残るのは確約されたようなもの。衛星に着陸しただけではない。ガルモアを発見したのも我々の船だ。

 トラブルと奇跡の連続を経ての偉大な発見。昔とはいえ、月に行ったのとは訳が違う。負けるわけにはいかない。『地球は青かった』よりもいい言葉を考えなければ。

 しかし、記者会見の時間が迫っているというのに何も思いつかない。前もって考えておけばよかったものを、忙しかったとはいえ失念、まさか今になって思い至るとは!

 これならいっそのこと、聞かれたその瞬間に思いついたものを言おうか? そう直感に委ね……いや、しどろもどろになれば子孫の恥だ。

 今、考える時間があるのは幸運。そうとも、私は船長。エリートだ。さあ、考えるぞ……。


『ガルモアは緑を基調とし、所々に青色を差し込み目に優しく、とてもエレガントである。それでいてドレッシーで、どこか強く自立心のある女性を想起させつつも守ってあげたいような魅力――』


 駄目だ。ファッションの下手糞な批評のようだ。そもそも長い。もっと短く……。


『自然の恵みがもたらすその豊かな香りは思わず目を閉じて気の赴くままに歩き、そしてその舌でじっくりと味わ――』


 ……馬鹿か。ワインじゃないんだ。そもそもまだ着陸したことがない。香りなんて知るか。他にもっと、心に響くような情熱的で……。


『おお、ガルモアよ! そなたは美しい! それを恐ろしく思うのはなぜだろうか!

それは私を、いや私だけじゃない。多くの者を惹きつけ、そして放さず――』


 ……ふざけすぎだ。あとやはり一文で締めたほうがいいだろう。


『ガルモアは淫らな女だ。それでもその密林を掻き分け甘い蜜を欲してやまな――』


 まだ長い。いや、それ以前に下手な官能小説の一文のようだ。こんなこと口にしても買うのは顰蹙だけ。どうも追い詰められすぎて脳が働いていないようだ。っともう時間じゃないか……待たせるわけには、しかし……ん、そうか待たせる……。





「船長。ガルモアをその目で見た感想をお聞かせ願えますか?」


「……ベールを纏った花嫁のようだったよ。ふふっ、どうやら我々は彼女を待たせすぎたようだな」


「ああ、ガガーリン氏の名言からですね」


「……え? ガガーリンは地球は青かったって」


「ああ。そっちのほうが有名ですね。元は地球は青いベールをまとった花嫁のようだったと。翻訳されるときに変化したとかいう説があるんですよ」


「なんなんアイツ」




 そう不貞腐れた船長。

 しかし、ガルモアは確かに待っていた。

 ガルモアはその美しい外見から移住に適した地だと判断し、着陸した者たちをまず豊かな香りで出迎える。

 その魅力には誰も逆らうことができず、惹きつけられ奥へ奥へと密林を掻き分け進み、そしてその甘い蜜を欲した生物をツタで絡めとり、捕食するのだ。

 ガルモアは食虫植物が支配する惑星。

 雲と緑で作られたそのベールの下を決して覗いてはならないのだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 偉大な先駆者がいると、後に続く者は大変ですよね…。 そしてガルモア、恐ろしい惑星ですね。
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