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異端の騎士道  作者: 嵐猫
ジャポン襲撃
140/180

迷いのない剣

「はっ!」



 次元昇華アセンションの真実を知った翌日、俺は早朝に起きて外で素振りを行なっていた。そして、自分でも少し驚いているのだがその剣筋は一切のぶれを感じさせなかった。



 剣筋がぶれていない、それはつまり俺の中にあまり迷いがないということに他ならない。少なくとも、戦闘に支障をきたすような精神的負担になるレベルの悩みは抱いていない。



 ベルリアから俺が既にレイを一番大切なものとして見れなくなったことを告げられたことで一時的にかなり精神的に参っていたことは事実だ。それでも、見方を変えればそこまで深刻なことではない。昔を思い出して俺はそう気付くことが出来た。



 子供の頃、父さんと接していた俺は確かに父さんから愛されていた。今思い返してみても家族として大切に扱われていたと自覚出来る。それは母さんもレイも同様で父さんにとって家族は間違いなく容易には切り捨てられないほどの宝物だった。



 けど、騎士として多くの犯罪者を捕まえ、国民と触れ合って行くうちに国や民に愛着が湧くようになり、同じ騎士と切磋琢磨し仕事をこなしていくうちに家族以外の大切なものが増えて行った。そんな時に起きたのが当時四聖剣であったギルガイズの裏切りと逃亡。



 五カ国同盟の中でもそれなり以上に権力を持っていたロイヤル王国は強過ぎる権力故に隙を晒せば他の四カ国から必要以上に責められる立場にあった。そんな中でも四聖剣クラスの裏切りとペア帝国の要人の殺害はロイヤル帝国の立場を揺るがすには十分過ぎた。



 何一つ成果のない状態では確実にロイヤル帝国の立場は危うくなる。その結果、唯一の生き残りであり命懸けで情報を持ち帰って来た父さんに白羽の矢が立ったという訳だ。



 幸いとは言いたくないが、父さんをギルガイズの共犯者として、それを我が国の騎士が迅速に対応して捕まえたという実績を作り上げることで他国からの追及を緩めることに成功し、その上で先んじて父さんの公開処刑を行うことで我が国は他国に誠意を示した。またギルガイズが殺した騎士の中にはロイヤル帝国の騎士も居たことで最悪の事態にはならずに済んだ。



 しかし、その結果父さんの冤罪は膨れ上がりその火は俺たち家族にも牙を向くことになった。事情を知っている筈の国からの遺産の剥奪、ペア帝国からの要求を飲む形での俺たちの放逐、当たり前のように行われる迫害に暴力を受ける日々。



 父さんの公開処刑から二年が経つ頃、突然家に押し入って来た霊装持ちの盗賊に母さんが殺され、父さんが居ない間家族は自分が守るという約束さえも守れなかった俺はせめて残されたレイだけでも幸せにすることを決め自分という存在をどこまでも軽んじることにした。



 それからはレイの幸せの為に罪を重ねる日々を過ごし子供の頃に憧れていた騎士とは真逆の人生を歩んで行った。その過程で得た力は今でも俺の支えとなっている為一概に悪いとは言えないがそれでも心の何処かでは普通の生活に憧れていたのかも知れない。



 それから月日は流れ俺の運命を変えることになったロゼリアさんとクライツ姉さんが家を訪ねて来た日、初めはかなり警戒したけど話が進むにつれ敵意がないことが分かり父さんが俺たち家族を切り捨てる選択をした理由を知りたかった俺はロゼリアさんに頼んでクルセイド騎士学園へと入学することにした。



 あの時はまだレイのことを世界で一番大切な存在として認識していたがそれも学園で生活するうちに少しずつ、けど確実に変わって行った。



 今では親友と呼べるまでの中になったマサムネとの再会に、不思議な温かさを持ったサクヤとの出会い。



 正義感が強く騎士としての素質を持ったフレアさん、復讐の為に時間を捧げそれでも騎士への憧れを捨てることの出来なかったソフィアさん、自信を求めて日々努力を積み重ねて行ったリリムさん、剣舞際以降俺の弟子となり剣聖になる為に剣を振い続けているタロット、生徒会長としてこんな俺のことを守ろうとしてくれた

ティア先輩、明るく優しく俺のことを好きになってくれたラシア先輩、面倒見が良く常に皆を見てくれていたレオ先輩、腕の治療に始まり俺のことを気に掛けてくれたサテラ先生、知識欲が強く何かと退屈しなかったイースト先生、常に放任主義を決め込みながらもなんだかんだ見守ってくれていたバンス先生。



 いろいろな人との出会いが俺を変えてくれた。そして、俺の闇の部分を知っているベルリアにレイへの気持ちの変化を指摘されて俺は自分の変化を明確に自覚することが出来た。



 大切なものが増える度にそれを守る為の力を欲し続けその結果大切なものが増え過ぎて守る為の力が不足してしまった。過去の因縁がグランドクロスを呼び寄せ何度も巻き込まれるうちにいつの間にかグランドクロスに名前を覚えられ今では自分から問題ごとに突っ込むようになってしまった。



 今の俺なら父さんが俺たち家族を切り捨てたことも理解出来る。それでも、俺は父さんのやり方を理解した上で否定する。



 大切なものが増えたことで俺たち家族三人よりもその他の多くのものを救うことを選んだ父さんだがそもそもの話、何かを切り捨てないといけない状況になったこと自体が失敗のように思える。



 意味のない例え話だがもし当時の父さんがギルガイズよりも強ければその時点で問題は起こらなかった筈だ。責任の押し付けのようにも思える暴論ではあるが事実でもある。だから俺はそれを目指すことにした。



 騎士などという高尚なものになった気はしないから騎士道とは呼び難いがそれでも敢えて言うなら大切なものを何としてでも守り抜く。それが俺の騎士道だ。



「その為の犠牲は俺とその他大勢で良い」



 全てを救えるほど俺は万能ではない。だから、何かを切り捨てなくてはならない時に真っ先に捨てるのは俺自身にする。そして、必要ならばその他大勢は簡単に切り捨てる。その為に必要なのはやはり力だ。



「霊装解放、まずはそこからだな」



 もう迷いはない。例えレイを一番に大切に出来なくても守り幸せになってもらえさえすれば結果は変わらない。そこに、俺の想いが介在する余地はない。



「朝から精が出るね。レイド」



 そうして素振りを続けているとベルリアが声を掛けて来たので俺は一度素振りを中断して振り返る。



「おはようベルリア。あれから色々と考えたけど、結局は全て守れば良いってことで落ち着いたからな。昨日はありがとう」


「ははっ、そうなったんだ」



 俺が笑顔でお礼を言うとベルリアは顔を引きつらせて乾いた笑いを浮かべる。



「落ち込んでるかと思って慰めて距離でも縮めようかなって思ったのにもう吹っ切れたんだ。それもおかしな方向に」


「おかしな方向?」


「レイドの目を見れば分かるよ。狂気すら生ぬるい壊れた人間の目だね」



 壊れた人間か。散々言われて来たけどまぁ、自分本位な人間が多い中で他者を優先するのならそれは確かに壊れているかも知れないな。



「流石に正面からそんなことを言われたら俺だって思う所はあるぞ」


「嘘だね、別に何も思ってないでしょ」


「まぁな」



 やっぱりベルリアには全てお見通しか。これはもう、ベルリアに嘘をつくことは出来なくなったと考えて良いかもな。



「というか、一つ気になったんだけど俺ってそんなに変わったのか?」


「どういうこと?」


「いや、なんて言うか自分を大切にしてないのは前からだしそこまで大きな変化ではないように感じるんだが?」



 それは純粋な疑問だった。今回の件を経てベルリアは俺に吹っ切れたと言ったが俺からしてみれば前とそこまで変わった実感がない。



「変わったよ、少なくとも前のレイドはまだ自分のことを優先順位の最下層に認識してた。でもね、今のレイドはその優先順位の中にすら入ってない。前のレイドが自分のことを後回しにしてたとしたら、今のレイドは完全に自分のことを道具や駒として割り切ってる。多分、お父さんの考えを理解して目的意識が薄れたことも理由の一つだと思うよ。だって今のレイドってこの世界にあんまり未練とかないでしょ」



 ベルリアにそう言われて初めて認識出来た。確かに俺はこの世界にあまり未練が持てていないのかも知れない。それでも、それを理解した所でどうでも良いと思える自分が居るのも確かだ。



「まぁ、俺のことはどうでも良いさ。今はこの国を守ることが優先だ」


「そうだね。今はこの依頼を完璧にこなして報酬をたっぷりと堪能することの方が大切だね」



 俺とベルリアはお互いに違う動機と同じ目的を持って行動する。それはどちらも自分の為であり他者の為でもあった。



「ねぇ、レイド。もし泣きたくなったら私を頼ってね」


「大丈夫、多分もう泣かないから」



 寂しそうなベルリアの笑顔と俺の作り笑いが交差する。自分の中から少しずつ感情が薄れていくことを自覚しながらそれでも俺は気にも留めない。



 まずは強くなること。そこに全てのリソースを注ぐ。それでも、結局俺が霊装解放に目覚めることはなかった。


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