冬季剣舞際⑥
「霊装解放、不変の氷結」
「ッ!ここに来て霊装解放に目覚めたのですか!」
無意識に口にした霊装解放の名前に反応するようにタロットの言葉が聞こえて来た。至近距離から聞こえて来たその声に伏せていた顔を上げると驚愕の表情で私を見ていたタロットと目が合う。
結構長くシリエラの記憶を見ていた感覚だけど周囲の状況を見るに現実世界の時間はほとんど経過していなかったようで安心した。折角霊装解放に目覚めたのに気が付いたら試合終了なんて冗談じゃない。でも、これでようやく私はタロットと対等に戦える。
「これで対等だね。タロット」
「その言葉は自身の脇腹を見て言ってください」
そう言われて私は自分の脇腹の辺りに視線を向ける。するとそこにはタロットの剣が氷結の戦服越しに当てがわれていた。もしこれが以前までの私だったらタロットの言葉は降伏勧告に聞こえたかもしれない。でも、霊装解放を無意識とはいえ既に使っている私にはタロットの言葉は全く別の意味に聞こえた。
「このまま斬られたら私の負け。でも、それは出来ないよね」
「勢いを乗せて確かな確信と共に放った私の一撃がこの薄い氷に阻まれたことにも驚きましたが、何よりも驚いたのは刀から伝わって来る絶対に斬れないという感触でした。これが、ソフィアさんの霊装解放の正体ですか?」
薄い氷一枚越しに剣を当てられている筈なのに私に負ける要素は微塵もない。既に私に対して斬撃を済ませているタロットが氷越しに感じ取った感触は確かに正しい。私の霊装解放、不変の氷結の正体は絶対に壊れることのない破壊不能の概念が付与された氷を生成し操ること。もちろん、永久凍土で生成した氷に対して破壊不能の概念を付与することも出来る。
「正解、私の霊装解放は破壊不能の概念を宿した氷を生成すること。だから、もうタロットに勝ち目はないよ」
「それはどうでしょうか?少なくとも私はまだ勝負を諦めている訳ではありません」
「氷結の壁」
そう言ってタロットは私から一度距離をとって再び視認することすら難しい速度で連撃を放って来る。けど、その攻撃の全てが私の出現させた氷結の壁に寄って阻まれてしまう。
今の攻防で再確認出来たけど霊装解放の相性は私の方がタロットよりも上回っている。それに霊装自身との相性も私の方が高いと思う。前の合同合宿の時にタロットは霊装解放に目覚めた直後に暴走してしまった。それは純粋に霊装の元となった願いにタロット本人がついて行けてなかったからではないかと私は考えている。
一方で私は特に暴走したり拒絶反応があったりはしない。寧ろ、今日初めて使ったとは思えないほどにこの霊装解放は私に馴染んでくれている。
「氷結の雨」
「その程度なら捌けます」
未だに罅すら入っていない氷結の壁を自ら解除して背後に控えさせていた
氷結の雨をタロットに向けて放つ。
私の霊装解放、不変の氷結の効果はあくまでも破壊不能の概念を持った氷の生成なので攻撃の手数や威力は以前までよりも向上してる訳じゃない。
だから、当然の様にタロットは飛んで来た氷結の雨を全て剣一本で捌き切って見せた。けど、弾かれた氷結の雨は消えることなく地面に転がっている。なら、それを利用しない手はない。
「氷結の矢」
「くっ、落ちている氷を利用しましたか」
弾かれて地面に落ちた氷結の雨を遠隔で氷結の矢へと変換して全てをタロットの方へと向かわせる。それでもなんとか対応して来るタロットだけどこの試合で初めての擦り傷を負っている所を見るとこの攻撃は有効みたい。
不変の氷結に苦戦するタロットとは対照的に今の私は絶好調だった。霊装に対する理解が深まっていることが感覚的に理解出来るし今までとは考えられないくらいに技の冴も鋭くなっている。それに感覚はおかしくないのに寒さへの耐性が無効化レベルまで上がってるし、地面と接触しなくても容易に遠隔攻撃が可能になった。
「氷結の槍、氷結の雨、氷結の矢」
「凄い手数ですね。このままでは防戦一方で私の負け、ならここは勝負に出ます」
そう言ってタロットは全方位からの攻撃を全て迎撃する防戦一方のスタイルを捨てて真っ直ぐ私の方へと走って来る。致命傷になりそうな攻撃のみ刀で弾いて後は走るスピードを落とさない程度の回避か無視して軽傷を負うという文字通り捨て身の突進。
そして、後少しでタロットの剣の間合いに入るという所でタロットは剣を腰元まで持っていき抜刀の体勢に入った。この試合を通してタロットの攻撃では私の不変の氷結を破壊するのは不可能だということはもう知ってる。
だから私はタロットの攻撃を恐れないし脅威にも感じない。それでも、余裕の表情で真正面から攻撃を受けることはしない。タロットはレイドの弟子だからきっと無意味なことはしてこない。それに、もしも今タロットの攻撃を受けていたのが私じゃなくてレイドならタロットがどんな攻撃をしてこようと完封する筈。
「終わりです」
「タロットの攻撃は聞かないよ?氷結の壁」
表面上は余裕の態度を崩さない。まさに霊装解放に目覚めたばかりで全能感に浸って調子になっている人間の様に振る舞う。視線はタロットの刀に向けて本当にやりたいことを悟られない様に行動する。
「油断しましたね、一刀表裏」
この土壇場でタロットが放って来た攻撃は一刀表裏だった。マサムネが得意としている技で私でも再現するのが難しい技だけど、これなら私の不変の氷結を突破できる可能性がある。
だからこそ、対策してて本当に良かった。
「そっちこそ、爪が甘いよ」
「っ!これは、糸?」
私がした対策、その正体は視認するのも難しいほど細かい糸状にした氷を、空中に待機させている氷と地面に落ちている氷を利用して二本だけ私とタロットの間に張ることだった。
糸を張る位置はタロットが私の氷結の壁を一刀表裏で回避した直後に霊装を再発動したとき用に一本と、氷結の戦服の関節部分が狙われても良い様にタロットの攻撃が来る右側の体付近に一本。今回は後者の方に引っ掛かってくれた。
「これで本当に終わり、氷結の鎖」
「んっ、動けない」
攻撃直後の隙をついてタロットのことを氷結の鎖で拘束することに成功した時点で私の勝利は確定した。例え今拘束してるのがレイドだったとしても不変の氷結を使用した私の拘束を抜け出すことは出来ない。
「降参して、タロット」
そう言って私はタロットの首元に剣の刃先を突き付ける。
「はぁ、降参します」
『試合終了、勝者ソフィア選手』
審判からの勝利宣言がされた直後私はタロットへの拘束を解いて観客席を見渡す。鳴り止まない歓声を無視してレイドの姿を探すけどやっぱり見当たらない。そのことに寂しさを感じるけど直後、タロットから話し掛けられたことでその感情は霧散する。
「良い試合をありがとうございました。ソフィアさん」
「こちらこそ、良い試合をありがとう。タロット」
今回私が霊装解放に目覚めることが出来たのは間違いなくタロットのお陰だった。タロットには本当に感謝している。
「機会があれば是非また戦いましょう」
「うん、その時はよろしくね」
そうして、タロットから差し出された手を握り返そうとした瞬間、私の視界が突然ぐらつき始めた。
「ソフィアさん?」
「ごめん、タロット。限界みたい」
地面に膝をついた私はタロットに受け止められてなんとか倒れることを防がれたけど、直後に意識を手放すことを予感した。初めての霊装解放は上手く扱えたし暴走はしなかった。それでも体に掛かる負担は私の想像よりも大きかったみたいだった。
「お疲れ様でした。ソフィアさん」
タロットの言葉を最後に私は意識を手放したのだった。




