第九十三幕【結集!魔王軍四天王!その2】
「さ、それでは三人目の四天王を紹介しましょう。"ジャック嬢"。出番ですよ」
そう言ってイクリプスは馬車に呼びかける。
「……………」
「……………」
「……………」
中々出て来ない仲間にイクリプスは痺れを切らして馬車に向かい扉を開ける。
「ジャック嬢。呼びましたよ。来て頂けますか?」
「……………」
「いや、優雅にハーブティーを楽しんでる場合ではないですよ!………ほら、早く彼等に自己紹介を…!」
「……………」
懐中時計を取り出し時刻を気にしながら"ジャック"と呼ばれる仲間を貧乏揺すりしながら待つイクリプス。
暫くして、ようやっと馬車から出て来たのはゴスロリのドレスに身を包んだ、髪の毛?をタコの足のようにうねらせた魔族の女。
センチュレイドーラと同じ歳くらいだろうか。
目を閉じ口元に手を当てながら優雅に宝箱配置人一行の前に立つ。
頭の上には黒い傘…と思いきやメンダコのような生き物がプカプカと日傘の役割をして浮いている。
「それではジャック嬢、自己紹介を」
イクリプスが促す。
しかし、直ぐには喋り出さず少し長い間を空けてようやく口を開いた。その口元には手を当てながら小さい声で囁いた。
「……………名前は……………【フラップジャック】……………」
「OK!ジャック嬢。少し時間押してるから次行こう!次の仲間なんだが〜…」
先に進めようとするイクリプス。
しかし、そのイクリプスの言葉を遮る様にフラップジャックは続ける。
「皆からは……………【ジャック】と……………呼ばれてる……………」
「うん、そう!この娘は"ジャック"です!覚えておいて下さいね!………で、次が〜」
「パンケーキが好き……………あと……………ドーラちゃんも好き……………」
「………うん。そうだね。ジャック、もう良いかな?」
「明るいのは嫌い……………」
「ジャック?もう先に進んでも?」
「……………」
「………よし、では次の紹介に移りますが〜…」
「だから……………この子に日傘の……………役割をして……………もらってる……………」
フラップジャックは頭の上でプカプカ浮かぶそのメンダコを指差して言う。
「ジャァァァック!!もう良いだろ!?先に進ませてくれるかい!?」
イクリプスは懐中時計を叩きながらイライラ気味に問い掛ける…
「おっと、そうはいかんぞ!?
?四天王では無いにしたってワイも紹介ぐらいはさせて貰わにゃあ!」
ズイッと前に出たのはその日傘のメンダコだ。
「なんせソコの餓鬼入道のぬいぐるみでさえ紹介にあたったんじゃ。ワイにも紹介させぇや!」
「餓鬼入道って…ボクの事?」
バッカルが睨みを利かせる。
しかしメンダコは無視して続ける。
「ワイの名前は【フリル】っちゅーうんじゃ!まぁこの手の掛かるフラップジャックの日傘の役割にして永遠のパートナーっちゅうトコじゃの!」
「…そしてかなり態度がデカく粗暴で口が悪い…」
バッカルがポソッと呟いた。
「あぁん!?何か言ったか!?ワイのマスコットの座を…お前んトコの猫ぬいぐるみなんかに取られる訳にはいかんのじゃい!じゃけぇ今の内に媚びを売っとくんじゃろがいっ!」
「勝手にしなよ。別にマスコットの座なんか狙ってないからさ」
ヤレヤレと首を振るバッカル。
「いいや!ソイツの目にはいつでもマスコット界からワイを蹴落とすつもりでいる殺気ゆうんか、そういうもんが見え隠れしとるんじゃ!ワイには分かるっ!」
「ダァーーーーーッ!!もう良いから!!次っ!!!もう、次も次でかなりイロモノなんだから…!!」
フリルとバッカルの言い合いに割って入り、イクリプスは強制的に話を進める。
「では、四人目最後の四天王!!お願いしますっ!!サッと出て来てよ!!」
しかし、馬車からは誰も出て来ない。
「ぐぬぬ…オイ!!四人目っ!!!」
イクリプスはイライラが募ったのかその場で地団駄を踏んだ…と、その時。
「ワハハハハ!」
何処からともなく声が響く。
全員が声のする方を見上げると、近くの崖の上に人影が…
マントをなびかせ、仁王立ちで立つ謎の黒い影。よく見るとそれは…
「ひ、ヒーローだ…」
リューセイが呟く。
元の世界で日曜の朝にテレビで観た事があるような、黒色の戦隊スーツにマスクを被った紛う事無きヒーローの姿。
「ギオンショージャの鐘の音…残虐非道の響きあり!助けを求めるその声を!救って見せようこの手でな!トウッ!!」
言って、崖からジャンプして飛び降りるヒーロー。
クルクルッと身体を回しながら華麗に着地を決める。
「正義を愛し!!
正義の為に戦う男!!
ランドルト〜〜〜〜〜ブラッッッッック!!!!!」
シャキーン!!
ボカーーーン!!!!!
決めポーズを決めた後、背後が爆発する。すると、【ランドルトブラック】と名乗った男は胸の辺りを触りカチッと何かスイッチを入れた。
♪〜
すると、身体の何処かに音楽のプレイヤーでも仕込んでいるのか、音楽が流れ始めた。
【稲光〜走る〜黒雲抜けて〜♪】
「おい!悪の手先!貴様達の悪行三昧もここまでだ!!」
【助けを求めるその声を〜いざ救いにいかん〜♪】
「魔王軍四天王の一角、このランドルトブラック様が来たからには…」
【黒いマントを翻し〜♪】
「お前達の好きにはさせないぞっ!!」
【ムカデのバックル正義の証〜♪】
「センチュレイドーラ様の名の下に!!」
【来たぞ〜来るぞ〜♪】
「私が引導を渡してやろう!!」
【闇〜の中からびっくらこいた〜♪びっくらこいた〜♪びっくらこいた〜♪】
「さぁ、正義の元に跪け!!」
【ランドルト〜〜〜〜ブラァァァッッック!!!♪】
「世界の平和は…私が守るっマモルッマモルモルッモルッ…(セルフエコー)」
バコンッ!
言い終わるや否や、イクリプスはスティックで強烈な一撃をランドルトブラックの頭にお見舞いした。
「サッと出て来いって言ったよね!?ねぇ!?うるさいんだよ!!何もかも!!」
「歌は魔界少年合唱団の皆に歌って貰ったんです」
「知らねーよ!!どうでも良いんだよ!!」
思わず口調を荒げてしまったイクリプスはハッと我に返りコホンと咳払いをする。
「え〜っと…これで四天王全員の紹介は終わりです。どうぞお見知りおきを…」
イクリプスはシルクハットを脱ぎ、深々とお辞儀した。
パチパチパチ
いつの間にか劇でも観ていたかのように、並んで座って拍手を送る宝箱配置人一行。
「格好良い〜…ランドルトブラックさん…超格好良いっす!!」
リューセイはキラキラとまるで少年のような眼差しをしながら言う。
「男の子はやっぱり、こういうのに憧れるんですね」
ユーリルがそんなリューセイを見て言う。
「ヒューヒュー!アンコール!アンコール!」
イズミルは楽しそうに囃し立てている。
「いやぁ、楽しい催しだったよ」
パチパチと手を叩きながら立ち上がるダルクス。
「んじゃ、行くぞお前等。仕事に」
そう言ってダルクスは荷車を引き始めた。
「ちょっと待て」
イクリプスに肩を掴まれ制止させられる。
「いや、私達をなんだと思ってるんですかね?」
「え?お笑いの劇団員の方達ですよね?」
「ちっがうわ!!!!!」
イクリプスはワナワナと震える手でシルクハットの向きを直し、続ける。
「確かに一癖も二癖もある者たちの集まりですが…。センチュレイドーラ様の邪魔だけはさせまいという気持ちだけは誰にも負けない者ばかりです…」
「僕はね、センチュレイドーラ様と結婚するんだ。そしてね…いつかね…チョビっとだけでも齧らせて貰おうと思ってるんだ…ドーラ様ってほら、カワイイでしょ?」
バッカルがニコリと笑う。
「……………ダメ……………。ドーラちゃんに手を出したら……………貴方でも容赦はしない……………」
フラップジャックは表情変わらず、口元に手を当てながら目はずっと瞑ったままで静かに言う。
「ジャックちゃんの目の黒い内は無理そうだね。でも…ジャックちゃんもボクの齧りたリストに乗ってるからね?」
「……………」
「ワイもカワエエじゃろ!!少しだけならしがんでもええぞ?」
ユラユラと揺れながら言うフリル。
「お前可愛くないから嫌だ」
「ガーーーン!!!」
「ええい、黙らっしゃい!!」
イクリプスが叫ぶ。
「コホン…。とにかく、貴方達が私達の指示に従わないと言うなら、それ相応の対応をしなければいけない。お分かりですか?ムッシュー?」
「チッ…ならサッサと決着つけようぜ?俺達もアンタ達にかまけてる程暇じゃないんでね」
向かい合う宝箱配置人一行と魔王軍四天王。
2つのパーティーの戦いの火蓋が今、切って落とされようとしていた…!!
続く…。
 




