第八十八幕【光の大剣(女神100%)】
富天龍料理店。
残ったユーリル、リーサ、イズミルは女子トークに花を咲かせていた。
「リューセイさん大丈夫でしょうか…」
心配そうに言うリーサにユーリルが答える。
「大丈夫ですよ!なんなら少し痛い目に合っても良いくらいなんですよ。ハーレム異世界出身のせいか、女性の扱いが雑な事が多いんで」
「今頃リューセイさん、熊猫辣さんにボコボコにされてたりして…」
…と、イズミルが言った矢先…!!
バゴーーーン!!!
壁を突き破って何かが吹っ飛んで来た。
ガシャーーーン!!!
そのまま何かは、目の前の円形の回るテーブルに落ちた。
イズミルは食べていた天津飯をヒョイッと持ち上げて避難させる。
他の料理を吹き飛ばし落ちて来たのはリューセイだった。仰向けで倒れたリューセイはクルクルとその場で回っている。
ザワザワ
店は突然の事にザワつく。
「りゅ、リューセイさん!?大丈夫ですか!?」
リーサは口を抑えて驚いている。
「ほーら言わんこっちゃない。熊猫辣さんに絞られちゃってるんでしょ!」モグモグ
イズミルは言って天津飯を頬張った。
リューセイは起き上がりテーブルから降り腰を擦る。
「イッツー…ち、違わいっ!!熊猫辣が危ない!!お前らも手を貸してくれ!!」
そう言って穴の空いた壁から外に飛び出すリューセイ。
「わ、私も見てきますっ!」
ユーリルがその後に付いていく。
リーサとイズミルが顔を見合わせた。
「私達も行った方が良さそうですね」
イズミルがそう言うとリーサも頷く。
二人が店の入口から出ようと…
「ちょっと待つアルよー!!」
店主が前に立ち塞がった。
「店を滅茶苦茶にしてえ!!そのままにして逃げられちゃ困るアルよ!!」
「えぇ〜!?それは私達じゃ…!!」
イズミルが言おうとするも…
グワン、ゴワン!
中華鍋を頭に被せられるリーサとイズミル。
「言い訳無用!!修理代分、働いて貰うアルよっ!!!」
「うわ~ん!!リューセイさ〜ん!!」
ーーーーー
ドゴォーーーン!!!
ツクモに地面に叩き付けらる熊猫辣。そのまま腹を踏み付けられる。
「ウグッ…!!」
「ハハハ!!!試合の時の威勢はどうしたよっ!?」
ギリギリ…と踏みにじられる熊猫辣。
(クソッ…磁塊鉄盤が効かない…!!一体どうして…!!)
熊猫辣が苦痛に顔を歪めながら耐えていると、ツクモの背後から光伝力放射砲を振り被ってリューセイが飛んできた。
「デカブツ!!!その子を離せっ!!!」
ガキーーーーーン!!!
フルスイングした光伝力放射砲はツクモの後頭部を直撃するもビクともしない。
「なっ…!?」
顔だけをリューセイに向けたツクモはリューセイのネクタイを掴み力まかせに放り投げた!
「どわっ!!!」
リューセイは投げ飛ばされ、積み重なった木箱の山に落ちた。
ドンガラガッシャーン!!
「クッソ…なんなんだよアイツは〜」
よろめきながら木箱の山から這い出るリューセイ。そこに、ユーリルが飛んでくる。
「勇者様っ!!大丈夫ですか!?」
「ユーリル…。結構苦戦してる。アイツ、光伝力放射砲で殴っても全く歯が立たないんだ」
「ふむ…」
ユーリルは熊猫辣を蹂躙するツクモを見る。
「…魔法がかかってますね。打撃攻撃を無効化してます!」
「成る程…だが、そんな高等呪文…覚えられる奴は早々居ない…勇者でも無けりゃ……………あっ!!」
そこで気付いたリューセイ。
「おい、何処行った!!ツユダク!!出てこいツユダク!!」
「誰がそんな美味そうな名前を名乗ったかい!?僕はチヨダクだ!!チヨダク!!」
声のする方を見ると、建物の屋根の上にチヨダクは居た。
「市町村みたいな名前しやがって!!降りて来い!!」
「そうはいかないね!!もう少しであの小娘に大人の世界の厳しさってのを叩き込めそうなのに!!」
「チッ…何が大人の世界だよ。大人げないの極みだろうが…!!」
光伝力放射砲を構え、チヨダクの元へ向かおうとするリューセイをユーリルが止める。
「待って下さい勇者様!!」
「なんだよっ!?」
「行っても無駄ですよ!彼にも打撃無効の魔法がかかってます!」
「チッ…!じゃあどうするよ?」
「そうですね…」
ユーリルは少し考え込む。
「早くしろ!じゃなきゃ熊猫辣がっ!!」
尚もツクモに踏みにじられている熊猫辣。ツクモがトドメを刺そうと思えば刺せる所まで来ていた。
「ピーン!閃きました!」
指をパチンと鳴らしユーリルが続ける。
「勇者様!熊猫辣様の元に!!」
「ハッ!?どうするんだよ、あのデカブツには魔法がかかってるって言ったのは…」
「良いですから早く!!」
言われるがまま、リューセイはツクモの元に向かう。その途中、ユーリルが光伝力放射砲の中に入っていった。
「お、おい!まさか光伝力放射砲を撃てって事じゃ!?街中だぞ!?」
「良いですか、私に考えがあります!あのデカブツさんの前に行ったら口八丁で気を引いて、光伝力放射砲を構えて下さい!」
「わ、分かった!」
ザッ!
言い終わる頃にはツクモの前にたどり着いた。
ツクモは尚も熊猫辣を踏み付けいたぶって楽しんでいた。
「オイ!!デカブツ!!今度は俺が相手だっ!!」
光伝力放射砲を構える。
「あ〜ん?邪魔するな。今コイツの遺言を聞き出そうとしてるんだからよぉ!!」
ドスッ!
ツクモは熊猫辣を踏みにじる。
「ウグッ!」
「やめろっ!!」
そう叫んでリューセイは、ヒソヒソと光伝力放射砲に話し掛ける。
(…で、この後はどうするんだっ!!)
(待って下さい!!今やってますから!!)
プシュー!!メラメラ…
白い煙を吐き、光伝力放射砲は真っ赤に熱を帯び始めた。
「なんだぁ?」
ツクモは呆気に取られる。
「いや、コレでも打撃なのは変わんねぇだろ!!」
リューセイがツッコむもユーリルはお構い無しに叫ぶ。
「どっっっ根性ぉぉぉぉぉ!!!!!光ぃぃぃぃぃ大・放・出ぅぅぅぅぅ!!!!!」
バギョーン!!!
「どわっ!!!」
ユーリルが叫んだと同時に光伝力放射砲がビカッと光ったかと思うと、放出した光は光伝力放射砲に纏わり付き、刃の形に変わっていく。
さながら、"光の刃で出来た大剣"が完成した!
「お、お、お前…!!コレっ…!!」
「光の…力を…削って放出し…急いで…決着を…!!」
苦しそうなユーリルの声。
リューセイはコクリと頷き光の大剣となった光伝力放射砲を構え直しツクモに飛び掛かった!
「なっ!?」
呆気に取られていたツクモが我にかえるも時すでに遅し。
振り払った光伝力放射砲はバチバチィ!!と音を立ててツクモを切り裂いた!
打撃武器から斬撃武器に変わった事で、攻撃は問題なく効いた!
「ぐわぁぁぁぁぁ!!!!!」
ドガシャーーーン!!!
そのままツクモは後方の家屋へと吹っ飛び、壁を突き破っていった。
「大丈夫か熊猫辣!!」
リューセイは熊猫辣の手を取り起き上がらせる。
ヨロッと起き上がる傷だらけの熊猫辣。
「クッ…僕とした事が…不覚だ…!!」
「まだ終わってない。もう一人居るんだ」
リューセイがキッと睨んだ先の向こうには、屋根の上で優雅にこちらを見やるチヨダクの姿。
「ハッハッハッ!いやいや、流石だよ君達!まさか僕がかけていた呪文を見破るとはねぇ!!でも、残念だが…僕は斬撃を無効化する魔法も持ち合わせて居てね!その光の大剣は効かないよっ!!」
そう言ってチヨダクは自分に斬撃無効の魔法をかける。
「さぁ、どうする!?ワハハハハ!!!ワハハハハ…」
ガンッ!!!
「ガヒョッ!?」
後頭部に衝撃を受けたチヨダクはよろめき、そのまま屋根から落ちていった。
パシッ!
熊猫辣が投げて返ってきた磁塊鉄盤をキャッチする。
ポカンとするリューセイを見て熊猫辣はアセアセと口を開く。
「あ、だって、斬撃無効をかけたなら…打撃無効は切れてると思って…」
「いや、ナイスだ熊猫辣」
リューセイはグッと親指を立てた。
ーーーーー
ツクモとチヨダクが起き上がらないうちに富天龍料理店に戻ったリューセイと熊猫辣。そこでアルバイトとして料理運びをさせられていたリーサとイズミルをどうにか店の外に連れ出し、リーサに回復魔法の施しを受けた。
「ふぅ~…これで一段落ついたな…で、まだ俺とやるつもりあったりする?」
リューセイは熊猫辣に問い掛ける。
「いや…さっきの戦いぶりを見て分かったよ…。リューセイには多分…僕は敵わないと思う。君は…幾度とない死線をくぐり抜けてきたみたいだな」
熊猫辣はそう言って背中を向けて歩き出す。
「もう行くのか?」
「最先端の武器に助けられてるようじゃ僕も…まだまだ修行が足りないみたいだ。これじゃあお師匠様に笑われる。もっと、自分の力をつけようと思う」
「それなら、勇者につくって言うのはどうですか?」
イズミルが提案する。
「勇者に…?」
「ハイ!勇者は魔王を倒す為に旅をしてます!力をつけるには持って来いかと!」
「……………」
熊猫辣は少し考えて、何かを決心したように頷いた。
「………そうだな。それが良いかもしれない。ありがとうイズミル」
「いえいえ〜」
熊猫辣は両手を合わせ深々とお辞儀をした。
そしてその場を後にしていったのだった。
「勇者様〜〜〜…」
そんな時、ユーリルが空から降りてきた。
「あれ?ユーリル?お前、光伝力放射砲の中に居たんじゃ?」
「光の刃となって漏れ出してた光は私が粒子化した姿ですよ!出尽くした後の粒子を集めて元の姿に戻るのが一番大変で…」
「お陰で助かったよ。ありがとうユーリル。それにしても、光伝力放射砲にはまだまだ隠された力がありそうだな」
「光伝力放射砲のって言うか、私の力ですけどね…」
そこでリューセイはハッとする。
「そう言やぁ…」
「?」
「熊猫辣って結局男の娘だったのか?女の子だったのか?」
「リューセイさん!!本人が女の子だって言ってたんだからもう良いじゃないですかそれでっ!!」
イズミルはそう言ってヤレヤレと首を振るのだった。
続く…
 




