第八十七幕【シャイな子】
とある中華料理店風のレストランに来たリューセイ、ユーリル、イズミル、リーサ、熊猫辣の5人。
各々が頼んだ料理が円形のテーブルの上に乗せられていく。
「お腹が空いた時はやっぱり富天龍料理ですねっ!匂いが食欲をそそりますっ!」
目をキラキラさせながらイズミルは自分が頼んで目の前に出された天津飯を見つめる。
「なぁ、熊猫辣の頭の肉まんって‥」
リューセイが言い掛けると、熊猫辣は訂正した。
「肉まんじゃない。小籠包だ」
「‥その小籠包ってさ、さっき食べてなかったか?なんでまた生えてきてるんだ?」
「あぁ、これはな。頭にくっつけてる受け皿に直ぐに富天龍で有名な老舗小籠包店から補充される仕組みになってるんだ。お金は銀行から引き落としになってて…」
「タダじゃないのか」
「そんな訳ないだろ。普通に考えて」
「普通じゃない事まみれだろこの世界は!」
「でも、その小籠包があればお腹が減る心配は無いですね!」
リーサがニコッと笑って熊猫辣に言う。
「…そ、そうだな…」
熊猫辣は少しキョドった様子を見せつつ恥ずかしそうに答える。
「その割りには、盛大にお腹鳴らしてたけどな」
ボソッとリューセイが言うと、ジトッと睨んだ熊猫辣は頭に髪飾りとして刺していた箸を一本、シュッ!と投げた。
カッ!
箸はリューセイの目の前のテーブルに突き刺さった。
「ヒッ!」
「余計な事を言うなリューセイ」
そんな熊猫辣にリーサが問い掛ける。
「もしかして、ご飯に誘ったのはご迷惑だったりしませんか?その小籠包があるならわざわざお店に来て食べなくても良かったとか…?」
「いや、その、小籠包ばかりだと飽きるし…普通に他の物も食べるぞ。こういう所ではちゃんと店の物を食べるし…」
熊猫辣は言葉を詰まらせながらリーサをチラチラと見ながら答える。
女性と話すのに慣れてないのだろうか?
(昔の俺みたいだな…)と、リューセイは思った。
ーーーーー
暫くして、テーブルには全員分の料理が届く。
「「「いただきまーす!!」」」
全員分の料理が来た所で、合唱し食べ始める。
「それにしても、熊猫辣様はたった一人でその磁塊鉄盤を広める為に旅を?」
ユーリルはエビチリを食べながら言った。
「そ、そうだ。磁塊鉄盤は昔じゃ今の剣の様に、武器として富天龍では誰もが持っていたんだ。だが…その剣や魔法といったモノが普及し始めてから次第に磁塊鉄盤は忘れさられていった…」
熊猫辣は回鍋肉を食べていた手を止めてキョロキョロと、ユーリルに目を合わせながらポソポソと続ける。
「磁塊鉄盤は主に四つの流派が存在した。【玄武】【蒼龍】【朱雀】【白虎】。………でも、今や残ったのは【朱雀流派】のみになってしまった…」
「…という事は…熊猫辣さんの流派は…」
イズミルが言うと、熊猫辣は続けた。
「そうだ。【朱雀流】。磁塊鉄盤を翼が生えたかのように宙に舞わせて、使う本人も共に空を舞う…そんな戦い方を得意とする流派だ。僕はその流派を唯一引き継いだ者なんだ」
「唯一…?じゃあ熊猫辣以外に磁塊鉄盤を扱えるのは…」
リューセイが青椒肉絲を食べながら言うと熊猫辣は頷いた。
「僕と…それを教えてくれたお師匠様だけ…という事になる」
「なるほど」
リューセイはウンウンと腕を組んで首を縦に振って納得している。
「僕も元々は磁塊鉄盤なんて存在すら知らなかった。富天龍は格闘武術に秀でた国だ。僕もそれを身に付けようとお師匠様の格闘道場に住み込みで弟子入りしたんだ。そこで武術を学んでいるうちにお師匠様が、僕に磁塊鉄盤を扱う才能があると見出してくれて、磁塊鉄盤の技を受け継ぐ意志はないかと誘われたんだ」
「そこが道場なら入門してる皆に磁塊鉄盤を習わせれば良かったんじゃ?」
「そういう訳にはいかない。磁塊鉄盤は誰でも扱えるものじゃないんだ。間違った扱い方をすれば諸刃の剣にもなる…。卓越した精神と肉体が必要なんだ。お師匠様はそんな人物を常に探していた」
「それが熊猫辣だったと…」
「僕は磁塊鉄盤の魅力に取り憑かれ…そんな才能を見出してくれたお師匠様に感謝した。だからこそ、お師匠様の技や磁塊鉄盤を廃れさせない為にそして、磁塊鉄盤を扱える才能を持つ者を探して旅をしているんだ…」
「ハァ…素敵ですね…」
リーサは麻婆豆腐を食べていた手を止め、目をウルウルさせて熊猫辣を見つめる。
熊猫辣は顔を赤く染めて恥ずかしそうに首を振る。
「そ、そんな、大した事では…」
「なぁ…熊猫辣」
リューセイは机に肘を付いて熊猫辣を見つめながら言う。
「なんだよ」
「お前…"男"だろ?」
パリンッ!!
熊猫辣は持っていたコップを思わず握り割った。
そして、机をバンッ!と叩いて立ち上がる。
「違うわっ!!」
「いや、だって。さっきからやけに女性に対して恥ずかしがってるし…一人称が"僕"だし…」
「僕は女だっ!!」
「そうですよリューセイさん。こんな可愛くて…どこからどう見ても女の子じゃないですか。ね?熊猫辣ちゃん?」
リーサは優しく微笑み返すも、熊猫辣は顔を赤くして目線を逸らす。
「そ、そうだ…」
「いーや、やっぱりおかしいその態度。お前は"男の娘"だ!!そうだろ!!」
「だ、だから違うっ!!良くそう言われるけど僕はっ!!」
「別に隠さなくたって良いじゃないか…。良いと思うよ?そういう需要もあるだろうし」
「うぅ〜…表に出ろリューセイ!!やっぱりお前とは早急に決着を付けないといけないっ!!」
そう言って熊猫辣はご立腹な様子でお店を出て行ってしまった。
パコンッ!
リューセイはユーリルにげんこつを貰った。
「勇者様!!デリカシーってもんが無いんですかっ!!」
「失礼だったかな?」
「失礼も失礼!超失礼ですよっ!」
「リューセイさーん?ちゃんと謝ってきて下さい!」モグモグ
イズミルにも言われ、リューセイは一つ溜め息をついた。
「ハァ…分かった分かった」
席を立ち店を出る。
「何処行った?熊猫辣」
ドガシャーン!!!
「なんだ!?」
大きな音がしたと思うと、熊猫辣が吹っ飛んできたのをリューセイは受け止めた。
「クッ…!」
キャー!!ワー!!
周りの住民が大通りから逃げていく。
「なんだ!?どうしたんだ!?」
熊猫辣が吹き飛んできた方向を見ると、目を血走らさせた屈強な男が鼻息荒く肩を揺らして立っている。
「熊猫辣ァァァ〜…良くも俺に恥を欠かせてくれたなぁぁぁ〜…」
「なんだ!?誰だよアイツは!?」
「でくの坊…アイツ…僕に負けた事を根に持って…」
熊猫辣はリューセイの腕から離れて磁塊鉄盤を構える。
「熊猫辣ぁぁぁ〜…。ここは試合も何も関係ねぇ。ルール無用のデスマッチと行こうぜぇ〜…」
「ふん、望む所だっ!」
そう言って熊猫辣が一歩踏み出すと、その前にバッ!とリューセイが出る。
「ここは俺に任せて下がってろ!」
「何を言ってる!!お前の方こそ下がってろ!!」
「アイツはヤバい!!女の子が相手して良い相手じゃ…!!」
「アイツの事は僕の方が良く知ってるよ!!邪魔をするなリューセイ!!」
リューセイと熊猫辣が何やら言い争っている。
殺意の波動に目覚めたツクモはドゴォン!!と地面を踏む。それに合わせて地面が沈み亀裂が入る。
「えぇい!!邪魔するならそこの男も道連れじゃあぁぁぁ!!!」
そう言って地面を蹴ってコチラに向かってくるツクモ。
「どけっ!!」
リューセイを蹴り飛ばし、ツクモが振り被った拳を磁塊鉄盤で塞ぐ。
ゴワーーーーンッ!!!
「でくの坊、剣はどうしたっ!お前は剣の使い手だったんじゃ…」
「うるせぇ…。テメェなんざ素手で充分なんだよ…」
ゴワーンゴワーンゴワーン!!
ツクモはしつこく磁塊鉄盤に拳を打ち付ける。
その度に熊猫辣の足元が地面に埋まっていく。
(なんだ?何処からこんな力が…まるで試合の時とは…!)
ーーーーー
蹴り飛ばされたリューセイは崩れた露店の花屋から花を頭に乗せて起き上がる。
「…ったく、アイツ…」
応戦しようと光伝力放射砲を構える…が、横から首元に大剣を突き付けられる。
「おっと、邪魔しないで貰えるかい?今は彼らの戦いを黙って観ておこうじゃないか」
「誰だよ!」
「僕はチヨダク。元勇者。今は訳あってあのデカブツと手を組んでるんだ」
「お前ら、良い大人が寄ってたかって女の子イジメて良いのかよ!!」
「ハハハ…。僕も彼女には恥を欠かされた身なんでね…。おいそれと許す訳にはいかないのさ」
「しょーもないプライドだな…!」
ドゴォーーーン!!
「おっと、面白くなってきた」
チヨダクが言って向こうで戦う二人を見つめる。
熊猫辣が胸ぐらを掴まれ何度も何度も地面に打ち付けられている。
その後、ツクモは熊猫辣の胸ぐらを掴んだままその場でグルグル回り熊猫辣を投げ飛ばした!!
ドガガガガガッッッ!!!
大通りの露店をなぎ倒しながら止まった所で熊猫辣は起き上がる。
「チッ…無茶苦茶にして…」
口を切ったか血が垂れる口元を拭く熊猫辣。
磁塊鉄盤を構えて勢い良く投げ飛ばす。
コチラに向かってくるツクモにブーメランの様に何度も何度もぶつけるが…全く効いてないのか、足を止める事なく近付いてくる。
「ワハハハ!!!利かん!!利かんぞぉ!!!」
そのまま熊猫辣の目の前まで行くと首を掴んで持ち上げた。
「グッ!?」
「このまま絞め殺してくれるっ!!」
ギリギリギリ
腕に力を込めていくツクモ。
「熊猫辣!!」
リューセイは叫んでチヨダクの足を思いっきり踏んづけた。
「いっっった!!!」
その隙に光伝力放射砲を構えて熊猫辣の元へ走っていった!
続く…
 




