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異世界から転生した勇者より宝箱配置人の方が過酷だった件  作者: UMA666
第三章【導かれそうで導かれない時々導かれし者達編】
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第八十五幕【直感を大事に…】

「世界の情勢を知るには新聞が手っ取り早い」


昼過ぎ、ダルクスは新聞を買いヤオヤラグーンのとある酒場に向かう。


宝箱配置人一行は各々の役割分担で別れ、ダルクスは世界情勢を確認して次の旅のルートに支障は無いのかを調べると言ってきた。


(…というのは名目で、サボりたいだけだったりして)


そんな事を思いながらダルクスは酒場の席につく。


『バルチェノーツの国民の安否は未だ不明。しかし、海上ではバルチェノーツ海軍の船を目撃したとの報告も…』


『ノーツ村の村人の集団失踪!!焼き払わた村には犠牲者の姿は無く…』


『メーダ村のゾンビ事件!?村人がゾンビにされるという事件が密かに起こっていたが…』


ダルクスは新聞の見出しに目を通しながら、頼んだコーヒーをズズッと飲む。


「どれも俺達が知ってる事ばかりだな…」


「それは残念でしたね」


急にそんな声がして新聞をずらすと、目の前の席に…エクス・ベンゾラム最高幹部の男、クルブシの姿があった。


「く、クルブシッ!!!」


「お久しぶりです」


優雅にマドラーでコーヒーをかき混ぜながらニコリと微笑むクルブシ。


「テメェ…行く先々に現れやがって…やっぱつけてやがったか?」


「まさか。それは誤解です。僕はたまたまこの街に来ていた…貴方達が来るよりもずっと前から…」


「そんな訳…!」


「この席についていたのも僕が先ですよ。コーヒーを注文しに一瞬席を外したら貴方が座っていたんです」


「どれもこれも偶然だって言いたいのか?」


「…全ては偶然と成り行き。私達の理念に則っているまでです」


「チッ…」


ダルクスは新聞を畳んで席を立つ。


「良いか?俺達に構うな。これからは俺達の邪魔をするようなら容赦無く叩き潰すからな。ひっそりと活動してな。お前らみたいな怪しい宗教団体は」


クルブシの横を通り酒場を後にしようとすると、クルブシが声を掛ける。


「トコシエさんがどうなったか知りませんか?」


「あ?」


ダルクスは振り返る。

クルブシは背後を見せたまま話す。


「幹部の一人で大切な仲間だったんですがね…。ある日を境に連絡が取れなくなったんですよ」


「…知らねぇな」


「そうですか…」


クルブシはスッと立ち上がり振り返る。

顔は変わらず爽やかな笑顔だった。

ゆっくりとダルクスに近付き肩に手を乗せる。


「知らないなら仕方ないですね…」


「一体何…ウ"ッ"!!?」


ドゴッ!!

ガシャーーーン!!!


いきなり腹を思いっきり殴られたダルクスは酒場のテーブルや椅子をなぎ倒しながら後方に吹っ飛んでいった。


仰向けに倒れるも、直ぐに上体を起こし床に散らばったナイフやフォークをクルブシに向けて見えない力で飛ばす…が、クルブシは首をクイッと傾げてそれを避ける。


「なっ!?」


「今のはトコシエさんの分だと思って下さい」


クルブシは変わらず笑顔を崩さないでいる。

ダルクスはフラッと立ち上がった。


「ここでやるつもりか?」


「いいえ?私はこれで失礼します。お店に迷惑をかけてしまいましたし」


そう言ってクルブシは酒場を後にしようとする。


「に、逃さねぇぞ!!ここで決着を付けろ!!クルブシッ!!」


背後を見せるクルブシに今度は壊れたテーブルを吹き飛ばすが、身をクルりと翻し避けられてしまう。しかしそれは囮で、死角からナイフをクルブシに目掛けて飛ばすが…当たる直前にクルブシはそれをパシッと掴んだ。


「やれやれ…そんな力を使う者に勝てる訳がないですよ。私は戦える程の能力は持って無いただの"一般人"なんですから…」


「一般人が俺の攻撃を避けられる訳ねぇだろ…!!」


「戦えはしないですが…先に言っときますが、貴方は僕を傷付ける事は出来ない。"絶対"に」


「なんだその自信は…予知能力でも持ってるのか?」


「いえ、そんな大層な能力持ってませんよ。何せ一般人ですから。『貴方が追撃してくるか、来ないか』『攻撃が右から来るか、左から来るか』ただそうやって二択を直感で選んだだけですよ」


「ただの…直感だと?」


「私は今まで自分に二択を迫って生きてきました。『やるか、やらないか』『進むか、進まないか』『やめるか、やめないか』。今までその二択で良い方をただ偶然、たまたま引けている…ただの一般人。それだけの事です」


「二択とはいえ、良い方を引き続けるなんて天文学的な確率になるハズだぞ」


「ものは考えようですよ。私は連続で当ててるとは思ってないんです。常に"まっさらな二択"。五分五分を直感で選んでいる。毎回一回目の二択を引き続けている…それだけの事ですよ。たまには、間違えた選択をしてみたい気持ちもありますがね」


「そ、そんな理由で…お前はそれだけで最高幹部まで上り詰めたって言うのか!?」


「フフ…まぁそうですね。この直感の良さだけが…私の取り柄ですから…」


そう言って酒場を出て行くクルブシ。

ダルクスは急いでクルブシに掴み掛かろうと…


「気を付けて下さい。そこには…」


ズルッ!


「私が頼んだコーヒーが溢れてますから、滑りますよ」


ドシャっ!


ダルクスはコーヒーに足を滑らせて転げてしまう。


「クッ…!!」


「まぁ、また会えますよ。偶然と成り行きに任せていれば…」


バタン…


そう言い残してクルブシは酒場を出ていった。


「あの野郎…」


(なんの能力でもなく…ただの直感だって…?そんなもん…なんの対策のしようもねぇじゃねぇか…)




ーーーーー




「良いのかよっ!?アイツを見逃して!?」


「トコシエちゃんを殺したのは間違いなくアイツだ。クルブシさんがやらないなら僕がっ!!」


二人の"幹部"に言い寄られるクルブシは微笑みを浮かべながら二人をなだめる。


「まぁ、待ちなさい。何も焦らなくてもチャンスはいくらでもあります。私達には今、それよりも成すべき事があります。当初の予定通り…デルフィンガルかソウルベルガに向かいましょう。そのどちらかに"魔王"はやってくる…私の直感がそう言ってます」


「どちらかって…どっちだよ。そこが大事じゃねぇか」


「おい、口を謹しみなよ"クレナイ"。そんなもの、クルブシさんの前では些細な"二択"だよ」


そう言って二人はクルブシを見る。

クルブシは穏やかな表情で口を開いた。


「…ソウルベルガだね。ただの直感だけど」


二人の幹部はそれを聞き、顔を見合わせ頷くのだった。




続く…

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