第八十四幕【宝箱配置人協会・本部にて】
真っ暗な大広間の真ん中に立たされ、そこに上からスポットライトのように光が当てられる。そこに立っているのはリューセイだ。
「宝箱配置人としての業務ご苦労だね。宝箱配置人・補助担当リューセイ君」
そんな声がすると、目の前に別にスポットライトが当たる。そこには黒スーツにサングラスをかけた現代風の出で立ちの男が立っている。
「KHKと言い…なんでファンタジー世界に似つかわしくない見た目の者が次々と…」
リューセイが言うと、男はフッと微笑む。
「これを見せれば納得してくれるかな?」
男は胸ポケットからチラッと、見覚えのある"光る輪っか"を出してみせた。
「…!!天使の輪!!じゃあ、貴方も…?」
「そうだね。【宝箱配置人協会】も天使達が運営していたと言う事だ。ま、当然と言えば当然か。宝箱配置人協会を設立したのは何を隠そう、元ファンタジー世界管轄の女神であるミカエル様…だったからね」
(天使って男も居たのか…)
「僕達はあらゆるファンタジー世界で宝箱配置人協会を運営してるんだよ。ホラ、君が前冒険してた世界でも…」
「前の冒険では"宝箱配置人"なんて一度も聞かなかったですけど」
「まぁそうだろうね。前は勇者だった君にとっては基本知らなくて良い存在だからね…そう言えば、ユーリル様は?」
「ユーリルは…ちょっと出かけるってどっか行ったな」(七十九幕参照)
「…ふむ…。ま、そういう事なんだ」
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リューセイが来ているのは【王都・ヤオヤラグーン】に本部を構える宝箱配置人の協会だった。
中世の街並みの中にポツンとそびえた近未来的なビルは余りにも異質で、そこが宝箱配置人協会だと知って驚いた。
ユーリルの"普遍世界への憧れ"による意向が取り入れられているらしく、最近改築したらしい。
宝箱配置人一行はヤオヤラグーンに来たと言う事もあって本部に顔出しに来たのだが…
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スポットライトが当てられる。
そこにはリューセイの面接が終わり、入れ代わりで次に呼ばれたイズミルが立っている。
「宝箱配置人・書記担当イズミル君。伝説の宝箱配置人・書記担当シムラの孫娘…最年少にしてかなりの活躍を見せているようだね」
サングラスの男天使はサングラスをクイッと上げながら話す。
「は、ハイ!大人達に遅れを取らないように頑張って付いていってます!」
「しかし…とは言え子供を宝箱配置人として旅に出すのは僕らはまだ納得はしていないのだよ。シムラに押し切られる形で君の任命にOKを出したがね…」
「大丈夫です!!ワタシにはシムラおじいちゃん譲りの知恵とこのディアゴが居ますからっ!!」
「では…今の所、特に困った事は無い…と」
「そうですね!……………強いて言うなら…ダルクスおじ様が私をイジメてくる事が唯一の困り事ですかねっ!」
イズミルはそう言って鼻からフンッと息を出した。
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「宝箱配置人・魔法補助担当リーサさん…は、宝箱配置人になる前は色んなパーティに参加しては戦力外で追い出されて…を繰り返し、最終的に宝箱配置人の仲間に?」
「そ、そうですね!な、半ば強引な加入でしたが…」
スポットライトの真ん中に立つリーサは恥ずかしそうに答える。
「しかし…何故そこまでして旅をしようと?」
「…え〜っと…その…人探しを…ですね…」
「人探し?」
「旅をしてる内に出会えるかな…と…。あ、でも、今は宝箱配置人として皆に付いて行くのも凄く楽しくて…!」
「…ふむ。それを仲間達は?」
「し、知らないと思います…。言ってないので…。お仕事の邪魔になってはダメだと思って」
「フフ…リーサさん、貴女もかなり謎多き人物のようですね…。その願い、叶うと良いですね」
「あ、ありがとうございます…!!」
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最後に部屋を通されたのはダルクス。
頭を掻きながら面倒臭そうにスポットライトの真ん中に立つ。
「ダルクスさん…今回の宝箱配置もお疲れ様で…」
「あぁ。疲れもするだろうよ。今回の旅は今までよりも一層大変だからな」
「…と言うと?」
「とぼけるな!センチュレイドーラだ!アイツがこっちに来てるだろ。どうなってる?魔界の奴らは諜報担当が引き止めてるんじゃなかったのか」
「あ〜…それがですね………魔界に侵入していた諜報担当とは連絡がつかなくなって…」
「何?」
「それからはトントン拍子で、魔王・センチュレイドーラの侵攻が始まり…バルチェノーツが落とされるまではあっと言う間でした…」
「バレて殺されたか…?…ったく…おかげで宝箱配置の旅も初期の予定から大きく変わっちまったよ…こうウロチョロ行動されたんじゃコッチもルートをその度に変更するハメになるんだ」
「センチュレイドーラはかなりアクティブに動いてますね。陥落させたバルチェノーツの海軍を仲間に引き入れ、海上を張ってるとの報告も…次はソウルベルガにデルフィンガルも狙ってくるでしょうね…ココ、ヤオヤラグーンだって危ないかもしれない」
「チッ…最悪なのは、勇者がセンチュレイドーラに見つかっちまう事だ。今の所はウチのリューセイを勇者だと勘違いしてるようだが…それが嘘だとバレるのも時間の問題だ。こうなったら、もう俺達で"決着"を付けざるを得なくなる…」
「では…センチュレイドーラを…魔王を宝箱配置人で葬ると?」
「このままだとそういう事になる。俺達は何としても、勇者の冒険を完了させないといけないんだ…。それとな、エクス・ベンゾラム。奴らの動向にも気を配れ」
「エクス・ベンゾラム…ですか?前にダルクスさん、奴らはただのカルト教団だから気にしなくて良いって…」
「そういう訳にもいかなくなってきた。奴ら、何か良からぬ事を考えてるようだ。特に…クルブシ。新しく最高幹部になった男。ヤツはどうも危険な存在らしい」
「敵が…多いですね。了解です。そちらも諜報担当に調べさせましょう」
ダルクスは身を翻し出口に向かっていく。
「ダルクスさん」
男天使に呼び止められ振り返る。
「第一級宝箱配置人・ダルクス…。そろそろ、貴方を継ぐ後継者を見つけるべきではないですか?旅も過酷を極めています。ここは若者に任せ、長らく配置人として旅を続けてきたダルクスさんはソロソロ腰を落ち着かせては?コチラ、本部の事務職に移ってもらっても誰も文句は言わないですよ。いや、新しい宝箱配置人・配置担当の教育係となって貰って…」
「……………そのつもりは無いな。俺は死ぬまで宝箱配置人・配置担当だ」
「何故そこまで…」
ダルクスは出口に向かう。
外に出るドアのノブに手を掛け止まる。
「俺だってこんな事終わらせたいさ…」
そう言い残してダルクスは部屋を出て行くのだった。
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宝箱配置人協会を出て、その前で集合する宝箱配置人一行。
「さて、これからだが…」
ダルクスが口を開くと、リューセイが続ける。
「ヤオヤラグーンの宝箱配置ですよね?ここ、かなり広い街ですけど…」
「安心しろ。勇者一行が立ち入れるのは一部のロケーションだけだ。決まった所しか入れないようにしてる。それに、もう他の宝箱配置人達がほとんどここでの仕事は終わらせてくれてる手筈だ。俺達は最終確認と何かイベントを配置出来そうか考えるくらいだな」
ダルクスが言った後、次にイズミルが話し始めた。
「ヤオヤラグーンでの仕事を終えたら次はここから少し東にある、カジノで有名な街の【ゴルドリーグ】に…そこからさらに東の【アヤシカビーチ】からまた海に出る形で…」
「カジノっ!!なんだか楽しそうだなっ!!」
リューセイが顔を明るくさせるも、イズミルに止められる。
「なーに言ってるんですか。私達にカジノで遊んでる暇はないですからね!そうですよね!ダルクスおじ様!」
イズミルはダルクスを見る。
ダルクスは目線を反らして口笛を吹いている。
「うむむ…遊ぶ気ですね…?」
「と、取り敢えず、ここでの仕事をササッと終わらせましょう!」
リーサがパン!と手を叩いて言った。
続く…
 




