第八十三幕【チャイナ娘と磁塊鉄盤】
剣を振って火球を飛ばしてくるツクモ。
依然、熊猫辣はそれを避けるのに徹していた。
「ハッハッハッ!!コッチに近付きも出来ないだろ!?そんなリーチの短い鉄の板じゃ俺に敵いっこないって事よ…!!」
熊猫辣はツクモの挑発に表情一つ変えることなく磁塊鉄盤を放り投げた。しかし、投げた方向は明後日の方角で…
「ドワッハッハッ!!どっちに投げてる!?俺はココだぞ!!」
ゴンッ!!!
「痛っっっ!!?」
全く関係のない方角に投げられたハズの磁塊鉄盤はまるでブーメランのように空中に大きく円を描いてツクモの後頭部を直撃、そのまま熊猫辣の元に戻っていく。
パシッ!
熊猫辣は戻ってきた磁塊鉄盤をキャッチする。
「リーチがなんだって?」
フッと熊猫辣は微笑み、今度はツクモに目掛けて磁塊鉄盤を投げる。
「!!!」
後頭部に不意の一撃を食らったせいか判断が鈍り、真正面から磁塊鉄盤をくらうツクモ。
ドゴッ!!と、鈍い音が響く。
「ぐおっ!?」
跳ね返った磁塊鉄盤は熊猫辣の元に再び戻るが、キャッチせずに手でサッと"流す"と、磁塊鉄盤は再びツクモの元へ。
ドゴッドガッバキィィ!!
それを何度も繰り返す。磁塊鉄盤はまるで細い糸で繋がれたまるでヨーヨーのような動きで何度もツクモにぶつかった!
ドガッドスッバコンッ!!!
「クソぉぉぉぉぉ!!!」
ツクモは剣を握ってない左手に力を込める。
炎の力が溜まり、それを一気に解放して再び向かってきた磁塊鉄盤を迎え討った!
左手に溜まった大きな炎の玉と磁塊鉄盤がぶつかる!!
火花を散らし、その炎の玉を押し潰そうと磁塊鉄盤は空中で静止した状態でグルグルと回転ノコギリのように高速で回っている。
「グググ…!!!」
ツクモはより一層力を込める。
磁塊鉄盤はその熱で次第に赤く光り始める。
「うっとおしいっ!!!!!」
バゴーーーン!!!
そう言って、ツクモは炎の玉を爆発させた!その爆発で磁塊鉄盤は黒い煙を吐きながら空高く打ち上がり…放物線を描いて熊猫辣の元に戻ってきた。
ジュッ!!
「ッ!!」
戻ってきた磁塊鉄盤を掴むと、手が焼ける音がした。熊猫辣は磁塊鉄盤を咄嗟に背中の磁石にくっつけ収めてしまった。
流石に、真っ赤に熱せられた磁塊鉄盤を熊猫辣でももってはいられなかった。
その瞬間をツクモは見逃さなかった。
地面をドン!と蹴り飛ばしドスドスドスッ!っと熊猫辣に近づくと、その勢いのまま熊猫辣に喉輪を掛けて地面に叩き付けた!
「グッ!?」
バゴン!!
熊猫辣は地面に後頭部を打ち付ける。ツクモはそんな熊猫辣に馬乗りになる。
「おぉっと!?熊猫辣ちゃん上を取られてしまったぁ!?これは大ピン〜チ!!」
司会者は興奮気味に叫んでいる。
「ヘッヘッヘ!!このまま絞め落としてやる!!」
首にかけた手に力を込めていくツクモ。
熊猫辣は苦しそうに顔を歪めるが、歯を食いしばって耐えながら頭に手をかけた。
シュッ!!
何かを向けられツクモは手を離して仰け反るように熊猫辣から離れる。
ツクモから解放された熊猫辣も華麗にタンタン!とツクモから離れる。
その熊猫辣の手には頭に付けていた髪飾りが握られていた。
「チッ…髪飾り…かんざしか?それも武器として仕込んでたか?」
「竹箸だ。護身用に鋭く研いだな」
熊猫辣は頭から外した4本の箸を構える。
「箸ぃ!?なんでそんなもん…!!いや、それより、そんなもんで俺に敵うと思ってんのか!?」
熊猫辣はフッと軽く微笑み、クイクイッと指を曲げて来たら分かると挑発する。
ツクモはまんまと挑発に乗り、再び熊猫辣に向かって行く!
剣を構えフルスイングで斬り掛かるも、ガチッ!と箸で受け止められる。
構わず、ツクモは何度も何度も斬り掛かった!
ドカッ!!カチッ!!カキン!!
「なんという攻防でしょうか!?熊猫辣ちゃんとツクモさん!目にも止まらぬ速さでお互い牽制しあっています!!」
箸で剣を流す熊猫辣。
「そんなおもちゃは納めてその鉄の板を使ったらどうだ?それを見せびらかす為に来たんだろっ!?」
熱されて赤くなっているのを知ってツクモは言った。
熊猫辣は表情を変えない。
カキンッ!
ツクモの剣を弾いて後ろに下がる熊猫辣。
そこから大きく地面を蹴って跳躍する。
空中でまだ熱で赤くなった磁塊鉄盤を手に持った。
ジュー!!
「クッ…!」
挑発に乗ってしまったのか、歯を食いしばりながら持った磁塊鉄盤を、身体をクルクルと空中で回しその勢いのまま地上に投げ付けた!
バゴォーーーン!!!
しかし磁塊鉄盤はツクモを外し、地面の中に潜っていってしまった。
「ブワハハハッ!!!何処を狙ってる!?」
高笑いするツクモに熊猫辣は空中から箸を2本づつ、クナイの様に投げ付ける。
しかし、それもツクモに剣で弾かれ、熊猫辣は地上へと降りてくる。
「フハハハ…。どうやらここまでのようだな?最後はなんともお粗末な悪あがきだったよ…」
武器を全て失い立ち尽くす熊猫辣。
そんな熊猫辣にツクモはゆっくりと近付いていく。
「さぁ、降参しろ!でなければトドメを刺すぞ!!」
「……………」
熊猫辣は悔しそうに立ち尽くしている。
ツクモは余裕そうに薄ら笑いを浮かべながら近づ…
バゴォン!!
「ポ ォ ウ ッ!!!!?」
熊猫辣に向かうツクモの足元の地面から磁塊鉄盤が飛び出し、無防備なツクモの股間に直撃!そのまま磁塊鉄盤は空に打ち上がる。
ツクモは股間を抑えたまま仰向けに倒れた。
「オウッオウッオウッ!」
オットセイのようにのたうち回るツクモに目掛けて、打ち上がった磁塊鉄盤がヒュルルル…と落ちてきて…
バゴォン!!!
顔面に命中し、ツクモの顔は地面に埋まってしまう。
バウンドした磁塊鉄盤をパシッと掴む熊猫辣。地面を潜っていた間に磁塊鉄盤の熱は冷めていた。
空中から投げた磁塊鉄盤は地面に潜り、そこから地面の中でブーメランの様に掘り進みながら半円を描いて戻ってきていたのだ。
全ては熊猫辣の計算通りだった。
「フゥ…」
一段落付いたと息を吐いて土の付いた磁塊鉄盤をフルフルとふるって背中に戻す熊猫辣。
司会者に目を合わせた。
「…で、この場合はどうなるんだ?」
熊猫辣はツクモを指差しながら司会者に問いかける。
「えっ!?えぇ~っと…」
ツクモは棺桶にはならなかったにしても、地面に顔を埋めたまま気絶して動かなくなっている。
「こ、これはぁ…もう戦闘不能と見て良いでしょう!しょ、勝者、熊猫辣ァァァ!!!!!」
ワーーーーー!!!
熊猫辣の勝利に湧き上がる観客。
「ツクモさんの連勝を見事途絶えさせてしまった最年少の挑戦者・熊猫辣ちゃん!!勝利した感想を一言!!」
「ボクが強かったのはこの磁塊鉄盤のおかげだ」
「熊猫辣ちゃんは確か、その磁塊鉄盤という武器を広める為に旅をされてるとか?」
「そうだ。磁塊鉄盤は富天龍で何千年も前に扱われていた古代武器だ。でも、近代武器や魔法の席巻によって、今やこの武器を扱える者も製法も失われつつある。それを止める為にボクは磁塊鉄盤を広める旅をしてるんだ」
「なるほど!でも、今回の試合で皆さんも分かったんじゃないでしょうか!?古代の武器でありながら近代の武器である剣の使い手とも対等に…いや、それ以上の力を発揮した磁塊鉄盤の凄さを!!改めて、優勝は熊猫辣ァァァァァ!!!皆さん、盛大な拍手をっっっ!!!」
ワーーーーー!!!
パチパチパチ…
観客の拍手に包まれながら、熊猫辣は思う。
(師匠…見ていますか。師匠が守ってきた磁塊鉄盤、歴史の中に埋もれさせはしません!師匠から受け継いだ"磁塊鉄盤最後の使い手"として…必ず世に広めてみせます!)
熊猫辣は心の中でそう固く誓うのだった。
グ〜〜〜………
(それにはまず…腹ごしらえだな)
熊猫辣は顔を赤らめて恥ずかしそうに頭の小籠包を取って口に頬張った。
続く…
 




