第八十二幕【チャイナ娘とでくの坊】
円形闘技場の真ん中で司会者が観客に向かって身振り手振りで叫ぶ。
「さぁ!武闘演武一回戦目!出場者は一体誰と組まされたのでしょうか!?では…最初に試合をする二人は………おおっと!?コレはいきなり異色のコンビだぁ!!」
ドドン!!
太鼓の音と共に、円形闘技場の観客席横のスタンドに垂れ幕が2枚降ろされる。
熊 チ
猫 VS ヨ
辣 ダ
ク
チヨダクと熊猫辣はお互い向き合った形で立っている。
「元勇者であり、世界を脅かした魔王を倒した前歴のある大剣使いのチヨダクと、西の大陸・富天龍よりやってきた一輪の牡丹、熊猫辣!!果たして、どちらが2回戦目に勝ち進めるのかぁ!?」
闘士用の特別席に座って今から始まる試合を鑑賞する闘士達の中に不敵な笑みでステージ上を見つめるツクモ。
「やる前から勝負は見えてる。ガキが出て良い大会じゃないんだよ。せいぜい、そのクールぶった顔が泣きっ面で歪む様を楽しませて貰うとするぜ」
そう呟いてツクモは肩を揺らした。
「さぁ!いよいよ始まりますが、ルールの確認です!【殺しは禁止】ただコレだけ!どちらかが降参をするか、棺桶状態になった時点で試合は終了となります!」
見つめ合う熊猫辣とチヨダク。
司会が前説をする中、チヨダクが口を開いた。
「お嬢さんだからと容赦はしないよ?ココに出場したからには正々堂々と全力で勝負だ!」
熊猫辣はコクリと頷く。
「無論だ」
「さぁ、では、銅鑼がなったら試合開始です!用意!」
司会者が右手を上げる。
チヨダクは大剣を構える。
熊猫辣は両手を合わせてお辞儀をしている。
「始めっ!!」
ボワーーーン!!
司会者の振り下ろされた右手を合図に銅鑼が鳴らされる。
刹那、チヨダクは熊猫辣に素早く蛇行しながら向かって行く!その素早さは中々のもの。
しかし、熊猫辣は動かない。磁塊鉄盤も構える事なく。
「チャオラァァァァァ!!!」
大剣を振り被り熊猫辣に振り下ろすチヨダク。
ゴワン!!!ンンン ンン ン…
そんな音が鳴り響き、金属の音の余韻が続く中、ドシャ!と倒れ棺桶になる…
「しょ、勝負アリ!!!勝者、熊猫辣ぁ!!?」
観客はザワザワとざわついた。
「なんだ?今何が起きた?」
「あの娘、立ってただけだよな?」
「何も見えなかったぞ…」
熊猫辣は自分の背後で棺桶になるチヨダクに振り返り、いつの間に手にしていたのか、磁塊鉄盤を背中にスチャッと戻す。
「も、もう終わりか?」
本人も呆気ない試合にキョトンと目を丸くする。
「な、なんと言う事でしょうかっ!!初出場にして最年少の女の子が、元勇者を一瞬で戦闘不能に!?この結末を誰が予想出来たでしょうかぁぁぁ~!?」
特別席で試合を観ていたツクモがドン!と床を蹴って立ち上がった。
「ぬぅわにぃ〜〜〜〜〜!!?」
ギリギリと歯を食いしばるツクモ。
「さぁ、熊猫辣ちゃん!正直、誰もが君を期待して無かった中での勝利ですが、何か一言!!」
「え?あぁ…え〜と…いぇ、いぇ〜い」
熊猫辣はたどたどしくダブルピースをした。
「こーれは今大会、何が起きるか分からなくなって来ました!!ツクモさんも気が気じゃないのではないでしょうか!?では、次の出場者は…」
熊猫辣はステージを後にし、司会者が次の試合のアナウンスを続ける中、特別席の方ではツクモが地団駄を踏んでいた。
「アホか!!俺があんなガキに遅れを取るわけ無いだろうがっ!!」
グルルルと吠えるツクモの横から声がする。
「そうか、そうであってくれると助かる」モグモグ
いつの間にかツクモの横の席に熊猫辣が座っていた。小籠包を頬張りながら言った。
「テメェ…」
「あれだけ勝負が早いと、磁塊鉄盤の良さを観客に伝えられないからな。でくの坊、お前が多少なりとも出来る相手なのを願ってるよ」モグモグ
「それはこっちのセリフだ!!お前はぜってぇ俺がぶっ潰してやるんだからな…勝ち残って貰わねぇと困るのよ」
「要らぬ心配だな。ボクは強い。近代武器を使ってる奴には負けはしない」ゴクン
ピキピキ
顔中に血管を浮かせ、ツクモは立ち上がって近くの柱をガシッと掴んで何度も頭突きをする。
「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!!!」
ガンガンガン!!バゴォーン!!!
柱が破壊され、2階席の一部が崩れ観客達が落ちて来た。
ワー!!キャー!!
しかしツクモは我関せずと熊猫辣の隣の席にドスッ!と再びついた。
熊猫辣はヤレヤレと首を振るのだった。
〜〜〜〜〜
トーナメント形式で進む試合は一回戦目を終了し、二回戦目、三回戦目と続く。
熊猫辣は磁塊鉄盤の力を見せ付ける事出来ぬまま、瞬時に試合を終わらせていき決勝に。
ツクモも噂に違わぬ力を見せ付け、悠々と決勝まで勝ち進んだ。
奇しくも、二人は優勝を決める決勝戦で出会う事になったのだ。
「この展開は誰もが予想出来なかったでしょう!不動のチャンピオンの元に無名の少女が勝ち上がってきたのです!!」
司会者が場を盛り上げている中、ステージでお互い見つめ合う熊猫辣とツクモ。
「よくここまで残ってくれたなぁ?そこは褒めてやろう」
「………」
「だが…前の試合でヤラレといた方が良かった…と、後悔する羽目になると思うがな」
「それはコッチの台詞だ。せいぜい、粘ってくれよ。即決着は観客も見飽きただろうしな」
「へ!その余裕、いつまで持つかな?」
「さぁさぁ、お二人も闘いたくてウズウズしている様子!前置きはこれくらいにして早速試合を始めましょうか!?」
司会者が言って位置につく。
熊 ツ
猫 VS ク
辣 モ
「熊猫辣ちゃーん!!頑張れー!!」
「ツクモーーー負けてやれーーー!!」
「コレ、熊猫辣ちゃんが勝ったら例の如くグッズ化するんだよねぇ!?」
「ツクモーーー!!お前のグッズは見飽きたんだよぉ!!」
観客は軒並み、熊猫辣を応援しているようだ。
「では、銅鑼が鳴ったらスタートです!用意っ!!」
ツクモは剣をクルクル回しながら軽快にステップする。
熊猫辣は例のように手を合わせお辞儀をする。
「始めッ!!」
合図と同時に、ツクモは地面を蹴って熊猫辣に向かっていく!
熊猫辣は微動だにせず立っているが…
「ツクモのヤツ!今までの試合観てなかったのか!?」
「あれだと今までの試合と同じ末路…!!」
観客がザワつく中、熊猫辣に目の前に着いたツクモは剣を振り下ろし…
ゴワン!!!ンンン ンン ン…
背中に磁塊鉄盤を戻し後ろを振り返る熊猫辣。
そこには棺桶が…
…と思いきや、立ち尽くすツクモの後ろ姿があった。
ツクモはゆっくりと熊猫辣に顔を向けると、ニタリと笑った。
「おおっと!!流石チャンピオンのツクモさんです!!今までの試合で誰も耐えられなかった熊猫辣ちゃんの磁塊鉄盤による居合斬り…いや、斬ってはないな。居合…殴り…?…を、持ち前の石頭で耐えたぞ!?」
司会者が興奮気味に叫ぶ。
「ほお?」
熊猫辣も思わず感心の声を漏らす。
「俺を少しみくびってたようだなぁ?そんなもんじゃ俺はっ」
ビュン!!!
ツクモは熊猫辣に斬りかかる!
「やられねぇんだよっ!!」
…が、咄嗟に後ろ飛びで避ける熊猫辣。
「流石、今までチャンピオンを防衛してきただけはあるんだな。見直したぞ」
熊猫辣はフッと軽く微笑む。
「その余裕ぶった態度が気に入らねぇんだよっ!!」
ビュン!ビュン!
熊猫辣に容赦なく剣を乱舞するツクモ。
熊猫辣はスラリスラリと避ける。
「うおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
剣を引いて、今度は突き攻撃をする。
しかし熊猫辣は飛び上がり、出された切っ先をトンッと踏み付けそのままクルンと空中で回転しながらツクモの背後に着地する。
間を置かず、振り返りながら磁塊鉄盤を掴んでツクモ目掛けて払う!
ガキンッ!!ンンン ンン ン
ツクモは咄嗟に剣でガードをする。
カチカチカチと、剣と磁塊鉄盤が擦れる音がする。
熊猫辣は無表情のまま、磁塊鉄盤を一端引き、磁塊鉄盤で改めて猛撃を始める。
鉄の円盤を細い腕で振り回す熊猫辣。
ガキン!ガキン!ガキン!
ツクモは剣でブロックするも、鉄の円盤を防いだ時の衝撃は凄まじいものだった。
「防いでるだけじゃボクには勝てないぞ?」
息一つ切らさず、表情一つ変えず
熊猫辣は猛撃を加えながら言ってくる。
「フンッ!!」
バゴーーーン!!!!!
急にツクモが爆発し、熊猫辣は吹き飛ばされる。
空中で体勢を変え、スタッと着地する。
「おおっと!?ツクモさんのお決まりの技、【憤怒爆発】だぁ!!あの技をもう引き出したか熊猫辣ちゃん!!」
司会者が興奮抑えられず叫ぶ。
離れた熊猫辣に向かって剣を振るツクモ。
振った剣から火球が飛び出し熊猫辣に向かって行く!
熊猫辣は咄嗟に横跳びで避けるも、次々に火球が飛んでくる。
「ワハハハハハ!!!今度はテメェが攻撃を避けるだけの番だ!!!」
華麗に避け続ける熊猫辣。
その光景を観客は固唾を飲んで見守るのだった。
続く…




