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異世界から転生した勇者より宝箱配置人の方が過酷だった件  作者: UMA666
第三章【導かれそうで導かれない時々導かれし者達編】
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第八十一幕【チャイナ娘とマンホールの蓋】

【王都・ヤオヤラグーン】


人々が行き交う大通り。

様々な商店が立ち並び活気溢れる中、"お腹が空いています"と書かれた紙を掲げて座る孤児の男の子。

店と店の間に座って道行く人々を眺めていると…一人の異国の裝束に身を包んだ少女が目の前に立ち止まる。


真っ白なチャイナドレス風の裝束に"丸い大きな鉄板"を背負った大きな赤いリボンで白く長い髪を纏めた少女。

頭には2つのお団子ヘアーが乗っている。


「お姉ちゃん…お腹空いたぁ」


男の子がそう言うと、少女は男の子の目の前に屈んだ。


「それじゃあ…ボクの小籠包(ショウロンポウ)をお食べ」


童顔に似合わず低い声でそう言って、少女は頭のお団子ヘアーを一つポンッと取ってしまった。

…と言うか、良く見るとお団子ヘアーだと思っていたものは頭に生えた大きな小籠包だった。

無くなった片方の小籠包はポコッと再び生えてきた。


「あ、ありがとうお姉ちゃん!」


静かに微笑んだ少女はスッと立ち上がり去っていった。

それを見届けて、男の子は意気揚々と小籠包にかぶりつ…


「あ"っ"っ"っ"つ"ぁ"!!!」


齧った瞬間に溢れ出した肉汁で口を火傷してしまうのだった。


ーーーーー


彼女の名前は熊猫辣(シオンマオラ)

西の大陸【富天龍(フーテンロン)】から来た16歳の少女だ。


彼女はある目的の為に一人、世界を旅していた。丸い大きな鉄板【磁塊鉄盤(じかいてつばん)】を携えて…


ーーーーー


「えーっと…16歳?悪いけど、未成年の出場は認められないよ」


ヤオヤラグーン名物、円形闘技場で優勝をかけて一対一で闘士達がトーナメント形式で闘い続ける競技【武闘演武】の大会出場の受付に来た熊猫辣(シオンマオラ)


「分かってる。でもそこをどうにか出来ないか?どうしても明日の大会に出場したいんだ」


「どうにか…と言われても。嬢ちゃん、武闘演武は闘士達が己の命を掛けて優勝を目指す大変危険な競技だよ?」


「心配するな。ボクは強い。この"磁塊鉄盤"があるからな」


そう言って背負った磁塊鉄盤に手を掛ける熊猫辣(シオンマオラ)


「そうは言ってもな…」


受付でそんなやり取りをしていると、後ろから近付いて来た屈強な剣士に熊猫辣(シオンマオラ)はドン!と押されてしまう。


「邪魔だ。お子様は帰っておままごとでもしてるんだな」


熊猫辣(シオンマオラ)は表情を変えず順番を抜かして受付に立つ剣士を一瞥する。


「やぁ、ツクモさん。今大会も出場されるんですね?」


「当たり前だ!今回も俺が優勝を頂いてやる!ワハハハ!」


ツクモという剣士は仁王立ちで高らかに笑っている。


「それはどうかな」


そんな声にピタッと笑いを止めるツクモ。


「あぁ〜ん?」


それは熊猫辣(シオンマオラ)が発した言葉だった。


「ボクが出場すれば、お前なんか一捻りだ」


熊猫辣(シオンマオラ)はそう言って、余裕そうにフッと微笑む。


「あんだと〜?」


ツクモはピキッとこめかみに血管を浮かせ、熊猫辣(シオンマオラ)の胸ぐらを掴む。


「ガキに何が出来るって!?えぇ!?このツクモ様にめめっちいチビ女が敵う訳ねぇだろ!?」


「離せよ。ここで決着を付けたって良いんだぞ?」


「上等じゃねぇか…やってもらおうか?」


熊猫辣(シオンマオラ)はソッと磁塊鉄盤に手を回…

しかし、ツクモは不敵に微笑み熊猫辣(シオンマオラ)から手を離した。


「いや、そうだ。折角なんだ。武闘演武でお前の実力を見せて貰おうじゃねぇか?腕に自信があるんだろ?」


「……………」


熊猫辣(シオンマオラ)は黙ってツクモを見据える。


「いや、困りますよツクモさん!未成年は危険だから出場させられないって決まりが…」


受付は両手を振りながら言う。


「俺が話をつける。特別に彼女の出場を認めてやろうじゃないか」


「…ツクモさんが言うなら…」


(フッ…このガキ、俺に舐めた口聞いた事後悔させてやる。せいぜい武闘演武で足掻いてみるが良いさ。ま、一回戦でボコボコにされて敗退…が関の山だろうがな。俺に辿り着く事も無く泣いて終わりよ)


「そう言う事だガキ!明日の試合、楽しみにしておくぜ!ワッハッハッハッ!!」


そう言い残してツクモは受付を後にした。




〜〜〜〜〜




わーわー!!!


「さぁやって参りました!ヤオヤラグーン名物【武闘演武】!歓声の中、本日も多くの力自慢の強者達が集まっております!」


円形闘技場のステージに並ぶ挑戦者達。司会者は大きな手振りで大袈裟に闘士達を紹介する。


「初出場から計15回の武闘演武のチャンピオンを防衛し続けているツクモさんも勿論今大会にも出場していらっしゃいます!!果たして、チャンピオンの座を奪う事の出来る挑戦者は居るのでしょうか!?」


「無理だな!今回も俺が防衛してみせるさ!ワッハッハッハッ!!」


「しかし、今大会ではなんと、10年前に魔王討伐を果たした元勇者であるチヨダクさんが出場しておりますがっ!?」


「元勇者〜???」


並ぶ挑戦者の中から、大剣を携えた一人が一歩歩み出る。


「今回の優勝は僕が頂くね。魔王【ベルゼルク】を倒した僕が闘士達相手に遅れを取る訳がないからね」


チヨダクは前髪をサッと手でなびかせる。


「テメェ、今まさに魔王が攻めてきてんだろうが。勇者ならそっちを倒しにいったらどうだ!?」


ツクモが突っ掛かる。


「知ってるかい?一度勇者になった者は二度勇者になる事は出来ないんだよ?」


「知るか!そんな勇者のルールなんか!」


「ま、知らなくても良いよ。僕が優勝して、こういう大会で真にトップを取るに相応しいのは、力だけじゃなく知恵を備えた者だって事を証明してみせるさ」


「テメェ…遠回しに俺を馬鹿呼ばわりしやがったな!?」


次第にヒートアップするツクモとチヨダクの言い合いを司会者が止める。


「まぁまぁ!そのわだかまりは是非、試合の方で発散させて下さい!!………で、他に気になる出場者は…」


司会者は並ぶ挑戦者を品定めするように眺めながら、一番端で立っていた熊猫辣(シオンマオラ)の前で止まった。


「えぇ〜と…君は…女の子…?」


「そうだが?」


「えーと…未成年の出場は〜…」


「許可は得てる。そこのでくの坊にな」


熊猫辣(シオンマオラ)はツクモを指差す。


「で…でくの坊〜〜〜!?」


ツクモは歯をギリギリと軋ませる。


「君、この大会は殺さない以外はルール無用の大変危険な大会だよ?」


「問題ない」


「問題ないって…」


「お膳立てはもう充分だっ!!サッサと始めようぜ!!そこの嬢ちゃんも直ぐにこの大会が遊びじゃねぇって事に気付くだろう!」


ツクモはイライラと足踏みをしながら言う。早く熊猫辣(シオンマオラ)が音を上げる姿を拝みたいのだろう。


「…で、では!出場者は一度控室にお戻り下さい!一回戦目の対戦相手は毎度同じくクジで決めさせて頂きます!ココで誰と組んでしまうのかもかなり重要になってきます!一回戦目でツクモさんが対戦相手になってしまった時は…おぉ…可哀想過ぎて目も当てられない…!」


ーーーーー


【控え室】

広い控え室に集められた闘士達。

各々がウォーミングアップで動き回る中、熊猫辣(シオンマオラ)は壁に背中を預けて目を瞑っていた。

そんな熊猫辣(シオンマオラ)の元にツクモがやってくる。


「おい嬢ちゃん。まさかとは思うが、そんな鉄板のおもちゃで出場する訳じゃないよな?」


ツクモは熊猫辣(シオンマオラ)の背中の磁塊鉄盤を指差して言った。

熊猫辣(シオンマオラ)はゆっくりと目を開き、落ち着いた口調で続けた。


「おもちゃじゃない。コレは磁塊鉄盤。ボクの国で大昔から伝わる古代武器だ」


「古代武器〜?嬢ちゃん、今は剣や魔法の時代だぜ?そーんな古臭いもん使ってるようじゃ俺には辿り着けないぜ?せいぜい、一回戦で俺と当たる様に願っておくんだな。ま、その場合は秒で決着を付けてやるが。ワッハッハッハッ!!」


「フゥ…お前は体と態度がデカいだけじゃなく声もデカいな?そんな威勢だけじゃボクには勝てないぞ。口を動かす暇があったら、ボクに負けてしまった時のコメントでも考えておくんだな」


熊猫辣(シオンマオラ)は落ち着いた口調でそう言ってフッと微笑んだ。


ピキッ


ツクモのこめかみにまた血管が浮き出る。


「テメェの血をこの剣の錆にしてやりたくて堪らねぇよ…。絶対勝ち残れよ?俺が対戦相手になるまではなぁ?」


「剣なんかに遅れを取らないさ。磁塊鉄盤とどちらが武器として優秀か。この大会で世間に見届けてもら…」


グゥ~…


そんな音が鳴り響いて、熊猫辣(シオンマオラ)は言葉を止める。

頬を赤らめて恥ずかしそうに頭の小籠包を一つポコッともぎ取って口に頬張った。


ハグッ…モグモグ


それを見てツクモはキョトンと目を丸くしたあと、肩を震わせて笑い始めた。


「ダッハッハッハッ!!!育ち盛りだねぇ!?せいぜい試合中に腹が鳴らねぇようにしとけよ!!ダッハッハッハッハ!!!」


「…う、うるさい!どんな時でも腹は減るだろっ!!」モグモグ


熊猫辣(シオンマオラ)は恥ずかしがりながらも腹の音を収める為に頭からもう一個小籠包をもぎ取り、口に放り込むのだった。




続く…

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