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異世界から転生した勇者より宝箱配置人の方が過酷だった件  作者: UMA666
第二章【大航海先に立たず…編】
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第七十七幕【ここでタイトルコール】

「おーい!勇者ぁ!コッチだコッチ〜!」


アカシータ貿易港の港でガフマンが手を振って勇者一行を待っていた。


「お前達がグフマンを訪ねている間に船を用意していたぞ」


ガフマンの後ろには質素で小さな帆船が停まっていた。しかし、勇者の初の船出には充分過ぎる代物だった。


「コレが…僕達の船か…」


はやる気持ちを抑えて、クサカベはつとめて落ち着いて言った。


「必要な船員ももう乗せてあるから…後は行きたい所を言えば好きな所に連れてってくれるぞ!」


ガフマンは得意気に言った。


「へぇ、思ったよりちゃんとした船だね?………準備は良いかい勇者?」


ガウラベルがポンッとクサカベの肩を叩く。


「は、はい!僕はいつでも…!!」


「そう?んじゃ、早速乗り込もうか」


「次の目的地は何処になるんだい?」


そう質問するアンカーベルトにクサカベが答える。


「そうですね…魔王はバルチェノーツを侵攻したみたいですから…その様子を伺いたいですね。まずはダイダラ大陸のサンシタ入江港に渡って…情報収集…困ってる人もいっぱい居るだろうし…」


「それなら、サンシタ入江港の東に王都がある。情報収集ならそこが良いだろうね。デッカい国だから色んな物が揃ってるし、世界の情報が集まってる」


いつの間にか乗船したガウラベルが船の上から声を上げる。


「そうだね。何をするにも、まずは王都に行くのが良いかもしれない。行こう!クサカベくん!」


そう言ってアンカーベルトも乗船する。クサカベもその後に続いた。


船首の手すりに手を付いて立っているガウラベルの横につくクサカベ。

それに気付いてガウラベルが話しかけてくる。


「さーて、次の大陸には何が用意…いやいや、待ち受けてるのかねぇ〜?言わば今までのはチュートリアル。ここから冒険も複雑化してくるからね。気を引き締めて行こうよ?」


「はい!」


クサカベは目の前の大海原を見据える。

ここから本当の大冒険が始まるんだと、期待に胸を膨らませ…

その時のクサカベの目には不安や焦りなどは無かった。


その顔を見て、ガウラベルもフッと安心したように笑みをこぼすのだった。




ーーーーー




「帆を降ろせ〜!イカリを上げろ〜!」


そんな船員の掛け声と共に、船はゆっくりと大海原へと進み始めた。


「ドラコぉぉぉぉぉ〜!!!!!またねぇ〜〜〜〜〜!!!!!」


アンカーベルトは涙を流しながら叫び、港でコチラを寂しそうに見送るドラコに手を振っている。


「連れていかないのかい?」


ガウラベルが質問するとアンカーベルトは手を振りをやめずに答えた。


「あぁ、ドラコとはここでお別れだ…大陸が変われば生態系も変わる。そんな生態系を崩さない為、生き物を守る為にも…ドラコを連れて行く訳にはいかないのさ……………うわぁ~ん!!!ドラコぉぉぉぉぉ〜!!またねぇ〜〜〜〜〜!!!!!」


「そんなもんなんだねぇ…」


ガウラベルはふ~んと、アンカーベルトのその様子を一瞥した後、今度はクサカベの元に向かう。

帆桁の下に積まれた樽を椅子にして俯いて座るクサカベの横に立った。


「とうとう大海原に出たね。ここでメインテーマとタイトルがバーンと出るんだろうねぇ〜。これが物語の中だったら」


「アハハ…なんですかソレ…」


「まさに、今から大冒険が始まる!って感じでね!あ、そうだ。もしこの冒険にタイトルをつけるとしたら…どうなると思う?」


「どう…ですかね…」


「アタイ達の冒険にはこう、ドラゴンが結構キーパーソンになってるだろ?だから例えば…『ドラゴン…」


…と、ガウラベルが言いかけたところでクサカベはグデッとガウラベルに寄り掛かった。


「お、おい!どうしたんだよ…!?」


そんなクサカベの顔を覗き込むと、顔がみるみる青白くなっていく。


「あ、アンタ…まさか…!!」


「うっ…うぷっ…オロロロロロ」


クサカベは盛大にその場で吐き始めた。ガウラベルは咄嗟にのけ反り飛んで下がった。


「ウワッ!!汚ねっ!!」


「ご、ゴメンなさい…僕…ほんと酔いに弱くて…うぷっ…」


「うわぁ!?ココで吐くなココで!!海に吐け海に!!」


「ず…ス"ミマセ"ン…ッ…!!」


クサカベは走って船の縁まで走って身を乗り出した。

ガウラベルはその背中を擦ってあげた。


「船酔いってアンタ…まだ出航して3分も経ってないのに…」


「オエ〜…す、スミマセン…」


「船旅が勇者の冒険の醍醐味だってのに…この先大丈夫かね?」


ハァ…と溜息をつくガウラベルがふと海面に目をやると…


一瞬大きな目玉がギョロッと見え海底に沈んで見えなくなった。ガウラベルは思わずウッ!と声を漏らす。


「い、いいい、今見えた?」


「何がですかぁ〜…オエッ」


クサカベは気付いてないようだ。

ガウラベルはギクシャクと顔を引き攣らせながらまたアンカーベルトの元に戻る。

アンカーベルトはまだ遠くの港を見つめながらグスグス泣いていた。

ガウラベルはそんなアンカーベルトの膝裏を軽く蹴った。アンカーベルトはカクッと膝を曲げた。


「グスッ…どうしましたガウラさん」


「泣いてる場合じゃないよ!船の下に何か居るよ?デッカイ何かが…」


「グス…え?クジラか何か?」


「いや、それとは比べ物にならない何かが…」


「まさか〜。この海域にはクジラよりデカい生き物は居ないはずだよ?」


「でも確かに見たんだよっ!!デッカイ目玉がギョロッて…」


…と、話すガウラベルとアンカーベルトを何かの影が黒く染め…上から大量の水滴が落ちてきた。


恐る恐る上を向いた二人の目に映ったのは…巨大なタコの足だった。


「ギャアアアアアーーーーー!!?」


「うおぉ!!?こ、コレはっ!!!」


空高くしなった大きな足はそのまま船を叩き潰そうと振り下ろされた!!


「どきなっ!!」


アンカーベルトをその場から蹴り飛ばすと、ガウラベルはすかさず杖を構えた。


「プロテードッ!!!」


そう唱えると、ガウラベルを中心に大きなドーム状のバリアが発生した。


振り下ろされた足はそのバリアに弾かれた。


「クサカベッ!!反撃ッ!!」


ガウラベルは振り返って叫ぶが、当のクサカベはまだ吐いている途中だった。


ガクッと首を落とすガウラベル。


「もう!!こんな時に!!」


海面からはズモモモモと大きな頭まで出て来た。


アンカーベルトは腰を擦りながら起き上がる。出て来た巨大な頭を見て、その顔を羨望の眼差しに変えて…


「この子はアッコロカムイじゃないか!!この海域には居ないハズだけど…迷いこんだのかな?おぉーおぉー可哀想に!!なんでまたこんな傷だらけに…!!」


「おい!!いいから加勢しろって!!」


「僕は戦えないよ。ただの魔物使いだからね」


「あーもう!役に立たないねっ!!!」


「まぁまぁ、戦えはしないけど…彼を落ち着かせる事くらいなら出来るさ…魔物使いとしてね…!!」


アンカーベルトは船の手すりに立って手を広げる。


「さぁ、元の海域にお帰り。君には僕を傷付けられない。そうだろう?」


言いながら、アンカーベルトは深々と被っていたフードを取る。

アンカーベルトの√7(るーとなな)みたいな顔が晒され、アッコロカムイは一瞬動きを止めた。


「ガウラさん!!バリアを解いてっ!!」


言われるがまま、ガウラベルは防御魔法を解く。すると、アッコロカムイの足がアンカーベルトに巻き付いていく。


「僕は君の味方だよ!」


フードを再び被ったアンカーベルトはそのまま持ち上げられ、アッコロカムイの顔の目の前まで持っていかれる。


「アンタ、ほんとに大丈夫!?」


ガウラベルは気が気じゃないと叫ぶ。


「大丈夫大丈夫!」


巻き付いた足に頬を擦り寄せ両手で撫でるアンカーベルト。

しかし、アッコロカムイは表情変えずにアンカーベルトを締め上げ始めた。


「大丈夫だいッ!?じょっ…!!ぐおおぉ…!!」


ミシミシベキ!!

アンカーベルトから嫌な音が響く。


「大丈夫じゃないだろ!?なぁ!?大丈夫なの!?」


ガウラベルが顔を引き攣らせながら問い掛けるも、アンカーベルトはグフッと血を吐きながらグッと親指を立てる。


「大ジョゥぶ!!ダい丈夫ッ!!ちょっと…内蔵が飛び出そうなだけッ…!!…ゴメンッ!!ちょ、ちょっと、助けて貰って良いかい??」


「一体何がしたかったんだ!!?アホなの!!?」


期待に胸を膨らませた航海は初っ端後悔まみれで始まったのだった。




続く…

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