第七十五幕【勇者と魔王の因縁は…】
食事が終わり、ドーラに付いて来いと言われ、その後ろに続く。
「簡易ポータルは使い切りでね。新しいポータルがないと貴方を元の世界に帰せないんだけど…確かワタシの部屋に換えがあったハズだから…」
そう言って、ドーラは自分の部屋に入っていく。
俺もその部屋に入るとすぐ、ラベンダーの薫りが鼻の中をくすぐった。
「えーと…確かここら辺に…」
ドーラは背中を向けてクローゼットをゴソゴソと探している。
協力したいと言っておいて、俺の頭の中には色々な思惑が頭をグルグルと駆け巡った。
元々は敵同士だったハズだ。なんでドーラはそんな俺に無防備に背中を向けられる?
…俺は元々、魔王を…センチュレイドーラを倒しにやってきたんだぞ。
俺が元の世界に戻る為には…魔王が倒されない…と……………
俺はドーラの後ろ姿を見つめる。
油断しきってるドーラをここで叩けば…魔王に怯えてる世界は救われる。俺は元の世界に戻れる…!!
これは二度と来ない大チャンスなのかも…しれない…!!
自然に俺の足はゆっくりとドーラに近付いていく…
「あ!あったあった、これよ!簡易ポータル!」
そう言ってコチラに振り返ったドーラの肩をガシッと掴む。
「ヒャッ!?」
酷く驚くドーラに俺は言った。
「良いか、ドーラ。俺は信じるぞ!ドーラは必ず人間の希望になるって!確かにドーラが言う通り、人間ってのは魔族から見たらほんとにどうしようもない…血の気が多くて野蛮で…学習しない種族なんだろう。俺の元居た世界だってそうだったから…」
「ど、どうしたの?も、元居たって…ココに来る前の世界とは別にって事…?」
「あぁ。もっと別の場所からだ。その世界でも人はしつこく争いを繰り返してた。やれ戦争だの、どこどこの国とは仲が悪いだの…でも、ちっぽけな俺にはそんなのどうしようもないし、関係が無かった。移り変わる情勢に流されるしかなかったんだ。でも、この世界でなら…ドーラとなら…少しでも俺の力がこの世界を救う手助けになるかもしれないんだ!だから約束してくれ!絶対にこの世界を良くしてくれるって!」
「も、勿論よっ…!当たり前じゃないっ!」
「うん……………それを聞いて安心した。それなら俺は元の世界に戻れなくっても…」
「ちょっと待ってよ、それってどういう意味?」
「……………もう隠しても意味ないか。……………俺は元々、別の世界からドーラを倒す為に女神に寄って導かれたんだ」
「ワタシを…?」
「ドーラが倒されないと元の世界には戻れないんだ…けど……………良いんだ。ほら、勇者ってのは最終的には元居た世界には戻れないってよくあるパターンだし!」
俺はそう言って笑ってみせた。
「それで本当に…」
ドーラが何か言いかけた所を遮って俺は続けた。
「それに、世界を救おうとしてる魔王を倒す訳にはいかないもんな。今まで人間や魔族がやってきた"くだらない争い"も…もう俺達で終わりにするんだ!」
「くだらない…?」
ドーラはそう呟いて俯いた。
「そうだろ?最低だよ戦争なんて。被害を増やすだけの百害あって一利なしで…俺の世界でも戦争は昔から…」
…と言いかけた所で、ドーラの蹴りが俺の腹にクリーンヒットした。
「グフッ!!!」
そのまま後方に吹っ飛び、壁に激突した。
ゴシャーーーン!!!
「っつ…!!何…するんだ…よ…!!」
そのまま壁を背中に預けた状態で尻餅をつく俺。
ドーラの目つきはとても蔑んだような目に変わっていた。
「…本気でそんな事言ってるの?じゃあ何?ワタシ達のやってきた事は無駄だったって?」
「…ど、どうしたんだよドーラ…!」
「今までの魔王達がやってきた事はくだらないお遊びだったって?じゃあ、そのくだらないお遊びに倒れていった魔王達やそれに追随していった兵士達はお遊びに付き合わされただけのただの無駄死にだったって?」
「そ、そこまでは言ってないだろ!」
「ワタシ達魔族だけじゃない。その戦いに巻き込まれて死んでったアンタたち人間もただの無駄死にだったって、そうやって簡単に片付けるの?」
「お、俺はそんなつもりで…」
「ワタシは…今まで魔王達がやってきた事をくだらないなんて…無駄だなんて思わないわ。彼らの今までがあったからこそ、今のワタシがあるんだ。今のワタシがこういう作戦で人間界を侵攻してるのも、今までの魔王達が居たからこそ生まれた発想なのよ?」
「……………」
「アンタの元居た世界も…過去の争いがあったからこそアンタ達の今があるんじゃないの?その教訓や技術でアンタ達は不自由ない生活を送れてたんじゃないの?それをくだらないって…黒歴史にして…どのツラ下げて言える訳?」
ドーラはそう言いながら部屋の隅に置いてあったコートハンガーに向かった。そこには、いつものドーラの一張羅の軍服風の上着がかかっている。ドーラはその上着に手を掛けた。
「誰もお遊びで争いなんて起こしてないわ。各々が信念をもって戦ってきた。争いを正当化するつもりはない。良い事だとは言わないけど…。それを分かって戦ってきた彼らを…ワタシは誇りに思うし…そんな過去を…ワタシは全部背負うわ。今までの魔王達や…兵士達…人間達の犠牲を全部糧にしてね。過去の死を無駄にしない為にも…!!無念を晴らす為にも…!!」
「ドーラ…」
ドーラは言い終わると黒のゴシック調のドレスを脱いだ。コートハンガーに掛かった上着を羽織り、頭のティアラを取り、結った髪を降ろした。髪はいつものツインテールになり…いつものスタイルになるドーラ。
「やっぱりワタシにはこの一張羅が一番似合うわね…。ありがとうリューセイ…いや、"勇者"。お陰で目が冷めたわ」
そう言ってこちらに向き直るドーラ。
「やっぱり、ワタシ達は決着を付けるべきなのよ」
「なんで…!!俺はドーラと戦うつもりは…!!」
「戦わなければダメなのよ!代々、勇者に倒されてきた魔王達の無念を晴らすためには…ワタシがこの手で貴方を殺さないと…!!これだけはケジメとして決着をつけるのよ。…ワタシは彼らの仇を…お父様の仇を取らないといけないんだ…!!それに、アンタにもワタシを殺すちゃんとした理由があるんでしょ!?」
「……………っ!!」
「お互い倒す理由があるなら…手を取り合ってる場合じゃないわ…!!本気で掛かって来なさい勇者。手加減は無しよ。この戦いはワタシが死ぬか、貴方が死ぬかのどちらかしかない。いい?次会った時は容赦しないから。ワタシは全力で貴方を殺しにかかるから…貴方も全力でワタシを殺してみなさいっ!!ワタシ達の間に慈悲も同情も必要ないんだからっ…!!」
「待ってくれドーラ…!話を…!!争わないで良い方法がっ…!!」
しかし、俺の足元に異次元を繋ぐ穴が開いた。その穴に落ちる。
「ドーラッッッ!!!」
見下ろすドーラがどんどん小さくなっていく…
ドスン!!
「ギャブッ!!!」
気が付いたら、元居た世界。
寝ていたダルさんの上に落ちた様で、ダルさんから潰れたカエルの…
「いってぇーな!!テメェ!!なんだよ急に!?」
ダルさんが怒っているが、その声は届かない。
「クソッ…なんでだよドーラ…!!」
俺は歯を食い縛った。
…余計な事を言ったばっかりに…
どちらかが犠牲に…
それは絶対に避けられないのかよ…?
〜〜〜〜〜
ドーラが自室から出るとババロアが立っていた。
「姫様…?何やら騒がしかったですが…勇者殿は?」
「元の世界に帰ったわ。交渉は決裂。勇者と魔王は…忌むべき関係なのは覆らないみたいね」
「そう…ですか…」
「ワタシもバルチェノーツに戻るわ。次は【ソウルベルガ】と【デルフィンガル】を侵攻する。準備をしてババロア!」
「は、はいっ!」
ドーラは廊下を少し進んで立ち止まり、窓際に向かう。
窓の外に広がる紫色の空を眺めながらドーラは頭の中に言葉のを紡ぐ。
(ゴメンなさいお父様…ワタシはやるべき事を見失ってました…。勇者との決着…必ず付けてみせます。因縁を…断ってみせます…!)
そうドーラは心に固く誓うのだった。
続く…




