第七十三幕【見学!魔王城】
【バルチェノーツ・城】
「ババロア様!」
一人のメイドが駆け寄って来ました。
「どうした?」
「姫様が…もう3日もお部屋から出て来ず…お食事も食べてない様で心配で心配で…」
「なに!?」
それを聞いたワテクシは、直ぐに姫の部屋へと向かいました。
コンコンとノックをし…
「姫様!いつまで塞ぎ込んでるんですかっ!!子供みたいに拗ねてないで国の主として然るべき行いを…」
と言っている最中に、バン!!といきなり開いたドアにワテクシは叩き付けられた。
「そうよっ!!こうするべきだった!!!………何してるのババロア?そんな所で」
目をキラキラと輝かせて出て来た比較的元気そうな、ワテクシを見てキョトンとする姫様。
「お元気そうで何よりです。ひ…魔王様」
「丁度良かった!ババロア!私思いついちゃったのよ!」
「またロクデモない…」
「いい?魔王が勇者を倒そうとしている…ってのが最早お決まり、テンプレートだったと言えるわよね!」
「…ハァ?」
「結局ワタシは…今までの魔王とおんなじ事をしてたに過ぎないって訳。だから…うまくいかなかった…。その逆を行くなら、勇者をもてなして腹割って話せば争わずに勇者を仲間にする事が…」
「ハァァァァァ!!?なーにを言っとるのですかっ!!!あんなに勝つ事にこだわってましたのに!?」
「何言ってるのババロア、何も倒す事だけが勝ちとは言わないわ。言いくるめて仲間に引き込む事が出来たとしても、それは充分に勝ちと言えるのよ!」
「また突拍子もない事を…」
姫様は明後日の方向を指差し決めポーズをします。
バーーーン
「勇者に【無血条約】を提案するわ!!未だかつて、そんな魔王が居た!?」
ボソッ「そんなアホな事言う魔王、居なかったでしょうな…」
「何か言った?」
「いえ、なにも」
「そうと決まれば、早速決行よ!!勇者の居場所を洗い出して!!ワタシが直々に出向いてやるわっ!!」
ワテクシはヤレヤレと首を振ります。
こう言い始めたらもう何を言っても無駄ですから…ほんとにこのワガママ姫は…
〜〜〜〜〜
ノーツ村での宝箱配置やイベント用意が終わって宝箱配置人一行は、次の目的地【王都・ヤオヤラグーン】に向かっていたが、その途中で日が沈み、近くに町や村が無かったので宝箱配置人一行は野宿する事になった。
焚き火を囲ってみんなが眠っている中、リューセイは少し離れた所の木に背を預け同じく眠っていた。
ガスッ!!
「ウ"ッ"」
横腹に衝撃をくらって、リューセイはドシャッ!っと地面に倒れた。
眠気眼をこすりながら体を起こして見上げると…
そこにはセンチュレイドーラが片足を上げて立っていた。どうやら蹴られたようだ。
「ゲッ!!!センチュレイ…」
言い終わる前にリューセイはドーラに手で口を塞がれてしまう。
「むぐぐ…」
ドーラはシーッと静かに!とジェスチャーすると、そのまま人差し指を地面に向かって振ると、マンホール大の真っ黒な穴が出現した。
ドーラはリューセイのネクタイをグイッと引っ張りながらその穴に飛び込んだ。
「ちょちょちょっ!!?」
リューセイもそのまま穴に引き込まれてしまった。
ーーーーー
「グエッ!!!」
ドスッ!!と地面に落ち突っ伏すと、その背中にドーラがスタッと降り立ち、潰れたカエルのような声が漏れる。
「あら、悪いわね」
ドーラはそう言ってゆっくりと背中から降りた。
リューセイは直ぐに起き上がる。
「おい!!これは…なんのつもりだよ!?ここは一体…!!」
紫色の空に黒い雲。
稲光が遠くで轟いている禍々しい世界。
「ようこそ魔界へ。歓迎するわ勇者」
簡易ポータルを使って連れて来られたのは魔族達の世界、魔界だった。
「ま、待てよ!!急に連れてきて、何のつもりだ!?」
「…別に?ただ案内してあげようかと思ってね」
「ハッ!?案内…!?っていうか俺は勇者じゃ…」
言いかけるもドーラにネクタイを捕まれグイッと引き寄せられる。
「いい?勇者。魔王様が直々に魔界を案内してやるって言ってんの!黙って従ってれば良いの。分かった?」
「分かった分かったから離せって!顔近いから!!」
パッとネクタイを離され、俺はドタッと尻餅をついた。
(要領が掴めんぞ…何がしたいんだこの魔王は…)
不審に思いながらもリューセイは起き上がりお尻の土埃を払う。
「さぁ、ついてきて!」
ザッと先を進み出すドーラの後ろを頭を掻きながら渋々リューセイはついて行った。
ーーーーー
少し歩くと、目の前に大きな塀に囲まれた街が見えてきた。奥には立派だが禍々しい雰囲気の城も見える。
「ここがワタシの治める国【クロトラジア】。小さな国だけど…良い所よ」
門の前に来ると、見張り台の兵士の魔族が焦りだす。
「うおっ、ひ、姫様のお帰りだぁ!!門を開けろぉ!!」
ガラガラガラと音を立てて大きな門が開かれる。
「お帰りなさいませ!姫…魔王様!!」
その門を潜ると城下町に入った。
色々な種族の魔族達が各々、生活を送っている。
「前魔王のセンチュリオンが勇者に倒されて…この国は王を失った。他の国に統合されそうになったのを姫であったワタシが一人で国を切り盛りするって決意したの。この国をワタシの代で潰すわけにはいかないと思ってね」
ドーラに並走しながら歩きつつ話を聞くリューセイ。
「へぇ…?大変だな…」
「大変だったわよ…。最初こそ、姫に国を守れるのか!とか、統合された方が安心だとか、色々言われ…ちょっと待って」
ドーラは花屋の前で歩みを止めた。
店頭に飾ってあった一輪の花を取る。
「アンタに質問なんだけど…これってなんて花?」
「え?……………確かラベンダーだったかな」
「ラベンダー…か…。そうか…」
「それがどうかしたのか?」
「…ワタシは人間界で咲いてたこの花が気に入っててね…この花屋に預けていっぱい増やして貰ってたんだ。この匂いが好きで…お風呂に浮かべて入ったりしてたけど…名前までは知らなくて…」
「へぇ〜…通りでドーラってラベンダーの良い薫りがするなぁ〜って前から思ってたんだ」
「………嗅いでたんだ?」
「え?いや、違、不可抗力だから!!漂ってきてたから、あぁそうなのかって…」
「ふーん…?」
ドーラはニヤニヤといたずらっぽく笑ってみせた。絶対からかってワザと言ってるだろ…
そんな中、小さな魔族の女の子が男の子二人を引き連れて駆け寄ってきた。
「姫様っ!!姫様の言う通りにしたら私、家来を従える女王様になったんだよ!」
そう言って女の子は腕の腕章を見せる。
「お、やるじゃない!ね?ワタシの言う通りにしたら間違いは無いんだから!」
ドーラはニコッと微笑む。
「うん!ほら、行くぞ家来!」
「イエッサー!」
男の子はビシッと敬礼して女の子に付いていく。
「ほんと、子供って可愛いわよね。あの子達の為に…ワタシも頑張らないとって思えるのよね」
今度は近くのお店の二階の窓から別の魔族が身を乗り出し話しかけてくる。
「姫様っ!お戻りだったんですね!姫様の気に入りそうな雑貨、いっぱい仕入れてますからね!また来て下さいよ!」
「ありがとう!また今度お邪魔するな!」
ドーラはそう言って手を振った。
それを見ていると、リューセイはさっきまでの不安は消え、少し暖かい気持ちになった。
「…今は、本当に慕われてるんだな」
リューセイはフッと微笑んで呟く。
「…そ、そうね!ま、ワタシの手にかかればみんなの心を掴む事なんて造作もないからね!」
「魔王ってのはこう…恐怖で支配してるもんだと思ってた。優しいんだなドーラって」
そう言われ、ドーラは目を少し丸くして一瞬頬を赤らめたが、直ぐに首を振った。
「あのねぇ!そうやって上から目線で褒めたりしてくんな!勇者の分際で!!」
「はいはい」
ムスッとしたドーラは踵を返して先に進み始める。
その後も何度か声をかけられながらも、暫くして目の前に魔王城が見えてきた。
「ほら、ココが今や魔王城となったワタシのお城。立派でしょ?」
そう言ってドーラは城の中に入っていく。
敵の本陣に入っていく訳だが…本当に大丈夫なのだろうか?
もしかしたら罠かもしれないと、リューセイは気を引き締めて城に入っていく…
続く…
 




