第七十二幕【永久に不滅】
ボトッと斬り落とされたトコシエの右腕。
「フフフ…」
しかし、トコシエは不敵に笑う。
落ちた腕を拾うと、それを切り口に当てがうと、みるみるうちに腕は接合していった。
「なる程…切り落とした程度じゃ復活する訳か。不死薬ってのは凄いんだな」
ダルクスはパチパチと、まるで見世物でも見ている様に拍手する。
「お前のその力…アンデッド軍に引き入れる事が出来たらとんでもない戦力になりそうだ…!!」
「だから仲間になるつもりはねぇって…」
ダルクスが言い終わる前に、トコシエから黒く邪悪なオーラが湧き立つ。
ビシィ!!メキメキッ!!
それに呼応して、ダンスホールの天井、壁、床、窓ガラスにヒビが入っていく。
まるでトコシエに吸い寄せられているかの様に、部屋全体が音を立てて内側にへしゃげてくる。
「おいおい、部屋ごと生き埋めにする気か?」
ヤレヤレと首を振るダルクス。
「その余裕、いつまで持つかな…!?」
トコシエの放つ黒いオーラは大きな悪魔の爪の様に形を変え、ダルクスに振り下ろされた!
シュッ!
バキャア!!
ダルクスは後ろに軽やかに後ずさり避けた。
元いた場所の床は大きく抉れ…ガラガラと崩壊してポッカリと地下空間へと繋がる穴が開いてしまった。
しかし、トコシエは攻撃の手をやめない。具現化した黒く大きな爪と自分の長く伸びた赤い爪を使ってダルクスに猛撃を浴びせる。
「お前を瀕死に追い込んでから…ゆっくりと死霊薬でアンデッド軍の仲間にしてやるからな…!!」
ダルクスは剣で猛撃を耐えながら、左腕を天井に伸ばし、クイッと人差し指を下げる仕草を取る。
すると、天井に飾ってあった巨大なシャンデリアが落ちてきた。
ダルクスはトコシエの腹を蹴った。
「ウッ…!!」
思わず後ろによろめいたトコシエにガシャーーーン!!とシャンデリアが落ちる。
バキバキバキ!!
巨大なシャンデリアの重みで床の穴は更に広がっていく。
しかし、寸での所で大きく後ろにバク転してシャンデリアの下敷きになるのを回避するトコシエ。
「…チッ!!」
しかし、それがダルクスの狙いだった。
ダルクスがクイクイと人差し指を振ると、ボロボロになったシャンデリアのガラス細工が宙に浮いて、そのまま尖ったナイフとなってトコシエに大量に向かっていった。
「…!!」
グサグサグサッ!!
切り傷まみれになったトコシエは思わずよろめいた。
「…む、無駄だ!こんな傷…すぐに…!!」
しかし、次にシャンデリアから外された鉄の棒が槍となって何本もトコシエに向かい飛んでいった。
ガラスの雨に気を取られていた為気付かなかった。
鉄の棒はトコシエの手足を狙って貫いた。
「グワッ!!」
そのまま、床に張り付けになる形にトコシエは倒れてしまった。
手足を貫き床に刺さった鉄の棒で固定され、身動きが取れない。
「クッ…!!」
黒いオーラを無数の手に具現化して急いで鉄の棒を外そうとするも、ダルクスがかざした手から放たれた力で黒のオーラは打ち消された。
「なっ…!!私の力を消し飛ばした!?」
驚愕するトコシエにゆっくりと近付いていくダルクス。
「お前…お前は…一体なんなんだ…!!どうしてそんな力をっ…!!」
ガラガラガラ!!
その内にも、地下と繋がった床が音を立ててその穴を広げていく。
とうとうトコシエが張り付いていた床も崩れ始めた。
「うわっ…!!」
咄嗟に穴の縁を片腕で掴む。
地下に続く穴に宙ぶらりんの状態になるトコシエ。
「く…クソッ…!!」
そこに、ダルクスがやってきた。
ぶら下がっているトコシエを一瞥した後、穴の下を覗き込む。
地下には何故か大きなプロペラが高速で回っていた。
「成る程な…。不死薬、切断された腕も簡単に繋げちまう治癒力を持ってるなら…不要になったり使えなくなったりしたゾンビはどう処分するか…大胆だねぇ。その力を解除する薬を作るより手っ取り早いって?」
「ダルクス…お前が何者であろうと…必ずエクスベンゾラムは地の果てまでお前達を追い詰めるぞ…。それに…クルブシがいる限り…エクスベンゾラムは絶対にやられない。アイツは必ず…」
トコシエが言い終わる前に、ダルクスは掴まっている腕を蹴って引き剥がした。
「……………っ!!!」
トコシエの体は支えを無くし重力に準じて落ちていき…そのまま下の高速回転するプロペラへと……………
〜〜〜〜〜
「ダルさーーーん!!大丈夫ですか!!!ダルさん!!!」
暫くして、ダンスホール入口からリューセイが入ってきた。
「うわっ…ちょ…何があったんですか!?」
壁も床もぐしゃぐしゃのダンスホールの真ん中でタバコを燻らせるダルクスの元へ足元に気を付けながら向かう。
「ダルさん!一体何が…」
「あ?いや、黒幕の魔物が居たからな、軽く捻り潰してやったんだが…ほら、いつもの如くやり過ぎちまって」
「犯人は魔物だったんですか!!そのお陰か、廊下のゾンビ達が急に我に返って元の人間に戻ったんですよ!」
「死霊薬を浴びて操られてた奴らも、黒幕が倒されて洗脳が解けたって訳だ。これにて大団円だな」
ハッハッハッと笑いながらダルクスはダンスホールを後にしていった。
その後を追いかけようと一歩踏み出した所で、何かを蹴った事に気付いて地面を見ると、床にキラッと光るものが落ちていた。リューセイはそれを拾い上げる。
それは、トコシエの首にかかっていたエクスベンゾラムのマークが施されたアミュレットだった。
「このマーク…エクスベンゾラムのだよな…?なんでこんな所に…」
血に濡れたアミュレットを不審に思いながらも、リューセイはそれを投げ捨てて館を後にするのだった。
〜〜〜〜〜
翌日、早朝。
「本当にありがとうございました」
メーダ村の村長がダルクスとリューセイの前で深々とお辞儀をした。
「俺は逃げ惑ってるだけで何も…今回は珍しくダルさん大活躍でしたね!!」
「チッ…一言多いな…」
「いやいや、お陰で一人も村人に犠牲が出ず…本当にありがとうございました。宝箱配置…村人全員に協力するように行っておりますので…」
「リューセイ、行くぞ。だいぶ時間取られちまったからな…」
ダルクスは感謝されるのがいたたまれないのか、頭を掻きながらそそくさとその場から離れていった。
ーーーーー
別の所ではイズミルが村人達に聞き込みをしていた。
「ふむふむ…で、領主の館はだいぶ前から無人になってて…それから暫くしてから怪しい人物が出入りし始めたと…」
手帳に書き込むイズミルの元に、リーサがやってくる。
「あ!イズミルちゃん!こんな所に!」
「リーサ様!大丈夫だったんですか?昨日は色々大変で…うわっぷ」
リーサはハンカチでイズミルの顔を拭う。
「もう!こんな汚して!女の子なら先に身だしなみを綺麗にしないとですよ!」
「すみません!ほとんどリーサ様のせいですが!!」
「後でお風呂貸して貰いましょうか…」
ーーーーー
一方、ユーリルはKHKの二人の元に居た。
村の真ん中でボロボロになった取り立てくんをトンテンカンと見様見真似で修理するセリザワとトーヤマ。
「お二人とも、昨夜は本当に助かりました。褒めて遣わすぞ」
ユーリルはエセ女神口調で後光を光らせる。
「そうは言いますけど…失ったものはかなり大きいです…グス…この修理費は全部徴収課持ちになるんです…」
涙をちょちょぎらせながらトンカチを振るセリザワ。
「えぇい!動けぇ!!こういうのはお尻叩けば調子良く…」
トーヤマがそう言ってガン!とリヤバンパーを蹴ると、取り立てくんはバカッとボンネットが開き白い煙を吐いて、タイヤが全部外れグシャッと地面に車体を落としてしまった。
「ワオ…まるでコントのような壊れ方ですね…」
ユーリルが目を丸くしていると、トーヤマがしがみついてきた。
「女神様ぁ〜!!お願いします、貴方様の力でぇ〜!!」
「ちょ、トーヤマ先輩!見苦しいですって!!」
ユーリルは顎に手を当てて少し考えた後…
「仕方ないですね…今回は貴方達にはお世話になりましたからね。上には我から話を付けておくぞよ…」
「うっわ!やっりぃ!!頼み込んでみるもんだねぇ後輩ちゃ…」
はしゃぐトーヤマの脳天にトスッとチョップをかますセリザワ。
「失礼ですよ!女神様の前で!!」
「よいよい。新しい取り立てくんを頼んでおくぞよ。届くまで少しこの村で待っておれ」
そう言ってユーリルは上の世界へ戻っていった。
「ふぅ…これで一安心………じゃない!!」
ハッとセリザワは何かを思い出し、駆け出していく。
「え?え?ちょ、後輩ちゃん?どーしたのさ!」
トーヤマもその後を追いかけた。
セリザワが向かったのは勿論…
「コラァ!!リューセイさん!!!滞納金を支払いなさーい!!!」
「ゲッ!!覚えてたのかよ!!」
リューセイは咄嗟に逃げ出した。
「あっ!!コラッ!!逃げるな!!」
セリザワは手持ち網を構えて追いかける。
「後輩ちゃ〜ん!今日はもうのんびりしてようよ〜!」
顔を顰めながらその後を必死に追いかけるトーヤマ。
こうしてメーダ村での一連の事件は幕を閉じたのだった…
続く…
 




