第七十幕【まるでリーサ・オブ・ザ・デッド】
薄暗い階段を地下へと降りていく俺 (ダルクス)。
階段途中には今まさに館に侵入しようとゾンビ達が登って来ているが、俺は自分の力を使ってゾンビ達を押し退けながら進んでいった。
下まで降りると、牢屋が何部屋も並んだ不穏な場所に辿り着いた。格子状に伸びた廊下に面して、牢屋はみっしりと並んでいる。
「なんなんだココは?」
扉の開かれた牢屋が何部屋かあるが誰も入って居ない。
…ゾンビ達はここから出て来た?
梯子や階段も廊下の至る所に設置されている。あれらが館一階に繋がってるのか。
まだ地下を彷徨っているゾンビ達を対処しながら進んでいった先に…両開きの木の扉が一つ、目の前に現れた。
「まさに…黒幕が隠れてそうな怪しさじゃねぇか…」
俺はそのドアノブを握った。
〜〜〜〜〜
【館2F・遊戯室】
「…フゥ…フゥ…」
乱れた息を口元を抑えて無理矢理抑えながらビリヤード台の影に隠れるイズミルとユーリル。
広い遊戯室にはピンボール台やダーツ台、カジノテーブルが並べられており、二人はリーサの隙を見て隠れて居た。
リーサはフラフラと遊戯室を捜索している。
「ハァ…ハァ…隙を見て…この部屋を出て…館から脱出しましょう…」
イズミルがユーリルに言った。
「そうですね…」
「ユーリル様…、ユーリル様っていつでも姿を消せるんですよね?」
「いや、姿を消せるっていうか、いつでも"上"に戻れるってだけですけどね」
「なんで今は上に戻られないんですか?」
「イズミル様一人残して帰れないですよっ!」
「あ、ありがとうございます…!」
しかしそんな時、
バン!と二人の隠れているビリヤード台の上にリーサが立ち、ナイフの刃先をこちらに向けていた。
「ば、バレた!?」
直後、ユーリルに飛び掛かるリーサ。
ユーリルは寸でのところで飛び上がり攻撃を回避する。
「イズミル様っ!逃げてっ!!」
「で、でも、ユーリル様っ!!」
「大丈夫です!!私は女神ですよっ!!ここは任せて、早く!!」
そうユーリルに言われ、少したじろぐも、イズミルは言われた通り急いで遊戯室の出口に走る。
「リーサ様っ!!少しだけ大人しくしといて下さいっ!!」
再び飛び掛かるリーサ。
しかし、ユーリルは目を閉じてその場を動かない。
「発光っ!!!」
そう叫んで目をカッと見開いたユーリルの身体から鮮烈な光が放出された!!
リーサは咄嗟に腕で顔を覆い目を瞑るも少し遅かった。
一瞬でも直視してしまったその光は、瞼を閉じてもリーサの目をチカチカと眩ませた。
ユーリルはその一瞬の隙にイズミルの後を追った。
一瞬眩んだものの直ぐに立て直したリーサは再び二人を追い掛けた。
ーーーーー
「イズミル様!!」
ユーリルは遊戯室の外のイズミルと合流しそのまま廊下を走る。
直後、直ぐにドアが蹴り破られリーサが後を追ってくる。
「もう!!なんなんですか、ゾンビの癖にリーサ様のそのポテンシャルはっ!!」
ユーリルは振り返りリーサを見ながら言った。
「限界メンヘラ突破した時の力が発揮されてるんです!おかしな事じゃないですよっ!!」
必死に逃げながらイズミルが言う。
そんな二人の前に開けた空間が見えてきた。
「こ、ここは…!!」
1Fエントランスホールが見える2Fの吹き抜けに二人は出て来た。
「も、戻ってきちゃった!?」
ユーリルは言って空中で急ブレーキをかける。
イズミルは走る勢いのまま手すりに捕まった。
そこから見える1Fのエントランスホール。荷車にディアゴが立て掛けてあるがゾンビ達もひしめいている。
「くぅ〜…!!ディアゴさえ手に入ればっ!!」
「い、イズミル様っ危ないっ!!」
ユーリルの叫びも届かず、一瞬の隙に間合いを詰めたリーサはイズミルに飛び掛かる!
イズミルとリーサはそのまま、手すりを突き破り1Fエントランスホールへと落ちていった。
「イズミル様っっっ!!!」
ユーリルは手で顔を覆って青ざめる。
ゴロゴロゴロ…バン!
リーサに抱きつかれた状態で1Fに落ちてそのまま床を転がり壁に激突する二人。
「いてて…」
イズミルが体を起こす。
イズミルに他のゾンビ達が気付き近付いてくる。更にはリーサも目の前で起き上がる。
「う、うひゃあぁぁぁ!!!ば、万事休すっ!!!」
もうダメか、とイズミルが諦めかけた…その時…!!
外に面した大きな窓から光がチカッと差したかと思うと…直後!!
ドガシャバリィーーーン!!!!!
壁と大きな窓のガラスをぶち破り飛び込んできたのはピンクの軽自動車【取り立てくん】!!!
イズミルの目の前のゾンビ達を弾き飛ばしてエントランスホールでキキィ!!と円を描くようにドリフトをかまし、他のゾンビ達も一掃し出入り口近くで急停止する。
「す、凄いっ!!」
イズミルが感激していると、取り立てくんの中からリューセイが顔だけを出して叫んだ。
「イズミル!!ディアゴを持って早く乗れ!!」
イズミルは頷き、荷車に向かっていきそこにあったディアゴを背負うと取り立てくんに走る…!!が、その間にリーサが立ち塞がった。
「リーサ様っ!ディアゴを貴女に使わせないで下さいっ!!」
イズミルが言うも、そんな言葉は届かないとナイフをチラつかせ除々に近付いてくるリーサ。
イズミルが背負ったディアゴに手を掛けたその時…!!
ガシャーーーン!!!
エントランスホールに飾られていた大きなシャンデリアが落ちてリーサを押し潰した。
イズミルがギョッと上を向くと…
「あ、後でリーサ様には謝りますからぁ〜」
ユーリルがシャンデリアを吊っていた鎖を握って宙に浮いていた。
「ユーリル様っ…ナイスです!!けど、これは少しやり過ぎかと!」
イズミルが苦笑いしているとリューセイの声がする。
「おい、イズミル!!いいから早く乗れっ!!」
ハッとしイズミルは急いで取り立てくんに乗り込んだ。
二人乗り用の軽自動車には運転席にトーヤマ、助手席にセリザワ、その間に無理矢理リューセイが乗り、その上にイズミル+ディアゴが乗り込んだ事ですし詰め状態になった。
「ウググ…!!き、キツイ〜!!」
セリザワが顔を顰めて言う。
「は、早く出して!先輩さん!!」
「あ、あいよっ!」
リューセイが言うとトーヤマはレバーを引きエントランスホールから外へと飛び出した。
「うはぁ〜…酷い目に合ったねぇ〜」
館から少し離れた場所に取り立てくんを止め、トーヤマが言った。
「酷いも何も、最低ですよっ!!取り立てくんがボロボロじゃないですかぁ〜!!」
セリザワの言う通り、取り立てくんはトーヤマのドライビングテクニックによって危機は脱したものの、そのお陰でフロント部分はバキバキに凹み、ガラス全体にはヒビが走っていた。
「こりゃあ…経理部に菓子折り持ってかないとねぇ〜たはは」
トーヤマは笑いながら頭を掻いた。
「笑い事じゃないですよぉ…全く…」
セリザワはそう言って肩を落とした。
「ありがとうございます。お陰で助かりましたよ」
リューセイはKHKの二人に礼を言った。
「それにしても、この館は一体何だったんでしょう?」
イズミルは思案を巡らせながら呟いた。
「さぁ…?後の事はダルさんに任せよう…」
「もうゾンビになっちゃってたりして」
「嫌な事言うなよ…とは言っても、助けに行かないとだよな?」
「ディアゴも居るし、もう怖いものなんて無い…です…よぉ…くぅ…」
イズミルはストンと首を落として眠ってしまった。
「おいっ!!ノールックで寝るな!!いつもながら!!」
ヤレヤレと首を振ってリューセイは後ろを振り返る。
バリバリになったリアガラスから見える館を眺めた。
(ダルさん大丈夫かな…。イズミルはだいぶ疲れてるようだし…ここは少し休んで俺が行かなきゃだよな…)
ーーーーー
「リーサ様ぁ!大丈夫ですかぁ?」
シャンデリアをグググと持ち上げてリーサの救出をはかるユーリル。
床にめり込んで悲惨な状態のリーサが居た。
「はぅわ………わ、私は一体…?」
「り、リーサ様!!良かったぁ…正気に戻ったんですね!!…取り敢えず自分に回復魔法を!!信じられない程血塗れですからっ!!」
「は、はわぁ!?なんで私こんな事に…!?」
いつも通りのリーサにホッと胸を撫で下ろすユーリルだった。
続く…




