第六十八幕【謎にまみれた…】
「誰か…居ます…!!多分、犯人が…!!」
そう言って、私 (イズミル)は廊下の奥に駆け出していきます。
「え!?ちょ、待って下さい!!」
ユーリル様もそう言ってその後を追いかけてきました。
曲がり角を曲がると、犯人とおぼしき男の後ろ姿があって…
「そこの人!ちょっと止まって下さい!」
よろよろと歩くその男性は、私の声を聞いてピタッと止まりました。
「貴方はここの村の人ですか?一体今まで何処に隠れて…」
「イズミルちゃん…なんかあの方…様子がおかしくないですか?」
ユーリル様が不審そうな顔で言います。
ゆっくりとこちらを振り向いた男性の顔には生気がなく…顔は青白く虚ろな目。半開きの口元からはヨダレがツーッと垂れています。
その男性は何も言わず私達を確認すると、ヒタッヒタッ…と両手を前に伸ばして徐々に近付いてきたのです!
「と、止まって下さい!忠告を聞かないと…」
しかし、男性はお構いなしに近付いてきて…ある程度近付いてきた所で…
「ヴァッ!!!」
と奇声を上げ、こちらに全力疾走してきたのです!!
「ひぃやぁあぁぁぁあ!!?」
ユーリル様が驚きの声を上げます。
私は咄嗟に呪文で阻止しようとディアゴに手を掛け…ようとするも何もない所をスカスカッと搔いてしまいました。
ディアゴが無い!?
そこでユーリル様が私の手を取って来た道を急いで戻り始めます。
「ユーリル様、ディアゴはどこに!?」
「え!?あ、えーっと…ディアゴは1Fのエントランスホールに止めてある荷車に…!!」
そうと分かればまずはエントランスホールに向かわなければ…!
何度も言いますが、私はディアゴが居なければただの9歳の子供なんです!
ここは取り敢えず逃げるが吉!
男性に追いかけられながら来た道をエントランスホールに向けて戻る途中で倒れたリーサ様をジャンプで飛び越えました!
「リーサ様、ゴメンなさい!」
すると、追いかけてきていた男性はそのリーサ様の頭にゴスッ!と、つま先を思い切りぶつけ、そのままドターン!!と派手に転んだのです。
「リーサ様、ナイス!!」
ユーリル様が感心の声を上げます。
うーん、リーサ様不憫…!
しかし立ち止まる訳にもいかず、私達は今の隙にエントランスホールに向けて走ります。
開けたホールに出て、そこから1Fに降りる階段に差し掛かると…
「ゲッ!!イズミルちゃん、見て!!」
そうユーリル様に促され、ユーリル様が指差す1Fのエントランスホールを見ると…
先程の男性の様に項垂れながら彷徨う男女数十人がエントランスホールに集まっていて…
「ど、何処から湧いて出てきたんですか!?あれじゃあディアゴに近づけない…!」
「さながらゾンビ映画ですね…」
「ユーリル様…どうしましょう…!!」
「一旦戻ってダルクス様に助けを…!」
ユーリル様の提案に頷き、ダルクス様の部屋に行こうと振り向いたその時…!!
廊下の前に立ち塞がる…青白い顔に虚ろな目をした…リーサ様…!?
「ウ"ゥ"〜…」
呻きながらフラフラと身体を揺らして近付いてくるリーサ様は何処からかナイフを取り出しました!!
「限界メンヘラ突破してる!?」
ユーリル様がそう言うのに対して、私は首を振りました。
「いえ…それとは違うようです…!多分、噛まれた事が原因の…!!」
言い終わるや否や、リーサ様は物凄いスピードで私達に向かってナイフ攻撃を仕掛けてきたのです!
「ひゃわああぁああぁ!!!」
ユーリル様は咄嗟に浮上します。
私も横に飛び退き尻餅をつきつつもリーサ様のナイフ攻撃を避けます。
「ちょちょちょ!!リーサ様!!今の私はただの子供で…!!」
「イズミルちゃん!!今のリーサ様に言葉は通じなさそうですよ!!ここは退きましょう!!」
そう言ってユーリル様が飛んでいく廊下を私も付いていくのでした…
〜〜〜〜〜
ドスンドタンバタン
「…やっかましいなぁ…」
廊下の外から響く音にベッドの上の俺 (ダルクス)は薄目を開ける。
(ったく…ただでさえ外の嵐の音がうるせぇんだから、ちったぁ大人しくしろって…)
頭の中でそう考えていた時、ふと違和感を覚える。
俺の身体にのしかかる謎の圧迫感に…
「……………ん?」
明かりを消して真っ暗な部屋。
除々に目を慣らしていくと…
仰向けの俺にかかる掛け布団がこんもりと膨らんでいる事に気付いた。
ギョッ!っと目を見開き、恐る恐る布団を捲ると…
「ギャパオッッッ!!!」
青白いく虚ろな目をした女の顔が浮かんだんだ。そりゃあそんな声も上げるわ!!
その女を蹴飛ばしてベッドからずり落ちた俺は腰を抜かしながら部屋の隅に逃げる!!
「いぃぃぃ!!!だ、だ、誰だっ!!!」
ピシャーンゴロゴロ…!!
外の稲光で照らされた部屋には、先程蹴飛ばした女がベッドの端にグニャっと倒れているのが映る。まるで、骨を抜かれたような不気味な態勢で…
「ど、ど、ど、どっから入って来たんだ!?鍵は締めてたはず…!!」
女はグアーッと、まるで糸で引っ張られたかのように不気味に立ち上がると、俺に近付いてきた。
「く、来るなっ!!!」
右手をかざし、力を込める。
その瞬間、女が全速力で飛び掛かって来たので、俺は容赦無く力を放出した!!
バリーーーン!!!
見えない力で吹き飛ばされて女は窓を突き破って、館の外に落ちていった。
「チッ…!なんだってんだよ!?」
俺は立ち上がって取り敢えず部屋を出ようとする。
ガチャ
鍵を開けて廊下に出ると…
「う"ぁ"〜」
何人もの血色の悪い奴らが廊下に蔓延っていた。
直ぐ様扉を閉めて鍵をかける。
「クソッ!!」
急にお化け屋敷になっちまった!?
さっき館を探索した時には何処にも誰も居なかったのに!?
「一体何処から沸いて…」
そこで気が付いた。
俺は今、鍵を開けて廊下に出たよな?
って事は…さっきの女は廊下から入って来た訳じゃない?
俺は部屋を見回してみた。すると…
部屋の隅の本棚が、少し動かされた形跡があった。
「あそこか…!!」
俺は本棚に駆け寄る。
なんと、本棚の後ろには下の部屋に通じるハシゴがあったのだ。
「ここから入って来たんだな…それにしても、なんなんだこの家は…他の皆は無事か…?」
俺はそう呟きながら、下の階へと続くハシゴに足をかけた。
〜〜〜〜〜
他の皆が大変な目にあっているのも露知らず、リューセイとセリザワは落ちた牢屋で立ち往生していた。
「良いですよ!そのまま立ち上がって下さい!」
屈むリューセイの肩にパンプスを脱いで足を乗せるとセリザワはそう言った。
「なぁ、俺が下で本当に良いのか?」
「私じゃ力が弱くて持ち上げられないじゃないですか!」
「ほんとに?ほんとにこのまま立つぞ?」
「クドいですねぇ。何をそんなに気にしてるんですか?」
「いや…良いなら良いけど…」
そう言ってリューセイはセリザワの足首を掴んで支えながらゆっくりと立ち上がる。
それで高さを稼いで、落とし穴から脱出する算段だ。
「ぐっ………どうだ…?届きそう…か…?」
「うぅ~ん…もう少しなんですけど…!!ここで思いっきりジャンプすれば届きますかね…?」
「ば、馬鹿!!ヤメろ!!そんな所でジャンプされたら…!!」
「じゃあどうするんですか〜?」
ハァ…と溜息を付いて下に目線を送るセリザワ。下のリューセイと目が合った。
「ヒャッ!!」
セリザワは小さく悲鳴を上げて急に足を屈めた。
「わっ!!馬鹿!!」
セリザワが急に動いた為、体勢を崩したリューセイはそのままドターン!!と床に倒れ…
「グエッ!!」
再びセリザワの尻の下敷きになり、潰れたカエルの声を出すリューセイ。
「み、み、み、見てましたね!?ドサクサに紛れて!!」
セリザワはスカートを抑えながら言った。
「いや…だから下で良いのか確認したのに…」
「ヤケに気にしてたのはそのせいですか!?………って、見た事は否定しないんですねっ!!」
続く…




