第六十七幕【絶叫の館】
【領主の館】
【2F・客室】
私 (リーサ)達は2Fの客室が並ぶ廊下に来ました。
「んじゃ、俺はこの部屋にするわ」
ダルクスさんはそう言ってエントランスホールから伸びる階段を2Fに登ってすぐの一番端っこの部屋に入って行きました。
イズミルちゃんを抱っこした私は、その隣の部屋のベッドにイズミルちゃん寝かしました。あ、ちなみに、ディアゴさんは1Fのエントランスホールに停めた荷車の側に立て掛けておきました。重くて私達には運べなかったので。
起こさない様に静かに部屋を出ると、外ではユーリルさんが待っていました。
「さて…ユーリルさんはどうされますか?」
「私、その隣のお部屋でも良いですかっ!」
「…え?今日は"上"に戻られないんですか?」
「え〜!だってここの客室のベッド!物凄く豪勢でしたよね!無料で泊まれるなら泊まりたいです〜!」
「アハハ…じゃあユーリルさんはイズミルちゃんの隣の部屋で…私はまたその隣の部屋を使いますね」
そう言って私とユーリルさんは各々部屋に入っていきました。
部屋は赤いカーテンに金色の装飾の壁…大きな鏡。とても豪勢で一人で泊まるには少し落ち着かない…
(…あ…そう言えば…リューセイさんやKHKの人達は放っておいて大丈夫なんでしょうか…?誰かが2Fの客室に居るって事を教えてあげないと…)
私は部屋を出てリューセイさんを少し探してみる事にしたのですが…
〜〜〜〜〜
「ドッヒャァアアアァァーーーーー!!!!!」
館中に鳴り響いた叫び声に驚き、部屋から飛び出したダルクス、イズミル、ユーリルの3人。
「なんだなんだ!?」
ダルクスは目を細めて頭を掻きながら出てくる。
「い、今のリーサさんの声ですよね!?」
イズミルは赤ぶちのメガネを掛け直しながら言う。
「あ!み、見て下さいっ…!!」
ユーリルがそう言って指を指した先には…
「り、リーサ様!!」
イズミルが叫ぶ。
そこには、廊下に仰向けで倒れたリーサが居た。
3人がが急いで駆け寄る。
「…し、死んでる…!!!」
ユーリルは口元を抑えて驚愕した顔をする。
「………いつもの事じゃねぇかよ!」
ダルクスはヤレヤレと首を振って部屋に戻っていく。
しかし、イズミルは何かを考えた後…
「…いや、いつもとは違うみたいですよ…。ほら、棺桶になってないですし…首元の傷はなんでしょう…」
イズミルはそう言って、気絶して倒れているリーサの首を動かして髪の毛を払って傷をよく観察する。
「歯型…?噛み付かれてるみたいです…」
「え?え?だ、誰にですか!?」
ユーリルがワタワタと手を動かしている。
「………これは一体………」
イズミルがそう呟くと、ハッと何かに気付き顔を上げる。
廊下の奥、突き当たりにサッと人影が通り過ぎるのを見逃さなかった。
「誰か…居ます…!!多分、犯人が…!!」
そう言って、イズミルは廊下の奥に駆け出していく。
「え!?ちょ、待って下さい!!」
ユーリルもその後を追いかけた…
〜〜〜〜〜
「コラ〜!!いい加減にしなさ〜い!!」
そう言いながら追いかけてくるセリザワさんからの逃走劇を繰り広げていた俺 (リューセイ)。
「よくそんな格好で追いかけてこれるな!?」
セリザワさんは黒スーツにタイトスカートとパンプスといった、明らかに走り辛そうな格好でも付かず離れずでついてきていた。
「えぇ!正直、靴ズレと戦いながら貴方を追いかけてるんです!!私の踵が無くなる前に早く捕まってくれませんかねぇ!?」
そうは言われてもここで捕まって、身包み剥がされる訳にはいかないんだよ!!
無我夢中で逃げ回っていた途中、適当に入った部屋。そこがいけなかった。
書斎のような部屋は行き止まりで、入口を直ぐにセリザワさんに塞がれてしまった。
「クソッ!!」
「フッフッフッ…貴方の運もここで尽きたようですねぇ!!」
ジリジリ…と、網を構えてにじり寄ってくるセリザワさん。
「ま、待て!!何で俺がこの部屋に来たと思う!?」
「はい?………なんでですか?」
「フフフ…こういう書斎はなぁ!大概、本棚を動かしたら秘密の通路とかがあるもんなんだよ!」
「…へぇ?」
セリザワさんは苦し紛れの言い訳で時間を稼ごうとする俺をニヤニヤと一瞥した。
「た、例えば、ここの赤い本を押し込んだりしたら…」
…と、なんとなしに飛び出た赤い本を押し込むと…
ゴゴゴゴゴ
「えっ!!?」
本当に本棚が横にスライドしたかと思うと、本棚のあったその後ろには地下の空間へと続く縦穴…というよりは落とし穴が出現した。
「て…適当に言ってみるもんだな…」
俺は穴を覗き込みながら呟いた。
「ちょっ…!逃しませんよ!?」
焦ったセリザワがコチラに網を振りかぶり迫ってきた!!
「わ、馬鹿、来るなっ!!」
バサッ!
セリザワさんの網を被せられるも、その勢いに押され、俺は落とし穴に足を踏み外してしまう。
「どわっ!!!」
そのまま、その穴にずり落ちる。
勿論、網を被せられてる訳で…それに引っ張られるようにセリザワさんも…
「ちょちょちょっ!!」
どすん!!
「グエッ」
そこそこの高さから落ちた俺は、セリザワさんのお尻に潰され、潰れたカエルの様な声が漏らす。
「い、いったぁ〜!!もう!!なんて事をっ!!」
セリザワさんは腰を擦りながら立ち上がる…
「俺のせいなのか?これ…」
落ちた先は牢屋の中のような空間で、鉄の檻の外には通路も見え、向かいにも同じような牢屋が見える。
「なんだ…ここ…」
「ちょっと!!早く出して下さいよ!!」
セリザワさんは俺の胸ぐらを掴んでブンブンと振り回す。
「し、知るかって!!アンタが押すからっ…」
「こ、こんな所に男女が閉じ込められたらどんな間違いが起こるかっ…!!貴方みたいな青少年は特に…!!」
セリザワさんはハッと顔をした後…俺から距離を置く。
「なんにも、しねぇ…………よ………?」
「え"っ"!!なんでちょっと詰まったんですか!?えっ!?」
正直、さっきまで走り回ってたせいでドラゴンの呪いが"そこまで"来てるんだ…早くここから出ないと彼女は俺の"抱きつき病"の犠牲になってしまう!!
「とは言え…どうしたもんか…鉄格子は外れそうにないし…」
光伝力放射砲でもあれば簡単に破壊出来たが…ソレはエントランスホールの荷車に置いてきちゃったし…
「あ!そうだ!貴方、勇者なんですよね!」
「"元"な!だから空間脱出魔法も、転移魔法も使えないぞ」
「違いますよ!ほら、勇者って戦う時"謎の跳躍力"で飛び上がるじゃないですか!そのジャンプ力を使って穴から出れるんじゃ?」
「あぁ〜…」
「そしたら、私を上から引き上げて下さいよ!」
「いや…まぁ…確かに?戦ってる時はそうやって敵を飛び越したり背中に乗ったりしたけど…」
「…けど?」
「戦闘シーンじゃなきゃその身体能力を発揮出来ないから不思議だ」
「ハァ…」
セリザワさんはあからさまに溜息をつく。
「しょ、しょうがないでしょ!?俺がどうこうじゃなくて、多分そういう風になってるんですよこの世界は!!知らんけど!!」
「トーヤマ先輩ー!!助けてぇ!!」
俺を無視して、セリザワさんは大声を上げた。
すみませんねぇ!役に立たなくてっ!!
それにしても…なんなんだこの館は…?
あんなに走り回っても誰にも出会わず…こんな牢屋を構えて…異様過ぎるぞ…?
続く…




