第六十四幕【推奨レベル16・モクレーン神殿】
【バクベドーア大陸】
【フルブール地方・モクレーン神殿】
アカシータ貿易港の町長ガフマンから船と引き換えにモクレーン神殿から【黄金のハープ】を持ってくるように頼まれた勇者一行。
花の街・モクレーンでモクレーン神殿の場所を聞き込んだ後、その場所にやってきたのだった。
〜〜〜〜〜
「ここがモクレーン神殿ですね!」
僕 (クサカベ)はその神秘的な光景に圧倒されてしまった。
森の中に隠れる様に建てられた白い壁で造られたピラミッド型の神殿。木々の間から差す太陽の光で白く輝いている。
ツタや植物に覆われ朽ち果て崩れかけているが一昔前はとても荘厳な建物であった事が伺える。
目的の黄金のハープはこの中の何処かに納められているらしいけど…
「モクレーン神殿…。大昔この地方が飢饉に悩まされていた時、人々はこの神殿で女神に毎日祈りを捧げていた。すると、この場所に女神【ミカエル】が降り立ったとされており…女神は人間達を不憫に思い一輪の花を授けたらしい。それが万能花の【ナタリーテ】。その花はみるみると数を増やし、このフルブール地方はその花のおかげで再起したと伝えられている…【おいでませ~!フルブール地方の歴史『モクレーン神殿に行ってみよう!』】より引用」
ガウラ姐さんがガイド冊子を読み上げた。
「丁寧な解説ありがとうガウラベルさん」
アンカーベルトさんはそう言ってニコッと微笑む。
「…んで、黄金のハープはその女神が持っていたとされる神器だな」
そう言ってガウラ姐さんはガイド冊子を懐に収めた。
「良いんですかね?そんなもの取っちゃっても」
「良いんだよ!世界を救う為の一環だ!女神様も許してくれるよ!(黄金のハープのくだりはガイドブックに載ってない所を見ると間違いなく宝箱配置人の用意した設定だろうしな…)」
「…それもそうですね…では…中に入りましょうか…!!」
僕達は意を決して神殿の内部へと入る。
ーーーーー
「中は割りと明るいですね…」
崩れかけているおかげか、壁の穴やヒビの間から外の光が射し込み探検するには困らない程度には明るかった。
「気を付けて下さいよ?街の人達によると、この神殿には部外者の侵入を拒む為の罠がそこら中に仕掛けられているらしいですから」
アンカーベルトさんがそう言ってソロソロと一歩二歩と進むと…
ガコン!!
「ビョっ」
そんな音と声が聞こえ、アンカーベルトさんの足元がパカッと開いて穴が出現。アンカーベルトさんは為す術なく奈落に落ちていった。
「アンカーベルトさんんんんん!!!!?」
「プッ!アッハハハ!!『ビョっ』だって!ハハハ!!なにその変な声!!ハハハお腹痛いっ」
「いや、笑い事じゃないですよ!?」
咄嗟に開いた穴を覗き込むも、アンカーベルトさんの姿は暗闇に消えて見えない。
「フフフ、退場早過ぎんだろ!!!何やってんだ全く!!!プッ…ハハハ!!ひぃ~ひぃ~」
ガウラ姐さんは腹を抱えながらツボっている。
「た、助けないと!!」
「ハァ…ハァ…あ〜アイツなら大丈夫大丈夫。こんな事で死にゃあしないよ(多分)」
ガウラ姐さんは笑い過ぎたか涙を拭きながら言った。
「大丈夫かな…」
「アンカーベルトとは後で合流するとして…アタイらはとにかく奥に進むぞ」
そう言ってガウラ姐さんがズカズカと進み始める。
「いや待ってガウラ姐さん!!もっと慎重に進んで…!!」
カチッ…
「カチッ…?」
ガウラ姐さんが踏んだ床が沈んでいる。
そして神殿内にゴウンゴウンゴウン…と音が響き出したと思うと、入って来た通路を目一杯塞ぐように巨大な顔の石像が床からせり上がってきた。
「ほらぁ!!言わんこっちゃない!!」
「だ、大丈夫だ!ただ顔の石像がせり上がっただけじゃないか」
しかし、その顔の石像はゴゴゴ…と徐々にコチラに近付いて来た。しかも、段々と加速してきて…!!
ゴゴゴゴゴ!!!!!
ガウラ姐さんは目を丸くして踵を返して無言で通路奥に走り出す。
「あ!!待って下さいよガウラ姐さん!!」
「バカッ!!サッサと逃げないと壁に挟まれちまうぞ!!」
僕達は全速力で顔の石像から逃げる。
このままでは突き当たりの壁で押し潰されてしまう!!
「ヒィィィィィ!!!」
「見ろ!突き当たりに右と左に道が分かれてる!そこに入れば潰されずに済みそうだ!!」
顔の石像に潰される直前の所、どうにか僕は左に伸びた通路に飛び込み難を逃れた。
顔の石像は突き当たりの壁に当たるか当たらないかの所でピタッ!と止まり、そのまま道を塞いで動かなくなった。
「ハァ…ハァ…た、助か……………あれ!?ガウラ姐さん!?」
ガウラ姐さんの姿がない!!ま、まさか潰された!?
そんな最悪な可能性がよぎるが、それは直ぐに杞憂で済んだ。
「おーい、クサカベー!?大丈夫かぁ!?」
通路を塞ぐ石像の反対側からガウラ姐さんの声がする。
どうやら、ガウラ姐さんは右の通路に飛び込んだのだろう。
「僕は大丈夫です!良かった、ガウラ姐さんも無事なんですね!」
「この石像…!!動かそうにもビクともしないね。仕方ない、このまま分かれて行動しようか。どっかで繋がってるだろ!」
「そうですね…。罠に気を付けて下さいね!!足元!!ちゃんと注意して!!」
「なんだよ!子供扱いして!アンタも気を付けな!棺桶なっても助けられないからね!」
ーーーーー
ガウル姐さんとも分かれて一人で進む事になってしまった僕。
罠を警戒しつつとある広い部屋に入った。
「何かありそうな部屋だな…」
そう思いつつも部屋に踏み入れた…瞬間…!!
ゴゴゴ!!
入口が壁に塞がれてしまい、その直後それを合図に奥から魔物達が大量に押し寄せてきた。
「うわぁぁぁぁぁ!!?」
ーーーーー
一方その頃ガウラベルの方は…
「全く…何だこの神殿は…つくづく、宝箱配置人はよくこんな所に配置しに来れるよ…」
カチッ
「カチ…?また…!?」
足元が沈む感覚があり、直後、壁から数本の矢が射出される。
「イッ!?」
ガウラベルはサッと身を仰け反らして矢を避ける。
「チッ…無闇に動けないな…さて、どうしたもんか…」
…と、思案しているとどこからともなくぷわぷわと"鍵の形をした魔物"が浮遊しながら廊下の奥から近付いてきた。
「…あ?」
その魔物はグルグルとガウラベルを挑発するように頭の周りをグルグル周る…
「鍵型の魔物…。多分、この先に鍵のかかった扉があるな…。宝箱配置人が用意したギミックって所か…!」
鍵型魔物はそのまま廊下奥に向かってふわふわ飛んでいく。
「あ!?コラ!!待て!!」
思わず追いかけてしまうガウラベル。
カチッ!カチカチカチカチッ!
少し追いかけただけで床下がそこかしこと音を鳴らし沈む。そして壁から再度大量の矢が射出される。
シュシュシュシュシュ!!!
「ダァー!!どこもかしこも!!」
矢を避けつつ鍵型の魔物を追いかけていく。
廊下を突っ切った先の開けた場所に入った直後、鍵型魔物に向かって飛び込むガウラベル!
「捕まえたぁっ!!!」
鍵型魔物は飛び込んだガウラベルの胸の下敷きになった。
ーーーーー
神殿の最奥、閉ざされた大きな扉の前にいち早く辿り着いていたのは落とし穴に落ちたはずのアンカーベルトだった。
「この先に黄金のハープがありそうだね…多分…ボスも配置されてるだろうね…」
そう呟くアンカーベルトの背後からズルズル…と、何かが這い寄ってくる音がする。
「アンカーベルトさんんんんん…」
それは、地べたをズルズルと這うボロボロのクサカベだった。
「やぁ、いつの間にか追い越しちゃったみたいだね。僕は地下水道を通って上がって来たんだけど…って…どうしたの?ボロボロじゃないか」
「魔物の群れに襲われて…どうにか覚えたての爆発魔法で一掃しましたけど…」
「流石だねクサカベ君。………見たまえ。この先が多分、黄金のハープが祀られている祭壇がある場所みたいだ…しかし…」
「しかし?」
「この大きな鍵穴を見たまえ。何処かで鍵を見つけないと開かないみたいだ…」
「鍵…」
「アハハ…実はね、僕が落ちた先の地下水道で一匹鍵型の魔物が居たんだけど…着地した時に踏んづけちゃったみたいで折れちゃったんだよね!」
「えっ!?じゃあどうするんですか!!」
「だ、大丈夫大丈夫!!こういうのは詰まない様に他に同じ鍵型魔物が何匹か用意されてるハズだ!」
「………そう言えば鍵型魔物…僕の戦った魔物の群れの中に一匹居たなぁ…」
「ほ、ほんとかい!?…で、捕まえたのかい!?」
「………まとめて爆発魔法で吹っ飛ばしちゃいました…」
「oh…」
…と、そんな会話をしているとガウラベルが二人の元に辿り着いた。
「おー二人共。無事だったかい」
「ゲッ!!ガウラ姐さん、どうしたんですかソレ!?」
やってきたガウラベルは矢が数本ぶっ刺さっていた。
「あぁ、コレ?大丈夫大丈夫!全部抜いた後に回復魔法かければ良いし…それよりさぁ…」
ガウラベルは何か余所余所しく恥ずかしそうに頭を掻きながら続けた。
「いやさ…なんか重要そうな鍵型魔物をさ…ハハハ…胸で押し潰し折っちゃったみたいでね」
「「え"っ"」」
「だ、大丈夫大丈夫!!こういうのは詰まない様に他に同じ鍵型魔物が何匹か用意されてるハズだから!」
クサカベとアンカーベルトはお互い顔を見合わせた。
「まぁ、まだ居るハズだよ!手分けして探そう!」
アンカーベルトは取り分け明るく言ったものの…
その後3人が鍵型魔物を探すも見つからず…
結局、アンカーベルトの呼び出したドラコの力で無理矢理扉をこじ開けた事、そんなドラコが天井をぶち破ってやってきた事、その衝撃で神殿が崩落し始め…用意されたボスもその崩落に巻き込まれてしまった事…は、また別のお話。
続く…




