第六十三幕【勝っても負けても】
翌日の朝。ノーツ村へ行く為に架かる橋をダルクスは魔法で破壊。通れなくしてしまった。
「これでヨシっと…」
ダルクスは手をパンパン!と払った。
「コレで勇者一行さんはアチラには行けませんね」
サラッと生き返っているリーサがにこやかに言った。
「えぇ、流石に侵攻されたバルチェノーツやノーツ村にはレベルの低い勇者様は行かせられませんから」
イズミルがそう言った。
「こっから先は旅の終盤も終盤だな…ま、魔王が大人しくここを根城にしてくれたらの話しだが……………それよりも…」
ダルクスは踵を返して近くに停めている荷車に目をやる。その上に腰掛けて空を見上げてボ〜ッと呆けているのはリューセイだ。
「アイツ、どうしちまったんだ?昨日からずっとあの調子だ」
ダルクスはタバコに火を付けながら言う。
「ほんと、どうしちゃったんでしょうかリューセイさん…心ここにあらずって感じですね…」
リーサも心配そうに言う。
そんなリューセイの肩を揺らしながらユーリルが吠えている。
「勇者様ぁ!!いつまで呆けてるんですか!?」
「あ〜…?」
リューセイは上の空…といった具合だ。
「どうせまた"魔王ちゃん"の事考えてるんじゃないですか!?」
「いや…別に…」
「ほんとかな〜???」
「なぁ、ユーリル…。俺はあの娘が倒されないと元の世界に戻れないんだよな?」
「そうですけど」
「ハァ…そっか〜…勇者はあの娘を…」
「いや、おいっ!!やっぱ魔王ちゃんの事考えとるがな!!」
ユーリルは何故かつたない関西弁でツッコんだ。
「いやだって………ドーラちゃん…凄く可愛かったし…良い匂いだったし………」
グワンッ!
何処から取り出したか、ユーリルはフライパンでリューセイの頭を引っ叩く。
「いや、アホなんですか!?相手は世界を脅かしてる魔王ですよ!?何考えてるんですか勇者様!!」
「お前今どこから出したソレ?」
そうこうしていると、イズミルも二人の側にやってきた。
「魔王が女性の方だったとは驚きです。本来、魔"王"と言うぐらいなので男性の王様がなるのが普通ですけど…。リューセイ様、もしかしてその魔王に"ホの字"なんですか?」
「いや、そんなんじゃないんだよ。何というか…彼女からはこう、魔王の陰湿さとか狡猾さを感じなかった。悪い奴には思えなくてさ」
「何でですか!!思いっきり勇者様を殺そうとしてましたけど!!」
ユーリルは頬を膨らませながら言う。
「うーん…でも、他には手を出して無かったろ?村の人も"避難させた"とか言ってたし…それに、"最初に手を出して来たのはお前達だ"って言葉も引っ掛かる。俺達は魔王がこの世界で悪さをし始めたから宝箱配置人として旅立ってるんだよな?勇者も同じく」
「そうですね。だって、世界が平和なら私達の出る幕なんて無いですからね」
イズミルがそう答える。
それならあの言葉の意味が分からないとリューセイは考え込む。
「う〜ん…分からん。ドーラは一体何を考えて…」
「今考えても仕方ないですよ!とにかく今分かってる事は…」
イズミルが言い終わる前にリューセイが口を挟む。
「ドーラちゃんは可愛くてほのかにラベンダーの匂いを漂わせる美少女だって事くらいか」
グワンッ!
再びユーリルのフライパンが振り下ろされる。
「勇者様ってばぁ!!」
「…センチュレイドーラは本当に洗脳の使い手なのかもしれないですね」
イズミルはヤレヤレと首を振りながらそう言った。
「おーい。そろそろ次の目的地に行くぞ!」
ダルクスの声がする。
次の目的地はサンシタ入江港から東の【メーダ村】を経由して【王都ヤオヤラグーン】。
宝箱配置人一行はまずは【メーダ村】を目指して歩みを進めるのだった。
〜〜〜〜〜
一方その頃、【バルチェノーツ城】
ドーラの寝室にて…
「もぉぉぉぉぉ!!!!!悔しいぃぃぃ!!!!!」
そう言ってベッドの上で枕に顔を埋めて、ジタバタと暴れているドーラをババロアが心配そうに見守っていた。
「姫様…ほんとに…アテクシが居なかったどうなっていた事か…。勇者がトドメを刺そうと思えば、刺せていたんですよ?」
「うううぅぅぅぅぅ〜〜〜………ってか………ババロア…なんでここに居るの…?」
「魔界で待っていると心配で心配でおかしくなりそうだったんで来てしまいました。これに凝りて、もう魔界にお帰り下さい。後の事は兵士に任せて…」
「そういう訳にはいかないわよ!!……………クソ…もう少しで勇者を亡き者に………アァァアァァ!!!ムカつくゥゥゥゥぅ!!!なんであそこで油断しちゃったのワタシは!!!あそこまでは完璧の流れだったのに…!!!」
「そんな想定外な事が起きたのですか?」
「想定外も想定外よっ!!!あの状況で…顔をキラキラさせながらワタシの事を可愛いだとか…素敵だとか…傷付けたくないとか言われて…挙句の果てには思いっきり抱きつかれて…」
「はいー?それで動揺しちゃったんですか???いつもカートス様にやられてる事ではないですか…」
「まさか勇者にやられるなんて思ってもみないわよ!!今までの歴史書にもそんな事案なんて無かったし!!………それで手も足も出なくなっちゃって…」
「姫様…チョr」
「あぁん!?」
ドーラはキッとババロアを睨む。
「いえ、なんでも」
そんな時、寝室の窓からバリーン!!と盛大に割って何者かが飛び込んでくる。
「ドーラぁぁぁぁぁ!!!!!無事だっかいぃぃぃぃぃ!!!!?」
ゼルベクトカートスだ。
ベッドに倒れているドーラに駆け寄り抱き寄せ、唐突に唇を重ねようとしてくるカートスにドーラは思いっきり右ストレートをかました。
ガシャーン!!!
カートスは吹っ飛び鼻血をまき散らしながら大きな姿見鏡にぶつかり倒れる。
「ゼルカス!!何でアンタまでここに居んのよ!!?…てか、今の状況で唇を奪おうという神経どうなってんの!!?」
「いや…君が心配で…キスで生き返るかなと…」
「死んでないわっ!!!…っていうか、どいつもこいつも心配、心配ってワタシを子供扱いして!!」
「だってそうじゃないですか!まだ118歳、アテクシからしてみますと、まだまだ姫様は毛も生え揃ってない子供も子供…心配するのは当然です!そもそも貴女は"姫"!なんですぞ!」
ババロアはいつになく強い口調で言い返す。下手をすればドーラが死んでいたかもしれなかった。当然と言えば当然か。
「そんなの…分かってるけど…!!」
「いいや、分かってないです!!姫様、何度でも言いますが貴女に魔王は荷が重過ぎます!!先代のセンチュリオン様と比べると…貴女は何一つお父様に追い付いて居ない!!」
「何よ…!!今お父様の事は関係ないでしょ!?」
二人が激しく言い合っている。
カートスは身を起こし、その間に入ろうとする。
「まぁまぁ…ババロア様…ドーラも落ち着いて…」
「ゼルカスは黙ってて!!」
「カートス様には関係ありません!!」
「あっ…ハイ…」
二人に同時に言われ、カートスはシュンと萎縮してしまった。
「もう放っておいてよ!!ワタシは私なりに頑張ってるんだ!!口出しするな!!」
「それで貴女に何かあったらみんなに迷惑がかかるんですよ!?我が儘が過ぎますぞ姫!!!そんな事も分からないようなら貴女の国は遅かれ早かれ滅ぶでしょうな!こんな姫様を掴まされて!!」
「グググ…」
ドーラはババロアから厳しい言葉を捲し立てられ、思わずボロボロと涙を流し始める。
「何よ…!!こっちの気も知らないで…!!もう…出てってよ!!」
ドーラはババロアとカートスの背中を無理矢理押しながら部屋を追い出す。
「そうやってビータラ泣いて問題を先延ばして、まんま子供じゃないですか!!上の立場である事をちゃんと自覚して下さい!!」
寝室のドアをバタン!と思いっきり閉め鍵をかけた。
グスングスン…とそのままドアの前でうずくまるドーラ。
「分かってるわよ…それでもどうにか頑張ってるんじゃない…」
魔界の住人、降伏した人間達、一緒に戦ってくれる兵士達…それらをたった一人で守らなければという重圧がドーラの小さな背中に重くのしかかっていたが、リューセイに負けてしまった事で更にその重荷が何倍も大きくなってしまったように感じてしまう。
そんな自分の不甲斐なさにも涙が溢れる。
「グスッ………こんなんじゃダメだ………もっと強くならないと………国民も守れない………人間だって安心して付いて来れないじゃない………ババロアだって…………心配するに決まってる………」
ドーラはフラフラとベッドにうつ伏せに倒れ込む。
「グスッ…今度は負けないわよ勇者…!!次こそは必ず勝ってみせる…そしてみんなを安心させるんだ…心配なんて無用だって…思わせてみせるから…!!」
決意を胸に、ドーラは濡れた目を擦って布団を被る。そしていつの間にか、
ドーラは夢の中へと落ちていくのだった…。
続く…




