第六十二幕【ムカデ姫と勇者(じゃない)】
「ハァハァ…クッ…」
締め付けられる心臓の痛みにどうする事も出来ない。
静かになり真っ暗な平原にうつ伏せになって倒れる俺 (リューセイ)。
ユーリルはビームとなって射出され、確か元の体に戻るのに時間を有したハズだ。
マズい…このままじゃ本当に死んじまうぞ…
その時ザッザッザッ…と誰かがコチラに近付いてきた。
「ユー…リル…か…?」
俺はうつ伏せの状態で顔を上げる。
暗くてよく見えない。しかし、目の前に誰かが立っている。
その人物はパチッと指を鳴らした。
ボッ!
その音と共に、俺達を囲うように広い範囲に紫色の炎の壁が上がる。
その炎の明かりで人物の顔が闇夜に浮かんだ。
4つの角を生やし紫色の長い髪をツインテールにした同じ歳くらいの女…軍服風の出で立ちをしているが、戦車隊の兵士達とは明らかに雰囲気が違っていた。
「チッ…ま…魔族かよっ…!!」
ソイツは俺を見下ろしながら、肩にかけた"銃"をゆっくり構えてコチラに容赦無く発砲してきた!
パァン!!
「ゲッ!?」
咄嗟に横に転がり、そのまま胸を抑えながら飛び起きる。
先程自分の頭のあった地面には穴が空き煙が出ている。
「な、な、なに…すんだよっ…!!」
「まだそんなに動ける体力があったとはな…ま、戦車隊を壊滅させた勇者だって聞いてたからどんなもんかと思ったが…対した事ないな。全く手応えがなかった」
「お、俺は勇者じゃねぇって!!」
「この期に及んでそんな言い訳が通用するとでも?」
ソイツは再び銃を構える。
パンパンパン!!
有無も言わさず3発発砲してきた。
俺は横に飛び退き避ける。そのままの勢いで光伝力放射砲を握り締めソイツに向かった!
目の前に来た所で光伝力放射砲を勢いよく振った!しかしソイツは華麗に避け、後ろに後退る。地面に手を付きしゃがんだ状態からズボッ!と、スカートの中から"ムカデの尻尾"を生やした。
「お前…!!さっきの…ムカデ野郎か…!!」
「今更気付いたのか?勇者がここに居るって聞いて飛んで来たんだ。兵士も村人も、避難させた。お前を殺す為に我がひと暴れするからとな!」
そう言ってソイツは地面を蹴ってコチラに飛び込んできた。
生やした尻尾を巧みに動かし、物凄いスピードで俺に連撃を浴びせてくる。
ドカカカカカッ!!!
光伝力放射砲でどうにか攻撃を受け止める。
「さっきの"第三形態"で決着を付けるつもりだったがな…!!空からの攻撃を仕掛けてくるとはな!!思わず変身を解いてしまった!!こうなっては暫くは形態変化出来ない!!」
攻撃の手を止めずにソイツは言う。
「第一形態も第二形態すっぽかして、第三形態で襲ってくるなんて…どういうつもりだよ!?」
「お前を殺す為なら手段は選ばない!!…とはいえその程度、第一形態で充分だっ!!!」
そう言うと、今度は二股に分かれた鉤爪状の尻尾から、大ムカデの時の様にレーザーを放ってきた!
ビィィィィィ!!!
「俺は…そんな恨まれる様な事はしてねぇよ…!!」
俺は必死にレーザーの猛攻を避けながら発する。
「よく言うな!魔王を討伐する為に旅をしている分際で!!」
「それは、お前達が世界を脅かそうと…!!」
「うるさい!魔王討伐と称して【最初に手を出して来るのは毎回人間達の方】だろう!!」
「…何の話だっ!?」
「それに、我は【勇者】に魔王である父親を殺されたのだ!!お前がやった訳じゃなくとも【勇者】と名乗り魔族に仇なすなら生かしてはおかない…!!」
そう言ってより一層、攻撃の手が激しくなる。光伝力放射砲でレーザーを弾きながら間合いを詰める。
「じゃあお前は…魔王の娘っ…!?」
「135代目魔王【センチュリオン】の娘にして136代目魔王に襲名した【センチュレイドーラ】だ!!覚えておけっ!!!」
「せ、センチュレイドーラ…!!お前が…今世界を脅かしてる…魔王かよ…!!」
衝撃の事実に驚いた一瞬の隙に、脇腹にセンチュレイドーラの回し蹴りがクリーンヒットする。
俺は思いっきり吹っ飛ばされ、炎の壁を飛び越えて場外に出てしまう。
「クッ…グググ…」
ドラゴンの呪いに侵され、仲間も居ないこの状態で魔王戦!?
しかも、センチュレイドーラは色々勘違いしてるしっ!?
何なんだよこの状況は!!
炎の中からゆっくりとセンチュレイドーラが出てくる。その顔付きは殺気に満ちている。
これは本気でヤバい…
「ま、ま、ま、待てドーラ!!」
俺は尻餅を付いた状態でドーラを静止する。しかし、ドーラは気にせずそのまま俺の肩を踏み付け地面に押し付け銃口を額に向けた。
「グッ…!!」
「貴様が略すな!!我の事は魔王様と呼べ!!」
「ほ、ほら!冥土の土産!冥土の土産を教えてくれ!!」
「…ハァ?」
「冥土の土産だよ!今から俺にトドメを刺すんだろ?その前に冥土の土産を教えてくれよ!」
「………ククク…フハハハ!!!
その手に乗るか!!その台詞を魔王が吐けば、たちまち負けフラグが立つ…それぐらい調査済みよ!!フハハハ!!」
「じゃ、じゃあ…!!せめて…最後に何か…言い残したい事があるけどなぁ〜…?」
「興味ない」
「じゃあ…世界の半分でオーケーだから…!!」
「やるか!!もう少し謙虚になれ!!っていうか、負けそうになってるヤツが言うな!!」
クソッ…時間稼ぎになると思ったが…
誰かぁ〜今のうちに戻って来てくれぇ〜…
「……………そ、そうだ!!ドーラ、俺はなぁ…実はまだ本気を出していない!!」
「…ハァ?…お前なぁ…それは普通追い込んだ側が言う台詞だろ!『これでまだ本気じゃないのか!』って相手を絶望させる為の台詞。確実に今のお前が吐ける台詞じゃない」
「いいから聞けって!なんで俺は本気を出さなかったと思う?」
「付き合いきれん。もう撃って良いか?」
冷やかな目でドーラは銃を押し付けてくる。
「ワァ!?待ていっ!!待ていっ!!それはな!?お前が可愛いからだ!!」
俺は捲し立てるように言った。
「ハッ!?」
ドーラは目を丸くして顔を引き攣らせる。
あれ?効いた?これイケるのか?
「ま…魔王ってこう…醜悪で…気持ち悪い見た目って相場だろ!!なのに…こんなかわい子ちゃん来るなんて聞いてない!!反則だろそんなの!!」
「この状況で何を言ってるんだ…!?フザケるな!!」
「コレがフザケてる顔ですか!」
俺はココぞとばかりに【キラチャーム】を発動した。俺の周りにキラキラとエフェクトが舞う。
「そう…君は美しかった…そんな君を傷付ける事は俺には出来ない…!!ドーラ…!!俺達はどうしても傷付け合う事でしか決着を付けられないのだろうか…!!」キラキラ
「貴様ぁ!!勇者が魔王を口説くきかぁ!?」
「それとなドーラ!!ずっと黒の紐パンが見えてる!!」
「ヒャッ!?」
すかさず指差すと、ドーラはスカートを隠す仕草をする。その一瞬の隙をついて、ドーラの足を掴んでそのまま引き倒す!!そのまま身を翻してドーラをガッチリと上から抑え技で動けなくした。
「ギャアァアアアァ!!?は、離せェェェエ!!?」
離せるか!!それに、今俺は抑え技と称してドーラに抱き着いた体制だ。それすなわち!!ドラゴンの呪いも浄化させているのだ…!!!
まだ…まだ…もう少し…もう少し…!!
「クソォォォォォ!!このっ!!離せバカッ!!」
ドーラにも焦りが見え始めた。
それと引き換えに、俺の体力はみるみる回復していく。
「…………チャージ完了…!!!」
そして、充二分に呪いから開放された俺はドーラの身体をガッチリ抱き締めた状態で…
「か〜ら〜の〜…!!!」
「な、何をっ!?」
そのままドーラを持ち上げ…
「Dragon Suplex!!!!!」
そう叫んだ後、ドーラを抱き締めたまま海老反りになってドーラを脳天から地面に叩き付けた!!
ゴスッッ!!!
「ギャフンッ!!!!!」
ドーラはそんな断末魔を上げて、目を回しながらブリッジした体制で動かなくなってしまった。
「………ッハァ…ハァ…や、やったのか!!?」
魔王をプロレス技で決めてしまった…
「た…助かった…」
俺は安心しきってその場にヘタレこんだ。
「ひぃぃぃめぇぇぇ様ぁぁぁぁぁ!!!!!」
そんな声がいきなり響き声のする方を見ると、一台の戦車が凄い勢いでコチラに向かって来る!!
「…ゲッ!?もう良いって!!」
しかし、その戦車は途中で停まり、中から魔女の様なお婆ちゃんの魔族が飛び出してコチラに向かってくる。
「おいたわしや、姫様ぁぁぁぁぁ!!!!!」
そう言ってブリッジ状態のドーラを担いで、戦車に戻っていく。
そのまま戦車は急いで何処かに消えて行くのだった………
「な…何だったんだ今のは…」
一気に力が抜けて、俺はそのまま大の字になって仰向けに地面に倒れた。
暫くすると、今度は別の声が響いてくる。
「勇者様ぁぁぁぁぁ〜!!」
ユーリルだ。
仰向けになった俺の視界にユーリルが入ってくる。
「大丈夫ですか?勇者様!!」
「あぁ…なんとかな…。ほんとに危なかったけど…」
話すのも絶え絶えで、疲れ果てた俺の様子を察して、ユーリルはそれ以上質問して来なかった。
「……………あ。そう言えば…俺、魔王を倒しちゃったんだけど。もしかして俺、元の世界に帰れる様になってないか?」
「え"っ"!?」
驚いた顔をしたユーリルはその後、申し訳なさそうに言った。
「う〜〜〜ん…スミマセンが…私が魔王が倒された!…と認識しないと無理なんですよねぇ…」
「なんだよソレ!?あ〜あ!!」
「…って言うか、ほんとに魔王に会ったんですか!?」
「良い匂いだった………」
「はい?」
「ほのかにラベンダーの香る良い匂いだった…」
「ハァ…?」
こうして、俺と魔王の初遭遇は幕を閉じた…
続く…




