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異世界から転生した勇者より宝箱配置人の方が過酷だった件  作者: UMA666
第二章【大航海先に立たず…編】
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第五十九幕【不真面目ちゃんとお節介ちゃん】

【アカシータ貿易港】


昼下り、大きな定期船が港に発着する。

その船からピンクの二人乗りの自動車、KHK(棺桶保険協会)の移動用四輪駆動車【取り立てくん】が桟橋へと降りる。


「滞納者の最期の目撃情報はこの港町を指してるねぇ〜」


カーナビ風のパネルを眺めながら、運転席でハンドルを握るトーヤマが呟いた。


「ここにまだ居ると良いですけどね…」


セリザワは腕を上げて背筋を伸ばしながら言う。


「次はどういう作戦で行く?またあの"怖い人スタイル"で行こうか」


「前の大失敗を経て、良くまだやる気になれますね!」


そんな事を言いながら、取り立てくんを港の端に停車させし、トーヤマとセリザワは降りた。


「さぁーて、ここからは自分の足で探さないとね〜。棺桶保険の契約書に似顔絵も貼ってあるからそれと似てる人を地道に探そう〜」


「じゃあ、早速、街の人に聴き込みしましょうか!」


「え"っ"!!」


「『え"っ"!!』ってなんですか『え"っ"!!』って。その方が手っ取り早いじゃないですか」


「い、いいよ!地道に二人で探そうよ!そんな急いでないし!!」


「何言ってるんですか!!急がないと別の場所に行っちゃうかもじゃないですか!!」


セリザワはトーヤマから似顔絵付き契約書をサッと奪い、早速近くを通りかかった船乗りに話を聞こうとする…


「あの、スミマセ〜ン。私、KHKの者ですが…」


しかし、船乗りは無視して何処かへ行ってしまった。


「あれ?聞こえなかったのかな?」


改めてセリザワは船から伸びるロープを桟橋に固定している所の船乗りを見つけ近付く。


「スミマセン、KHKの者なんですが…」


と、話し掛けるや否や船乗りはキッとセリザワを睨み付ける。


「見て分からんか!?今仕事中だ!!邪魔すんな!!」


「す、スミマセン!!」


セリザワは急に怒鳴られビクッと肩を震わせ、そそくさとその場を去った。


その後も通りかかる何人かに声をかけるも反応は同じ。

怒鳴る者、無視する者ばかりだった。




〜〜〜〜〜




取り立てくんにもたれかかりパイプタバコ…風のシャボン玉をふかしながら待っていたトーヤマの元にセリザワが半ベソかきながら戻ってくる。


「うぅ…ダメでした…グスン」


「だろうねぇ〜。徴収課は基本協力は得られないからねぇ〜」


「なんでですか!払わない悪い人からお金を徴収してるだけなのに!!」


「理由はどうあれ、お金を強制徴収する仕事は良く思われないんだよ。地道に行こう地道に」


「納得いかないです!!」


セリザワはプンプンと地団駄を踏んでいる。


「まぁまぁ…取り敢えず酒場に行こうか。少し休憩して行こうよ。探し人も居るかもだし」


トーヤマはセリザワの背中を押しながら酒場に向かう。


「よく平気ですね!?こんな理不尽な扱いを受けて…!!」


「それが徴収課。誰もやりたがらない仕事だよ。だから落ちこぼれが送られてくるんだよ」


「うぅ〜」


「何人も何人も送られては辞めて送られては辞めて…ずっとウチだけが残り続けてるしね〜」


「そうだったんですか…?………なんでトーヤマ先輩はこんな扱い受けてもずっと………」


「う〜ん…だってここに送られてくる前からウチは一人だったし、そんな扱いは慣れてたし。徴収課、ウチには結構合ってるんだよね〜」


「トーヤマ先輩…」


「後輩ちゃんはいつまで続くかな

ぁ?……………嫌になったら無理しなくて良いからねぇ?」


「何言ってるんですか!!トーヤマ先輩おいて逃げたりしないですよ!!」


「おっ、それは期待するしかないねぇ〜。私の分頑張っておくれ〜」




〜〜〜〜〜




そう。

トーヤマ先輩はいつも一人でした。


あの時も…そう、

棺桶保険協会の本部で月イチで開催される"定例報告会"で当時の私 (セリザワ)は"棺桶保険協会・会計課代表"として参加していました。


トーヤマ先輩は大きな会議室に集められたKHKの様々な所轄の代表達の中で悪い意味で目立っていて…

会議中もみんなから離れた一番端っこの席で、机に突っ伏していつも眠っているトーヤマ先輩を上司がまず怒ってから会議がスタートする…と言うのが定石でした。


ーーーーー


「ちゃんと真面目に会議を受けて下さい!貴方も所轄の代表なんですよね?」


会議が終わった後、私はトーヤマ先輩をそう引き留めました。いつも適当な態度のトーヤマ先輩に違う所属とはいえ、その日は我慢ならなかったんです。


「うあ?」


「貴女が不真面目だと、他の人達も気が引き締まらないと思います!」


そう言われて面倒臭そうに頭を掻くトーヤマ先輩。


「…あ〜………ゴメンね真面目ちゃん。ウチに真面目を求めるのは…」


「セリザワです!!【棺桶保険協会・会計課】のセリザワ!!」


私はネクタイをキュッと締めて敬礼をします。


「え〜っと…セリザワちゃん?あのね、ウチに真面目を求めるのは無駄だよ。真面目にする事をアホらしく思ってるタイプだから。なんたってウチは【徴収課】だからね」


徴収課…。

成績が悪い職員が落とされてしまう様々な所轄の中でも一番過酷で大変だと聞いた事が…


「…だ、だからって!不真面目にして良い訳じゃ…!!貴女は【徴収課】の代表なんですよね!?」


「じゃあ何さ。真面目に会議受ければ落ちこぼれの徴収課を抜け出せるっていうの?」


「そ、それは貴女の態度次第でしょう!」


「無駄だよ。徴収課に落とされたら実質クビ宣告されたようなもんだし。一度徴収課に落とされて這い上がった人なんて居ないし。だから真面目にするだけ無駄。あと、ウチが代表なのは今、徴収課にウチしか居ないから」


「徴収課に…一人…」


「ね?救いようが無いんだよ。ま、真面目ちゃんはさウチみたいにならないように頑張りな〜」


そう言ってトーヤマ先輩は手を振りながらトコトコとその場から去って行きました。


ーーーーー


それで食い下がる私じゃありません!!

伊達に【お節介のセリザワ】と呼ばれてないですから!!


翌月の定例報告会。

いつもの端っこ席で机に突っ伏すトーヤマ先輩の真隣に私は座ります。

肘で突っ伏すトーヤマ先輩を小突きます。


「ウグッ!?」


急な刺激に飛び起きるトーヤマ先輩。

隣の私を見て明らかに嫌そうな顔をします。


「うはぁ…またキミか。タカハシちゃんだっけ?」


「全然違います!!"セリザワ"です!!」


「…で、何の用?」


「真面目に会議受けましょう!真面目にしてれば評価も上がって徴収課を抜け出せるかも!」


「無駄だってば…。それに、ウチは一人で気を遣わず好きに出来る徴収課、結構気に入って…」


「ダメです!!そうやっていつも一人だから心が荒むんです!!ほら!ピシッと座って!冊子開く!!」


こうして私のお節介伝説が始まったのです…


月イチの定例報告会議でしか会えないトーヤマ先輩をどうにか更生させようと躍起になってましたっけ…

なんでそこまでして…今になっては不思議です。


どうしても…ほっとけなかったんですかね…?


ーーーーー


定例報告会議の合間の昼食休憩でも、私はトーヤマ先輩に付き纏いました。


「何処までついてくるのー?」


「トーヤマさんには人との繋がりが必要なんです!今日も昼食お供しますよ!」


トーヤマ先輩はヤレヤレと呆れた様に首を振りながら、本部の中庭のベンチに腰掛け弁当を開きます…


白ご飯の上に焼き鮭のみ…!!


「いつもいつも、上のお魚が変わってるだけじゃないですか!!そんなのじゃ栄養付かないですよ!!」


「うるさいなぁ。放っといてよ。料理作るの面倒臭いんだもん」


「もう!」


そう言って私は鞄から自分のとは別の弁当箱を取り出します。


「これ、トーヤマさんに作って来たんです。どうぞ」


「え、わざわざ…?」


「偏った食事は精神も肉体も衰えさせます!食生活も変えていかないとですね…」


「ハイハイ…おっ凄い」


私の話しを最後まで聞かず、弁当の蓋を開けるトーヤマ先輩。色とりどりの食材に圧倒されてるようでした。


「食べてみて下さい!」


促されるまま、トーヤマ先輩はおかずを口にします。


「…!!おいしい!!」


そう言ってトーヤマ先輩はおかずを次々に口に放り込んでいきました。


「良かった〜」


私は胸を撫で下ろしました。


「あ、そうそう。漫画の続き出来たんだぁ〜」


トーヤマ先輩は懐からノートを取り出して差し出してきます。


「続き出来たんですね!!楽しみにしてたんですよ〜!!」


「誰にも見せる予定の無かった自己満で描いてた漫画をそんな楽しそうに読んでくれるの真面目ちゃんくらいなもんだよ…」


「えぇ〜?凄く面白いのに…。他の人にも見せたら良いじゃないですか…」


「絶対ヤダ!!」


ーーーーー


そんなこんなでトーヤマ先輩にお節介を焼きながら暫く経ったある月。

いつもの定例報告会議。

今日もトーヤマ先輩を…なんて思って居ましたが…


その日はトーヤマ先輩が居なかったんです。


「あれ?トーヤマさんは…」


いつもトーヤマ先輩が座る席を見ながら呟きます。すると、通りがかった上司が察したのか、話しかけてきます。


「トーヤマか?今月からな、徴収課は会議に呼ばれない事になったんだ。"来ても意味が無い"からな。トーヤマはそもそも参加しても居ないようなもんだったし」


「そ、そんな!」


「世界を飛び回る仕事だし、いちいち月イチで戻って来てたら徴収が非効率だし。"上"からのお達しだ」


ーーーーー


会議が終わり夕暮れ時。

本部を出てトボトボと歩いていた私を門の前で誰かが待っていました。


トーヤマ先輩です。


「…!!トーヤマさん…」


「いやさ…?まぁ結構お世話になったし。最後くらいお礼は言っとこうと思ってさ。聞いたと思うけど…徴収課はもうここに来る事ないからさ」


「そう…ですか…」


「真面目ちゃんもさ、せいせいするんじゃないの?厄介払いが出来てさ!」


そう言ってハハハと笑うトーヤマ先輩は心なしか少し寂しそうで…


「まぁ…その…一人が好きだったウチだけど…真面目ちゃんと一緒に居た時は楽しかったよ。また一人になっちゃうけど…」


「一人になんかさせませんよ!!」


「…うぇ?………いや、だって、徴収課はもうずっと世界を飛び回って…」


「残念でしたねトーヤマさん!そうはいきません!私は言いましたよね!トーヤマさんを絶対に更生させるって!!」


「…んなこと言ったって。もう会う事も…」


「私、徴収課になったんです。コレからも一緒ですからね!覚悟して下さい!」


「…へ?………うぇーーー!!?な、な、何してんのさバカッ!!な、何で、どーして!!」


「伊達に"お節介のセリザワ"って呼ばれてないですから!!………コレからもヨロシクお願いしますね"トーヤマ先輩"!」


「バカだよ!!自分から徴収課に来るなんて…バカだよ…」


トーヤマ先輩は目を涙で滲ませます。


「さぁ、教えて下さい!徴収課のなんたるかを!私何も分からないので…」


滲んだ涙をブカブカのオレンジニットセーターでゴシゴシと拭いたトーヤマ先輩はクルッと私から背を向けます。


「どうなっても知らないからね…!!本当に大変な仕事だよ!!」


「承知の上です!!」


「…ハァ…………。ほんと、バカ真面目だね…"後輩ちゃん"は…」


こうして私は会計課から徴収課に配属となったんです。




〜〜〜〜〜




「どうしたの?後輩ちゃん」


「いえ、少し考え事を…」


ハッと我に返り現実に戻る私を不思議そうに覗くトーヤマ先輩。

そんなトーヤマ先輩に背中を押されるがまま、私達は酒場に向かうのでした。




続く…

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