第六幕【捕獲!魔法補助担当】
「えっ!?魔法補助担当がまだ!?」
集まっているのが宝箱配置人・補助のリューセイ、宝箱配置人・配置担当のダルクス、女神と一匹の子供ミミックだと聞いてイズミルはかなり驚いていた。そんな彼女にリューセイは質問する。
「魔法補助担当ってなんだ?」
「魔法補助担当も宝箱配置人のチームでは欠かせないポジションです。僧侶職の経験がある人が入るポジションなんですが、危険な旅で疲弊するチームの回復サポートをする役目と、あと重大なのがフィールド上の…つまり外に設置する宝箱に聖なる力を付与する役目があります」
「それ、必要あるんですか?」
ユーリルが質問し、イズミルは答える。
「魔物達がイタズラしないように、あと、勇者以外が開けられないように魔法でロックするんです」
「なるほどな。確かにおかしいと思ってたんだ。なんで他の人は宝箱開けてかないのかって!でも、それくらいの魔法ならイズミルの呪術書…ディアゴだっけ?…それで簡単に出来そうだけど」
「残念ながらディアゴはほぼ攻撃特化の呪術書です。回復魔法や補助魔法はあまり使えないんです。それに、有効範囲がディアゴの周辺にしか効き目がないので…とにかく、魔法補助担当が居ない限り出発が…」
そう言ってイズミルはディアゴのページから伸びる一本のロープ…の先にいるダルクス…もとい、ディアゴの魔法で亀甲縛りにされ、さっきからズルズルと地面を引きずられていたダルクスの元でしゃがんで問いかける。
「ダルクスおじ様、魔法補助担当はいかがされたのですか?勿論、お呼びしたんですよね?」
「ガキとは口を聞きたくねぇ」
イズミルはパチッと指を鳴らす。ダルクスに巻き付いたロープがギチギチと締め付けていく。
「ゴホォ!!な、なんのぉぉぉ、これしきぃぃぃ…イギギギ…」
「ニシシ!やせ我慢はよくないですよ。これ以上指を鳴らすと内臓的なモノ飛び出しちゃうかも!さぁ、答えて下さい!3…2…1…」
「分かった!分かったってっ!!あぁ、お前の言う通り連絡したよ!もう着いてても良い頃なのに、全然音沙汰ないんだよっ!」
「むぅ…困りましたね。これ以上は待っていられないのですが…早くしないと勇者様が追いついちゃいますよ……………あ、そうだ!」
イズミルは何かを思いついたようで、スクっと立ち上がって思わず指をパチッと鳴らした。縄がダルクスを締め付ける。
「オ"イ"ィ"ィ"ィ"!!イダダダ!!オ"イ"!!解けって!!オ"イ"!!!あ"っ、なんか癖になりそっ…!!」
「ここは世界各地から様々な人が訪れる王国!酒場に行けば出会いの掲示板があるはずです!そこでとにかく僧侶さんを仲間にしましょう!」
「なるほど、出会いの掲示板か。前回の冒険で仲間集めに重宝したな」
リューセイがそう言ってイズミルに同意する。
「そうと決まれば酒場です!ディアゴ、もう良いよ!解いてあげて!」
そう言うとディアゴの縄はシュルシュルとページに戻っていき、ダルクスはやっと縄から開放されたもののビクビクと痙攣しながら突っ伏してまだ動けない様子だ…。
(恐ろしい…彼女の機嫌は絶対損ねないようにしないと…)
リューセイはそう思いながら身を震わせた。
〜〜〜〜〜
「僧侶…僧侶…あれ?居ませんね…」
酒場にある出会いの掲示板。ここには冒険の仲間を募る人達の情報が貼り出されている。リューセイも前の冒険ではこの掲示板で仲間を増やしていた。
しかしお目当ての僧侶の情報はなく、イズミルが焦っている。
「うーん、困りました。なんとしてでも僧侶様を仲間にしないと…」
「そうだ、ユーリル。お前、僧侶になれ」
リューセイは提案してみる。
「む、無理ですよ!!私はもう女神っていう職業なんですから!」
(女神って職業なのか…?)
「そこの女とか良いんじゃねぇの」
ダルクスがタバコで一服しながら指を指した方向には、確かに一人の女僧侶が酒場の端っこで行き交う酔っ払いに怯えつつタジタジと小さくなっている。
「俺、行ってきますよ」
そう言ってリューセイは、そんな彼女の元へ歩いていった。
目の前まで行くと、リューセイに気付いたようで、ビクッと体を震わせ、たじろいでいる。
薄紫のロングヘアーで前髪をぱっつんにしており、顔の両サイドには丸い緑のマリモの髪飾りをポンッと付けている。瞳の色がピンクで白い十字の入った変わった瞳をしている。
怯えながら彼女は口を開く。
「な…なんでしょうか…?」
「キミ、僧侶だよね?ここで何してるの?」
「え…いや…その…出会いの掲示板で…旅の仲間を募ろうと…」
「丁度良かった!!俺達も僧侶の子を探してたんだよ!」
「え、えぇ?なんですか…ナンパですか?」
イズミルもやってきてスカウトにまわる。
「今、一刻も早く僧侶の方が必要なんです!」
「えぇ…でも…私はまだ見習いの僧侶で…レベル1だし…そ、そんな期待されても…」
「構いません!私達、"宝箱配置人"の仲間になればレベルなんてあっという間ですよ!!」
"宝箱配置人"という言葉を聞いた途端、僧侶はピクッと反応した…
「あ…大丈夫です…あの、間に合ってるんで!」
そう言っていきなり足早に酒場を出ていく。
「ちょ、ちょっと待って下さい!もうあなたしか居ないんです!ほら、リューセイ様も追いかけて!」
イズミルにそう促され、渋々僧侶を追いかける。
「ちょっと待って!話を聞いて!」
後ろから追いかけてきたリューセイにビクッと体を震わせ、僧侶は全速力で走り出した!
「どぅえ!?なんで!?」
リューセイも負けじと追いかける。僧侶は一心不乱に逃げる。
「追わないで下さい!私に宝箱配置人なんて職、荷が重過ぎます!!無理ですよぉ!!」
夜中の街を全速力で駆け抜ける僧侶とそれを追い掛ける学生服の男。それはあまりにも異様な光景で、まちゆく人々は思わず二度見をした。
そんなリューセイの横をなにかが物凄い勢いで追い越した。イズミルだ。ディアゴで例の"獄炎"を噴き出しながら、その勢いを使って一気に詰めてきたのだ。まるでジェットターボだ。
「逃しませんよ!!とりゃあ!!」
イズミルは僧侶の腰元に一気に飛び掛かる!吹き出す獄炎の勢いも相まって、二人はそのままゴロゴロと…まるで火炎大車輪!!積まれた樽にそのままストライクした!
ドガシャーーーーーン!!!
僧侶は目をクルクル回し動かなくなった。イズミルも目をクルクル回しながらも立ち上がる。
「つ…捕まえましたよ…!ディアゴ!103ページ"亀甲呪縛の…"」
言いかけた所でリューセイはイズミルに飛びつき呪縛を中断させた。
「リューセイ様!なんで邪魔するんですか!早く捕まえないとまた逃げられちゃいますよ!」
「おバカ!!それを女性に撃つんじゃないよ!それをやって良いのは魔物とダルさんだけだ!それに彼女はもう動けないって!」
リューセイはジタバタするイズミルを転がった樽に詰め蓋を閉じる。
「ちょ、ちょっとぉ!リューセイ様ぁ!出して下さいよぉ!」
イズミルには一旦ここで静かにしといてもらって…と、リューセイは僧侶に近寄る。まだ目を回して倒れていた。
「おい、大丈夫か!おい!」
俺は僧侶を抱き寄せ揺さぶる。
「うぅ…ん…」
僧侶は徐々に意識を取り戻し薄く目を開け…リューセイに抱き寄せられている事に気付き顔を真っ赤にしていきなり突き飛ばしてきた。
「どわっ!?」
「ななな、なんなんですか!どさくさに紛れて!」
「ち、違う!目を回してたから起こそうと思って!」
そうこうしているとユーリル、ダルクスも駆け付けてきた。
「大丈夫ですか勇者様!」
「ほらみろ、ガキと一緒に居るとロクでもない事しか起きないだろ」
「ガキとはなんですか失礼ですね!私のせいなんですかこれ!」
イズミルは自力で樽から抜け出し不服そうに言う。しかし当のダルクスはお構いなしに僧侶に話しかける。
「さて、僧侶さん。決心はついたかな。半ば強制的で悪いが、貴女には宝箱配置人・魔法補助担当として仲間になって貰う必要がある」
僧侶は手をブンブン振って怯えながら返答する。
「勝手過ぎますよ…!!私なんかに宝箱配置人なんて上級職…務まる訳ないですよ…!!何をやってもダメで…僧侶になったものの、どのパーティーに入っても役に立たなくて…直ぐに戦力外で"馬車行き"…色んなパーティーに呼ばれて何度も冒険に出させて貰って…未だにレベル1だし…!!ビビりだし…弱虫だし…!!」
そう言って涙ぐむ僧侶。何やら今まで壮絶な人生を歩んできたようだ。
そこでリューセイは何かを決心する。
(よし、ここは…あまり使いたくない技なんだけど…出すしかない…!)
リューセイはそんな僧侶の前に行くと両手を握る。
僧侶は驚いて目を見開く。
「大丈夫。これから何があっても君を見捨てたりしない。役に立たなくたって良い。俺達仲間が全力でサポートするから、安心して付いて来てほしい」
そして爽やかな笑顔。
リューセイの周りにキラキラのエフェクトが舞う。
「で、出たぁ!!キラチャーム!!(ヒソヒソ)」
ユーリルは興奮気味に小さく叫ぶ。そんなユーリルにイズミルが疑念そうな顔で質問する。
「き、キラチャーム…ってなんなんですか(ヒソヒソ)」
「あれこそ、コミュ症だった勇者様が長い冒険で培った特殊技!"自分の周りにキラキラのエフェクトを舞わせて虜にする技"です!大体の人間関係の問題はこれで解決します!勇者職を失ってもこの技は忘れてなかったんですね!(ヒソヒソ)」
「え、キラキラするだけ?」
「そうですね!」
「なんなんですかその技…意味あるんですか?」
イズミルはよく理解が出来なかったらしく呆れ顔で眺めている。そんな会話をリューセイは知る由もなく、僧侶を仲間にするべくキラチャームを決め込む。しかしこの技の効果は絶大だったらしい。
「さぁ、君はもう仲間だ。名前を教えてくれるかい?」キラキラ
「…わ…私は"リーサ"。僧侶のリーサです…」
リーサは顔を赤く染めながら潤んだ目で答える。
「じゃあ、リーサ。今から君は僕達の仲間だ。付き合ってくれるかい?」キラキラ
「は…はい…私でよければ…」ドキドキ
こうしてリューセイ達は新たな仲間を迎え入れる事に成功したのだ。これで重要役職は全員揃った。本格的な宝箱配置人としての旅が始められる訳だ。
「なんだこれ」
ダルクスは皆の後ろから冷ややかな目でその一連を眺めるのだった。
続く…