第五十八幕【変化し始める世界】
【サンシタ入江港】
早朝の酒場に新聞を持って席に座ったダルクスはコーヒーを飲みながら新聞を開く。
『巨大タコ・アッコロカムイ
近海に出現!』
そんな見出しの記事を読むダルクス。
『昨夜、バルチェノーツの領海に巨大タコの魔物・アッコロカムイが入り込むという事件が発生。しかし、バルチェノーツ海軍の迅速な対応により被害者は無くアッコロカムイは撃退されたとの事で…』
「へぇ〜…流石、三強の海軍…」
ダルクスはズズ…とコーヒーを飲みながら次のページを開いた。
『バルチェノーツ・陥落!!』
『そんな海の上では右に出る者は居ないと言われていた三強・バルチェノーツ。しかし先程、"魔王軍だ"と名乗る集団からの襲撃を受け、バルチェノーツは呆気なく陥落したという衝撃の情報が…』
「ブーーーーーッ!!!」
ダルクスは口に含んでいたコーヒーをぶちまけてしまう。
ガタッと立ち上がり思わず大きな声を出してしまう。
「バ、バルチェノーツが陥落!!?な、な、な、」
震えながら噴き出したコーヒーでベトベトになった新聞を読み進める。
『魔王軍の指揮を取る自称"魔王"の"センチュレイドーラ"と名乗る魔族はバルチェノーツを世界征服の拠点として占拠。『人間共!叡智に長けた高潔な種族である我々魔族に服従し、この世界を明け渡せ!』と声明を発表しており、街に閉じ込められてしまったバルチェノーツの住民達の安否が心配され…』
「"センチュレイドーラ"…?チッ…余計な事を…。…魔王は勇者が来るまで大人しくしておくのがセオリーだろうが…!!魔王が直々に出て来ちまったら俺達のルートも変わっちまうし………行こう、ポニョ!」
「ポニョン!」
ペロペロと皿に入ったミルクを舐めていたポニョはポーンとダルクスの肩に乗る。
ダルクスはグシャッっと新聞を丸めて席を立ち酒場を後にするのだった。
〜〜〜〜〜
ダルさんにサンシタ入江港の広場に集められた俺 (リューセイ)、ユーリル、リーサにイズミル。
その前に立ったダルさんは話し始める。
「今日はここ、サンシタ入江港の宝箱配置及びクエストの用意だ。そんなに大きくない港町だ。夕方前には終わるだろ。問題はココが終わってからだが…」
ダルさんはイズミルに目配せする。
イズミルは察し、懐からは地図を出し地面に広げる。教鞭も預かり、ダルさんが地図を指しながら語る。
「本来は、ココが終わったら東に進んで【ノーツ村】を経由して【バルチェノーツ】に向かう手筈だったんだが…今朝、バルチェノーツが陥落した」
「えっ!?ど、どーゆう事ですか!?」
いち早くイズミルが反応する。
「魔王軍がバルチェノーツを攻めたらしい。今は魔王も一緒にバルチェノーツを占拠してる」
「ちょ、ちょ、待って下さいよ」
俺が話を止めて口を挟む。
「魔王が直々に動いてるって事ですか?魔王って確か…【宝箱配置人・諜報担当】とかに余計な事しないように引き留められてるって言ってませんでしたか?」
続けてイズミルもダルさんに捲し立てる。
「それに、魔王は【カタラウワ大陸】の最北に城を構えてるって話でしたけど!!移動しちゃったんですか!?」
「待て待て!!一旦落ち着けって!!いいか?こういうイレギュラーな事態ってのは良くある事だ!!とにかく、バルチェノーツが陥落しちまった以上俺達のルートも大きく変わる」
ダルさんは再び地図を指しながら続ける。
「バルチェノーツには勿論近付く訳にはいかねぇ。最悪、魔王がそこを居城として構えるならそこが"ラストダンジョン"となる場合だってある。だが一応、手前の【ノーツ村】には顔を出しておこう。そこはまだ魔王の息はかかってないとは思うが…どんな状況か確認しよう」
「いよいよ魔王が世界を脅かし始めたって感じですね…」
リーサが怯えながら言う。
「そんなすぐ近くに魔王が居るなら勇者様!倒すチャンスじゃないですか!?」
ユーリルが俺の肩に捕まりながら揺すってくる。
「まぁ、待って下さい女神さん。バルチェノーツを陥落させたのが本当に魔王なのかどうかもハッキリしてませんし、ここは慎重に。出来ればリューセイにではなく、勇者クサカベ君に魔王は退治して貰わないとだし…」
ダルさんは何かバツが悪そうに言う。
「バルチェノーツを陥落させる程の力を持ってるんですよね。そんなの魔王くらいしか居ないと思いますけど」
イズミルが呟くと、ダルさんはキッとイズミルを睨み
「うるせぇガキンちょ!!とにかくバルチェノーツは後回しだ!!」
「なんで私にだけ辛辣なんですか!!」
プクッと頬を膨らませるイズミル。
ダルさんは続ける。
「とにかくノーツ村に寄って様子を見て…勇者が立ち寄れそうならそこにイベントを用意しよう。バルチェノーツの近況をそこで勇者に知って貰って…世界の危機を目の当たりにさせちまえば旅の目標も引き締まるってもんだ。そこが済んだら俺達は戻って西に向かい…【メーダ村】を経由して【王都ヤオヤラグーン】に向かう」
「またあっち行ってこっち行っての大変そうなルートですね~」
俺は地図を見ながら呟く。
「魔王が大人しくバルチェノーツに待機してくれれば良いけどな…俺達はサッサと宝箱配置人として勇者のルートを確立するだけだ!そうと分かれば行動開始!!」
ダルさんは半ば強引に話を切り上げてここ、サンシタ入江港の宝箱配置に向かって行った。
イズミルはヤレヤレと首振って、仕事に取り掛かり始める。
俺、ユーリル、リーサも顔を見合わせるも黙って行動を始めるのだった。
〜〜〜〜〜
その頃…【バルチェノーツ】では…
海に隣接し、大きな港には複数の軍船が停まっており厳かな雰囲気漂わせる国【バルチェノーツ】。
三強と言われる3つの国の一つで、海軍の強さで有名な国であったが、今や魔王軍に占拠されその威厳は見る影も無い。
「お、お持ちしました"魔王様"!」
カチャカチャとトレーにミルクティーの入ったティーカップを乗せ、【バルチェノーツ城】の玉座の間に入ってきたのはバルチェノーツ海軍中佐"だった"男【ベートン】。
「悪いな」
玉座に足を組んで座っているのはセンチュレイドーラ。
ベートンの持ってきたミルクティーを受け取り口を付ける。
そんなセンチュレイドーラの足元には四つん這いになり足置きとなっているバルチェノーツ海軍大佐"だった"男【ペンドルトン】。
「魔王様に報告です!えぇ〜…今朝の海戦で撃破され海に浮いていたバルチェノーツ軍の兵士達の棺桶、全て回収し蘇生させました」
「犠牲者は?」
「ぜ、ゼロです!」
「フフフ…我ながらスマートな戦いに自惚れてしまうな!!フハハハ!!」
そう言って高笑いするセンチュレイドーラ。
「どういうつもりだ?」
四つん這いになりながらペンドルトンが言う。
「敵軍の犠牲を出さずに蘇生させるとは…一体どんな意図で…」
「お前達人間はすぐ"殺せば良い"と思うからダメだ。私達はそんな低能な考えは持ち合わせていない。犠牲者を増やしてもなんのメリットも無いからな。私達で再教育して…服従させてしまえば我々はその分強くなるのだ」
「さ、流石…魔王様!!」
ベートンは目を輝かせて崇拝している。
「オイ!!ベートン中佐!!ふざけるなっ!!魔族なんぞに簡単に尻尾振り回しt…ゴフッ!!」
ドーラのブーツのヒールが背中に食い込む。
「あんたもサッサと服従した方が楽だぞ〜?そんなしょーもないプライドなんかなんの役にも立たないんだから。我が直ぐに踏みにじってやる!フハハハ!!」
そう言いながらグリグリとペンドルトンにヒールを捩じ込ませるドーラ。
「クソォ!!!何たる屈辱!!!」
ペンドルトンは床を拳で叩いている。
そんな時、玉座の間に魔王軍の兵士長が入ってくる。
「姫…魔王様!!ご報告です!!」
「どうした?」
「バルチェノーツの城下町は魔王軍が全て制圧。街人の抵抗もありましたが難なく抑えました!!」
「犠牲者は?」
「魔王軍、バルチェノーツの国民共に居ません!!」
「良くやった!住民達は労働力になる者、兵士になれそうな者、教育が必要な者で分けておけ」
「ハッ!!」
「いい?脅したり脅迫したり怖がらせてはダメだぞ。人間は異常なまでに繊細で壊れやすいんだから。魔王の元に付いて居た方が幸せなんだ安全なんだと思わせるんだ」
「そ、そんなので良いんですか?」
「良いんだ!」
「は、ハッ!!」
兵士長は敬礼して玉座の間を出ていった。
(全く…なんなんだコイツは…!ほんとに"魔王"なのか…?俺の想像していた魔王とはなにもかもが違う…。コイツの行動…我々人間も見習うべき…)
ペンドルトンはそんな事を頭で思い、ハッと首を振る。
(騙されるな!!何か狡猾な意味があるんだ!!俺は騙されんぞ!!)
「魔王様、おかわりいかがですか?」
「うむ、頂こうか」
「ベートン!!魔王にゴマするんじゃねぇ!!ギャフ!!」
「うるさい!サッサと服従しろ大佐!」
ドーラはそう言ってペンドルトンを再び踏み付けるのだった…
続く…
 




