第五十六幕【海戦!バルチェノーツ】
【魔王城・城下町の港】
紫色の海に浮かぶ大きな戦艦【センチュリーシップ】。その手すりに登り港を仁王立ちで見下ろすセンチュレイドーラ。
港にはいよいよ人間界に出陣をしようとするドーラを祝う為に多くの国民が集まっている。
「ひめー!!必ず勝ってきて下さいねぇー!!」
「無理せず、ダメだと思ったら帰ってくるんですよ姫〜!!」
「パンツ見えてるぞ姫ー!!」
そんな歓声に向かって、ドーラはメガホン型のマンドラゴラを構えて叫ぶ。
「ひめひめ言うな!!!魔王様と呼べって言ってんでしょ!!!」
その観衆の中にはババロアも居た。
心配そうにドーラを見つめていた。
「姫様…ほんとに大丈夫じゃろか…いざって時に抜けとるからなぁ、あの方は…」
「心配するな国民達!!直ぐに人間界を制圧し、美しく広い世界を我らのモノに!!フハハハハ…!!」
クルッと手すりから降りようとするドーラ。
「…ヒャッ!!」
しかし、足を滑らせて船外に落ちるも咄嗟に手すりを掴み、宙ぶらりんになるドーラ。
ザワッ
先程までガヤガヤしていた国民達は一斉にシンッと肝を冷やす。
手すりをなんとかよじ登り船内に戻るドーラ。民衆に振り向きコホンと咳払いすると
「…パフォーマンス!!」
と、両手を大きく掲げた。
「「「おぉ〜〜〜!!!」」」
パチパチパチ
民衆は大いに沸くのだった。
ババロアだけは頭を抱えて首を振っている。
「見ちゃあおれん…」
ドーラは近くの魔王軍兵士に指示を出す。
「よし、出港だ!ゲートを開けろ!」
「ハッ!!」
兵士は敬礼し、他の兵士達に伝令に向かう。
「最初のターゲットは"三強"と言われる軍事国家の一つ【バルチェノーツ】だ!!我らの軍事力の方が上だと言う事を見せ付けてやるのだ!!!」
港から少し離れた海上に大きく四角く切り抜かれたオブジェのトンネルが建っており、そこに向かってセンチュリーシップは進みだす。
ドーラは最後まで見送る国民達に手を降る。
「良い知らせを引っ提げて帰ってくるからなぁ〜!!お土産なんかも沢山用意しておくからなぁ〜!!」
「ゲートが開きまーす!!!」
兵士の1人がそう言うと、切り抜かれた四角くのオブジェのトンネルの中でグルグルと紫色のモヤが発生、バチバチと雷鳴と稲光が発生している。人間界に行く為のワープゲートと言ったところか。
センチュリーシップはそれに向かってズンズンと進んでいく。
「待っとけよ人間共ー!!魔王が直々に襲いに来るなんて夢にも思うまい…!!フハハハー!!!」
「ひめ…魔王様…!ゲートに突入しますよ!!」
センチュリーシップはブォ〜ンと大きな汽笛を響かせゲートを通り抜ける。通り抜けた船体はそのままその場から消え去りその瞬間ピタッと音が止み、魔界は静寂に包まれるのだった。
「姫様…。どうかご無事で…」
湧き上がる民衆の中でババロアは両手を握りドーラの無事を祈るのだった。
〜〜〜〜〜
【バルチェノーツ】
【バルチェノーツ海軍基地・執務室】
「た、た、大変です!!!大佐!!!」
執務室に慌てた様子で飛び込んで来るバルチェノーツ海軍中佐・ベートン。
机について書き物をしていた大佐・ペンドルトンは驚いた様子で問い掛ける。
「落ち着け。どうした?」
「ふ、船が…!!国籍不明の船が領海に侵入との情報が…!!」
「…なんだ、良くある事じゃないか。旅人か商人の船が迷って入ってきただけだろう」
そう言ってペンドルトンはペンを再び走らせる。
「いえ、それが…真っ直ぐバルチェノーツに向かって来ていると…」
「何隻だ?」
「一隻ですが…」
「フン、一隻で何が出来る。何かしようものならバルチェノーツ海軍総出で迎え撃ってやる。今朝の大ダコのようにな」
「し、しかし…!その一隻がその…見たことがないデカさの鉄の船で…!!」
「…なに?」
ペンドルトンは走らせていたペンをピタッと止め、ベートンに向き直る。
「はい…我らバルチェノーツ海軍一大きい船をも遥かに越える大きさです!!」
「そんなバカな…」
ペンドルトンは椅子から立ち上がり執務室を出て行く。
「大佐…!!」
「とにかく私もこの目で見たい。港に行くぞ!」
そう言ってペンドルトンとベートンは港に急ぐのだった。
〜〜〜〜〜
「上手くバルチェノーツ近くにワープ出来ましたね。見てくださいひ…魔王様!前方にバルチェノーツが見えてきました!」
センチュリーシップから望遠鏡を覗きながら言う兵士からドーラは望遠鏡を奪い覗く。
「フ…いよいよね…この船を見て人間共はどういうリアクションを取るかしらね?」
ドーラは望遠鏡を覗きながらしたり顔な表情をしている。
徐々にバルチェノーツへと近付いて行くと、港から海軍の船が何十隻も出港し港を守るように陣形を組んで停まる。
それに対してセンチュリーシップは横を向く形で沖に停泊した。
バルチェノーツの港からその光景を眺める海軍兵士や街の住民達は、沖に停泊するセンチュリーシップを見て、遠近感が狂ってしまったと思う程のセンチュリーシップの大きさに恐怖した。
「フハハ…驚いてる驚いてる。よし、汽笛を鳴らしてもっと驚かせてやれ!!」
指示を受けた兵士によって、センチュリーシップは大きな汽笛を響かせた。
ブォーーーーーン!!
その不気味で低い汽笛は離れた港まで余裕で響き、振動まで伝わってくる。
「よし、充分注目を集めただろう。マンドラゴラを用意しろ!」
兵士にそう言って、メガホン型のマンドラゴラを渡されるドーラ。根っこの部分をクリッと捻り、最大出力にして話し始める。
「あー!あー!…えぇ〜我らは魔界から人間界を掌握する為にやって来た魔王軍だ!!そして、我は魔王軍最高指揮官にして魔王に襲名した【センチュレイドーラ】である!!聞こえているか人間共!!」
ドーラは一拍置いて続ける。
「我らはこの世界を魔族の管理下にする為にやってきた!!しかし、無益な血を流すつもりはない!!大人しく降伏し、バルチェノーツを明け渡せ!!そうすれば手を出さないと約束しよう!!」
港に停泊する船の中でも一際大きな…とは言ってもセンチュリーシップと比べたらまだまだ小さい船…ペンドルトン達を乗せたリーダー船が前に出てくる。
「魔王が直々に出てくるなんて…聞いてないですよ!?」
リーダー船に乗船している中佐のベートンが予想外の展開に狼狽えている。
「ええい、怯むな!!相手がどうであれ、ここは海の上!!バルチェノーツ海軍が海の上で遅れを取るハズがないのだ!!」
ペンドルトンはそう言って、何かの魔法駆動の四角い機械をランドセルの様に背負った通信兵からそれに繋がっているトランシーバー型の通信機を受け取り、それを口に近付け話し始めた。
「貴様ら!!ここが軍事国家三強にして、海軍の強さに定評があると名高いバルチェノーツと分かっての狼藉か!!」
「我らは争いに来た訳ではない!!話し合いで解決出来るなら、それにこした事はないのだ!!」
「やかましい!!!魔族どもと交渉するつもりはない!!バルチェノーツの海域に侵入した事を後悔させてやるぞ!!直ちにこの海域から離脱しろ!!」
「従った方が身の為だぞ!!この超戦闘特化型鉄船舶【センチュリーシップ】の前では、そんな木製の帆船など豆腐を潰す様なものだぞ!!」
しかし、そんなドーラの言葉に聞く耳を持つハズがなく、ペンドルトンは周りの仲間の船に戦闘態勢に入る様に指示を出す。
「フッ…バカめ。それだけデカい船の側面をこちらに向けるとはな。良い的じゃないか。あれに目掛けて一斉砲撃だ!!大砲用意!!」
ドーラも望遠鏡でバルチェノーツ海軍が戦闘態勢に入るのを確認する。
「…全く…やはり人間は争いを好む血の気の多い種族だ。穏便にとはいかないな。そっちがその気なら…」
「ひめ…魔王様!!相手が仕掛けてきます!!船内にお入り下さい!!」
兵士に言われ、ドーラは一旦船内に入る。
「大佐、攻撃準備出来ました!」
「よし、これだけの数の軍船の一斉攻撃、例え鉄の船とて無傷では済まんだろう」
ペンドルトンは片手を上げる。
「先手必勝!!勇者には悪いが、魔王をここで討ち取ってしまえばバルチェノーツが三強の中で一番強いと証明されるだろう!!」
そう言い、ペンドルトンは上げた手を振り下ろす。
「砲撃ーーーーー!!!!!」
その合図と共に、バルチェノーツの軍船から一斉に大砲が発射された!
ドドドドーーーン!!!
放物線を描き、発射された無数の砲丸はセンチュリーシップ目掛けて…
ガキンガキンガキン!!
船体に当たった砲丸は、そんな金属がぶつかる音を上げただけで船体に穴を開ける事もなく海にポチャンポチャンと落ちていった。
「ガッ…」
その光景にペンドルトンは口をあんぐりと開けてしまっている。
「ブワッハッハッハ!!!ヴワァカめ!!!お前らの攻撃がこのセンチュリーシップちゃんに効くと思うかっ!!」
攻撃が収まったのを確認し、再び甲板に出たドーラはここぞとばかりに勝ち誇った後、片手を上げた。
「それではコチラのターンだ!!発射用意!!」
ドーラの合図を皮切りに、センチュリーシップの甲板に備わった巨大な砲身数基がゴウンゴウンと音を響かせバルチェノーツの軍船の方を向く。
「攻撃、来ます!!」
ベートンはペンドルトンに焦りを見せながら叫ぶ。
「だ…大丈夫だ!!海戦ではコチラが圧倒的に経験豊富なのだ!!攻撃をかわす事など簡単なこと…!!」
軍船は攻撃を受けない様にバラバラと散らばる。
「反撃ィィィーーーーー!!!!!」
ドーラが上げた片手を振り下ろした瞬間、バギョーーーーーン!!!と聞いた事のない音を立て、発射されたのは砲弾…ではなく紫色に光る何本もの高出力ビー厶だった。
ビームを吐き出しながら砲身が左右上下に動く。
それに合わせビームは蛇の様にムチのようにウネウネと動く。
何本ものビームはその動きで何隻もの軍船を貫き、巻き込み、薙ぎ払い、木っ端微塵に吹き飛ばした。
そのたった一瞬で、バルチェノーツ海軍はペンドルトンの乗る船一隻だけを残し壊滅してしまった。
「……………ッ」
ペンドルトンは膝から崩れ落ち、口を開けるも言葉が出て来ない。その圧倒的な戦力差を見せ付けられれば無理も無かった。
「ウハハハハ!!!これがセンチュリーシップの力だ!!思いしったかぁ!!ワッハッハ!!」
ドーラは腰に手を当てて高笑いしている。
「なんだ…コレ…こんな…こんな…デタラメがあって良いのかぁぁぁぁぁ!!!」
そう言って、床を殴り泣いているペンドルトンの後ろから、大きな白旗を持ったベートンが走ってきてセンチュリーシップに向かってその旗を振った。
「負けましたーーー!!!バルチェノーツは今日から貴方達のものでーーーす!!!」
【バルチェノーツ 陥・落!!!】
続く…




