第五十五幕【悩める姫と悩ます王子】
【魔界・魔王城】
城内の廊下をカツカツと進むセンチュレイドーラ。
その後ろからは側近のババロアと隣国の王子ゼルベクトカートスが付いてくる。
「姫様!やはり考えを改めませんか?貴女は魔王である前に姫様なんですぞ!姫が先陣を切って争いに向かうなど聞いた事がありません!いや、魔王だとて聞いた事ないです!」
「しつこいババロア!今更引き返せるか!今日はいよいよ人間界に赴き、軍事国家バルチェノーツに宣戦布告するんだ。あの超戦闘特化型鉄船舶【センチュリーシップ】でな!」
「ドーラ…。ババロア様に心配をかけるんじゃないって。君の事を心配して言ってるんだから」
「ゼルカス!!なんでアンタまたここに居んの!?」
「僕は君の側にいつでも居るさ…」
そう言ってカートスは前髪をかき上げる。
「姫様、歴代の魔王様達に恥をかかせないで下さい。全てしきたりの通りに…」
ドーラはピタッと歩きを止め、ハァと溜息を吐いて二人に向き直る。
「あのねぇ。だから、そのしきたりのせいで今まで上手くいって無かったんでしょ!?これからは"待つ時代じゃなくヤる時代"なのよ!!これは"魔王改革"よ!!」
バーン!!!
…と、ドーラはドヤ顔でカッコつけて言ったつもりだろうがババロアには全く刺さっていなかった。
そして、カートスは憐れんだ顔で首を降る。
「ゼルカス!!あんたはそんな顔すんな!!」
「ドーラ…。僕は君が決めた事は極力尊重するさ。でも…僕らが愛を育んだ後でも遅くはないだろう」
「そうですぞ姫様!せめて、この城の跡取りをこさえてからでも遅くはないでしょうに!!」
「またその話!?」
ドーラはうんざりといった様子で顔を引き攣らせる。
「そんな顔をしないでくれドーラ…」
跪いてドーラの手を取り握るカートス。その顔はいつになく真剣だ。
「な、何よ…」
「何も僕もババロア様も私利私欲の為に言ってるんじゃないんだ。君の身を案じて…この国の将来を案じての事なんだ。それを分かってくれ」
「へぇ〜?」
「僕は君を…この国を救いたい一身なんだよ。王を失って僕の国に統合されそうになったこの国を姫一人で切り盛りした君の意志を尊重したい。だから僕も一緒にこの国を守ってあげたいんだ。それにはまず、君と結婚してこの国の王子にならないと…」
握ったドーラの手の甲を頬でスリスリするカートス。ドーラはバッと手を引いて嫌そうに手の甲を擦る。
「…アンタにしては真面目な事言うわね…」
ドーラは少し考え込んで、続けて口を開く。
「分かったわ。ゼルカス、アンタにチャンスを上げる」
それを聞いてカートスはバッと立ち上がり興奮気味に答える。
「な、なんだい!!君の為ならなんでもするよ!!」
「アンタがほんとに私の事、この国の事を真剣に想ってくれてるなら…その想いに応えてあげても良いわ」
カートスはそれは嬉しそうに再びドーラの両手を握る。
「ほ、本当かい!?ぼ、僕はいつでも真剣だよ!!ほら見て!僕の真剣な眼差しを!!」
カートスは瞳をキラキラさせる。
「キモ」
辛辣にも一言で一蹴したドーラはババロアに目をやり続けた。
「ババロア、水晶玉持ってる?」
「えぇ…。まぁ…」
そう言ってババロアは懐から占い師が使いそうな水晶玉を取り出す。
ドーラはその水晶玉を預かった。
「これはね、その人の本音を引き出す事が出来るの。ゼルカス、アンタこれ持って、私への気持ちを強く想ってみてよ」
「なんだ、そんな事か!僕がどれだけドーラに対して真剣か、コレで伝わるならお安い御用さ!」
嬉々として水晶玉を預かるカートス。
目を瞑り、水晶玉に念を送る。
すると、水晶玉は次第にカートスの心の声を流し始めた。
『……して……から……僕はドーラの首元に優しくキスをした。嫌がる素振りを見せるものの吐息は甘く切なそうに漏れる。そのまま下へ下へと唇を這わす度にドーラはよがり…』
パリーーーン!!!
カートスは間髪入れずに水晶玉を床に叩きつけた。水晶玉は粉々に砕け散った。
「何ですかな?今の下手くそな官能小説みたいなのは」
「…ババロア様。水晶玉などで僕の本当の気持ちなんて伝わらないですよ!ねっ!?ドーラ!」
ニコッと振り向くカートスの顔面に右ストレートを喰らわせるドーラ。カートスは鼻血を吹きながら放物線を描いて床に倒れた。
「死ねゼルカス!アンタは二度とこの城の敷居を跨ぐな!!」
「ツツ…ど、ドーラ!!違うぞ!!僕は本当に君の事を…!!」
「うるさいゼルカス!いい加減にしないとほんと、アンタんとこのお父様に言いつけるわよ!?」
「そんな事言ったってぇ〜…父さん公認みたいなものだし…それは無駄じゃないかなぁ…」
「ハァ〜?」
〜〜〜〜〜
【カートスの回想】
『父さん、今日はドーラに会いに行ってきます!』
『おう、そうか!いい加減ドーラちゃんをモノにしろカートス。あんな可愛らしい姫を嫁として迎えられたら、ワシも…いや、この国も鼻が高いぞ!』
『えぇ!必ず我が妃として迎え入れてみせますよ』
『良いか?ああいう気の強いタイプは逆に押される事に馴れてない場合が多い!二人きりになったらいきなりギュ~っと抱き締めてだな、そうだな…ワシなら唇を奪うな。そしてそのまま押し倒してやれ!』
『なるほど!!』
『お前なら出来る!ヤれ!息子よ!ドーラちゃんを丸裸にしてやれ!!色んな意味で!!』
『ハイッッッ!!』
〜〜〜〜〜
「…ってな感じで。父さんもノリノリだったからなぁ…」
それを聞いてドーラは怒りでプルプルと震える声で口を開く。
「…まずはアンタの国から滅ぼしたろかっ…!?」
「まぁまぁ、姫様」
ババロアは必死にドーラをなだめている。
「ま、とにかくそういう事だドーラ!君の2つ返事でいつでも僕らは繋がれるんだ。今日はコレでおいとまするけど、僕は諦めないからね。また来るよ!ハハハ…」
カートスはそう言って、高笑いしながらマントを翻して去っていった。
「二度と来るな!!…ババロア!!塩!!」
「ハイハイ…」
ババロアは再び、何故持ち歩いているのか、懐から塩を取り出す。
ドーラはそれを奪い取って廊下に塩を撒くのだった。
「好かれてるんだから良いじゃないですか…」
「アイツに関しては嫌われてた方がマシだ!!」
「ヤレヤレ…」
「全く…余計な時間を取ってしまった…。さぁ、行くぞババロア!鉄船舶を停めてある発着場に!!」
そう言ってドーラは踵を返して廊下を歩き出す。
…が、割れた水晶玉で足を滑らせてすっ転んだ。
「ギャフン…!!」
「姫様…ほんと決まらな…」
「うわっ!!ペッペッ!!しょっぱ!!塩が…!!」
「姫様…ほんと考え直しましょうよ…貴女には荷が重いですって…」
ババロアの心配はまだまだ続きそうだ。
【次回、センチュレイドーラ人間界へゆく!】
続く…




