第五十二幕【ループ・ザ・フープ】
「それは確かに私も不思議に思ってました」
ユーリルがそう言った。
船の甲板の上で俺 (リューセイ)とリーサ (フンまみれ)は宝箱配置人が何故他のファンタジー世界にも存在していたのかをユーリルに尋ねていた。
「明らかに前の世界にも宝箱配置人は存在したと考えて間違いは無さそうです…う〜ん…可能性としては、その役職がファンタジー世界には重要だと、"前任者"が判断したのでしょうね。だから他のファンタジー世界にも配備されたって事で…」
「前任者って?」
俺はユーリルに質問を返す。
「前任者は私の前にファンタジー世界を管轄していた女神…【ミカエル】さんです。今は"上"に上がられて、まぁ言わば私達女神の直属の上司になりましたけど」
「ふ〜ん…」
「まぁそこに大した理由は無いと思いますよ?こういう事って結構あるんです。私達は常により良い世界にしようと試行錯誤してますから。他の世界で試して良かった者を他の世界にも持ってくるっていうね」
そんな話をしていると、船内に続く扉からイズミルが慌てた様子で出てきた。
「リューセイ様!見て下さい!!ランキング1位になりましたよ!!」
そう言ってイズミルが貸していたスマホを誇らしげに掲げてくる。
先程、イズミルは俺のスマホにダウンロードされていた芋虫のアイコンのアプリに興味を示した。
【芋虫を操作して他のライバル芋虫の邪魔を避けつつ餌を食わせて大きくする】というなんて事のないゲームをイズミルはひどく気に入ったようで、食い入るように遊んでいた。オフラインでコンピューターと遊んでもそんなに面白くないゲームだけど…イズミルには充分みたいだった。
「そんなに楽しいか?」
「すっごく!!」
イズミルは目をキラキラ輝かせて楽しんでいる。
「じゃあ次は1万点を目指してみな」
「ニシシ!任せて下さい!絶対いってみせますよ!!……………ところで、リーサさんは何故そんなに汚れてるんですか?」
「海鳥にフンを落とされて〜…」
「あれ?回復呪文で綺麗に出来ますよね?」
「…あっ」
リーサはハッとして、回復呪文を自分にかけた。
汚れは直ぐさま綺麗になった。
「あ、アハハ…!うっかりしてました私…!」
そうなのだ。回復呪文は身体だけじゃなく服の傷や汚れも綺麗にしてくれるんだった。
「リーサ…僧侶なんだからしっかりしてくれよな〜」
「たはは〜…面目ないです…」
リーサは恥ずかしそうに頭をかいている。
そんな時、ホロッホー!ホロッホー!と、一羽の白鳩が鳴きながらバサバサと飛んできたかと思うと、リーサの肩にとまった。
「いやぁ!?なんですか!?」
バタバタと暴れるリーサの肩に止まる白鳩をよく見ると、巻かれた手紙を首から提げていた。
「なんだ?伝書鳩…?」
俺はそう言って鳩の首から手紙を取る。
「この白鳩は…宝箱配置人協会の伝書鳩です!滅多に本部から手紙が来たりとかないハズですけど…なんでしょうか?」
イズミルがそう言った。
宝箱配置人協会の本部からのメッセージ…只事じゃなさそうだけど…俺は取り敢えずその手紙を読んでみた。
「なになに…『北西の鉄塔が機能していない可能性アリ。直ちに近辺の宝箱配置人は調査を行って下さい』…?なんだ?"北西の鉄塔"って?」
「北西の鉄塔が機能してない!?大事じゃないですか!!!ダルクスおじ様に伝えないと!!」
イズミルがそう言って船内のダルさんを呼びに行こうとしたその時、丁度ダルさんが船内から出て来た。
「おいお前達、そろそろサンシタ入江港に着くみたいだぞ。港に入る準備しとけ〜?」
「そんな場合じゃないですよ!宝箱配置人協会から伝書です!『北西の鉄塔が不具合を起こしてる』って!」
イズミルは慌てながらダルさんに伝えている。
「ハァ〜??これから着港だって時に…」
ダルさんはムスッとした顔になり頭を搔いて船内に戻っていく。
イズミルがその後をついて走って行く。
残された俺、リーサ、ユーリルも顔を見合わせ黙って付いていった。
〜〜〜〜〜
【ラグジュアリー号】
【船内・会議室】
会議室の大きな机いっぱいに世界地図が開かれている。
それを眺めながらダルさんとイズミルがあーだこーだと話し合っている。
「なぁ?一体どうしたんだよ?北西の鉄塔ってなんだ?」
俺が何がなんだかと、説明を求める。
しかし、それよりも気になるものが目に入ってギョッと、そちらに目を持っていかれる。
それは机の上の世界地図…
イズミルが良く開いて見せてくれていたこの世界の世界地図とは地形も大陸も全く違った世界地図が開かれている。
「な、なんだ?コレ…どこの世界の地図だよ!?」
「何処のって…この世界の地図だよ」
ダルさんが言った。
いや、そんな訳…じゃあイズミルが持っていた世界地図は…
「あぁ…もしかしてリューセイ様が不思議に思ってるのはこの地図のせいですかね?」
イズミルが察して、いつも開いて見せてくれていた地図を懐から取り出して机の上の世界地図の上に一周り小さい地図を開いてみせる。
見比べるとやはり、大きい方と小さい方の地図は大陸の数も、地形もなにもかも………ん………?
「リューセイ様に見せていた世界地図はこの大きい世界地図の…この部分を拡大した地図になります」
イズミルが教鞭で指しながら言う。
確かに教鞭で指されている大きい方の世界地図の一区画には微妙に大陸同士の距離や大きさが違うものの確かに丸々載っていた。
「いつも見てたのは拡大図だったのかよ!?知らなかった…もっと世界は広かったんだ…」
「そうです!ただ、私達が宝箱配置人として旅をするのはこの小さい地図の区画だけ…勇者が冒険するのもこの小さい地図の区画だけ…魔王が悪さをしているのもこの区画だけで…」
「ちょ、ちょっと待て!!」
俺はツラツラと続けるイズミルを静止する。
「また色々初耳な事が乱立してる訳だけど…魔王が悪さをするのがこの区画だけって何で分かるんだよ?」
「良いですか?魔王は"この世界はこの小さい方の区画のみ"だと思い込んでます!でも実際は世界はそれの何十倍も広いんですけどね」
「なんでそんな…」
「被害は少ない方が良いでしょう?この小さい世界しか知らない魔王はここだけを襲ってきます。…でも適当にこの区画を選んだのではなくて、この世界の"三強"と呼ばれる三つの軍事国家【デルフィンガル】【ソウルベルガ】【バルチェノーツ】…がスッポリ収まっているんです」
「どうやって魔王に勘違いさせてるんだよ?そんなの簡単に見破られるんじゃ…」
「そこは徹底してます。例えば…宝箱配置人・諜報担当に情報操作やスパイ活動をしてもらってますし…この大きい方の世界地図を持って良いのは私達宝箱配置人のみだったり…」
「そんな事言ったって、この区画から魔王が飛んで出ていったりした場合どうするんだ?すぐ違和感に気付かれるだろ!!『あれ?他に大陸があるぞ!?俺の知ってる世界と違うぞ!?』って!」
「そうならないように"鉄塔"があるんです!!」
そう言ってイズミルは、小さい方の地図の四隅を教鞭でトントントントンと叩きながら続ける。
「この区画の…世界地図の角っ子ですね。ここには鉄塔がそれぞれ海上に立っています。【ループザフープタワー】略して【鉄塔】と呼ばれてますが、この鉄塔のおかげでこの区画は隔絶されているんです」
「隔絶…?」
「例えば…北からこの区画を出ようとすれば…あら不思議!南から出てきちゃう!」
「…はぁ?」
「西から区画を出ると…東から出てきちゃう!…つまり、通り抜ける許可を持ってない人はこの区画をループするようになっているんです。知らない人は『世界を一周した』なんて思うでしょうね!」
「そ、そんな事が…!」
「魔王を出さない為だけじゃなく、勇者が区画を出てしまわない為でもあるんですけどね。あっちこっち行かれたら私達も困っちゃいますから」
いや…確かにこれで腑に落ちた事がある。俺が元々見ていた世界地図…縮尺がおかしいと思ってたんだ。明らかに近い地域に何日もかかったり、遠いと思ってた場所がそんなに遠くなく感じたり…
世界地図っぽく大陸が引き伸ばしたり縮められたりズラされたりした偽りの地図…
勇者には世間知らずが多いと聞く。人目に付かない村の出身だったり、異世界から転生されたりする理由も【世間知らずだから】なのだろう。その方がこういった違和感に気付きにくいからか。
「…だから北西の鉄塔が機能してないというのは大事なんです!それってつまり、行き来自由になっちゃってるって事です!」
そこでダルさんも付け足すように口を開いた。
「…んで、今北西の鉄塔に一番近いのが俺達って訳だ…チッ…面倒くせぇが行かなきゃな。サンシタ入江港に着港するのは後回しだ!!取り敢えず北西に向かって行くぞ!!」
そうして俺達の船は踵を返し、北西に向かい始めたのだった。
なぁ、宝箱配置人はどれだけ俺を驚かせば気が済むんだよ!?
もうビックリするような事は無いよな!?出し切ってくれたよな!?
続く…
 




