第四十四幕【後悔先に立たず】
その頃【ムジナ村】では…
「精が出ますなぁシスター」
「いえいえ、これも仕事の内ですから」
村人の男性に言われながら、シスターは先日屋根をゴッソリ破壊された教会の後片付けをしていた。
まだ屋根も取ってつけたように木材で簡単に修復しただけでボロボロだったが、なんとか教会のテイをなす程にはなった。
「神父様が留守中…なんとしても私が教会を守り抜かないと…」
そう呟きながらシスターが瓦礫を運んでいると…
ヒュルルルルル〜…
と何やら上空から音が近付いてくる。
「な、何…?」
シスターが空を見上げた瞬間、見たことがない"鉄の塊"が教会の上にドガシャァァァーーーン!!!と落ちてきて、そのまま教会を押し潰し全壊させてしまった。
ポカン
「……………」
シスターは呆気に取られて、持っていた瓦礫をバラバラ…と落としてしまった。
ハッと意識が戻り状況を飲み込むと…シスターは被っていたシスター頭巾を地面に投げつけた。
「あ、アハハハハ!!もう辞めまーす!!シスター辞めまーす!!」
シスターは何かが壊れてしまったみたいだ。
〜〜〜〜〜
リューセイ、リーサ、イズミルの3人が集まる。
「みんな、無事か?」
リューセイに聞かれリーサとイズミルは頷く。
「それにしても、ダルさんとユーリルは大丈夫かな?」
「ふわぁ〜〜〜…」
そんな心配をよそに、フラフラとユーリルがリューセイ達の元へ飛んできた。久しぶりに姿を見せる生身のユーリル。
「ユーリル!どこに行ってたんだ?」
「どこにって、私も一緒に射出されて吹っ飛ばされて…粒子化されて散らばった身体を集めて元に戻すの大変だったんですから…それにしても…う〜〜〜ん!!久し振りの娑婆です!!」
ユーリルは背筋を伸ばして言う。
「取り敢えず無事で良かったよ。消し飛んで死んじまったかと思った」
「女神が死ぬ訳ないでしょうが!!もう既に幽霊みたいなもんなんですから」
「それ自分で言っちゃうのかよ…。女神としてのアイデンティティーはねぇのか」
「とにかく、次に安否を確認すべきはダルクスおじ様ですけど…」
イズミルが言ってキョロキョロと辺り見渡すと…
「あっ…」
何かに気付いた様に声を漏らした。
リューセイ、リーサ、ユーリルもイズミルが見ている方向に視線を配ると…
ダルクスが何事も無かったように荷車を引きながらこちらに向かって歩いてくる。何かを蹴り転がしながら。
リューセイ達は駆け寄った。
「ダルさんも無事だったんですね!!」
「ダルクスおじ様、大丈夫だったのですか?センチャリオット一機を引き付けてたハズですけど…」
イズミルは疑問を投げかける。
「あぁ。それってコレの事か?」
ガン!と、先程まで蹴って転がしていた鉄のボールをつま先で小突く。イズミルが目を細め問い掛ける。
「…なんですかソレ?」
「センチャリオットをこねて丸めたもの」
「あんた一体何をしたんだ!!」
リューセイは思わずツッコんだ。
「んなこたぁどうでも良いんだよ!ったく、時間取られたぜ…サッサとアカシータに行くぞ」
ダルクスはそのまま街道に向けて歩き始めてしまった。
これ以上は何も語るつもりはないと。いつもの事だ。
リューセイ達は顔を見合わせて…黙ってその後を付いて行くのだった。
〜〜〜〜〜
イズミルの【畳返しの章】によってひっくり返った【センチャリオット一番機】。側面の鉄の扉がガン!と勢い良く開く。
スパイロズの足が見えている。
どうやら歪んだ扉を蹴り開けたようだ。
その内、スパイロズとゲルトニーがズルズルと這い出てくる。
スパイロズの片手にはハンドベルのようなものが握られていた。"通信ベル"。無線機のような役割があるものだ。
それをチリンチリリンと鳴らし、マイクの様に口元に近づけスパイロズは話し始めた。
「コチラ…チャリオット隊アプリコット…!!バクベドーア大陸・オボロックル地方・アカシータ貿易港周辺にて勇者を発見!交戦しましたが、部隊壊滅!繰り返す、部隊壊滅!どうぞ!」
通信ベルは魔界の魔王城に設置された作戦本部に繋がる。スパイロズは耳元に通信ベルを近付ける。本部からの声が聞こえる。
『ナニィ!?勇者はまだ低レベルのハズだろう!?』
「勇者も何やらコチラでは計り知れない兵器を持っていた模様!仲間3機がその兵器に為す術もなくヤラれてしまったようです!その勇者の仲間達も低レベルとはかけ離れた強さでした!!何もかも聞いていた情報と違った!!どうぞ!!」
『クソ…!わ、分かった!この事は姫様にも報告する!そちらは生き残っている者を集めて待機せよ!衛生兵をそちらに向かわせる!怪我を治療したらそのまま魔界に帰還せよ!』
「りょ…了解…!」
そうして通信は切れた。
「な、なんて?」
ゲルトニーが問い掛ける。
「帰還だ!とにかく、作戦を改めて組み直す必要がある…!他のチームにも忠告しておかないとな…!!」
「うぅ…まるで悪夢のような一瞬だったっぺ…」
二人はカクッと首を落とし、そのまま衛生兵が来るのを待ち続けるのだった…。
〜〜〜〜〜
そんなこんなでリューセイ達は、ようやっと【アカシータ貿易港】に戻って来たのだった。
「ガキンちょ、オメェは町長んとこ行って黄金のハープを無事に設置してきた事を報告してくれ」
「了解しました!」
ダルクスに言われイズミルはビシッと敬礼して、タタッと町長のとこに駆け出していった。
「魔王軍に襲われたとは思えない切り替えの速さですねぇ…。宝箱配置人ってのは…」
ユーリルがボソッと呟く。
「そういや、大海原に出るって、俺達の船はあるのか?」
「あるぞ。付いてきな。ここの港に俺の愛船が停めてあるんだ」
ダルクスがそう言って港に向けて歩き出した。リューセイとユーリル、リーサはそれに付いて行く。
港に近付いていくと、何やら人だかりが出来ている。何かあったのかザワついている。
「どうしたんでしょうか?」
リーサが首を傾げながら呟く。
「はいはい、通るぞ通るぞ〜」
ダルクスは人混みを掻き分けながら進んで行くと…その先に待ち受けていたのは…
「な、な、な、なんじゃあこりゃあぁぁぁぁぁ!!!!?」
ダルクスが驚嘆の声を上げた。
目の前には一隻の船が真ん中から折れて船首と船尾だけを海面から出して沈んでいた。
「ま、まさか…」
リューセイは言ってダルクスをチラ見する。
「俺の船がぁぁぁぁぁ!!!!!愛しの【スーパーシガレット号】ぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
「やっぱり…」
リューセイの考えた事は当たっていたようだ。どうやら犠牲になったのはダルクスの船…
ダルクスは近くの住人の胸ぐらを掴んでブンブンと振り回しながら問い掛ける。
「誰だ!!誰がこんな事を…!!いや、言うな!!ベンゾだな!?ベンゾがやったのかぁ!!?アイツら〜!!!等々こんな直接的な手をぉぉぉぉぉ!!!!!」
ダルクスは膝から崩れ落ちて地面を叩いている。そんなに大切な船だったのか、リューセイは近くに居た別の住人に問いかけてみた。
「…あの、で、実際のところ何があったんですか?」
「いや、さっきな?鉄の塊が空から降ってきてそこの船を沈めちまったらしい」
それを聞いて…リューセイは青ざめる。
「へぇ〜………?」
「勇者様…それって…」
「言うなユーリル!!これはベンゾのせい!!全部ベンゾのせいだから!!」
「リューセイさん…」
リーサも何か言いたげにコチラを見つめている。
「リーサ!!やめろ!!そんな目で見るな!!はい終了!!これ以上の詮索は終了〜!!」
必死に真実を闇に葬ろうとするリューセイに気付かず打ちひしがれているダルクス…
リューセイ達の大航海はまだまだ先になる…?
続く…
 




