第四十幕【進撃の魔王と観兵式】
【魔界】
【魔王城・城下町】
パンパン!
…と、魔王城から号砲がなる。
魔王城から城下町へと続く大通りには道を開けるように住人が並んでいる。
「なんだぁ?お祭りかぁ?」
「お前、知らないのか?今から"観兵式"が始まるんだと!」
「なんだ?観兵式って…」
「軍事パレードだよ!姫様が城で秘密裏に開発していた様々な兵器をお披露目するのさ!」
〜〜〜〜〜
センチュレイドーラは魔王城のテラスで民衆を眺めながら拡声器型のマンドラゴラを構える。
「あーあー!これより、観兵式を始める!我が魔王軍の選びぬかれた先鋭達と兵器の数々をとくと見よ!!そして見惚れるが良い!!フハハハハ!!」
鼓笛隊の演奏と共に魔王城への正門が大きく開け放たれる。
ザッザッザッザッ
そこから鼓笛隊の演奏に合わせて魔王軍の兵士達が綺麗な隊列を組み行進を開始する。
兵士達は見たこともない武器を携えている。
センチュレイドーラはその武器についての説明を始める。
「彼らが持っているのは【センチメンタル】という武器だ!!鉛玉を込めて射出する…人間界では【シュヴァルツ】と呼ばれていたモノを、我々が技術を盗んで開発・改良したものだ!!」
【センチメンタル】
【現実の世界で言う所の"ライフル銃"のような見た目。クリップ装填式の半自動小銃。"レティクロー"と呼ばれる触手生物を寄生させている為、エイムアシストは完璧で素人でも使える】
「どうだ!!これで人間共は自ら生み出した兵器に寄って我々に近付く事すらままならないのだ!!フハハハハ!!」
そんな事を言っていると、テラスに慌てた様子のババロアが飛び込んで来た。
「ひ、姫様…!!こ、これはどういう事ですか!?」
その手には兵士のリストを掲げている。
「それがどうした?」
「どうしたって…!!なんですかコレ、魔王軍兵士の3分の2が"衛生兵"って!!ほとんど回復サポート役って…火力不足も甚だしい…!!」
「だから言っただろ?我が前線に出るんだ。我の力があればそれだけで充分だ!それに…作戦は【いのちだいじに】だからな!」
「いや、だから姫様は後方より兵士達に司令を出してですね…」
「あ、待て!ここからが重要なんだ!」
センチュレイドーラはテラスに身を乗り出しマンドラゴラを構える。
いよいよと言った具合でスピーチを始めた。
「次に登場するのは、我ら魔王軍のエリートの中のエリートの集まり"センチャリオット隊"率いる、最新鋭の技術を結集させて作り上げた最強の兵器!その名も…」
ガラガラガラガラ!!
大きな駆動音を響かせながら魔王城の正門から列を成して出てきたのは現実の世界で言う所の"戦車"だ。
「【センチャリオット】!!一台で兵士100人分の力を発揮する【自走式大砲戦闘駆動車】だ!!主砲から撃ち出される砲弾は一つの家屋を木っ端微塵に出来る威力だぞ!!」
住民達は見たことのない武器や兵器に圧倒されている。
「なんだこの鉄の乗り物は!!」
「これはスゲェ!!見るからにスゲェ!!」
「人間共、ビビリ散らかすぞぉ!?」
【センチャリオット】
【現実世界では第一次世界大戦で初めて導入された"菱形戦車"の見た目をしている。【戦車】という言葉はこの世界には無かった為【自走式大砲戦闘駆動車】と名付けたのはセンチュレイドーラ。こちらも"レティクロー"に寄生されている為、半自動操縦が備わり、結構アバウトに狙いを付けても触手がアシストしてくれる様になっているので誰でも簡単に操縦、砲撃が出来てしまう。四人乗りで、小窓から【センチメンタル】を出して撃つことも出来る。魔王軍の中でもエリート中のエリートが集まる・センチャリオット隊が操る】
住民達の反応に、センチュレイドーラは満足気に微笑む。
そして、おもむろにテラスの手すりに登ったと思うと、そこから外に飛び降りてしまった。
「ひ、姫様ぁ〜!?」
ババロアが急いでテラスから身を乗り出し下を覗く。
下には最後尾のセンチャリオットが控えており、センチュレイドーラは開いたハッチに目掛けてスポッと下半身だけが入る形に着地した。乗組員達も急な姫の登場に驚いている。
「ひ、姫様!?なんの御用ですか!?」
「良いからこのまま進め。我が国民に直接挨拶する」
「は、はい!(ここからだとパンツが…丸見えですが!!)」
ガラガラガラガラ
センチュレイドーラの乗るセンチャリオットは正門を出る。
「あっ!!姫様だ!!」
「最後尾に姫様が乗ってる!!」
住民達はその姿に沸き立っている。
「我が民衆達よ!我の強大な軍事力の前に驚きを隠せないであろう!フハハハハ!」
満足気に周りに手を振り高笑いしながら胸を張るセンチュレイドーラ。
「良いぞー!姫ー!」
「姫!こりゃあ勇者も一溜まりもないですね!」
「姫ー!第二形態見せてよー!」
住民は各々が声援を飛ばす。
「だーれも魔王様って呼んでくれないわね…!!」
ムスッとジト目で顔を膨らませるセンチュレイドーラ。しかし直ぐに顔を正して続けた。
「コホン…さて、驚き疲れるのはまだ早いぞ民衆よ!最後に登場するは我が魔王軍の兵器開発部門に直々に作らせた最高傑作!我が乗り込むに相応しい、史上最大級の兵器ぃぃぃぃぃ…」
センチュレイドーラはパチンと指を鳴らして空を指差す。
魔王城の後ろから巨大な何かが飛来してくる。
「な、な、ナンダあれは!?」
「で、デカいぞ!!?」
4匹のドラゴンに繋がれた鎖によって吊り下げられた巨大なソレは、魔王城の城下町に影を作る。
「…ぃぃぃぃぃ超戦闘特化型鉄船舶【センチュリーシップ】ぅぅぅぅぅ!!!」
溜めて溜めて、センチュレイドーラは言い放った。
「ふ、船!?とてつもなくデカい鉄の船だ!!」
「見ろ!デカい大砲がいっぱい付いてるぞ!!」
「海賊船の比にならないな…!!」
【センチュリーシップ】
【魔王軍・兵器開発部門の粋を結集して製造されたこの世界に2つとないセンチャリオットと同じくレティクローに寄生された戦艦。しかしこの世界に【戦艦】という言葉は無いので【超戦闘特化型鉄船舶】とセンチュレイドーラが勝手に名付けた】
「これで海に出る勇者をチンケな帆船ごと海のもずくだ!!フハハハハ!!…ではドラゴン達!その鉄船舶を着水させるのだ!」
ドラゴンは城下町横の海の上空で止まり、鎖を外した!
「あ、ば、馬鹿ぁ!!空中で外すな!!!」
センチュリーシップはそのまま海に落ち着水!!
ドッパァァァァァん!!!!!
その凄まじい巨体は大波を発生させ、城下町に迫り来る!
「イイぃぃぃぃぃ!!?みんな何かに捕まれぇぇぇぇぇ!!!」
「「「ギャアァァァァァーーーーー!!!!!」」」
センチュレイドーラの言葉を皮切りに、城下町の住人は散り散りに何かに掴まる。姫もセンチャリオットのハッチを閉めて中に入ろうとするが蓋が固くて動かない。
「わ!わ!ちょっと!閉まんないんだけど!?」
「姫ぇぇぇ!?早く閉めて閉めてぇ!!!」
ザッパァァァんんんんん!!!
波は無慈悲にも城下町を呑み込んだ。
波は直ぐに引いたものの、辺りは水浸しになってしまった。
センチュレイドーラは海藻を絡み付かせてピューと海水を吹く。
「クシュン…!うぅ…なんでこーなるのっ…!」
びしょ濡れになり震えるセンチュレイドーラの横から操縦士も飛び出て姫にしがみついている。
「プハッ!!溺れる!!溺れ死ぬ!!」
「あ、コラ!抱き付くな!!」
「うはぁ!スミマセンスミマセン!」
「…それにしても…凄まじい威力だ…我ながら恐ろしい兵器を作ってしまったな…フハハハハ!!!」
(あれは兵器の威力関係ないような…)
満足気に高らかに笑うセンチュレイドーラに指摘出来ずにいる操縦士だった。
「後は…"黒耀石"でゲートを作って人間界に侵攻するのみだな…フフフ…フハハハハ…!!ハックシュ!!」
「その前に着替えて暖まって下さいね姫…」
第一章【旅立て!宝箱配置人編】完
第二章に続く…




