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異世界から転生した勇者より宝箱配置人の方が過酷だった件  作者: UMA666
第一章【旅立て!宝箱配置人編】
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第四幕【初めての仕事】

朝。

空がほんのり明るくなってきたくらいの時間。


「ゔぅ…」


リューセイ、ユーリル、ダルクスは酒場の外で立ち尽くしていた。


「流石に飲み過ぎた…」


ダルクスは近くにあった水汲み場で顔を洗いながら水を飲む。ユーリルは虚ろな顔でフラフラしている。


「ダルさん、大丈夫ですか。しっかりして下さいよ。今日から仕事が始まるんでしょ?」


「悪い。ちょっと調子に乗り過ぎたな」


そんなダルクスの懐からポニョが出て来てそのまま肩に移る。


「ポニョン」


「あ、コイツ…。あれはなんだ?新手の新人イビリか?お前とはまた今度ゆっくり話をしたいな…」


リューセイは口元をヒクつかせながら言った。


「ポニョシシ…」


ポニョは満足気に、人を馬鹿にしたような顔でニヤケている。


「ムカつく!!」


「誰と話してるんだ?」


「えっ!?あ、いや、別に」


「よし、水を飲んだらスッキリした!少ししたら早速、宝箱配置人としての業務をこなして行こう」


ついに始まる。宝箱配置人としての一日が。


その時のリューセイは知る由もなかった。

宝箱配置人の業務が過酷で…勇者よりも辛く険しい道のりになると言う事を…




〜〜〜〜〜




最初の森でダルクスが引いていた宝箱や樽、壺、そして様々なアイテムが大量に積まれた荷車を停めていた噴水の広場までやってきた。その荷車の前で作戦会議が始まる。


「勇者はここ、エンエンラ王国に向けて故郷を出発している。ここで王様に勇者の職を公認して頂く事、魔王討伐の認可を貰いにだ。つまりこのエンエンラ王国が勇者にとってスタート地点となる街な訳だ」


ダルクスはそこで一旦言葉を切ってリューセイに視線を送った。リューセイは大丈夫。付いてきてると、頷き返す。


「よし。………で、本当なら昨日下見した"はじまりの森"から宝箱を…と思ってたが、それに必要な"仲間達"がまだ到着してない」


「え、仲間が他に居るんですか?」


「あぁ。俺一人じゃ遂行出来ない仕事だ。仲間達が来るまでは外の仕事はお預けだ。だから最初は、この城下町から攻める」


そういってダルクスはこの城下町と城の地図を渡してくれた。


「よし。じゃあこの地図を見ながら仕事を進めていく。本来は分かれての作業だが、リューセイは初めてだから同伴して貰うぞ」


「了解です」


「女神様、あなたも手伝ってくれますか?」


「えぇ!任せて下さい!」


「じゃあ一緒に付いて来て下さい。俺が一通りやってみるから二人共、見といてくれ」


そう言ってダルクスは荷車をガラガラと引きながら城下町から外に出る門に一番近い、町民の住むとある一軒家に向かった。

言うなれば"勇者がやってきて一番最初に訪れるであろう建物"…


(俺も元は勇者だ。その経験からすると…やってきた街ではまず最初に近くの建物に入ってアイテム探しを………なるほど………という事は………)


コンコンコン


一軒家の前までやってきたダルクスは荷車を止め、懐から一枚の紙を引っ張り出してドアをノックする。


ガチャ…


「はい?」


この一軒家の持ち主だろうおばさんが出てくる。すぐに何かを察した。


「あぁ、待ってましたよ!どうぞどうぞ」


…と笑顔で迎え入れ続ける。


「いやぁ、早速お仕事に取り掛かるんですね!あの有名な宝箱配置人さんが来たとなるとウチも鼻が高いですよ」


「いえいえそんな。知ってくれて光栄ですよ。話が早くて助かる。では、こちらにサインを」


ダルクスは住民に先程の紙を渡した。"家宅捜索許可証"。住民は快くその紙にサインしている。


「いいかリューセイ。この家の許可は頂いた。後はこの家に荷車に積んでる"丁度良いアイテム"を"丁度良い感じに"配置していけ」


リューセイは目から鱗だった。勇者だった時は深く考えてなかったが、このファンタジーの世界での勇者の特権だと思っていた家屋の不法侵入や物色はこうして許可を取ってたのか…と。


(どおりで何をしても住民が怒らなかった訳だ)


リューセイは一旦外に出て荷車を物色する。


「丁度良いアイテムって一体どういう……………って、これは!!!」


リューセイは一本の剣を見つけた。


「勇者の剣!!!俺が前回の冒険で魔王を倒す為に苦労して手に入れた最強の剣!!!なんでこんな所に放り込まれてんだよ!?」


一緒に外に出て来たユーリルも驚いている。


「この聖なる力の宿った刀身…間違いなく本物の勇者の剣です!!」


リューセイは思わずその剣を手にしようと…


バチッ!!


「いてっ!?」


いきなり電流が走り、リューセイは腕を引いた。


「そうか…勇者じゃないから装備出来ないのか…」


「勇者様!この剣をこの家屋に置いておけば、来たる別の勇者様は初っ端、最強装備を手に出来るじゃないですか!」


「確かに…。この調子だと、他の最強防具なんかもありそうだな。全部この家に隠しておくか?」


そう言ってると、ダルクスが外に出て来た。


「おい、何やってんだ?良い感じのアイテムは見つかったか?」


「良い感じどころか、最強の剣がありましたよ!!なんでこんな所に勇者の剣が!?」


「あぁ、まぁ。それを配置するのも宝箱配置人の仕事だからな」


「嘘ぉ!?」


「いずれそれを配置する場所を探す事になるだろ…。あ、もしかして、その剣をこの民家に入れとけば…なんて考えたんじゃないだろうな?」


「え、ダメなの?」


「当たり前だろ。いくら勇者でもそんな最強の装備をLv1から扱える訳ないだろ。宝の持ち腐れだよそんなの」


(まぁ、言われてみれば確かにそうだ。俺が勇者だった頃も、最初は【兵士の剣(攻撃力・5)】からスタートして、様々な武器を経てようやく辿り着いた勇者の剣。初っ端から勇者の剣を手に入れた所で扱う事は出来なかっただろう)


「お前が勇者だった頃を思い出せ。最初に入った民家にあったアイテムはなんだった?」


「薬草とか…毒消し草でした」


「つまりこの街の"丁度良いアイテム"ってのはそういう事だ。さ、仕事に取り掛かれ!」


「な、なるほど…!」




〜〜〜〜〜




無事、一つ目の民家にアイテムを設置し終わったリューセイ。壺3つと樽2つもこちらから支給して、その内二つに薬草と毒消し草を忍ばせた。この家に元からあったタンスには【旅人の服(守備力・5)】を入れ、本棚には勇者の有益な知識となる本を忍ばせた…


ダルクスは最後に住人にお礼を言う。


「お世話様でした。勇者がこの街に来られたら招き入れてあげて下さい。鍵をかけてなければ勝手に入ってくるハズです。設置した壺や樽を壊すタイプの勇者が来るかもしれませんが、もし壊されてもそのままにしといて下さい。後で【宝箱配置人・清掃担当】がお城から派遣されますので」


「はい。では、お仕事頑張って下さいね」


そう言ってこの民家を後にした。


「よし、ここはこれでおしまい!」


ダルクスはそう言って、地図上にバッテン印を付けた。


「どうだ?要領は掴めたか?」


「はい。なんとなくですけど」


「んじゃ、続けて行こう」


そう言ってダルクスは先程の"家宅捜索許可証"をリューセイとユーリルに束で渡してくれた。


「取り敢えず片っ端から民家を周って許可だけ取ってきてくれ。その間俺はこの城下町の通りにアイテムを配置してくる」


「アイテムってそんなバラけさせて配置する意味あるんですか?」


「勿論。わざと街のあらゆる所に配置する事で、勇者は隅々まで探索するだろ?そこで悩んでいる人から話を聞いたり、クエストを貰ったり、パトロールの役割にもなるだろ」


「なるほど…」


「んじゃ、許可の方は任せたぞ。民家を周りきったら噴水広場に集合だ。許可を貰った民家には後でアイテム配置に行くから」


「了解ですっ!」


そうしてリューセイ、ユーリル、ダルクスは分かれて仕事に取り掛かった。勇者視点だと知らない事ばかりで驚くリューセイ。


(俺が知らない裏で、こんな苦労があったなんて…)


ーーーーー


時間も夕方に差し掛かった頃。リューセイとユーリルは城下町全ての民家を周った。どこの民家も割と協力的で、魔王を倒す勇者に協力する為だったり、ただ単に勇者に寄って欲しいからと、そんな理由だった。


民家を周ってる間、さっきまでは何も無かった道端にいつの間にか樽や壺が配置されており、ダルクスがアイテム配置に奔走していたのが伺える。


噴水広場に行くと、既にダルクスはタバコを吸いながらリューセイ達の帰りを待っていた。荷車は壺や樽が殆ど無くなっている。


「はや!?もう城下町中のアイテム配置が終わったんですか!?あんな大荷物引きながら…」


「あぁ。俺は昼過ぎには終わってたぞ。伊達に一級宝箱配置人を名乗ってないよ。お前達はどうだ、許可証にサインを貰ったか」


「えぇそれはもう、殆どの人が協力してくれましたよ!!」


ユーリルは嬉しそうに言う。


(女神がこんな事させられて喜んで、やっぱりコイツは少し変わってるよな)


そうリューセイが考えていると、ダルクスが続けた。


「もう遅くなってきたし、今日はここで締めようか。壺や樽も少なくなってきたしな。民家の宝箱配置はまた明日だ。商人に壺と樽の補充は頼んであるし宿ももう取ってある。今日はそこで休もう」


今日の業務終了。


許可を貰うだけの仕事だったが、城下町中を走り回り流石にヘトヘトといった様子のリューセイ。お互いの仕事の成果を話ながら宿屋に向かおうとした…その時。


頭に学者帽を被り、赤ぶちメガネをかけ薄いピンク色の髪のおさげが可愛らしいチビっ子少女がダルクス達の前に立ち塞がった。

背中には"巨大な古めかしい茶色い本"をランドセルのように背負っている。


「なんだ?なにか用かい嬢ちゃん?」


ダルクスは問いかける。


「用です。これを!」


そう言って手紙を渡してきた。


「なになに…『久し振りだなダルクス。前回、魔王が現れた時の宝箱配置人としての冒険以来じゃの。また再び魔王が現れ、お主から"宝箱配置人・書記担当"の誘いを受け嬉しく思うぞ。しかしだ。ワシももう歳じゃ。余生は大人しく送る事にした。折角の誘いを断る形になるが悪く思わんでくれ。その代わりと行っちゃなんだが、前の冒険の時話した孫娘を遣わす。無垢な少女じゃが侮るでない。彼女はワシよりも優秀な"宝箱配置人・書記担当"として、冒険の助けとなろう』……………!?」


「そういう事です。私は伝説の宝箱配置人・書記担当、シムラの孫娘【イズミル】です。今回は私が宝箱配置人・書記担当として配属されました」


「ハハハ…あのなぁ嬢ちゃん。君は宝箱配置人を多分、宝箱を置いていくだけの簡単なお仕事だと思ってるだろうが、この仕事は大変危険で辛く厳しいんだ。君のようなおチビちゃんには無理。ここまで来てもらって悪いけど、回れ右してお家にとっとと帰りな?」


ニコニコと冷たい事を言うダルクス。そんな彼をニコニコと笑い返しながら、そのイズミルと言う子はクルッと背中を向けた。背中に背負った巨大な本の表紙部分が露わになるが、それを見てリューセイはギョッとする。ドラゴンの一つ目がギョロっと浮き出ており瞬きしている!


「おじ様!この本の27ページを開いてみて下さい」


そう言われ、ダルクスはイズミルが背負ったままの本をしゃがんで渋々と開き27ページを探す。


「なんだ?あったぞ27ページ。魔法陣が書かれてるだけ…」


ゴオオオオオォォォォォ!!!!!


ダルクスが言い終わる前に、27ページから炎がゴォッと噴き出し、ダルクスは叫ぶ暇もなく真っ黒焦げになった。


「ニシシ!私の力、分かってくれました?」


満足そうにダルクスにドヤ顔するイズミル…


(こいつ、出来る!!)


リューセイはそう思い息を呑んだ。


「ハハハ…あのな嬢ちゃん。どうせ誰かに本を開いて貰わないとその力も使えないんだろ?」


黒焦げになったダルクスはワナワナと震えながら言った。…が、その瞬間、イズミルの本が勝手にバララとめくれ、からくり仕掛けの腕が描かれた8ページで止まり、直後、そのページから巨大なからくり仕掛けのアームがニョーンと飛び出してきて、ダルクスめがけてデコピンを放った。


バゴォーン!!!


「ぐばぁぁぁ!!!」


その破壊力は凄まじく、ダルクスはそのまま後方にあった噴水広場の噴水まで突き飛ばされドボンと落ちた。


「ね?分かってくれました?」


そう言ってニコッとリューセイとユーリルを見るイズミル。

リューセイとユーリルは無言でウンウンウンと頷く。


「ふざけんな俺は子供が大っ嫌いなんだ!!子供の同行なんて認めねぇぞ!!」


噴水からずぶ濡れになったダルクスが叫ぶ。夕日は沈み、空は暗くなってきた頃だった。






続く…

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