第三十九幕【推奨レベル10・ユリィササミ山】
「あった!あったぞ!ベニイモ草!」
「やりましたねガウラ姐さん!これで3つ揃いましたよ!」
クサカベとガウラベルは今【ユリィササミ山】という変わった名前の山に来ていた。旅の途中で立ち寄った【ムジナ村】は空から降ってきた巨大なドラゴンの死体に悩まされていて、それをどうにかして欲しいと村長から頼まれたところだ。
それをどうにかするにはこの山の頂上に納められている"脳筋の腕輪"でどうにかするしかない…という事で、今は登山中と言う訳だ。
ちなみに草を集めていたのはムジナ村で受けたサブクエストを消化する為だ。
「これで心置きなく山頂を目指せますね!」
「…だな!」
山頂に行くまでの道のりで多くの魔物と戦闘もあり、クサカベは今やレベル10。
戦い方や立回りがなんとか身に付いてきたようだ。
山頂に向けてもう少しといった時だった。
「ガウラ姐さん…」
「あぁ。分かってる」
クサカベ達はチラッと後方を確認する。
この山に入った時からずっと誰かが尾けているのに気付いていた。
「まだついてきてますね…」
「まぁ、ほっときな。何かしてこようもんならサクッと一番搾り」
「なんですかそれ…」
〜〜〜〜〜
山頂に辿り着いた。
山頂は広場の様になっており、その広場の奥には何故かボロボロの犬小屋が建っていた。
「なんであんな所に犬小屋が…?」
「いや…多分祠のつもりなんだろ…(相変わらずセンス腐ってるねぇ…)」
ザリッ…
そんな地面を踏む音が聞こえてガウラベルは振り返る。
コソッと木の後ろに何かが隠れる。
「黒いフード…?………"ベンゾ"か…?」
ガウラベルがそう呟く。
「何ですか?"ベンゾ"って…」
「あぁ、"ベンゾ"ってのは"エクス・ベンゾラム教団"の事だよ…。宝箱配置人をやたら邪魔するカルト教団…。勇者パーティーには関係ない奴らのハズだが…一体何の用だ?」
しかし、ガウラベルはコチラから特に仕掛けようとはしないようだ。
あっちがどう出るか見計らっているのだろう。
「とにかくサッサと、脳筋の腕輪を頂いて下山しちまおう!」
「は、はい!」
クサカベは祠に向けて歩き出した…すると、その時!!
ダーーーン!!!
目の前に一匹のドラゴンが降り立った!!
「うわぁ!!?」
クサカベはドラゴンの着地した際の風に吹き飛ばされる。
「ギャオォォォーーース!!!」
「ふぅん…ここのボスって訳ね…!クサカベ!気を引き締めて行くよ!」
「は、ハイ!ガウラ姐さんはいつもの通り援護だけを!僕が戦います!」
「はいよ!」
クサカベはリュックに刺していた剣を構える。
チャキ!
「どりゃあぁぁぁ!!!」
クサカベはそのままドラゴンに斬り掛かる。
ガウラベルはクサカベに向かって呪文をかける。ドラゴンはクサカベに思いっきり爪を振り下ろすが、ガウラベルの魔法【スピニード】で素早さの上がったクサカベはすかさずその攻撃を避ける!!
ズガァン!!と地面に空振りする爪攻撃!!
そのままドラゴンの脇に入って剣を振り、ドラゴンにダメージを与えた!
「やるねぇクサカベ!」
「は、はい!」
ガウラベルに振り返った所で、ドラゴンの尻尾がしなり、クサカベを払い飛ばす!
「あちゃ〜…」
ガウラベルは頭に手を当てる。
クサカベは空中で身を翻えし地面に着地する。
ズザザザザァ!
「クッ…!」
「クサカベ!来るよ!」
ガウラベルの掛け声の直後、ドラゴンは大きく息を吸い込み、そのまま炎を吹き上げた!!
ゴオオオオオォォォォォ!!!
「うわぁ!?」
「クサカベ!属性吸収!」
そう言ってガウラベルは再びクサカベに呪文を掛ける。
【ゾクセクト】は剣に属性を吸収する力を宿らせる。
クサカベは剣を前にかざし、迫る炎を迎え打つ!
炎はそのままクサカベの剣に吸い込まれていく。
炎を吸った剣は炎の剣のように燃え盛る。
「今だ!クサカベ!」
「…はいっ!」
ドラゴンが炎を吐き切って再呼吸をするその空きを狙って、クサカベは地面を蹴って空中に跳躍する。
「バーニング〜〜〜!!!」
炎を纏った剣を思いっきり振り下ろす!!
「〜〜〜〜〜えっと………切りぃぃぃ!!!」
ズバァァァァァン!!!
「ギャオォォォーース!!!」
ドラゴンに大きなダメージを与える!
ドラゴンはそのまま仰け反り、仰向けに倒れた。
地面にスタッと着地したクサカベにガウラベルが駆け寄る。
「良くやったねクサカベ!……………にしても、"バーニング・えっと切り"って…」
「いや、ハハ!全然技名が思い浮かばなくて…!」
(別に技名なんて言う必要無いんだけど…)
ガウラベルがそう思案していると、ドラゴンが微かに動いた。
「待て!まだドラゴンは死んじゃ居ないよ!油断するな!」
「はい!トドメを刺しましょう!」
クサカベは再び剣を構えて…ジリ…ジリ…とドラゴンににじりよ…
「ダァァァァァメェェェェェ!!!!!」
そんな大きな声にクサカベとガウラベルはビクッと肩を震わせ、声のした方を振り返る。
「やっぱりダメぇぇぇぇぇ!!!!!」
そう叫びながら"黒フードを深く被った素顔の見えない男"が全速力で向かってきている!
「来やがったなストーカー野郎!!」
ガウラベルはファイティングポーズを取る…が、そんなクサカベらを素通りして、その男は仰向けに倒れたドラゴンの後ろ脚にしがみついて頬をスリスリと擦り寄せ始めた。
「うわぁぁぁぁぁん!!!痛かったかいドラコぉぉぉぉぉ!!!もう大丈夫だからねぇぇぇぇぇ!!!」
「えぇ…?何これどういう事…?」
少し引き気味な声を漏らすクサカベ。
「おい変態!アンタ何者なんだ?」
ガウラベルが怪訝そうに伺う…
それを聞いて、ピタッと止まった男はスッと立ち上がり、さっきまでの猫撫で声は何処へやら、低音イケボイスで話し始めた。
「すまない、取り乱してしまった。僕の名は【アンカーベルト】。【宝箱配置人・魔物ならし担当】の…」
…と言った所でガウラベルが声を上げる。
「アンタ、宝箱配置人なの!?」
「そうだね。僕は宝箱配置人・配置担当からの依頼で、この山の魔物たちのレベル調整とボス魔物として飼い慣らせる事を依頼されたんだ…。来たる勇者が戦うのに難し過ぎないようにね…」
「はぁー…?って、じゃあなんで邪魔するんだよ!?」
「あぁ、すまない。本来は僕が勇者の前に現れるべきではないんだけど…僕は魔物の中でもドラゴンという種族に本当に目が無くてね…だから…すなわち…」
アンカーベルトはクルッとドラゴンに向き直り脚に再びしがみついて…
「だからドラコを倒しちゃうのはダメェェェェェ!!!」
…と泣きついている。
「…クサカベ、サッサと脳筋の腕輪取って下山するぞ」
「…そうですね」
クサカベは言われた通り祠から脳筋の腕輪を取ると、山を降り始める。
「古代より繁栄する由緒正しき"ドラゴン"という種族を前にしてぇぇぇぇぇーーー…」
後ろから何か聞こえるが、クサカベ達は特に触れずにムジナ村に戻るのだった。
〜〜〜〜〜
「おぉ、勇者よ!!脳筋の腕輪を取ってきおったか!!」
ムジナ村の村長が大きく手を広げて喜んでいる。
「それでは早速、この巨大なドラゴンのあと始末をよろしく頼むぞ!」
「…とは言っても…どうします?近くの海まで引きずって運びましょうか?」
クサカベはガウラベルに問い掛ける。
「うーん………。クサカベ、ちょっと脳筋の腕輪貸して」
クサカベは言われるままにガウラベルに腕輪を渡した。
すかさずそれを腕に付けたガウラベルはドラゴンの尻尾を掴む。
「一番海に近いのはアッチ?」
ガウラベルは方角を指しながら村長に聞いた。村長はウンウンと頷いている。
「んじゃ、周り気を付けなよー?フンッ!!」
村人達が固唾を呑んで見守る中、ガウラベルは足を踏ん張り自分を軸に巨大なドラゴンを振り回し始めた。
ドラゴンの巨体を遠心力に竜巻の様に回りだすガウラベル。
「ちょちょちょ!!ガウラ姐さん、何を…!!」
クサカベが巻き起こる強風に顔をしかめながら困惑しているのを尻目に…
「どぉぉぉぉぉっせいオラァぁぁぁぁぁシャラァァァァァ!!!!!」
ガウラベルは充分な回転の後ドラゴンの尻尾を離した!
ドラゴンはそのまま海の方角に…
ドゴシャアァアアアア!!!
「あ、ヤベ」
ムジナ村の小さな教会の尖った屋根をゴッソリ巻き込み、ドラゴンは海にバシャーン!!と落ちた。
「ちょちょちょぉぉぉぉぉ!!!何してんのぉぉぉぉぉ!!?」
教会からシスターが飛び出して来た。
「ゲェェェェェ!!?教会の屋根がぁぁぁぁぁ!!!!!何処のど畜生の仕業だぁぁぁぁぁぁ!!!!?」
キッとガウラベルを睨むシスター。
しかしガウラベルはサッとクサカベを指差す。
「え"っ"!!?僕を売った!!?」
「テメェかぁぁぁぁぁ!!!!!畜生めぇぇぇぇぇ!!!!!」
シスターは鬼の形相でクサカベに迫って来た。
堪らずクサカベは逃げ出した。
「ちょおぉぉぉぉ!!?ガウラ姐さん!!?助けてぇぇぇぇぇ!!?」
村の中をシスターに追い掛け回される中、ガウラベルはそれはそれは爽やかな顔で…
「クサカベ…。勇者は時に理不尽な目も乗り越えないといけないのさ…」
…と、宿屋に戻って行くのだった…。
「助けてよー!!?」
続く…




