第三十六幕【毒舌コーヒーゼリー】
リューセイ達と別れて、イズミルは例の路地裏に来ていた。
待っていればメロが来てくれると思い…
(今日の朝あんな事があったから…流石に外出は控えられてるかも…)
そう思案を巡らせて居ると…
「イズミルちゃん!」
そんな声が聞こえてイズミルは振り返ります。
「メロちゃん…!」
そこには、なんの変わりもないメロの姿が…イズミルは安堵の表情を見せます。
「良かった…来てくれたんですね…!」
「いつもコッソリだからね。まぁ、今日はお母さんピリピリしてたから色々言われたけど…」
イズミルが訪ねた事に関しては言及されてないようだった。
「コッソリ…って、大丈夫なんですか?バレたら怒られるんじゃ…」
「大丈夫だよ。お茶会に行ったらお母さん当分戻って来ないから」
(お茶会…メロちゃんが病気で苦しんでるのに…。メロちゃんはちゃんと花粉症の看病を受けているのでしょうか?凄く心配です…)
イズミルはそう考えながらも、気を取り直してメロに笑顔で続ける。
「…あ、そうだ!メロちゃんにプレゼントがあるんです!」
イズミルはここぞと懐から青い実をつけたナタリーテを持っている分全部メロに渡した。
「コレって…」
「約束しましたよね!メロちゃんの病気…コレで良くなりますよね?」
「凄い…お父さんお母さんでもずっと見つけられなかった青い実を一日でこんなに…!」
(まぁ…全部山賊から失敬したものですけど…)
「ダメだよイズミルちゃん…!私の為に…危険だったんじゃ…!」
「まぁ…少し大変でしたけど…メロちゃんとの約束でしたし!宝箱配置人・書記担当ですから!」
イズミルは胸をトン!と叩いた。
「イズミルちゃん…ありがとう…」
メロはポロポロと涙を溢れさせた。
「さぁ、青い実、食べてみて下さい!」
「グス…え?う、うん…!」
メロはハッとして涙を拭って、コクリと頷いて青い実を一つ口に含む。
「ど…どうですか…?」
「………うん!身体がスーっと…良くなった気がするよ!」
イズミルはホッと胸を撫で下ろして、思わずメロに抱きついた。
「良かったぁ〜!良かったよ!うんうん!」
イズミルもホロッと一筋の涙を流すも、メロに気付かれないようにサッと涙を拭った。
「く、苦しいよイズミルちゃん!」
「ご、ごめんなさい!思わず…!」
「ねぇ、イズミルちゃんは…旅の続きに出ちゃうんだよね?」
「そうですね…早くて今日か明日の朝には…だから、会えるのも今が最後かも…」
「そっか…でも、私の花粉症も良くなりそうだし、イズミルちゃんも安心して旅の続き頑張ってね?」
「そうですね…!寂しいですけど…頑張ります!お手紙も出しますね!また絶対会いましょうね!」
「うん!」
「その時は、一緒に友達探しに…」
「その必要はないよ」
「え?」
「だって私にはイズミルちゃんって言う一番の友達が居るから…」
メロは恥ずかしそうに言う。
「メロちゃん…」
イズミルはまた涙が零れそうになるのを必死に我慢して、再びメロに抱きついた。
「友達です!私達、ずっと!」
「うん!」
そんな昼下がりの路地裏。
イズミル達は友達同士で最後のひと時を過ごしたのだった。
〜〜〜〜〜
【モクレーン・宿屋】
夜。宝箱配置人一行は宿屋を取り、各々の部屋で明日の朝の出発に備えて身体を休めていた。
夕方にはイズミルも悩み事が消えたようにスッキリとした面持ちで戻って来た。ダルクスは特に何も発さなかったが…内心戻ってきてくれてホッとしたようだった。
ただ…リューセイは少し思うところがあり、夜、ダルクスの部屋を訪れた。
「お邪魔します」
「なんだこんな夜中に…?」
「少し折り入ってお願いがあって…」
「それよりなんでほっぺに手型が付いてるんだ?」
「…フロントの女性に思わず抱きついちゃって…」
「ほんと大変だなお前は…んで、お願いってなんだ?」
リューセイはほっぺを擦りながら要件に入る。
「少し…ポニョを貸して頂けませんか?」
「ポニョン!?」
それを聞いたポニョはあからさまに嫌そうな顔をする。
「…ポニョを?なんで?」
「いやまぁ、ハハ…少し手伝って欲しい事がありまして…悪いようにはしないんで!」
「ポニョニョ!」
ポニョはイヤイヤと顔を振っている。
「まぁ、別に良いけど…」
「ポニョ!?」
「あざーす!じゃあ行こうかポニョ!」
リューセイはダルクスの肩に乗っていたポニョをムンズと掴んで部屋を後にした。
〜〜〜〜〜
適当に選んだ人気のない路地裏に入り、ポニョを地面に放すリューセイ。
「ポニョグルル!」
ポニョは不服そうにリューセイに威嚇した後、構わず宿屋に戻ろうとする。
「待てポニョ!少し話を聞け!」
それを聞いてピタッと止まるポニョ。
「ポニョ〜ン?」
『なんでお前の話を聞かないといけないんだ』とでも言いたそうな目で睨みつけるポニョ。
「お前、変身が出来たよな?その力で少し助けて欲しい」
「ポニョ〜?」
ヤレヤレと首を振って構わず帰ろうとするポニョ。
「(ムカつくコーヒーゼリーだなコイツ…)待て!俺の為にじゃなくて、イズミルの為にだ!」
ポニョは再びピタッと止まる。
リューセイは知ってる。ポニョはリューセイにだけ懐かないが他のみんなには愛想を振りまいている。
イズミルの為なら協力してくれるハズ…そう踏んだのだ。
ポニョは暫く静止した後…
ボフン!!
…と、綺麗な女性メイドに変身した。
「……………お前、オスの癖になんで女性にばっか変身するんだ…」
「オスだからこそ女性に変身するんだよ。馬鹿かお前」
なんとも口の悪いメイドに変身したポニョ。
ポニョは変身すれば普通に喋る事は"初日の夜"に確認済みだった。
「なんでお前は俺を目の敵にするんだよ!」
「…単純に、お前のその主人公かぶれみたいなところが薄ら寒くて気に食わんだけだ」
「主人公かぶれ…」
「だから初日もお前の化けの皮剥いでやろうと仕掛けたが、ただのクソ童貞だったし…」
「ど…!!」
「お前、コレがもし物語の中だったら量産され尽くされた何の特徴も無いただの…」
「もうヤメて!!?それ以上言わないで!!?」
ポニョは近くに置いていたプランターに座り、一拍置いて続けた。
「…で、何だよ?どうして欲しいんだ?イズミルちゃんの為なら協力は惜しまないが…騙してるんだったら容赦しねぇぞ?お前を精神的にも肉体的にも社会的にも殺す事は簡単なんだからな…」
「騙してなんかねぇよ!ほんとにイズミルの為でもある…。ある家に入って調査して欲しいんだ。お前の変身能力を使って」
「調査…?何を…?」
リューセイはポニョに潜入捜査のアレコレを伝えた。
「ハァ〜?まぁ、俺にしてみれば楽な任務だけど…」
「頼むよポニョ。お前だけにしか頼めないんだ」
「ハイハイ。分かったよ。イズミルちゃんの為だからな?お前の為じゃないからな?」
「分かってるってば…」
「それと変身が出来る事、他のみんなには言うなよ。言ったら精神的にも肉体的にも社会的にも…」
「わーかった!分かったからって!」
そう言ってリューセイはポニョを送り出すのだった。
(ちゃんとやってくれるか不安だが…ここは任せるしかないよな…)
〜〜〜〜〜
暫くして戻ってきたポニョから調査の結果を聞いたリューセイ。
悪い予感は的中していた。
リューセイは直ぐにイズミルの元に向かった。
続く…




