第三十五幕【報われるなら】
【モクレーン】
なんとか街に戻ってきた リューセイとイズミルは、とにかくイズミルの治療をする為リーサを探す。
「その前に…良いですか!」
イズミルは速歩きで何処かに向かう。
「おい!待て!まずは治療を…!」
尚も無視してイズミルは、とある路地裏に入っていく。
「待てって!なんでこんな所に…」
「居ないですね…この時間、まだ家に居るのかな…」
イズミルは路地裏を出ていく。
「急ぎたい気持ちは分かるが…自分の身も案じてくれよ!」
リューセイはそう言いながら再びイズミルに付いて行く。
〜〜〜〜〜
しばらくすると、イズミルはとある大きなお屋敷の前にやってきた。
「イズミルが青い実を渡したい子って…」
かなりの大金持ちなのか、その立派なお屋敷にリューセイは圧倒された。
「リューセイ様はココで待ってて下さい!私、これだけ渡して来ますから」
そう言ってイズミルは門をくぐって中に入っていった。
リューセイはこっそり、門の外から様子を伺う事にした…
〜〜〜〜〜
コンコン
イズミルは早る気持ちを抑えてノックをする。暫くするとドアが少し開く。隙間から綺麗なドレスに身を包んだ女性が見える。メロのお母さんだろうか。
「…何ですか?こんな朝早くに…」
ドアの隙間から気だるそうな声が聞こえる。
「あ、あの…私は宝箱配置人の書記担当イズミルと言うものですが…!メロちゃんはいらっしゃいますか?」
それを聞いて奥さんは大きく溜め息を付き、ボソリと呟いた。
「全く…誰とも接触するなって…あれだけ言っても聞かないんだから…」
そう言って奥さんは扉を開けて外に出てくる。余り好意的な様子ではない。
「あの子はまだ寝室で寝てるわ。貴女も、もう少し時間を考えてくれません?こんな時間にいきなり訪れるなんて…非常識じゃありません?」
「す、すみません!ですが、その…早急にコチラをお渡ししたくて…!」
イズミルは懐から青い実の付いたナタリーテを差し出す。
少し萎びてしまっているが…効力は変わらないハズだ。
「なんですかそれは…?」
「えっと…知らないですか?青い実のナタリーテです!これでメロちゃんの花粉症も治るハズです!彼女に飲ませてあげて下さい…!」
(これさえ見せれば機嫌も直してくれるハズだ。どうしても手に入らなかったであろうナタリーテの青い実だ。泣いて喜んでくれるに…)
バシッ!
イズミルは差し出していた手をハタかれ、持っていたナタリーテを落としてしまった。
「…え…?」
「気持ち悪い!あの子にそんなもの飲ませられる訳ないでしょう?私は旅人が大の苦手なんです。汚らしい。どんな病気を持ってるか分かったもんじゃないんですから。貴女もそんなボロボロの格好でよくもぬけぬけと家の敷居を跨いだものですわ」
「…で、でも…これでメロちゃんの病気が…」
「勝手に人の家の事に介入しないで下さい。あの子はどうせ"手遅れ"だし」
「"手遅れ"…?"手遅れ"ってどういう…」
「とにかくサッサと出ていってくれますか?旅人と話してる所なんて見られたら家の品位が下がります!」
奥さんはそう言って中に戻ろうとする。
「ま、待って下さい!最後に、最後に一つ質問良いですか…!」
「ハァ?」
「ナタリーテの青い実は山賊が大量に備蓄してました。多分、必要とする人に高く売り付ける為でしょう。見たところ貴女はかなりお金を持ってますよね?娘が不治の病に侵されたのなら、どんなに大金を積んででも娘を救おうとしたハズです…!裏ルートで山賊と取引だって、人を多く雇って青い実を探させる事だって出来たハズです…!なのに…!なんで彼女はまだ花粉症で苦しんでいるのですか…!」
「……………いい加減にしないと衛兵を呼ぶわよ!愚民の分際で!」
そう捨て台詞を吐き、奥さんは家の中に戻っていった。
イズミルは俯いて…歯を食い縛って拳を握った。フルフル震えるイズミルに反応してディアゴのページがバララッとめくれ始めた!
…しかし、そこでリューセイがイズミルの肩に手を置いた。
「ダメだイズミル。ここは堪えろ。行こう」
「うぅ…くっ…」
怒りに震えるイズミルはそのまま左腕を引っ張られながら、その屋敷を後にしたのだった。
〜〜〜〜〜
「リューセイ様…ありがとうございます…リューセイ様が居なかったら私…」
「大丈夫だイズミル。お前の気持ちは良く分かるよ…」
落ち込んでいるイズミルを慰めながらトボトボと街を歩いていると、街の人に必死にイズミルの居場所を聞き回っているリーサが見えた。
「あ!リーサ!ココだココ!」
リューセイの声を聞いてリーサが振り返る。
隣に居るイズミルを見てハッと驚いた後に胸を撫で下ろすも、直ぐにキッと顔を強張らせて歩いてくる。
イズミルの前に着くや否や、リーサはイズミルにパチン!と平手打ちをする。
「もう!もう!ほんとに心配したんですから!!もう!うわ~ん…!」
リーサはボロボロ涙を流しながらイズミルに直ぐ抱き着いた。
「ギャッ…!リーサ様、抱き着く前に、ごめんなさい、まずは回復を…!!」
〜〜〜〜〜
回復魔法でやっとイズミルの傷は癒えた。
「本当にご迷惑おかけしました…」
イズミルは深く深くお辞儀をする。
「良いんだよ。俺もイズミルの立場だったらおんなじ事してたさ」
「でも、でも!ほんとに、金輪際こんな心配事は嫌ですよ!ほんとに…寿命が縮むかと…!」
「リーサならほんとに死にかねないからなぁ」
「ほんとにごめんなさい…リーサ様…。あの、それと、新しい書記担当は雇われたのですか…?」
「まさか。ダルさんもあぁ言ってたけど、流石にイズミルが居ないと困る事ぐらい分かってるさ。あの時は少し薄情に感じたかもしれないけど…」
「いえ、ダルクスおじ様は間違っていません…。宝箱配置人として浅はかだったのは私の方なのは間違いなくて…。もっと大人にならないとですよね…メロちゃんも…私を大人っぽいって言ってくれたんですから…」
「…イズミル…。少しは子供っぽく、甘えたって良いんだぞ?」
「いえ…私は世界の命運を握っている宝箱配置人の書記担当ですから…!」
「イズミル………」
「………でも最後に一つ、ワガママを言っても良いですか?」
「ん?」
「さっきの路地裏で…メロちゃんを少し待っても良いですか?…せめて、青い実を直接でも渡してあげたくて…」
リューセイとリーサは顔を合わせ…頷き合う。
「あぁ。行ってきな。ダルさんに事のあらましは報告しておくから」
リューセイがそう言うと、イズミルはまた深々とお辞儀をして先程の路地裏の方に走っていった。
「もう…忙しない子ですね…」
「ま、あれでこそイズミル…だろ?」
酒場に居るであろうダルクスの元に向かう。しかし、リューセイはまだ腑に落ちない事があった。考えながら歩いていると、背中のユーリルが先に小さく声を上げた。
「勇者様…さっきの奥様が言ってた事って…」
「……………多分、そういう事だと思う…。だとしたら最悪だけどな…クソッ、闇が深そうだぞあの屋敷。う~ん…どうにか忍び込んで色々炙り出したいが…変身でもしなきゃ中に入るのは…」
リューセイはハッと考えが浮かび、パチンと指を鳴らす。
「そうだ…この方法に賭けてみるか…?」
リューセイは一つの妙案を思いつくのだった。
続く…




