第三十四幕【諦めない】
モクレーンを出てしばらく歩いた所にある山。イズミルはそこに目を付けた。
遠くから見ると一際ナタリーテによって白く染まっていた山だからだ。
ナタリーテが多ければその分"青い実"の見つかる可能性も高くなる。そういった算段だった。
「よし!」
イズミルは意を決して山に入っていく。
ディアゴの力を使って登山を進めるイズミル。岩肌剥き出しのゴツゴツした岩山は一歩足を踏み外せば真っ逆さま。非常に危険な場所だ。
イズミルはちょっとずつ…ちょっとずつ…
ディアゴの【飛翔の章】や【スプリングの章】を使い登って行く。
すると、ようやくお目当ての山の中腹にあったナタリーテが多く咲いている場所に到着する。
「よっと…!ここからが本番だよねディアゴ…」
イズミルは早速青い実を探し始めた。
〜〜〜〜〜
…しかし、やはり噂に聞いていた通り、そう簡単には見つかるハズもなく。空は夕焼け、辺りは薄暗くなってきた。
「ない…ない…ダメだ…場所を替えた方が良いかな…?」
イズミルが探している場所に広がって咲いているナタリーテのまだ半分も見れてないが、そんな事を思ってしまう。
ここにはもう青い実は無いんじゃないか?
もしかして、もっと上の方に行かないと無いんじゃないか?
そもそもこの山には無くて…他の山に行かないと…
時間が経つ程不安と焦りは募っていく。
「メロちゃんに約束したもん…絶対に青い実を見つけて来るって…!」
イズミルは必死に探し周った。
しかし、時間はあっと言う間に過ぎ去ってしまい…辺りは真っ暗になる。
ディアゴの【光輪の章】でなんとか辺りは照らされるが…これで青い実を探すのは限界があった。
「ダメだ…明日また明るくなって出直そう…」
屈んでいたイズミルは立ち上がり、帰路につこうと一歩踏み出した所で…
ズルッ!
「…うわっ!?」
そこには地面がなく…イズミルはそのまま山肌を転がり落ちてしまった。その衝撃で背負いベルトが千切れ、ディアゴは別の方向に転がっていき離れ離れに。呪文も切れて真っ暗闇を転がったイズミルは…山の麓まで転がり続け、そこにあったナタリーテの花畑にドサッと入り…そのまま気を失ってしまうのだった…
〜〜〜〜〜
「イズミル!!イズミル!!」
「イズミル様!!」
「うぅ…」
何時間倒れていたのか、辺りはもうすっかり明るくなり…イズミルは誰かの声と身体中の痛みに起こされた。
「イズミル!しっかりしろ!!」
「イズミル様〜!!」
「痛ぁ…」
イズミルが目を開けるとリューセイの顔が。イズミルは花畑の中でリューセイに抱えられていた。その背中の超光伝力放射法からはユーリルも心配の声を上げている。
服はボロボロ、眼鏡もヒビが入って…打撲と切り傷まみれ。頭も強く打ったのか、顔を触ると手にはベッタリと血が…誰がどう見てもイズミルは重症だった。
「馬鹿!一人でこんなところに来るから!」
リューセイはそう言いながら持っていたハンカチでイズミルの顔を拭った。
「ど…どうしてリューセイ様が…」
「お前が一人で山に行ったと思って俺達はずっと探してたんだ!リーサも街の方をまだ探してる」
「ごめんなさい…迷惑かけて…」
「それより、早くリーサに診せて回復魔法を…」
「はい…いってて…」
起き上がろうとすると、右腕にズキンと痛みが走り、イズミルは抑える。
「…クッ…折れてるかもしれないです…」
「マジかよ…それじゃおんぶも出来そうにないな…」
イズミルは頑張って立ち上がるが、そこでハッ!と何かに気付いた。
「…ディアゴ!!」
イズミルは辺りを見渡す。
しかし、ディアゴは見当たらない。
「どうしよう…!!ディアゴを無くすなんて絶対にダメ…!!」
イズミルは急いで辺りを探し始める。
「ない…!ない…!そんな…!!」
焦りがどんどん積もっていく。
「どうしよう…!どうしよう…!私がワガママ言ってみんなに迷惑かけたから…バチが当たったんだ…!」
「落ち着けイズミル!一緒に探してやるから!」
涙ぐみながらも花の中にディアゴが埋まってないかと、リューセイとしばらく掻き分けて進んでいくと…
「あっ…!!」
ディアゴが落ちていたように四角く花畑が潰れている場所があった。
しかし、ディアゴの姿が無い…
「見ろ!これ!」
リューセイはそこから続く…何かを引きずったような後と足跡に気付いた。
「コレは…ディアゴが持ち去られた…!」
イズミルがそう声を上げるのだった。
〜〜〜〜〜
【とある洞窟内・山賊の隠れ家】
ズルズル…ズルズル…
「おいおい、なんだそりゃ?」
山賊仲間の一人がディアゴを引きずって隠れ家に入って来る。
「…わ、分からねぇ。なんかの呪術書みたいだが…花畑に転がってたんだ…」
「引きずらなくても背負えば良いじゃねぇか」
「ベルトが切れてんだよ!あぁ〜クッソ重いぞコレ!!」
そう言って山賊の一人は洞窟内の真ん中まで巨大な本を引きずって来るとそのままへたり込んでしまった。他の仲間達も集まって来る。
「なんなんだこの本は…」
「見ろ!表紙に目が!動いてるぞ!」
「この装丁…売ればかなりするんじゃないか…?」
「ゼェ…ゼェ…おい…!俺が見つけたんだ!俺の獲物だぞ!」
へたり込んでいた山賊はその本に覆い被さった。
「なんでそんなもんが花畑に…」
「それ、返して貰えますか!」
急に女の子の声がして洞窟の入口に目をやると…筒状の何かを背負った少年と…その後ろに隠れるようにボロボロの学者の女の子が立っていた。リューセイとイズミルだ。
「バッカ!お前は入口で待ってろ!大怪我してんだぞ!」
リューセイはそう促すと、イズミルはコクリと頷いて洞窟を出て入口からひょっこりと様子を伺っている。
「何だテメェら!!どうしてココが分かった!?」
「いや、ディアゴを引きずった跡が続いてたから…それはそれは追うの簡単だったぞ?」
「チッ…。隠れ家がバレたとあっちゃあ生かして帰す訳には行かねぇな…」
山賊達は一斉に各々が武器を構える。
「…まぁ、そうなるよな」
ヤレヤレと、リューセイは背負っていた超光伝力放射砲を構える。
「勇者様!?ま、ま、待って下さい!まさかココで撃つ気じゃ…!洞窟内で打ったら流石に崩れて私達も生き埋めになっちゃう可能性が…!?」
「心配すんな!撃ちはしない。普段は打撃武器として使えってガフマン博士も言ってたろ?」
超光伝力放射砲はバズーカ砲をバットの形にしたような見た目で、リューセイはそれこそバットを持つ様に構える。
「ユーリル!発火!!」
「え!?え!?」
「この前やってただろ!」
「は、はい!」
リューセイに言われた通り、ユーリルは内部を発熱させる。
光伝力放射砲は持ち手以外をみるみる内に真っ赤にし、火は出ないものの白い煙をプシュー!と吹き上げながら陽炎をユラユラと作る。
「おっし!!バッチこーい!!!」
クルリと光伝力放射砲を回してザッ!とまるでバッターボックスに立つかの如く構えるリューセイ。
「構わねぇ!やっちまえ!!」
山賊達は一斉にリューセイに向かっていく!
山賊の一人が飛び上がり、襲いかかる!
すかさずリューセイは光伝力放射砲をフルスイング!!
ジュッ!!!
カッキーーーーーン!!!
「あづぁぁづぁぁぁぁぁーーーーー!!?」
焼ける音と打撃音と共に、山賊は後方の数名の山賊を巻き込み奥に吹っ飛んでいく!
「撃たないけど…打った!!?」
イズミルは思わず声を漏らした。
リューセイはそのままの勢いで自らも山賊に向かっていき、射程に入った山賊達を次から次に打ち返していく。
カキンカキンカキンカキンッ!!!
「勇者様、部活何してましたっけ!?」
「あっ?俺は軽音楽部だったけど…」
「全然関係ないっ!!」
…そんな事を言いながらも山賊達を一人残らず黙らせてしまった。
「ハッハー!撃たなくてもイケちゃうんだなぁ俺って!」
「いやいや、早いトコ私をここから出して下さいよ…」
「そんな事より、イズミル!本、取り返してやったぞ!」
リューセイは入口のイズミルに声をかける。
イズミルは右腕を抑えながらも安心した面持ちでやってくる。
「ありがとうございます…リューセイ様…なんとお礼を言ったら良いか…」
「良いって事よ!…それより…背負えるのか?」
「肩掛けベルトが切れてるので…」
「ちょっと待ってろ…」
リューセイは近くに倒れていた山賊のズボンのベルトを外す。
「これで応急処置だ…俺が背負ってやりたいけど…これはお前しか背負えないんだよな」
リューセイはそのベルトでなんとか肩にかけられるように修復する。
「ありがとうございます!背負ってしまえば大丈夫だと思いますが…。お手数ですが、肩にかけて貰えますか?」
「ほんとに大丈夫か?掛けるぞ?」
リューセイはゆっくりイズミルにディアゴを背負わせた。
「…ん………大丈夫そうです…!」
「良かった。じゃあサッサと街に戻ろう!」
そう言ってリューセイ達は洞窟を後にしようと…
「…!!ちょっと待って下さい!!」
イズミルは何かを発見したのか、洞窟の少し奥に走って行く。
「お、おい!どうしたんだよ!」
リューセイも後を追う。
イズミルは奥にあった小さい作業台の前で立ち止まる。その上には大量の…
「…ナタリーテ!!それに…青い実だ…!!」
リューセイは思わず驚いた。
イズミルはコクリと頷き。
「この山賊がやはり手当り次第に乱獲してたんでしょうね…。貴重なものだから高く売れるだろうし…こんな所に溜め込んで…」
「良かったじゃないか!少し失敬してやろう!」
「そ、そうですね…!」
思わぬ収穫に、イズミルも興奮を抑えられないようだった。思わず笑みが溢れている。
リューセイ達は青い実の付いたナタリーテを数本懐にしまい、洞窟を後にするのだった。
続く…




