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異世界から転生した勇者より宝箱配置人の方が過酷だった件  作者: UMA666
第一章【旅立て!宝箱配置人編】
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第三十二幕【花の街モクレーンとナタリーテ】

【フルブール地方】


エンエンラ王国のあるワニュードン地方の南に広がる山岳地帯。


「この地方から私はやって来たんですよ!」


イズミルがリューセイに向かってそんな事を言った。


リューセイ達は一旦足を止めて小休憩を取り始める。


街道沿いは見渡す限り白い花が咲き乱れる、平原というよりは花畑に近いような綺麗な所だ。周りを囲う山々も一部が白くなっている。


「あれって雪か?こんな暖かくて気持ち良い場所なのに…?」


「リューセイ様、あれは雪じゃないですよ!あの白く見えるのも全部【ナタリーテ】って言う白いお花なんです!」


「えぇ〜!!私も見たいです!!勇者様!今すぐ射出して下さいよ〜!!」


ユーリルの声が光伝力放射砲(ルミネーションキャノン)の中から聞こえ、暴れているのが伝わる。


「んなことしたら花も消し飛んじゃうかもだろ!」


「うわぁぁぁん!」


(ユーリルには悪いが、暫くはこの中で大人しくしてて貰うしかない…)


ーーーーー


「イズミルちゃん!花かんむり作ってあげましょうか?」


リーサが花の中にしゃがんでイズミルを手招きする。


「花かんむり…?なんですかソレ?」


「え!お花で作る冠ですよ!イズミルちゃん絶対似合うと思うな〜?」


「いえ…私にそんな…」


「いいからいいから!」


リーサはそう言ってイズミルを自分の側に座らせた。

リーサは早速花かんむりを作り始めながら、イズミルに質問をする。


「それにしても…こんな花に囲まれた地方出身なのに、花かんむりを知らないなんて…」


「私…両親を当時の流行り病で早くに亡くして、物心つく前から森の中のおじいちゃんの家で宝箱配置人としての勉強に明け暮れてたので…結構、世間知らずなんです」


「ご両親が…そうだったのですか…」


「だから【モクレーン】に行くのも初めてなんです!だから楽しみで!」


「おーい!そろそろ行くぞー!」


ダルクスの声がかかる。


「あ、はーい!もう少し待って下さーい!」


リーサはテキパキと馴れた手付きで花かんむりを完成させた。


「はい、イズミルちゃん」


白い花【ナタリーテ】のみで編まれた真っ白な花かんむりを頭に乗せられる。


「わぁ」


イズミルは凄く満足そうに笑っている。


「すっごく可愛いですよ!似合ってます!ハァハァ…!」


リーサは興奮気味だ。


「なんか、女の子らしい事するのって照れくさいですね…」


「何言ってるのイズミルちゃん!あなたは可愛いんだよ!ちゃんと可愛くしなきゃ!!」


「う〜…ほ、ほら、早く行きましょう!待たせるとダルクスおじ様がうるさいので…」


余り可愛いと持て囃されるのに馴れてないのか、イズミルは顔を赤く染めながらリーサの話をパパッと切り上げてしまうのだった。




〜〜〜〜〜




【フルブール地方】

【花の街・モクレーン】


山の緩やかな斜面を登っていくように建てられた街。

【ナタリーテ】が街中に咲き乱れ、舞い散る花びらに花の匂い、とても神秘的で美しい街だ。


「どこもかしこも花まみれだな…しかも、白色一種類だけ…」


リューセイが風景に圧倒されながらそんな事を呟くと、イズミルが説明をしてくれた。


「【ナタリーテ】はこの街の特産品で、万能の花なんですよ!煮出してお茶にしたら凄く美味しいですし、煎じて薬にすれば塗り薬、飲み薬にもなって…料理に入れても良いし、鑑賞用でも勿論…」


「へぇ〜」


ダルクスが引いていた荷物を止め口を開く。


「取り敢えず、まずはこの街の宝箱配置だな。ガキんちょ、お前は町長んとこ行って挨拶がてら【モクレーン神殿】に立ち入る許可を貰って…」


「いえ、私はちょっとこの街を周りたいです」


ダルクスの指示を珍しく断るイズミル。


「…あ?…じゃあ俺が尋ねる。リューセイ、リーサ、ガキンちょは今まで通りその他の事頼んだぞ」


ダルクスはそう言って町長の家に向かう。


「んじゃ、俺達も分かれて行動を開始するか」


リューセイは言い、各々はその場で散り散りになった。




〜〜〜〜〜




「こんな綺麗な街が近くにあったなんて…」


イズミルは街をトコトコと周り、気になった事をノートに書き込んでいた。


イズミルは元々この街に産まれ、両親と住んでいた。しかし、当時の記憶が全くなかった。

物心ついた頃には既にイズミルのおじいさんにあたる伝説の宝箱配置人・書記担当だったシムラと一緒だったからだ。


(私の産まれ故郷…街を周っていたら何かを思い出すかもと思って…)


しばらくイズミルが街を周っていると、ふと家と家の間の細い路地に目が止まった。

なんとなく好奇心で入って行くイズミル。


直ぐに細い路地を抜け、少し開けた所に出たが行き止まりだった。

しかし、ただの行き止まりではなく、思わず目を引く光景が広がっていた。


そこには真上から差し込んでくる太陽の光に照らされナタリーテが咲いており、小さな花畑になっていた。

そしてそこには一人、イズミルと同じくらいの女の子が花畑の中で背を向けて屈んでいた。路地裏には似つかわしくない、綺麗な真っ白な服。お金持ちの令嬢さんのような…


「…ハッ!」


イズミルの存在に気付いた彼女は振り返る。その肌も白く、服も白い…しかし長くサラサラな髪だけは真っ黒で綺麗だった。


「ゴメンなさい驚かせてしまって。私、ただの通りすがりの宝箱配置人・書記担当、イズミルです!」


イズミルはペコリとお辞儀をした。

キョトンとする彼女は、しばらくしてクスッと笑った。


「それ、可愛いね」


そう言って、彼女はイズミルの頭を指した。さっきリーサが作った花かんむりをまだ付けたままだった。


「ねぇ、それってどうやって作るの?」


彼女は興味を示している。


「これは、私が作ったんじゃなくて…仲間の人に作って貰ったんです。だから、私も作り方はよく分からないんですけど…見様見真似でならなんとか…」


イズミルは花畑に入って、リーサの手付きを思い出しながらなんとか花かんむりを作ってみせる。

彼女は楽しそうにそれを眺めている。


「これを…こうやって…たかな…?」


「ふんふん、それで?」


「え〜と、あれ?なんか違うな…あ、こうか!」


なんとか花を編んでいくと…

リーサが作ったのとは似て非なる、グシャグシャの花かんむりが出来てしまった。


「こ、これは失敗の例!」


イズミルが新しく作り直そうとするが、彼女はグシャグシャの花かんむりを手に取った。


「可愛い〜!!」


目をキラキラと輝かせている。

彼女はその花かんむりを頭にはめた。


「どう?」


「変…」


「そこは『いいね!』って言ってよ!フフフ!」


「ニシシ!」


そう言ってイズミル達は思わず笑いあったのだった。




〜〜〜〜〜




話をして分かったのが、彼女の名前は【メロ】と言って、近くにあるお屋敷のお嬢さんだと言うことだった。イズミルはそんなメロと時間を忘れて話し合っていた。


「イズミルちゃんって凄く大人っぽいよね?」


「そ、そうですかね?」


「喋り方が丁寧だし…」


「大人とずっと一緒に居るので…メウエの人をキヅカッテ?そうしてるんです」


「でも、私メウエの人じゃないよ?おんなじ9歳だよね?」


「いや〜、同じ歳の子と喋るの慣れてなくて…ずっとおじいちゃんと森の一軒家に住んでたから友達とかも居なかったし…」


「そうなんだ…?私もだよ!小さい頃から一人ぼっちで友達とか居なかったから…」


「………」


「………」


不意に二人は無言になって、イズミルはそれを壊すように口を開く。


「…じゃ、じゃあ!」


イズミルはスクッと立ち上がり続ける。


「友達探しに街に出ましょう!こんな路地裏に居ても友達は見つかりませんよ!」


バーン!

と聞こえそうな決めポーズ。


「ダメだよ。私あんまり表に出ちゃダメってお父さんお母さんに言われてるから…だから一人でここで遊んでたの」


「…どうしてですか?」


「私が病気だからかな?」


「病気…?」


「ナタリーテって【万能の花】って言われてるけど、怖い一面もあってね?ナタリーテの花粉は普通は人には無害なんだけど、極稀にその花粉に適応出来ない子が産まれるらしくて…適応出来なかった子は0歳から9歳の間に【花粉症】を発症する事があるんだって」


「【花粉症】…?」


「肺に入った花粉に蝕まれちゃって咳が止まらなくなるの。今は落ち着いてるけど…夜とか酷いんだ」


「そんな…治らないんですか?」


「普通は治らない…けど、一つだけ治す方法があるのはある…けど…」


「そ、それは!」


「山に生えるナタリーテの中にはたまに"青い実"を付けるものがあるらしいの。ほんとに滅多に実をつける事なんてないみたい。でも、その実を食べたら花粉に対しての抵抗力が付くんだって」


「じゃあその青い実を見つければ…!」


「でも中々見つからないの。そもそもが滅多に付かない実。それに、その実を狙う盗賊や山賊が後をたたないの。実ってもすぐ奪われちゃって…」


「任せて下さい!」


イズミルは胸をバン!と叩いた。


「このイズミルに任せて下さい!必ず、その青い実を見つけ出してみせますよ!」


「いや、大丈夫だよ!山は険しくて危険だし、山賊とかも居るし、私はほんと大丈夫だから…!」


「心配ご無用!私にはディアゴも付いてるし!他にも強い仲間が居ますから!!」


イズミルは善は急げと言わんばかりに駆け出した。


「絶対に見つけて来ますから!約束です!」


「イズミルちゃん!ほんとに大丈夫だってば!ほんとに危ないから!」


「大丈夫大丈夫!」


そう言ってイズミルは路地裏を後にした。


「イズミルちゃん待って…………ゴホゴホッ!」


追いかけようとするメロ。

しかし、数歩走ったところで胸に手を当ててしゃがみ込んでしまった。


「ゴホゴホ…ッ!」


酷く咳き込むメロ。口を抑えた手には血が付いていた。


「…ハァハァ…余計な事言っちゃったかな…」


メロがそうなっているとは露知らず、イズミルは皆が集まっているであろうこの街の酒場に走って行くのだった。




続く…

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