第三十幕【僧侶とシスターって似てるようで違うんだって】
「いつも遠い所からご苦労さん」
そう言ってお店の人から食材が詰まった紙袋を渡される一人のシスター。【ムジナ村】のシスターだ。
「ムジナ村だけだとこんな色とりどりのお野菜は揃えられないので、いつも助かります」
「そういや聞いたよ?そっちも大変だったみたいだね。教会を悪党に半壊させられたとか」
「いえいえ、大した事では…。神のご加護のおかげで、それだけで済んだのですから」
シスターはニッコリと一礼してお店を出る。
ガシャーン!!バターン!!
出てすぐ店の前がなにやら騒がしい。
どうやら赤髪ショートの僧侶と薄紫ロングの僧侶が激しく揉めているようだ。こんな時間に喧嘩か、野次馬も集まっている。
シスターはそ~っと、横を通り過ぎようとする…
すると、揉み合っている二人の僧侶の方から何かがシュッ!と飛んで来た。
「ヒッ!」
そう言ってシスターは思わず持っていた紙袋で自分をガードする。
ビィィィン!!
横の壁には深く突き立ったナイフが刺さっている。
どうやらそれが飛んで来たようだ。
ボトボトッ!
気付くと持っていた紙袋の下半分は真っ二つに切れ地面に落ちてしまっていた。中の野菜達も真っ二つになり地面に無惨にも転がっている。
「お、お野菜がぁぁぁぁぁ!!!」
シスターはワナワナとその場に座り込んでしまった。
〜〜〜〜〜
「どういうつもり?いきなり攻撃してくるなんて…」
ガウラベルが問いただす。
すると、リーサはユラユラと身体を揺らしながら口を開く。
「ワタシと言うものがありながら…新しい僧侶を雇うなんて…やっぱり…ワタシとはお遊びだったんですね…!!」
「いや、何か誤解を招いてるけどそうじゃなくて…」
「こうなったら…ワタシ以外の僧侶を消せば…そうすれば…みんなワタシしか見れなくなりますよネ???」
そう言ってリーサはユラッとガウラベルに近付く。
そんなリーサを見て、フッと微笑み余裕な表情を見せるガウラベル。
「正直、同じ僧侶でこんなヤル気に満ちた奴は初めてだよ…フフフ…そうと分かればアタイも黙っちゃいられない…!アンタの強さを見せて貰おうか…!」
瞬間、キッと目付きを変えたガウラベルは地面を蹴って一瞬でリーサの懐に入る!
…が、咄嗟にリーサは身を翻し、そのまま流れる様にナイフを振り切る。
ガウラベルはその攻撃をスラリと避け、足を高く振り上げ、そのまま踵落としを繰り出す…が、リーサはナイフと両腕をクロスさせてガードする。
「お、やるねぇ〜。アタイの足技を止めるなんて…!」
「フフフフ…ワタシは簡単にはヤラれませんよぉぉぉ!!!」
そう言って二人は、目にも留まらぬ速さで連撃を繰り出し始めた!
シュババババ!!!
周りの野次馬も、二人が巻き起こす風を肌身に感じるだけで、その目で認識する事は出来ない!
次第にその風の"中心部"は激突音を響かせながら街中を駆け巡る。
「コレ、どういう状況なんですか!?てゆうか、世界観!いつからコレ、バトルものになったんですか!?」
リーサの限界メンヘラ突破と言い、それを初めてみたイズミルは口をあんぐり開けて驚いている。
リューセイは正直見慣れていた。
そもそも、あの限界メンヘラ突破を引き出したのはリューセイだった。
「この世界にはまともな僧侶は居ねぇのか!」
ダルクスは頭を抱え、ヤレヤレと首を降っている。
「ガウラ姐さぁぁぁん!!!カムバァァァック!!!」
クサカベは地面に膝を付いて空に吠えている。
(もう滅茶苦茶だコレ…)
「お二人が争っているんですね!?勇者様!出番ですよ!」
ユーリルが話しかけてくる。
「出番って…」
「今こそ"超光伝力放射砲"の出番ですッ!!」
「馬鹿言え!!こんな城下町のど真ん中で撃てるかよ!!どんな威力かも知らないのに!!」
「うぇ〜ん!!私もその闘いを見届けたいのに〜!!」
中々お披露目が出来そうにない武器だ。
〜〜〜〜〜
ガウラベルとリーサの戦闘は地上から城下町の家屋の屋根に場所を移して、お互いは一旦離れて屋根の上で向き合った。
先程までの激しい鍔迫り合い(つばぜりあい)が嘘のようにガウラベルは息一つ切らしていない。
「アタイをここまで手こずらせるとはね…!アンタLv1でしょ?どこにそんな力が隠されてんのよ…」
「ハァ…ハァ…ワタシは…誰のおもちゃにもならない…誰のおもちゃでもない…ハァ…ハァ…」
ガウラベルとは対照的にリーサは汗を流し息が上がっている。
「Lv1にしては頑張ってたよ?でもまだまだだね。動きに無駄が多いし、何よりアンタは怒りや憎しみに動かされて無鉄砲になってるだけ。そんなんじゃアタイに傷一つ付けられないね」
「………ッ!」
ヤレヤレと首を振って余裕を見せるガウラベルに痺れを切らしたリーサ。
キッと瞳孔を開いたリーサは歯を食い縛りゴウッ!と瞬時に接近する。
リーサの怒涛の攻撃に、表情一つ変えずに避け切るガウラベルは隙をついて彼女の襟元にソッと手をかけ、そのまま一緒に倒れ込んだ。倒れた二人は屋根の斜面をゴロゴロと転がり地面に落ちる。
ガウラベルはリーサを上から押さえ付けるような体制になる。リーサは構わずナイフを触ろうとするが、ガウラベルはすかさずその手を払い、持っていたナイフを弾き飛ばす。
「もう良いよ。アンタの力は充分わかったから」
「クッ…!」
勝てない…そう悟ったのか、リーサは抵抗をやめ、
「なんなんですか…もう…!!うわぁぁぁん!!みんなしてワタシをぉぉぉ〜!!」
…と、急に泣き出してしまった。
「アンタ情緒が不安定過ぎるだろ!だいぶ闇の深い過去を送ったね?」
そう言ってリーサを見つめるガウラベル。その瞳を見た瞬間にハッと何かに気付く。
「アンタ…その瞳…もしかして…」
リーサのピンク色に白十字の入った瞳を見て何かを言いかけた所で…
「ガウラ姐さ〜ん!!」
クサカベが駆け寄って来る。
その声を聞いてガウラベルはスクッと立ち上がる。
「ごめんクサカベ。待たせたね。こっちは大丈夫だ」
「いきなり物凄いスピードで戦闘が始まったからビックリしましたよ………その割には全然乱れてないですね」
「ま、アタイにかかればこんなもんよ!」
しばらくすると、宝箱配置人のメンバーも集まって来る。
「リーサ!大丈夫か!!」
リューセイが近付こうとするとダルクスに止められる。
「待て。まだ限界メンヘラ突破中かもしれん」
「確かに…」
「大丈夫です。もう我に返りましたので」
リーサもスッと立ち上がる。
我に返ったとは言うが、その顔はいつものオドオドしたリーサではなかった。何か、決意のみなぎった様な清々しい顔だ。
「リーサ…自然に限界メンヘラ突破が解除されたのか…!?いつもは気絶させないと戻らなかったのに…まさか克服した!?」
リューセイは驚きの声を上げた。
一方、クサカベと話すガウラベルを横目に、ダルクスが一服しながら声をかける。
「ったく、見た目だけはいっちょ前に成長して…中身は全然変わってねぇな。僧侶の癖に戦闘狂が」
「うるさいな。アンタこそ10年前と何も変わらな過ぎるだろ。もっと老けてんのかと思った」
「うるせぇ。んで………ココは相変わらず大丈夫か?」
ダルクスはそう言って、自分の心臓部分をトントンと叩く。
「あぁ。なんとか持ってるよ。昨日はちょっと危なかったけどね…」
そう言って腰に掛けたひょうたんの牛乳を飲もうとするガウラベルだったが…
「あれ!?出ない………!?バターになってる!?」
「そりゃ、あそこまで激しく暴れてりゃバターにもなるわ」
「く、クサカベ!!もう行くぞ!!牛乳の買い足しだ!!」
「は、ハイ!!」
二人は急いで立ち去ろうとする。
そんな二人の前にリーサが立ち塞がる。
「あ、あ、あの!」
「どうした?急ぐんだけど!」
「私…目標が出来ました…!貴女のような強く凛々しい僧侶に…私もなります…!」
「…そう?なら応援するよ。アンタなら立派な僧侶になれるさ。みんなを守ってやりな。僧侶はそれが出来る職業だ。"鳥籠に囚われて守られてるだけだった時"とは違うんだかさ?」
そう言ってガウラベルは自分の目を指差す。
リーサはハッとして…静かに頷くのだった。
この時の意味を、リューセイ達はまだ知る由もなかった。
勇者一行はそのまま城下町の人混みの中に消えていった。
リーサはスッとリューセイ達の方に向き直る。
「私達も行きましょう!宝箱配置人も負けては居られません!」
「もう大丈夫なんですか?」
イズミルは心配そうな声色だ。
「えぇ!何かこう、吹っ切れて…今はとても清々しい気分なんです!あの…ガウラベルさんに追い付く為に…私は挫けてはいられないので…!」
「リーサさんがガウラベルを目指すとは…勘弁してくれ…」
ダルクスは首を振りながらその場を後にする。
「じゃあ…出発しますか!」
イズミルも切り替えて動き出す。
「皆さん、改めてよろしくお願いします!」
リーサが深くお辞儀をする。
顔を上げたリーサの目はキリッと、頼もしささえ感じる程に…
ゴスッ!!
「ミ"ャ"ッ"!!」
鈍い音と共に、リーサはうつ伏せに倒れてしまった。
その後ろには…教会のレリーフを持ったシスターが一人…
「コノヤロ、やっと見つけましたよ!!お野菜弁償しろコラァ!!」
「り、リーサァァァァァ!!!」
目を回して倒れているリーサ。しばらくして目を覚まし限界メンヘラ突破し暴れ出したリーサをなんとか鎮めて…
リューセイ達はエンエンラ王国を出て、次の街【モクレーン】を目指すのだった。
ってか、克服してなかったんかい!
続く…
 




