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異世界から転生した勇者より宝箱配置人の方が過酷だった件  作者: UMA666
第一章【旅立て!宝箱配置人編】
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第三幕【酒場の夜】

「勇者様遅いですね」


流星が職業案内所に行ってから一時間程経った。

ユーリルとダルクスは職業案内所の外で待ち呆けていた。


「色々と手続きしてるんでしょう。気楽に待ちましょう」


そう言ってダルクスは待ち始めて何十本めかのタバコにマッチで火を付けた。


「…にしても"勇者様"って。今のアイツは"勇者になれなかった奴"だけど、それでもその呼び方なんですね」


「まぁ…あれでも別の世界では魔王討伐を果たした伝説の勇者ですからね。私が見込んで転生させただけはあります。彼はほんとに勇者の素質がある。出来ればこの世界でも活躍させてあげたかった…」


「女神様は普段はどうされてるんですか?」


「複数の世界の管轄を任されてます。その世界の人間達を観察し良き方向に導き救いの手を貸すようにと"上"から言われてるんです。それが私達女神の仕事」


「なるほど。それで魔王を倒せるだけのポテンシャルを持った者を別の世界から引っ張ってきた訳ですね」


「えぇ!大型トラックをバーン!とぶつけてやりましたよ!転生にはあれが一番手っ取り早い」


「トラック…?」


「あぁ、すみません。勇者様がいた世界の乗り物の事です」


「それにしても、今回は彼を連れて来る必要はなかったみたいですね」


「…そうですね。前の異世界では魔王が現れたにも関わらず勇気ある者が誰一人現れず、このまま世界が支配されるのを待つだけといった状況でした。だから勇者様を転生させたのですが…この世界でもそうだと早とちりしてしまい、勇者様にはご迷惑をおかけしてしまいました…まさか既に他の勇者が名乗り出ていたとは…」


「…ま、良いじゃないですか。その勇者に何かあった時の為の補欠勇者として待機させとけば」


「そうですね」


「あとずっと気になってたんですけど」


「はい?」


「なんで頭にずっとナイフ刺さってるんですか?」


「あぁ…これはカチューシャです!勇者様の元居た世界で手に入れた物なんです♪」


そんな話をしているとやっと流星が戻って来た。


「おまたせ。物凄く人が並んでてさ。思ったより時間かかっちゃったよ」


そう言って流星は「宝箱配置人・補助」の転職承認書を自慢気に掲げた。ダルクスもウンウンと頷く。


「フッ、これで晴れてお前は宝箱配置人の仲間入りって訳だ。改めてヨロシク。えーっと…"勇者様"って呼んだ方が良いのかな?」


「名前は流星です。よ、よろしくおねがいします」


「"リューセイ"だな。了解。よろしくリューセイ」


そうしてリューセイとダルクスは握手を交わした。


「…で、ダルさんどうするんです?早速仕事に取り掛かるんですか?」


「そうだな…まずは…酒場でパーッと歓迎パーティーだな」


ユーリルが飛び跳ねて喜ぶ。


「パーティー!良いですね!」


「いや、でも俺達無一文…」


「心配すんな。お前らの歓迎パーティーだぞ。俺が全部出すって!ハハハ」


そう言ってダルクスはズカズカと酒場に向けて歩き出した。


空はもう日が沈み始め城下町を紅く染めている時間帯だった。


「あぁ、なんだかこれからとても素敵な冒険になりそう!」


ユーリルはウキウキ気分でリューセイとダルクスの後を追いかけた…




〜〜〜〜〜




夜も更け、リューセイ、ユーリル、ダルクスは酒場で楽しく歓迎パーティーと洒落込んでいた。…とはいえリューセイは未成年。お酒は飲めないのでジュースで楽しんでいた。


「それでれすよ!?その女神が言うんれす!『あんたにはこの世界がお似合いよ』って!冗談やないれすよ!もともとファンタジーの世界専門の女神らったのに…」


ユーリルがベロベロに酔っ払い愚痴臭くなってしまうのは前回の冒険の頃からそうだ。


「はいはい分かったから。とにかくワット数を下げろって!周りが驚いてんじゃねぇか!」


酔うと意味なく発光するのもいつも通り。リューセイは来ていた制服のブレザーを脱いでユーリルに被せた。


「それでその、リューセイの世界も管轄にねじ込まれたって訳か。ヒデェなそれは」


「そうれしょ!?ほんと頭にきちゃいますよね〜…あ、お姉しゃんこっちに樽ビール3つお願いしましゅ」


「はーい。かしこまり」


「おい、いい加減にしろよユーリル。その後の看病を誰がする羽目になると思ってんだ?」


「ハハハ、女神様はほんと呑みっぷりが良いなぁ。見た目まだ少女って感じだけど大丈夫なのか?」


「大丈夫れす。こう見えても300歳は超えてるのれ…」


二人が楽しそうに話しているのを邪魔しないように静かに立ち上がったリューセイは酒場を出て意味もなく外を歩いた。なんとなく夜風に当たりたい気分だった。


「不思議だなぁ。前回転生した最初の頃は現世に帰りたくて帰りたくて仕方なかったっていうのに…人は馴れる生き物なんだなぁ…」


この状況を認めている自分が居る事に驚きながら前回の冒険を思い出して懐かしむ。


「冒険を共にしたあの世界の仲間達は…元気にやってるかな…」


「キャアアアア!!!」


リューセイが思いにふけっていると、いきなり女性の叫び声が響き渡った!それを聞いた体は考えるより先に動いていた。叫び声のした路地裏に入っていくと、バニーガールが盗賊風な男二人組に腕を掴まれていた。


「おい!」


リューセイはすぐに二人組を制止した。


「なんだぁ?邪魔すんなガキ。これからこのお姉さんと楽しい事をしようって時によぉ」


「嫌がってるだろうが離せ!」


リューセイは密かに右手に魔力を集中させた。 前回の冒険で培った力を解き放とうと…!!


「チッ、うるさいガキだ…」


二人組は懐からナイフを取り出しジリジリと迫ってきた。


(今だ!!!)


リューセイは右手をかざした!


「ギガスパーク!!」



………


……………しかし何も起こらない。


「あれ!?なんでだよ!?」


「…ヒャヒャヒャ!!バカかこいつ。ギガスパークっていやぁ勇者職の上級魔法じゃねぇか!!お前に扱える代物じゃねぇよ!!」


「そ、そうだったぁぁぁぁぁ!!!」


(俺は今勇者じゃないんだ!!魔力はあっても覚えた魔法が使えない…!!意味ないだろそんなの!!)


「遊びはここまでだ!死ねや!!」


二人組はナイフを構えて襲いかかってきた。ブンブンと振り回すナイフを回避し、二人組と立ち位置を入れ替える。リューセイはバニーガールを自分の後ろに隠す。


「ちっ、素早い野郎だ」


リューセイは足元にあった木の棒を拾う。


「それで立ち向かおうってのか!」

「上等じゃねぇか!」


再びナイフを振り回しながら二人組は迫ってきた。デタラメに振り回されるナイフの軌道は手に取る様に見えた。そのデタラメな連撃の隙間を縫って、リューセイは木の棒を二人組のみぞおちに食らわせた。


「「ヴッ!!!」」


ドサッ…


二人組は倒れて動かなくなった。


「バカめ。木の棒だってな、レベルで補えば充分お前等くらいなら倒せるんだよ!覚えときな!」


そう言ってリューセイは木の棒を捨てる。


「流石、前回の冒険からLvを引き継いでいるだけの事はあるな…!」


「お、お強いのですね」


バニーガールが感動した面持ちで言う。


「いやいや、ただ、木の棒でたたかうっていう縛りプレイをしてるだけですよアハハ!」


「素敵です…」


そう言ってバニーガールが近付いてくると口元にキスをしてきた。突然の事に動揺する。


「えっ、いや、そんな、俺まだ未成年だし、こんな!?!?」


ワタワタとしている俺を見てバニーガールはクスッと微笑んだかと思うと…




バフンっ!!




白い煙と共に小さく縮んでいき…その姿は黒いコーヒーゼリーの様な生き物に…


「あっ?」


その生き物はピューっとどこかに走り去ってしまった。


「な、なんだ今のは…アイツは確か…ダルさんの…?」






〜〜〜〜〜〜






酒場にて。


「…(ゴクゴク)」


ダルクスは酔うと無口になり無心に酒を煽るようになる。

ユーリルはとっくの昔にダウンし、桶に顔を突っ込んだまま動かなくなっていた。


「ちょっと、いつまで飲んでるんですか。いい加減身体壊しますよ」


マスターに言われるもダルクスの耳には届かない。


「ポニョーン!」


すると、ポニョがダルクスの肩に戻ってきた。


「なんだお前。今まで何処に行ってたんだぁ?」


「ポニョン!」


ポニョはそのままダルクスの懐の中に潜っていった。

そんな時、酒場の扉がバン!と開かれリューセイが戻ってきた。

何やら凄い剣幕でこちらに迫ってきた。


「ダルさん!!ダルさん!!

ポニョ!!ポニョ!!」


「なんだぁ?ポニョポニョうるせぇぞ」


「そいつが俺をたぶらかしたんだ!!バニーガールに変身して!!」


「バニーガールぅ?どこだバニーガール。俺もバニーガール見たいぞ」


「ポニョだよ!ポニョがバニーガールに化けてたんだ!」


「はっ?何言ってんだオメー。そんな訳ねぇだろ」


「ほんとだって!!」


「ミミックは変身魔法なんか覚えねぇの!それにコイツはまだベビーだぞ?そんな高等呪文覚えられるかよ」


「でも確かに変身してたんだって!!そいつに俺、初キッスを奪われたんだぞ!?」


「……………お前、酒の臭いで酔っ払っちまったんじゃねぇの?」


「酔った幻覚だと思いたいよ!!」


「それにポニョはオスだぞ」


「……………!?」


リューセイは口を抑えてユーリルと一緒の桶に顔を突っ込んで動かなくなるのだった。




…続く

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