第二十九幕【前回の冒険では】
ダルクスとイズミルの言い合いも落ち着き、面々は酒場から出た。次の目的地はここ【エンエンラ王国】のある【ワニュードン地方】を南に抜けて【フルブール地方】に入った所にある【モクレーン】という山岳地帯の麓に出来た街だ。
「全く…前、冒険した世界だったら逆に、誰が俺と抱きつくかどうかでモメてたくらいだったのに…」
そんな事をリューセイがポロッと溢す。
それに対してイズミルがすかさず反応する。
「それってどういう意味ですか?…というか、リューセイ様が前回冒険してた世界の事、そう言えば余り聞いた事無かったんですが…」
「そう言えばそうだな…。話すと長くなるんだが…これは聞くも涙、語るも涙の壮絶な冒険の物語だ…」
「うんうん!」
イズミルはキラキラと目を輝かせて話を聞いている。
「その世界はボン・キュッ・ボンな女性ばかりの変わった世界でな…」
「ボン…」
イズミルの顔が一気に曇った。
「"男"は悪魔の化身だと恐れられていた世界だった。んで、俺はその世界で女性達に白い目を向けられながらも、最初にたまたま命を助けた女戦士と共に魔王を倒す事に…」
「ほぉ…」
イズミルは先程までの輝きとは打って変わり、冷ややかな視線を送っている。
「不遇な扱いを受けながらも俺は手に入れた"キラチャーム"の呪文を使って、次々に女性を味方に付けていった…冒険の仲間も増え…」
そこまで話すと、肩に掛けた超光伝力放射砲からユーリルの声がする。
「凄かったですよ〜あの時の勇者様。キラチャームで惚れさせた女性の恋愛フラグをことごとくへし折ってましたからね!」
「あの〜…」
イズミルが何か言いたそうに手を上げるが、リューセイは続ける。
「画して、様々な女性トラブルやハプニング、ハニートラップを掻い潜っていった俺は、見事仲間達と共に魔王を倒し…最後、誰を花嫁にするか選択を迫られるも…俺はその世界の人間ではない…奇しくも悲しむみんなに別れを告げ…俺は現実へと戻ったんだ…!」
「待てい!!」
イズミルは堪らず話を遮った。
「どこが『聞くも涙、語るも涙』なんですか!ただの『ちょっとエッチな異世界ハーレム』じゃないですか!」
聞いて損したと言わんばかりのイズミル。
「なっ!?そうは言うけど、ほんとに大変だったんだぞ!?仲間にした女性達は俺を取り合って次第に泥沼化していき…」
「もういいですって!どんな世界観なんですかソレは!」
そこにダルクスが割って入る。
「リューセイ、その世界の事をもっと詳しく教えろ!その世界でどんなエッロい出来事があったんだ?お?言ってみろ」
「そうですねぇ…強いて言うなら…」
…と言いかけた所、妙に背中が熱くなってきた…と思うと、その温度はみるみる上昇して…背中は焼け爛れそうな程の熱さにまで上がった。
「あっつぁっつぁ!!!」
リューセイはジタバタと飛び跳ねる。
熱さの原因は背中に背負った超光伝力放射砲が熱暴走して真っ赤にメラメラと陽炎をつくっていたからだ。
「勇者様!!デレデレしないで下さいっ!!」
ユーリルが発熱させたせいだった。
「お前なぁ…!!…コイツはこうやって前の世界でもことごとく俺の邪魔をしてきたっけ…」
そんなリューセイを尻目に、イズミルは今度はダルクスに質問をする。
「そう言えば、ダルクスおじ様はどうだったんですか?10年前も魔王が現れた時に宝箱配置人の旅に出られたんですよね?」
「…あ?まぁそうだな。とは言っても、リューセイみたいな花のある浮かれた冒険では無かったけどな」
「浮かれてない!」
リューセイは苦し紛れに反論する。
「お前のじいさん宝箱配置人・書記担当【シムラ】はヨボヨボのエロオヤジだったし、【宝箱配置人・防衛担当】の【テルール】って奴は真面目で寡黙な冗談の通じない男だったし…唯一の女だった宝箱配置人・魔法補助担当の【ガウラベル】は…当時18歳で若かったがリーサさんの大人しさからはかけ離れた…ゴリラを擬人化したような女だっt…」
…と言い終わる前に、イズミルの前に居たハズのダルクスの姿が忽然と消えてしまった。
見回すと、かなり後方に吹っ飛んでいたようで…しかも、仰向けで倒れたダルクスに誰かが馬乗りになっている。
「あ?誰がゴリラの擬人化だって?」
「ゲッ!"ガウラベル"…!!」
赤髪ショートでリーサに似た服装をした…しかし少し露出が目立つセクシーな女性…そう、ガウラベルだ。ガウラベルはダルクスに持っている杖を突き付けている。
「が、ガウラ姐さん!急に走り出してどうしたんですか〜!」
そう言って、旅人の服装をした金髪の少年が駆け寄ってくる。
「まぁ、待ってなクサカベ。コイツにちょっとお灸をすえなきゃいけないから…」
「お前、なんでここに…てか、本来キレるのは俺の方だろ…!!お前が元々遅刻してなけりゃ…」
「遅刻だぁ?」
ガウラベルはダルクスの胸ぐらを掴んで起き上がらせ、そのまま勢い良く背負い投げをした。
「テメェが間違った時間を伝えてたせいだろーがっ!!」
「どワッ!」
バシャーン!!
吹っ飛んだダルクスはそのまま噴水広場の噴水の中にホールインワンした。これでその噴水に入るのは二回目となったダルクス。
「ハ〜、スッキリした。待たせたねクサカベ。んじゃ、行こうか」
ガウラベルは手をパンパンとさせてクサカベと話す。
(姿から僧侶なんだろうけど…なんとも肉体派な僧侶だなぁ…)
リューセイは圧倒されてしまった。
「ちょっと待てぇい!!」
噴水からずぶ濡れのダルクスが起き上がる。
「なんでお前が勇者と一緒に居るんだよ!」
「アンタに一矢報いる為に勇者に付いてたけど…まさか、こんなに早く出会えるとはねぇ?」
「ったく、何考えてんのかね…宝箱配置人が勇者と一緒になるなんて…」
「別に、悪い様にはしてないって。ま、この勇者と一緒に居るのがちょっと楽しくてね。これからも面倒見てやるつもりさ…」
そこでイズミルが入ってくる。
「ガウラベルさんは…前にも冒険を経験した事があるのですよね?…という事はレベルはかなり高いとお見受けしますが…」
そんなイズミルを見て、キラキラと目を輝かせながらガウラベルはイズミルの元へ向かう。
「えぇ〜可愛い〜!はぁ〜、アンタがもしかして今回の宝箱配置人・書記担当?」
「ハイ!伝説の宝箱配置人・書記担当シムラの孫娘、イズミルです!」
「あのエロオヤジ…いやいや、あのシムラにこんな可愛い孫娘がねぇ〜?ハキハキして、可愛らしくて、頼りになりそうじゃないか。子供嫌いのダルクスがねぇ〜…へぇ〜?」
「不本意だがな!」
ダルクスは濡れた服を絞りながら言う。
「子供で大変だろうけど頑張りな!もしダルクスに虐められたらお姉さんに言いな?半殺しにして黙らせといてやるから!」
そう言ってガウラベルはニコッと微笑みイズミルにヨシヨシする。
「は、ハイ!」
イズミルは目をキラキラ輝かせている。ダルクスにとっては最悪な協定契約だ。
イズミルはガウラベルに質問を続けた。
「その、ガウラベル様!さっきの続きですけど…、勇者にレベルが高い人が付いてしまうのは、勇者の成長が滞ってしまう可能性があるので基本、同レベルの人が付くべきなのですが…」
「あぁ、知ってるよ。だからアタイは甘やかしたりしないよ。ちゃんと彼がレベルアップするように気を付けてるさ」
「ホッ…。なら安心しました」
そこでリューセイは一つ提案を出してみた。
「でも、宝箱配置人として経験のあるガウラベルさん。まだ勇者と同じくレベルが低いリーサ。ここで入れ替わっといた方が丁度良かったりして」
「誰だアンタ?村人A?」
「宝箱配置人・補助担当リューセイです!」
「あ〜ゴメンゴメン。アンタも宝箱配置人なんだ?で、入れ替わりのことだけど…アタイも最初はそのつもりだったけどさ、さっきも言ったけど、今は勇者の面倒をみていたくてね…このまま勇者と旅をする事にするよ」
「そ、そうですよ!ガウラ姐さんは僕が守らなきゃいけないんですから!取られちゃ困ります!」
クサカベはそう言って前に出る。
「まだアンタに守られるつもりはないけどね。フフフ」
ガウラベルはそう言って、勇者の頭にポンポンと手を乗せ笑う。クサカベは少し恥ずかしそうだ。
「なぁ、それより、新しい魔法補助担当の子の顔も見ておきたいな。どんな子なの?」
ガウラベルはキョロキョロと辺りを見渡している。
「あ、彼女はコチラです…」
リューセイは引いていた棺桶を指し示す。
「し、死んでる…!」
「あぁ、いつもの事なんで気にしないで下さい」
「アハハ!クサカベと一緒じゃないか。まぁ、低レベルだと仕方ないさ。どれどれ…」
ガウラベルは棺桶の前にしゃがみ呪文を唱え始める。
「ちょ、ま、ガウラベルさん!!!蘇生呪文!!!ダメです!!!」
「え?」
一足遅かった。
バゴーン!!と棺桶の蓋が盛大に吹っ飛び、刹那、中からナイフの握られた腕がガウラベルに向けてシュッ!と突き出された。
ガウラベルは表情を変えずにクイッと首を傾け、ナイフ攻撃を避けた。
「リュ〜セイ様ぁ〜???何処ですかぁ〜???」
ゆら〜りとゾンビの様に棺桶から立ち上がるリーサ。
【限界メンヘラ突破リーサ】始動!!
(死んで戻る度になんなんだコイツは!!)
続く…
 




