第二十四幕【結末】
露わになった顔…
それには見覚えがあった。
リューセイは思わず口を開いた。
「お前は…!!昨日、エクス・ベンゾラムの船に居た…!!」
黒ローブの男達の一人。その顔だった。
「ははーん、そういう事か」
ダルクスも何かを察したようだ。
「なんだ!!何がどうなってるんだ!!」
ガフマンはこの状況を飲み込めていないようだ。
「兵士がエクス・ベンゾラム教団の一員だった…そりゃあシュヴァルツが使われても見てみぬフリをする訳だ」
「クッ…」
兵士は歯を食い縛っている。
ダルクスが残り二人の兵士の兜を剥ぎ取る。
やはり、昨日の黒ローブ達の一員だった。
「じゃ、じゃあ…犯人はこの兵士達…?」
ユーリルがそう言うとイズミルは考えながら答える。
「う〜ん…どうなんでしょう?執事さん。あなたなら良く知っているのでは?」
イズミルはセシルに視線を送る。
セシルは変わらず動揺も見せず佇んでいる。
「その兵士達を携えている所を見ると…必然的にあなたも怪しくなりますけど…セシルさん…あなたが密輸を手助けしていたのでは?」
一同は一斉にセシルに目をやる。
「何をおっしゃいます…そんな訳がないでしょう…」
「事件があったのはエクス・ベンゾラム教団の船の横の桟橋…。子供達の駆け付ける音に驚いて一人はそこから逃げ出してます。しかし密輸をやっていたなら一人でやっていたとは思えない。他の教団員はどこに隠れたのでしょうか?」
「そりゃあ…すぐ横に自分達の船があるんだからそこに隠れるだろ」
ダルクスが答える。
「ですよね?じゃあ、一人だけ…船に隠れずその場から逃げたのは何故ですかね?」
イズミルは一拍置いて続ける。
「エクス・ベンゾラム教団と一緒に居る事がバレるとマズい人物だから…って事になりますよね」
イズミルが言い終わると、続けてダルクスが口を開く。
「当たり前だが、船が港に着くにはそれなりの手続きが必要だ。どの船も発着には記録が付けられてるハズだ。怪しいモノを持ち込んでないかも検査があったハズ…それを任せられてるのって…」
ダルクスはガフマンに目を向ける。
察してガフマンは答える。
「私と…息子と…セシルだ…兵士と同伴で検査をする事になってる…」
「なるほど…記録も検査も…どうとでもなるよなセシルさん」
「…私がやったと…そう言いたいのですか?」
「その場にアンタが居たのはほぼ間違いないだろう。ただ、殺したかどうかは正直分からない。だから教えろ。アンタが撃ったのか、教団員の誰かが撃ったのか。どっちにせよあんたはその場に居たんだから知っているハズだ…!」
「知りませんね。私はやってない。やったのはグフマン博士です。現にシュヴァルツも見つかっているではないですか」
セシルは兵士の掲げている武器を指しながら言う。…が、
「それはシュヴァルツではないです」
間髪入れずにイズミルが言った。
「それはシュヴァルツに似ていますがグフマン博士が造った魔法武器です」
セシルはそれを聞いて、眉間にシワを一瞬寄せて言った。
「…だからどうしたのですか?シュヴァルツじゃなくとも、これで彼を殺したと言う事では?」
「いえ、息子さん殺害に使われたのは間違いなくシュヴァルツです」
「何故言い切れるのです」
「発射音。事件当日、子供達は『バァーン』と言う音を聞いて現場に駆け付けた。『花火だと思って』と言ってました」
「だからどうしたと言うのです?」
「グフマン博士が造っていた魔法武器…射撃音はそんな花火の音ではないハズです。なんなら今ここで撃ってみて頂いても構いませんよ?」
イズミルはニッコリと笑った。
「…では、ご主人様が博士をひた隠しにされていたのは何故です?」
「そ、それは…」
ガフマンは口籠る。
それを見てイズミルは口を開いた。
「町長さん。ここは全てお話しましょう。私達はグフマン博士から全て聞いています」
「なに…!」
ガフマンは博士を見やる。
博士は静かにコクリと頷いた。
「……………分かった…」
静かにそう言うと、ガフマンは淡々と語りだした。
「何十年も前、グフマンは元々この街に住んでいた。しかし、"とある事故"をきっかけにこの街から"追放"したのだ」
「とある事故…?」
セシルは聞き返す。
「コイツは…当時からおかしな研究ばかりしていた。勇者を助ける為の魔法武器の研究をな…だが、コイツはその研究中に爆発事故を起こし、自分の妻とその他数名の町民を犠牲にしたのだ。自分はのうのうと生き残りおってな」
グフマン博士は俯いている。
ガフマンは続けた。
「爆発を起こしたのが私の兄だと知られれば、私の町長としての信頼も失堕する。だから兄も爆発で死んだ事にした。そして、この爆発は『愉快犯の犯行』という事にした。セシル、お前もその事件については知っているだろう」
「…犯人が捕まっていない爆発事件…あれは事故だったのですか…」
セシルは顔には出さないが驚いているようだ。
そして、今度は俯いていたグフマン博士が顔を上げて語りだした。
「ワシは甘んじてガフマンの策を受け入れた…ワシの起こした事故のせいで弟の町長としての座を邪魔する訳にはいかなかった。それに…当時まだ小さかった妻との間の息子を…殺人者の子供にしたくなかったのじゃ」
「息子…?」
セシルは聞き返す。
「あぁ。ワシの息子…先日殺された息子だよ」
「…!!」
セシルは目を見開く。
再び俯いてしまったグフマン博士の代わりにガフマンが続ける。
「グフマンを死んだ事にし、追放した。爆発事故の犯人を…この街においておく事は出来んからな。そして、まだ赤ん坊だったグフマンの息子をワシが預かり、父親として育てた」
「では…ご子息の本当の父親は…」
「あぁ。グフマン博士だ」
「なんと…」
「お前が知らないのも無理はない。この真実を誰かに悟られる訳にはいかなかった。だから当時のメイドも執事も全員入れ替えた。その時に入れ替わりで来たのがセシル、お前だったからな。だが…お前は鋭い男だ。まさか私に兄がいる事を突き止めていたとはな」
ガフマンは一拍置いて続けた。
「これで分かっただろう。グフマンは殺しちゃいない。実の息子を殺せはしないんだ」
セシルは俯いている。
その真相はグフマン博士から既に聞いていたリューセイ達は冷静に聞いていた。
「さぁ、セシルさん。知っている事を話して下さい。正直、貴方の口を割らせるのは簡単なんですよ!」
イズミルは言ってディアゴに手を掛ける。
続けてダルクスが口を開く。
「うちには鼻の効くペットが居てな。そいつに今、シュヴァルツの製造工房がこの街にあると踏んで探させて居るんだ。見つけて戻って来るのも時間の問題だ。あんたが一枚噛んでるとしたら…すぐに表に出るだろう」
「さぁ、遅かれ早かれ分かる事です!全てお話下さいセシルさん!」
イズミルは言いながらセシルに歩み寄る。
「全てですか…分かりました…」
セシルはそう言って燕尾服の内側に手を入れる。
「これでお分かりになるでしょう…!」
引き抜いた手にはシュヴァルツが握られていた…!
セシルは何の躊躇もなくイズミルに向けて発砲…!
パァーン!!
「イズミルッッッ!!!」
リューセイは咄嗟にイズミルに飛び掛かる。
イズミルを抱き寄せ射線を遮った。
弾はリューセイの背中に命中する。
鮮血がピシャ!と床に散った。
「勇者様ぁぁぁ!!!」
そんなユーリルの驚嘆の声を聞きながら…意識が遠退き…
暗転。
続く…




