第二十幕【エクス・ベンゾラム】
ユーリルが去ってしばらくは一人でのんびりしていたリューセイ。缶チューハイでベシャベシャになっていた制服も乾いてきた。アルコール臭さはまだ残っているが…
(そろそろ宿に戻るか…)
リューセイは立ち上がり、ゴミをビニール袋に集めて去ろうとした…その時。
「ん?」
港の方。遠目に桟橋が多くかかり何隻もの船が停泊している場所を黒いローブを纏った怪しい人物が辺りをキョロキョロ伺いながらコソコソ歩いている。
(………怪しい…)
リューセイは直様、桟橋に向かった。
〜〜〜〜〜
怪しいローブの後ろを着いていくリューセイ。
フードを頭から深くかぶり素顔が見えない。
(見れば見る程怪しい…もしかして…殺人事件の犯人なんじゃ…?)
そう思いを巡らせていると、そのローブは辺りを警戒しながらとある停泊した大きな船へと近付く。その船には見張りだろうか、同じ黒ローブが2名待ち構えていた。
「よし。乗れ」
そう一人の黒ローブが言って、3人は船に乗船する。そのまま船内へと入っていった。
「クソっ!これじゃ中が見えない…」
リューセイは船に乗り込む方法を考える。
(…よし、コレだ!)
〜〜〜〜〜
船内に乗り込む為の作戦を考えたリューセイは、すぐに実行に移す為まずは無人となった船の甲板に乗り込んだ。
先程ユーリルが持ってきた缶チューハイを甲板の真ん中に置く。この世界の人間にとってはこのアルミ缶は目新しいだろう。
そして、船内に入る為の扉をコンコンとノックする。
しばらくすると、扉はゆっくりと開き…一人の黒ローブが出てくる。
リューセイは開いた扉の後ろに隠れる。
「………誰だ?」
ボソッと呟いた黒ローブは辺りを見渡すが、誰もいない。しかし、甲板に置いた缶チューハイに気付く。
「なんだ?あれは…」
黒ローブは恐る恐るといったように缶に近付く。まるで缶蹴りで遊んでいるようだ。
そんな黒ローブが背をむけている。
今だ!!
リューセイはゆっくりと音を立てずに黒ローブに近付き…後ろから急襲!!!
「ガッ!?」
飛び付いてヘッドロックをかける!!
黒ローブは直様、失神してしまう。
「よし、よし!俺ってばステルスもイケちゃう?」
黒ローブを剥ぎ取り、中からはなんの変哲もない普通のおっさんが。
近くにあった樽の中におっさんを詰め込む。リューセイは剥ぎ取った黒ローブをかぶる。
「うわ、クッセ!!ちゃんと洗ってんのかよ…」
おっさんの酸っぱい匂いが染み付いた黒ローブを羽織り、晴れて堂々と船の潜入調査をしようといった寸法だ。リューセイは船の中へと入っていく…
入ると直ぐに下に降りる階段。
恐る恐ると下へ降りると、長い廊下と部屋へと繋がるであろう扉が何枚もある。廊下自体には人が居ないようだ。
(ここで一体何を…?)
廊下を進むと突き当りには大きな扉。
その中から何名もの男達の声が聞こえる。
(ここに集まってるみたいだな…)
リューセイは中には入らず、見張りを装いながら聞き耳を立てる。
『宝箱配置人がこの街にも…』
(宝箱配置人の事を話してる…?)
『あぁ、俺の家にも来た…すぐ追い返したがな…』
『そんなの生ぬるい…どうにかやつらの…』
『しかし、国の命を受けている奴らだ。下手な事をすれば捕まるだけじゃ済まんぞ…』
(コイツら…やっぱり普通の集団じゃ無い…!!俺達に危害を加えようと…)
「おい!」
扉に耳を当てている所を急に話し掛けられ体をビクッと震わせるリューセイ。
恐る恐る声のした方を見ると、黒ローブが立っている。
リューセイはスッと気を付けをする。
「わ、悪い悪い。ちゃんと見張りしないとな!」
…と、敬礼ポーズをする。
「見張り?今日の集会は全員参加だったはずだが?」
え…
「あぁ、え、そうだったっけ?いやさ、外をウロチョロしてる怪しい奴が居たんで警戒してたんだよ」
男はかなり疑わしそうにリューセイを見ている。
(これは…ヤバいか…?)
「ま、それなら見張り頼んだぞ」
黒ローブはそう言って大扉に手をかけ入ろうと…
(ホッ…なんとか誤魔化せたか?)
「一つ質問を良いか?」
黒ローブはドアノブに手をかけた状態で聞いてくる。
「な、なんだ?」
「我々の合言葉を言ってみろ」
(合言葉ぁ〜!?)
急に汗が吹き出し、リューセイはたじろぎながら…
「ぶ、ぶ…『ブラック最高ー!!』…とか…?」
「お、分かってるじゃないか」
「え、マジか!」
「…んな訳ねぇだろぉぉぉ!!!合言葉なんかねぇよ!!!」
リューセイはそのまま黒ローブにどつかれ…
暗転
〜〜〜〜〜
リューセイは椅子に縛り付けられ、蝋燭を持った黒ローブの集団に囲まれてしまった。
「コイツ、我々の会話を盗み聞きしてたんです」
「おい、しかもコイツ宝箱配置人の一味じゃないか!!」
「なんだと!?」
黒ローブ達はリューセイを睨んでいる。
「なんなんだお前らは!!宝箱配置人になんの恨みがあるって言うんだよ!?」
リューセイは縛り付けられたロープを外そうともがきながら訴える。
「ハッ、貴様。宝箱配置人の癖に我々が誰かも分からないのか。お前達の存在はこの世界に不必要なのだ」
「何でだよ!?世界を救う為に頑張ってるのに!!」
「世界を救うのは勇者様だけで充分なのだ!」
そう言うと黒ローブ達は一斉に拝み始めた。
「全ては教祖【タニシ様】の導きと共に…彼の命を生贄に…この世界を有るべき世界にお戻し下さい…」
「生贄ぇ!!?」
椅子を掴まれ、そのままズルズルと引きずられるリューセイ。
「お、おい!待て!どうする気だよ!!おい!!」
「宝箱配置人よ。この世界を偽りの姿に変えようと目論む悪魔め。海の神にその命、捧げてくれよう」
それはこのまま海に捨てられるって事ですかい!?
「ふざけんな!!こんな事してどうなるか分かってるのか!!俺の仲間が黙っちゃ居ねぇぞ!!イズミルなら最強の呪術書でお前らなんか一捻りだ!リーサだって、俺に何かあったとあれば限界突破っであっという間に…!!」
「俺の事も忘れてくれるなよ」
その時、聞き馴染みのある声がする。
「ダルさん!!」
「ったく…夜は出歩くなっつったろうが…このあんぽんたんが」
「貴様…!!伝説の宝箱配置人ダルクス!?」
彼の姿を見て黒ローブの集団はざわつく。
「悪いがそいつはこっちに返して貰おうか。この旅の重要な雑用係でな」
「フッ…伝説の宝箱配置人を黙らせたとあれば我々の大きな進歩と言えるな…」
黒ローブ達は一斉にナイフを取り出す。
「おいおい、ここでヤるってのか?止めた方が懸命だぞ」
「黙れ!【タニシ様】のご加護の元にぃぃぃ!!!」
黒ローブは一斉にダルクスに飛び掛かる…が!
ダルクスは手をかざす。
魔法を放つ…かと思いきや、その手をクイッと払うと黒ローブの一人は謎の力によって廊下の奥に吹っ飛んでいってしまった。
ダルクスがパッと空中を払うと黒ローブ達は近付く事もままならず吹っ飛んでいく。まるで触れずに合気道をしているように。
あっという間に黒ローブ達を黙らせてしまった。
「ダルさん…ほんとに一体…何者なんですか?」
「そんな事より早くこっから出るぞ。奴らは気を失ってるだけだ」
ダルクスに縄を解いてもらいやっと自由になったリューセイ。
取り敢えず船から脱出した。
〜〜〜〜〜
船から脱出し、宿屋に向けて歩くリューセイとダルクス。
「ハァ〜…危ない所だった…。一体何なんですかアイツら」
「【エクス・ベンゾラム教団】。宝箱配置人を排除しようと暗躍してる宗教団体だ。これから先、何度かアイツラと衝突する事もあるだろ」
「なんだって目の敵にされなきゃイケないんですか?ダルさん何かしたんですか?」
「ヤツらは、宝箱配置人が勇者の行動を操るものではないと考えている集団だ。宝箱配置人が発足する前の時代、完全に勇者達の力に委ねられていた時代を取り戻そうとしてる」
「何の為に…」
「さぁ?とにかく教団は俺達の邪魔をしようと画策してる。最近は信者も増えてどの街にも出没してる始末だ。お前が宿に居ないからまさかと思ったが…あの状況よ」
「良いんですか?そんな奴らあのままにして」
「さっきの奴らはただの素人集団だ。ほっといても大した事ねぇよ…問題はあいつらの幹部…」
言い終わる前に宿屋の前に着いた。
「今日はもう大人しくしてろよ?金輪際、夜は出歩くな!あいつらにまた絡まれちまうからな」
「幹部って…【タニシ様】って呼ばれてた?」
「タニシってのは教祖の事さ。とっくの昔に死んじまってる。幹部はこの街には居ないみたいだから気にしなくて良い。いいからはよ寝ろ!」
そう言ってダルクスは宿屋に入っていく。その後をリューセイもついていった。
殺人事件…
シュヴァルツ…
そして宝箱配置人を良く思っていない宗教団体…
この間には、何か繋がりがあるのだろうか?
続く…




