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異世界から転生した勇者より宝箱配置人の方が過酷だった件  作者: UMA666
第一章【旅立て!宝箱配置人編】
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第二幕【二度目の異世界転生】

「おはよー」


「あら、おはよう。ちゃっちゃと食べちゃってね。一緒にお皿洗っちゃうから」


キッチンで後片付けをする母親、コーヒーを飲みながら新聞を読む父親に挨拶をして"一人の青年"はテーブルにつき、母親が用意した朝食のトーストを寝ぼけ眼で食べ始めた。


なんてことない日常の風景。でも両親は知る由もなかった。彼が過酷な運命を背負った勇者となり、一つの世界を救ってきた…とは。


彼は【(かなえ) 流星(りゅうせい)】。高校2年生になる普通の男子高校生。数ヶ月前、流星は通学中にトラックに撥ねられて死んだ…かに思われた。


目を覚ますとそこは見知らぬ土地。


なんてことない日常を送っていた流星は理不尽にも異世界に転生し"女神ユーリル"から『魔王を倒せ』と導かれたのだ。


それは過酷な旅だった。

ある時は死にかけ、ある時は仲間を失い、それはそれは長い道のりで海を越え山を越え…何度も投げ出しそうになった。しかし、集めた仲間達となんとか踏ん張り、力をつけていった流星は見事、仲間達とともに魔王を討ち取った。魔王を倒した事で現世に再び戻って来たという訳だ。


過酷だった。

しかし、今となれば良い思い出。

あそこでの経験は確実に流星を変えていた。何事にもやる気がなく、つまらないと思っていた人生を見つめ直す事が出来た。


「行ってきまーす」


そう言って家を出た流星。勿論学校に行く為に。本当の流星は勇者ではなく、しがない男子高校生だからだ。




キュルキュルキュル…!!




そんな音がしたので思わず振り返ると、目の前に大型トラックが迫っていた。


「え…?」


ガシャーン!!!




(え?)


(………え?)


(いや、今俺、回想からちゃんと抜けたよね?あれ、気のせい?まだ回想続いてた?)


真っ暗な視界に一筋の光。その光の中には…見覚えのあるシルエットが…




暗転。




〜〜〜〜〜




目を覚ますと流星は何故か鬱蒼とした森の木の枝にぶら下がっていた。しかも、何故か咥えタバコで長い髪を束ねた細い目のダンディなおっさんに木の棒でつつかれていた。まるで犬のフンをつつくように…


…て、それどころじゃない!!…と、流星が必死に木の枝に引っ掛かったブレザーの制服を外そうとジタバタしていると、ポキっと枝が折れ地面に落ちた。


ドスン!!!


「イタッ!!!」


腰を擦りながら直ぐ様、流星は自分をツンツンしていたおっさんに詰め寄る。


「おじさん!!!ここはどこだ!!!なんていう場所だ!!!」


「こ、ここは"エンエンラ王国"の"はじまりの森"って言われてる場所だが…」


「エンエンラ王国…?聞いた事ない…」


流星が前回冒険した異世界ではエンエンラという王国があるとは聞いた事がなかった。


(つまりこの世界は…前の異世界とはまた別の異世界…?………ヤツだ。またヤツの仕業に違いない。こんな芸当が出来るのは…!!)


何かを確信した流星は大声を出した。


「ユーリル!!ユーリル!!居るんだろ!!出て来いコラ!!!」


(ふざけんな!!俺の冒険は終わったんだ!!魔王を倒して大団円を迎えてハッピーエンドでちゃんちゃん♪だったはずだ!!今度はなんのつもりだよユーリルのヤツ…!!)


そして"彼女"は現れた。

頭に"ナイフが刺さったようなカチューシャ"を付けて、頭から生えた大きな翼には流星が元居た世界の様々な企業ロゴのシールをペタペタ貼り、素足にスポーツシューズを履いた【女神・ユーリル】が…




そして第一幕の展開に戻る…


流星はまたもや強制的に魔王討伐という使命を科せられ、またもや勇者として魔王討伐の許しを得に王様のいる城へとやってきた。


(気が乗らない。ほんと乗らない。いやほんとに大変なんだからな魔王討伐の旅って!!みんなが思っている以上に…!!)


流星は溜息を吐きながらエンエンラ王国の城へとダルクスに連れられ入って行くのだった。




〜〜〜〜〜〜




「すまん。もう勇者間に合ってるんだわ」


謁見の間で王様に会うもいきなりそう言われた流星。


「え?ユウシャ・マニアッテル?何それ」


「実は既に魔王討伐に向かってくれる勇者は手紙で名乗り出てくれてて、その勇者ともう契約する予定なんだよね。その勇者、契約する為にこちらにもう既に向かって来てるんだよ」


ユーリルがすぐさま遮って物申す。


「いやいや、所詮Lv1の勇者ですよね!?この勇者様はほら、魔王討伐経歴もある歴戦の死闘を掻い潜ったLv86の勇者様ですよ!?」


「うーん…とは言え、もう勇者には返事送っちゃったしのぉ。今更『別の勇者が現れたんでやっぱ帰って』とは国を束ねるものとしては言えない訳よ。しかも、今向かってくれている勇者は初代勇者の子孫と言う事でみなから期待されててのぉ。民衆の期待を無下には出来んし。それにLv1の勇者でも良いんじゃ。なんてったって、かの有名な伝説の一級宝箱配置人ダルクスが手を貸してくれるしの!」


そう言って王様は流星の横にいる…ダルクスを満面の笑みで見た。


「なんだよ"宝箱配置人"って!!このおじさんそんなに凄い人なのか!?」


「とにかく、勇者は今は足りとる。悪いがあんたに勇者の職と魔王討伐の認可を卸す訳にはいかんのじゃ。早々に立ち去られよ」


王様はそういうと兵士に合図を送り流星は兵士に城を出るように促された。流星達はそのまま城を後にした…




〜〜〜〜〜




「どういう事だユーリル…話が違うじゃないか…」


流星は口を引きつらせながらユーリルに問う。


「アハハ…おかしいですね。まさか勇者がもういらっしゃるとは夢にも思いませんでしたテヘヘ…」


「じゃあ俺はもう用済みだろ!?早く現世に戻してくれよ!!」


「さっきも言いましたが、魔王討伐されるまで帰れないように設定してあるので…」


「この…!!」


「ちょちょちょ、待って下さい!別に良いじゃないですか!勇者の認可が降りなかったくらいで!黙って魔王を倒しに行っちゃえば…」


「そりゃ無理だな」


黙って流星達の言い争いを見ていたダルクスがタバコに火をつけながら言った。


「勇者の職に付けないとなるとあらゆるものに制限がかかっちまう。まず、魔王の元に辿り着くのも困難だろうな。関所は簡単に通して貰えないし、乗り物も自由には使わせて貰えない。装備出来る物も限られてくるな。お前は…見た所今の職業は"少年A"って感じだし、装備出来ても"銅の剣(攻撃力6)"ぐらいなもんだな」


「しょ、少年A…」


「あと、ショップでの取引が勇者値引きされなくなる。薬草なんかも勇者なら5Gのところ、500Gになる」


「たかっ!?」


「ま、勇者様が魔王を倒してくれるまで大人しく待ってる事だな!」


流星はそれを聞いてヘナヘナとその場に座り込んでしまった。


「アホ女神のせいで路頭に迷っちまったじゃないか…」


「も…申し訳無いです…」


「なぁ、路頭に迷ってんなら俺に付いてこねぇか?お前、腕に自身があるんだろ?」


そういうとダルクスは一枚の契約書を出した。


「"宝箱配置人・補助"の契約書だ。これ持って職業案内所に行きな。今の"少年A"の役職よりよっぽど待遇が良い」


「宝箱配置人…。あの、さっきからその"宝箱配置人"ってなんなんです?」


「ん?知らねぇのかお前。まぁ、前回勇者だったなら知らねぇで当然か」


ダルクスは流星の前で仁王立ちし誇らしげに語った。


「宝箱配置人ってのは、魔王が現れ勇者が旅に出る事になった時!勇者の赴く所に先回りして宝箱を配置する…読んで字の如くの職業だ!勇者に次ぐ上級職だぞ?」


「え、あの宝箱ってその"宝箱配置人"が設置してたのか!?」


「そうだ。だが、宝箱配置人のやる事は宝箱を置くだけじゃないぞ」


「例えば…?」


「それを知りたきゃまずは契約だ。言っておくがこの仕事、そう簡単じゃないぞ。人によっては勇者よりキツイ仕事とも言われてるぐらいだ」


そう言ってダルさんは契約書を差し出してきた。


(勇者よりキツイ?)


流星はその意味が良く分からなかった。宝箱を配置するのに勇者よりキツイ事なんてあるのだろうか?…と。


「ええい、こうなりゃ乗りかかった船だ!!」


流星はその契約書を受け取り、職業案内所に向かう決心をした。勇者にはなれなかったが、だからといってジッと魔王が討伐されるまで何もせず待っているつもりは無かった。


(取り敢えずこの職に付いて、魔王討伐が出来るチャンスを伺うんだ…)


宝箱配置人。


その謎の職業に少しワクワクしている自分に少し驚く流星。


(悔しいけど、やってみる価値はあるかもな…)


そうして流星は職業案内所に向かうのだった。






続く…

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