第百八十七幕【魔法といい呪術といい】
バコォォォン!!!バコォォォン!!!
「どうしたっ!!ちょこまかと逃げておるだけじゃと妾を倒す事など出来んぞ!!」
ピンク色の巨大サソリとなったスコピールは逃げるリーサとイズミルを地面にハサミを叩き付けながら追いかける。
「その通りっ!これじゃあ話にならないのですっ!!」
イズミルが言いながらこめかみに人差し指を当てながら熟考している。
「うーーーん…この状況を打開する良い方法はぁ〜…」
「イズミルちゃんっ!どうにか出来るっ!?」
リーサは走りながらも半泣きで問い掛ける。
「ピコーーーン!!閃きました!!リーサさんはそのまま真っ直ぐ走って下さい!」
「えっ!?イズミルちゃん!?」
イズミルは言ってズザザッと足を滑らせ急停止させるとクルッとスコピールの方に向き直り、すかさず27ページ【獄炎の章】を出し、ディアゴから勢いよく吹き出す炎を推進力に駆け出した!
スコピールの体躯の下をくぐり抜け、一気に背後に周るイズミル。
「イズミルちゃぁぁぁ~~~ん!?」
まさかの行動にギョッと面喰らい驚くリーサ。
「何をっ!!」
スコピールも自分の下をくぐっていったイズミルを一瞬見失う。
「飛翔!!!」
背後に周ったイズミルは勢いそのままに30ページ【飛翔の章】により出現した半透明の羽による羽ばたきでバサッと一回大きく上空に飛び上がる。
「その大きさだと…後ろに周り込まれれば手も足も出ないですよねっ!!」
イズミルを視認しようと後ろに振り返ろうと頭を曲げるスコピール。
「あっ!!」
そんなスコピールに気付き、振り向きざまにリーサはすかさず両手杖を向ける。
「フリストッ!!」
ヒュヒュヒュッ!パシパシパシッ!
小さな氷塊がしつこくスコピールの頭部に当たる。
「小賢しいっ…!」
リーサの邪魔を受けて、スコピールは尚も飛んでくる氷塊をハサミで防ぐ。
その時、スコピールの体躯よりも高く飛び上がったイズミルはディアゴを背負った背中を向けたまま空中で次のページを開く。
「リーサ様、ナイスアシストッ!!」
バラララッ!!
勢いよく捲れるディアゴのページはあるところでピタッと止まる。
「80ページ、爆裂の章!!!」
イズミルの掛け声と共に、ディアゴから青色の炎で燃える大きな火球が射出される。
「えぇい!!邪魔をするなっ!!」
スコピールの尻尾の先の毒針がリーサの目の前に突き立てられる。
バゴンッ!!!
「ひゃっ!!」
リーサは思わず尻もちをつく。
その隙にスコピールは体躯をイズミルに向け、すかさずハサミを振って魔法を唱える。
スコピールから太陽のようにメラメラと赤く燃える大きな火球が放たれる!
直後、青い火球と赤い光球がぶつかり合う。
お互いの光球が押し合い、空中で止まる。
凄まじいエネルギーが辺りに風となって吹き荒れる。
イズミルもスコピールも光球を押し付けようと必死に力を込める。
「爆裂魔法…っ!!お主も使えるのかっ…!!」
「ディアゴーーーーー!!!押し切れぇぇぇぇぇ!!!」
イズミルの声に呼応するように、ズンッ…と力を増し赤い光球が少し圧され動く。
「何っ!?爆裂魔法は妾の得意とする魔法っ!!それを圧すとは…ッ!!!」
ググ…グググ…
スコピールがどれだけ力を込めようとも、イズミルの放った青い光球は少しづつ少しづつ…スコピール側へと圧していく。
「何故じゃ…ッ!!!何故、妾の魔力を超える力をッ…!!!」
「どっせぇぇぇぇぇーーーーーい!!!」
イズミルの掛け声と共に青い火球は更に大きくなり、赤い光球をドプッと飲み込んでしまう。
そのままスコピールに目掛け飛んで行き…
「この妾が押し切られ…ッ………」
ドガァァァーーーーーーーーーーン!!!!!
着弾した青い火球は着弾と共に大爆発を起こし、その場に大きなきのこ雲を造る。
落ちてきたイズミルは40ページ【無重力の章】で身体に無重力の層を纏わせゆっくりと着地する。
圧し合いに勝ったイズミルだが、その本人すらその圧倒的な力に驚き肩を強張らせている。
「ディアゴ…いつもの力じゃない…!こんな破壊力を持つなんて…」
立ち上る煙が晴れてくると…ボロボロになった巨大サソリが再びその姿を見せる。
「何故じゃッ!!どうして妾の魔力が子供風情に負けるのじゃッ!!!」
わなわなと体躯を震わせ、イズミルにフラフラと近づくスコピール。
イズミルの前にリーサが飛び出し、すかさず両手杖を構えスコピールを牽制する。
「その背中の本は一体………それはただの魔術書なのかっ………」
「魔術書ではないです!ディアゴは”呪術書”です!!」
スコピールの問いかけに応えるイズミル。
「呪術………そうか………」
足を止め、スコピールはリーサとイズミルを見据えたまま続ける。
「聞いた事がある…かつて魔術より遥かに破滅的力を持つ呪術をその手に収めようと研究をしていた国が、その研究の末創り上げた強大な力を持った呪術書があると…」
それを聞いて、リーサはハッと何かに気付いて顔を上げる。
「その呪術書を作り上げた王家はその力を制御する事敵わず呪い返しを受け、呪われてしまったと聞く」
「そ、その王家って…」
リーサが呟くと、スコピールは続けた。
「”サラアラウス”。ソウルベルガに追い付こうと、呪術に手を出し呪われた哀れな小さな国じゃ」
「ディアゴって…サラアラウス出身だったの!?」
イズミルも驚いている。
ディアゴはイズミルの父方のおじいさん、シムラから譲り受けたもの。
そのシムラが【宝箱配置人・書記担当に代々受け継がれてきたもの】と言っていたので、シムラの前のその前から、ディアゴはイズミルの家系に伝わってきたものなのだろう。
「どのような経緯でお主らにその呪術書が渡ったのか知らぬが………妾の魔法を凌駕するその力…呪術に寄るものだと言われれば納得じゃが…」
チラリとリーサの目を見るスコピール。
リーサのピンクに白十字の瞳を見て察する。
「そうか…お主はサラアラウスの王族の者なのか…呪われた王族の血に呪術書が呼応したと言う事か」
「そうか…ディアゴが…リーサ様の呪いの力を…いつもの力より強力だったのはそう言う…」
イズミルも顎に手を当て呟く。
「なんの因果で…お主のような者が宝箱配置人になど………俄然、お主らをただで返す訳には行かぬようじゃの…ッ!!」
言い終わる前に、話を聞いていた二人に向かっていきなりサソリの毒針の尻尾をめいっぱい刺し伸ばすスコピール。
瞬時に左右に飛び避けるリーサとイズミルだったが…
「その呪術書、お主のような子供には過ぎる代物じゃッ!!」
飛び避けて地面に突っ伏しているイズミルに突き刺そうと再度尻尾を振りかざすスコピール。
「プロテーーードッ!!!」
直ぐにリーサが間に入り防御魔法を展開する。
半円ドーム状のバリアがリーサとイズミルを囲い、スコピールの尻尾を弾く。
スコピールは構わず両腕のハサミを何度も何度もドーム状のバリアに叩き付ける。
「イズミルちゃん!!イズミルちゃん大丈夫!?」
防御魔法をかけながら、声をかけるリーサ。
イズミルは突っ伏して中々起き上がらない。
しかし、首だけを動かしリーサに顔を見せる。
「へへ…か、掠り傷ですけど………毒を貰っちゃったみたい………」
イズミルのほっぺに切り傷が出来ていた。
先程の攻撃で掠ったのだろう。イズミルは身体が痺れ動けないでいた。
「いけない!早く毒の治療魔法をっ!」
バコン!!バコン!!
しかし、スコピールの執拗な殴打で防御魔法を解く訳にはいかない。
「防御魔法を解けばお前たちは妾に潰される事になるっ!!しかし、早くしなければ毒は徐々に身体を蝕んでいくぞっ!!」
「くっ…」
リーサは歯を噛み締める。
防御魔法で防ぐのが精一杯。力み過ぎて鼻血が垂れる。
「イズミルちゃんっ…どうしよう…ッ!このままじゃ…ッ!!」
その時、リーサの頭の中に何者かの声が流れ込んで来る。
「!?………誰ッ!?」
声はしない。ただ、テレパシーの様に言葉を理解できる。
【その身に宿りし呪われた血…解放しろ…】
「わ、私に言ってるの…!?」
【サラアラウスの王族であれば…】
辺りを見渡すリーサ。
しかし、言葉を紡ぐ者が誰なのかは分からない。
【我が力を貸そう…イズミルを…死なせるな…】
「えっ?」
リーサはイズミルに目を向ける。
うつ伏せに倒れるイズミルが背負う、ディアゴの表紙に浮かぶ”ドラゴンの瞳”と目が合う。
「ディアゴなの…?ディアゴが私に…」
【眠っている力を…解放しろ…】
「そうか…そうだよ…」
リーサは前を向く。目の前の巨大サソリとなったスコピールを見据えて。
(スコピール姫も…センチュレイドーラも出来る事…サラアラウスの姫である私にも…!!)
目を瞑ってイメージする。
自分の中に宿る力を解放するイメージを…
(仲間を守る為に…私にだって…!!)
リーサの身体にオーラが纏う。
それと同じく、ディアゴからも同じくオーラが揺らめき…カッ!と目が見開くと同時に…
バリーーーーーン!!!
眩い光と共に防御魔法が内側から割れ、衝撃波はスコピールの体躯を後ずらせた。
「な、なんじゃ!?」
立て直し、リーサ達が居た場所を見るも、そこにリーサ達の姿が無い。
「上かっ!!」
凄まじい魔力を感じて上を向くスコピール。
大きな翼を広げた巨大な"アゲハ蝶"が自分を見下ろしていた。
「ほほう…そうか…。流石は…腐っても我らソウルベルガと張り合っていた魔法国の姫君…妾と同じく、魔力を解放し化現したか」
巨大な大サソリと巨大なアゲハ蝶はお互いを見つめ合う…どちらが先に行動に出るかと見定めながら…
続く…




