第百八十六幕【そう考えたらノミって最強だよね】
荒野を砂煙を上げながら進む魔王軍トラックの隊列。
今、荒野で戦っているであろう魔王軍戦車隊に届ける補給物資を運んでいた。
「それにしても…姫様は俺達には内緒で戦地に赴いたんだろ?………姫様の命令無しで勝手に援軍に行っても大丈夫だったのか?」
助手席の兵士が運転する兵士にそう声をかけた。
「だからって…無視も出来ないだろう。我らは姫様をお守りする為に命を捧げた者!!………それに、ババロア様にはちゃんと許可を取って…」
「そのとおりですじゃ」
後部座席からそんな声がして驚いた運転席の兵士はハンドルを思わず左右に振ってしまい、トラックはグワングワンと蛇行し、暫くして落ち着きを取り戻す。
「ババロア様!?何故こちらに!?」
助手席の兵士が後ろを振り向くと、後部座席にババロアが座っていた。
「危険です!!私達は今から戦地に向かうのですよ!?」
「分かっておる!しかし姫様が心配なのだ。今の姫様を……………放っておいては危険。焦りと苛立ちに身を任せている今の状態では………」
「杞憂ですよ!姫様が負ける訳無いじゃないですか!」
運転席の兵士はとりとめもなく笑顔で返すがババロアは至って真剣な顔つきだ。
それをバックミラーで確認して、運転席の兵士はそれ以上言葉が出なかった。
「……………この目で見届けたいのじゃ……………急げ!」
「は、はい!」
運転席の兵士はアクセルを踏む。砂煙を上げながらスピードを上げる先頭のトラックに付いて行くように、後方のトラックも追従していく。
そんな後ろのトラック隊の内の1台の荷台に、兵士の目を盗んで忍び込むもう一人が居た。
荷台に詰め込まれた弾薬や砲弾を掻き分けて顔を出したのは…あどけない少女の姿だ。
「姫様…待っててね…!」
腕に魔王軍の腕章を付けた少女は…そう言ってドーラに思いを馳せるのだった。
ーーーーー
ビィィィィィ!!!ビィィィィィ!!!
ドーラの鉤爪上の尻尾から放たれる二本のビームが、地面を抉りながらリューセイを探すように手当たり次第右往左往に地を這っている。
「ハァ…ハァ…」
「大丈夫ですか勇者様?息が切れてますよ!」
ドーラから離れた岩陰に隠れ、リューセイは息を整えていた。
手に持つ光伝力放射砲からユーリルが話しかけてくる。
「大丈夫だ。ドラゴンの呪いによるものじゃないから」
「私はいつでも発射可能です!体力が尽きる前に、サッサと決着をつけましょう!」
「この戦い…俺が勝つと思うか?」
「当たり前じゃないですか!一度世界を救った勇者様ですよ!…必ず今回も勝ちます!なんたって…私が見込んで呼び出した勇者様なんですから!」
「勇者じゃないけどな!俺は今は…」
「魔王と対峙してるんです!役職なんて関係ない!勇気ある者と書いて勇者。勇者様は間違いなく今も昔も勇者様です!」
「なんだよそれ…。じゃあ、その期待に応えないとな…」
バゴォォォオオオン!!!
隠れていた岩がドーラの尻尾によってはたき潰される。
「何を隠れているっ!」
ビィィィィィ!!!
見つかったと同時に、リューセイに向かってビームが放たれる。
リューセイはその場から飛び退いてビームを避ける。
ドーラから背を向ける形でリューセイは走る。
ドーラはそれを追いかけながら、後ろからビームで追撃するがリューセイは背中を向けたまま次々に避けていく。
「勇者様!勝ち筋はありますかっ!?」
「今、チャンスを伺ってるところだ!」
ちょこまかと逃げるリューセイに次第に苛立ちを覚えるドーラ。
脚を止め、ドーラは細長い体躯を立ち上がらせ魔力を込めて紫色のオーラで発光し始める。
ズザザッ!
ドーラが追いかけるの止めたのを見計らって、リューセイも足を滑らせ立ち止まりドーラを見据える。
「あいつ、何してるんだ?」
バチバチバチ…とドーラの体躯が紫色の電気を帯び始める。
「ワタシの力はこんなモノではないぞッ!!」
ドーラがそう言うと、帯電が空に向かって放たれる!
バチバチバチィ!!!
もう一匹の巨大なムカデが飛び出したように、ドーラと上空の厚雲に繋がる一筋の稲妻。
黒紫色の厚雲がその稲妻を受けてゴロゴロゴロ…と先程までよりも激しく鳴り始める。
厚雲が明るい紫色に徐々に光ったかと思うと…
ドピシャアアアーーーーーン!!!!!
リューセイに向かって特大の紫色の稲妻が降り落ちた!
「どわっ!!!」
寸でのところで避けるリューセイだったが、稲妻は次々にリューセイを狙って降り注ぐ!
ピシャァァァーーーン!!!ピシャァァァーーーン!!!ピシャァァァーーーン!!!
しかし、それだけに留まらない。
地面に落ちた稲妻は地面に広がるように円形に広がったと思うと、電気の帯一本一本が意志を持つようにリューセイに向かって這っていく。
電気の帯は次第に紫色に輝くムカデのシルエットに代わり、リューセイに飛び掛かった!
「やっば!!」
飛び掛かる電気質のムカデを光伝力放射砲で迎え打つ。
光伝力放射砲を当てるとバチバチィ!!と弾けて消し去れるものの、空からリューセイを追撃する稲妻を避けつつ、次々に生み出される電気ムカデの対処は骨が折れるものだ。
「勇者様っ!数が多い敵は光伝力放射砲で一気にカタを…っ!」
「ダメだ!まだだ!」
「どうして!」
リューセイはそれでも、光伝力放射砲の力を出し惜しんでいる。
「どうしてっ!」
「ここでお前の力使ったら暫く戻って来れないんだろ!?いざって時に取っとかないと…」
バチン!バチン!
次々に飛びかかってくる電気ムカデを打ち返しながら、その場に留まる事が出来ず走る。
そんなリューセイの目の前に立ち塞がった岩山がバゴォォォーーーーーン!!!と轟音と共に崩れ飛び散ったかと思うと、ドーラが現れ頭の牙を大きく広げ迫って来た!
ジャキンッ!!!
「どわっつ!!!」
大きな牙をリューセイに向けて閉じる。咄嗟にジャンプしてそれを避けるリューセイ。
しかしドーラはすかさず連続で牙をリューセイに刺し向ける!
ジャキン!ジャキン!ジャキン!
「どうしたリューセイ!!反撃して来ないかっ!!」
「反撃しろったって…」
飛び掛かって来る電気ムカデ、更に天から降り注ぐ稲妻にドーラの鉤爪状の尻尾から放たれるビームと、リューセイに反撃の余地など無かった。
「流石、魔王と名乗るだけの技数を持ち合わせてる…」
「なに関心してるんですかっ!魔王の言う通り、早く反撃しちゃって下さい!」
ユーリルの憤りの声。
「分かってるよ!…こう止めどなく攻撃が降りかかる時はなぁ…」
リューセイは後ろ目でドーラを見据えて走りながらいきなり声を張り上げる。
「ドーラァァァ!!!お前の技はその程度かよっ!?もっともっと色んな技打ち込んでこんかぁぁぁい!!」
「バッ…!!何言ってるんですかっ!?」
ユーリルが困惑の声を上げる。
それを聞いたドーラは追いかけていた足を止め、頭を空に向け牙に力を込める。
「挑発のつもりか?その減らず口、消し飛ばしてやるっ!!」
巨大な二本の毒牙の間に紫色に輝く光球が生まれドクンドクンと脈打つように大きくなっていく。
第三形態のドーラの頭よりも大きくなったそれを、ドーラは身体をしならせリューセイに向かって投げ飛ばした!
ゴオオオォォォ!!!
リューセイの周囲が光球が近付くにつれ明るく照らされ、自身の影が濃くなっていく。
リューセイにぶつかる!その刹那、リューセイは走っていた足を滑らせ急停止し、振り向きざまに光伝力放射砲で光球をかっ飛ばした!
カキィーーーーーン!!!
かっ飛ばされた光球はドーラに向かって飛んでいくが、ドーラも咄嗟に尻尾を使って光球を払い飛ばす。
飛んで行った光球は遠くの地面で着弾。轟音と共に大爆発と周囲に電撃を放ちながら、大きなクレーターを作る。
「チッ…」
直ぐ前に向き直る。しかし、目の前に居たリューセイが居ない。
「ッ!?どこ行った!?」
辺りを見回す。
「ここだっ!!」
声のする方に目を向けるドーラ。
自分の細長い体躯の背中側に、リューセイはいつの間にか立っていた。
「このノミ野郎がっ!!」
ドーラは体躯をねじりリューセイを引き剥がそうと波打たせる。
「おわわっ!!」
リューセイはドーラの背中をゴロゴロと転がり尻尾に近いところで縁に掴まりどうにか投げ飛ばされないで耐える。
直ぐに立ち上がって背中を頭に向かって駆け上る。
「どうだドーラ!!デカい図体はかえって、張り付かれると何も出来なくなるんだ!そうやって前の魔王も俺は…」
ピシャーーーン!!!
空からの稲妻はリューセイ目掛けて降り注ぎ、ドーラの背中を焦げ付かせる。
リューセイは咄嗟に前に飛んで避ける。
「自傷も辞さないとは恐れいったよ…」
落ちた稲妻から小型の電気ムカデが生まれ更にリューセイを襲ってくる。
リューセイはそれらを光伝力放射砲で牽制しながらドーラの背中を駆ける。
ピシャーーーン!!!ピシャーーーン!!!
ビイイイィィィィィ!!!
リューセイに向かって稲妻に尻尾の先からのビームまで。
ビームはドーラの体躯まで貫くが、本人は気にしていない。
「ユーリル!!起きてるかっ!?」
「寝てませんよっ!!」
「そろそろお前の出番だ!!」
「ま、任せて下さい!!」
「合図を出したら光の大剣に…前なってたヤツ!!」
「はいっ!!………えっ!?そっちですか!?」
「良いから!!」
言いながら徐々にドーラの頭に近付いていく。
「もう終わらせようドーラ!!お前が見境なくなってる姿なんて…見たくないんだよっ!!」
ドーラの頭から伸びる長い触覚からもリューセイを狙い何度もビームが撃ち込まれる。
避けて、時には光伝力放射砲で弾き返し、ドーラの頭まであと少しという所まで駆け上ってきた。
「今だっ!!ユーリル!!」
「はぁい!!光のぉぉぉぉぉたいけぇぇぇぇぇん!!!」
光伝力放射砲から光が漏れ出し、その光は徐々に光の刃となっていく。
「良いですか勇者様!!この形になっていられるのは少しだけ…」
「少しだけで充分だ!!」
リューセイは大きくドーラの背中を蹴って飛び上がる。
「ドーラァァァ!!!」
ドーラの頭に光の大剣の刃を向け落ちるリューセイ。
そのままドーラの頭頂部に光の大剣を突き立てた!
ブシュウゥゥゥーーーー!!!
リューセイは更に深く、光の大剣を押し込む。
傷口からは黒い霧が吹き出し、ドーラは細長い体躯を痛がるように捩じらせた。
「グググ…」
吹き出す黒い霧に吹き飛ばされそうになるのを耐えて、リューセイは光の大剣から手を離さない。
ドーラの体躯は尻尾の先から霧となって消えていく。
光の大剣を突き立てた頭も真っ黒に変色し、リューセイの足場も霧となりそのまま空中に投げ出される。
落ちていくリューセイ。
そして、黒い霧の一部は人型に集まったかと思うと、それは元のドーラの姿に戻る。
落ちていくリューセイを一瞥し、ドーラは背中にかけていたセンチメンタルを構え連続で発砲する。
パン!パン!パン!
空中で身を翻し光の大剣で弾丸を弾くリューセイ。
その直後、尻尾を化現させ回転しながらリューセイに近づくドーラ。
激しく振り回される尻尾を光の大剣で防ぐも、ドーラは直ぐに尻尾での猛攻を叩き込む。
ガキン!ガキン!ガキン!!!
「勇者…様…っ…もう力の…限界…ですっ…」
「えっ!?今!?」
ドーラの攻撃を防いでいた矢先、ユーリルのその声と共に光の刃は消え、防ぎ切れなかったドーラの尻尾はリューセイに命中し、バゴォォォーーーン!!と地面に叩き付けられた。
続く…




