第百八十五幕【分担しよう。作業効率的に】
日も沈み、本来暗くなっているはずの時間。
ドーラを中心に濃い紫色の厚い雲が空を覆い、常に内部で稲光を発している為、荒野は不気味に照らされている。
リューセイ達がドーラとスコピールを相手に激しく戦闘をする最中、そこから離れた場所では魔王軍戦車隊が荒野中に散らばってダルクスを捜索していた。
「ええい、どこ行ったべや!」
「でっかい荷物引きながらちょこまかと〜!」
戦車の上部ハッチを開いて身を出して、双眼鏡で辺りを見回す魔王軍の兵士。
その光景を、近くの高くそびえ立った岩陰から覗くダルクス。
(荷車をどうにかリューセイ達の戦いに巻き込まれないように離れた場所に移動させたが…こう、戦車隊がチョロチョロしてるとな…)
そ~っとその場から離れようとするダルクスだったが…
「ダルクスおじ様〜………」
そんな微かな声が頭上から聞こえた。
ダルクスがその場で顔を見上げた瞬間!
ドゴォ!!!
上から黒い塊が降ってきたかと思うとそれはダルクスに直撃し、その重みと衝撃でダルクスの頭は地面にめり込んだ。
落ちてきたのはディアゴだった。
「危ないですよー」
ダルクスが隠れていた細長く高い岩の天辺付近に生えた枯れ木の枝にポンチョを引っ掛けてぶら下がるイズミルの姿があった。
「危ないって言ったのに…」
「おせぇよ!!明らかにぶつかってから言ったじゃねぇか!!」
ダルクスはめり込んだ頭を地面から引き抜いて声を上げた。
「しーっ!まだ魔王軍の連中が居るんですよ!」ヒソヒソ
イズミルは声のトーンを下げヒソヒソ声で言った。
「ガキんちょ…!お前そんなとこでなに遊んでんだ…!」ヒソヒソ
「遊んでるように見えますかっ!?」
枝に引っ掛かったポンチョを外そうと手足をバタバタとさせ、なんとか引っ掛かりを外すとイズミルはそのまま落ちて来た。
「どぶふっ!!」
ダルクスを踏みつけ、そのままクルクルと空中で回ってからスチャッと新体操選手のように着地するイズミル。ダルクスは再び頭を地面にめり込ませた。
「ナイスキャッチです!ダルクスおじ様!」
ダルクスは頭を引き抜き。イズミルを睨みながら声を上げる。
「誰がキャッチしたよ!おめぇなんか誰がキャッ…」
「シッ…!」
ドゴッ!
イズミルはダルクスの頭を掴み、またも地面にめり込ませる。
その直後、目の前を戦車が通り過ぎて行く。
「ふぅ…。だから静かにって言ってるでしょ!」ヒソヒソ
「お前なぁ…」
わなわなと肩を震わせながらダルクスは頭を上げる。
「ダルクスおじ様、気付きましたか?あのピンクの大サソリ…」
「ソウルベルガのスコピール姫だろ。陥落した国の姫がまだ生きてたとはな…」
「気付いてたんですか!…それにしても…なんでドーラちゃんと手を組むような…」
「センチュレイドーラは人を洗脳する力があるんだよ。バルチェノーツもソウルベルガも…」
「どうします…?」
「ガキんちょはリーサさんの援護に行け。俺は…この魔王軍の戦車隊をどうにかする」
「わ、分かりました!頼みますよ!」
強く頷くとイズミルは近くに落ちていたディアゴを背負い駆け出す。
そのイズミルの姿に気付いた戦車隊の一組が声を上げる。
「あっ!おい、宝箱配置人の仲間を見つけたべや!」
ばしゅうぅぅぅ………パーーーン!
仲間を集める為の信号弾が空に放たれる。
「戦車隊は…ダルクスおじ様、頼みましたよぉっ!」
「あのバカっ…!」
手を振って走っていくイズミルの背中をジト目で見送り、集まってくる戦車隊と対峙する。
「………ったく………面倒臭い………」
続々と集まってきた戦車隊は、砲身をダルクスに向ける。
「おい、そこのぉ!今までは姫様の意向で命だけは取らずにいたがな…。それももう関係ねぇべ!魔王軍に裏切り、仇をなした分…後悔するべっ!」
ダルクスは戦車隊を見据えながら…特に何も思わないと言わんばかりに、平然とした顔で余裕そうにタバコに火を付ける。
「クソ………舐めくさってェ………ッ!」
戦車隊の一人が腕をスッと上げる。そして、その腕をダルクスを指すように下ろす!
それを合図に、一斉に放たれる砲弾!
ボガガガァーーーン!!!
ダルクスに着弾する…と思いきや、直前で砲弾は止まり、空中でクルッと向きを戦車隊の方に向けそのままバシュッ!と砲弾は飛ばされ戦車隊の方に着弾する。
ドガガァーーーン!!!
「ナニッ!?」
二台の戦車は砲弾が履帯に着弾し損傷、走行不能となる。
着弾を免れた戦車はその場から移動し、ダルクスの周りをグルグルと周る。
「チッ………面倒臭い………」
タバコをピンと飛ばし捨て、グルグル周る戦車隊の一台に腕を伸ばす。
掌をグッと握る素振りをすると、戦車一台の足元の地面から五本の尖った岩柱が突き出し、まるでダルクスの握った手の形を真似るように戦車を巻き込んで握り潰そうと迫る。
「う、うわぁぁぁ!」
急いで戦車から脱出する兵士達。
直後、メキメキッと音を立てて戦車は握り潰されるような形でいとも簡単に鉄のボールになる。
「こんの、化け物ヤロー!!」
パパパパパパン!!!
戦車の小窓から出された機関銃からの一斉射撃。
しかしダルクスは身軽にその射撃を避けていく。
「サッサと終わらせるぞ…雑魚を相手にしている暇は無いんでね…」
言いながら、ダルクスは冷ややかな視線を送るのだった。
ーーーーー
一方イズミルはリーサの援護する為、ピンク色のサソリを目印にそちらに向かって行く。
「リーサさん大丈夫でしょうか…?もう棺桶になってたりして…」
ヒュ~~~~~…
何かが向かって落ちて来る音に気付きイズミルが見上げると、それは紛れもなくリーサの姿だった。
「リーサさん!?あ、あわわ…」
イズミルは急いでディアゴの8p【からくりハンドの章】を展開し、飛んできたリーサを受け止める。
「い、イズミルちゃぁぁぁん…一人で怖かったよぉぉぉ…」
「ごめんなさいリーサさん!それにしても…良くご無事で!てっきりもう棺桶になっているかと!」
「今、受け止めてくれてなかったらなってたよぉ~…」
リーサはからくりハンドの中で涙をちょちょぎらせて泣いている。
そんな中、リーサを追って来たスコピールが近付いて来る。
「私がくればもう大丈夫!………力を合わせて………スコピール姫の頭を覚ましてあげましょう!!」
「えっ!?スコピール姫!?スコピール姫ってあの!?」
「今はそれどころじゃないですっ!とにかく…迎え打ちますよっ!私とリーサさんが力を合わせれば…」
「い、いけますかねぇぇぇーーー?」
ドスン。
地響きと共に、スコピールが目の前に到着する。
「ほぉ?子供よ。お主、良く無事で済んだものよ」
「子供って!貴女もまだまだ子供じゃないですかぁ!!」
イズミルは指を指して物申す。
「なんで魔王と手を組むような真似をっ!?貴女は…魔王に国を奪われたんですよねっ!?」
「手を組んでいる訳ではないっ…!!お前達宝箱配置人に…妾も恨みがあるのじゃ…今は狙う敵が一緒だというだけ。センチュレイドーラはいずれ…この妾が打ち倒してみせようぞ!!」
「な、何だか色々誤解を生んでそうな…」
「ええい、お喋りはここまでじゃ!!死ねぃ!宝箱配置人…!!」
バコォ!!!
振り下ろした巨大なハサミが地面に叩き付けられる。
イズミルとリーサは咄嗟に後ろに飛び避ける。
「やはり…言って聞くような相手じゃありませんね…リーサさん!」
「ハイッ!?」
「行きますよっ!スコピール姫を私達で…打っっっ倒ぉぉぉーーー!!」
「ひゃ、ひゃいいいい~~~」
「やれるものならやってみろぉ!」
続く…




