第百八十二幕【一騎討ち】
荒野にたたずむセンチュレイドーラ。
その前に距離を置いて立ち並ぶリューセイ、イズミル、リーサ、ユーリル。
「まんまと…来てやったわ…"宝箱配置人"」
最初に口を開いたのはドーラの方からだった。
ドーラの口から出た"宝箱配置人"と言う言葉に…肩を震わせる一行。
「なんで………それを………」
「アンタ達の"仲間"が全部教えてくれたわ。………ここにアンタ達が居る事もね………」
そう言ってドーラは一枚の小さな紙を丸めて投げる。
足元に落ちた紙を拾い上げるリューセイ。
丸められた紙を広げる。
【荒野に居る】
それだけが書かれていた。
「フラップジャックのポケットに入ってた。アンタ達が…仲間にでも入れさせたんでしょ?私を誘い出す為に」
「待てよ…何の事っ…!」
言いかけるリューセイは片方の肩を強く掴まれ、後ろに引かれる。
その勢いでダルクスが前に出て来る。
「ダルさん…!!」
「仲間ってのは誰の事だ?」
ダルクスはドーラを冷静に見つめながら淡々とした口調で聞く。
「アンタ達の罠にハメられた…私の仲間が情報を残してくれたわ。勇者と偽って私達を誘導し、ずっとコケにしてた事、その連中が"宝箱配置人"という組織だって事をねッ…!」
ギリリッ…
ドーラは拳を強く握る。
「ふん……………エクス・ベンゾラムか……………」
ダルクスがポソリと呟く。
「まさか、アンタ達がこんな狡猾な真似をするなんて…甘く見てたわ。少しでも………話し合いでどうにか出来ると思ってたのが大きな間違い………おかげで………私の………大切な仲間が………!!アンタ達のせいでッ………!!」
「待てよ!!俺達は何も………ッ!!」
言いかけるリューセイの口の前に手を出すダルクス。そのまま言葉を続けた。
「あぁ、お前達を騙して仲間をヤったのは俺達"宝箱配置人"だよ。お前を誘い出す為にな」
リューセイの弁明を遮って、ダルクスが声を上げる。
「ダルさんッ…!?」
「リューセイ、もうお遊びは終わりだ。俺達はここで魔王と決着を付ける。逃げられ無い為にも…奴のヘイトを溜めるんだ」
ダルクスはドーラを見据えたまま淡々と話す。
「だからって…そんな…」
「甘ったれるな。遅かれ早かれこうなってたんだ。もう奴には"魔王を降りて"貰わねぇといけねぇ。それが俺達の仕事…宝箱配置人として気を引き締めろ」
「リューセイ………やっとアンタと決着を付ける事が出来るわ………今回は簡単にはヤラれないわ。覚悟しろッ!!」
ドーラから今までの穏やかさは感じられない。殺意と憎悪に塗れた気迫だけで後ろに倒れそうになる。
リューセイは歯を食い縛りながら…一度顔を伏せる。
そのまま、ポソリと口を開く。
「ユーリル………光伝力放射砲、中に入れ………」
隣に居たユーリルにそう呼び掛ける。
「え?………は、ハイッ!」
言う通りにユーリルはリューセイの肩にかかった光伝力放射砲の中に入った。
少しの間の後、顔を上げたリューセイは絞り出すような声を上げる。
「ドーラ………俺も聞きたい事がある。………本当にお前が………ソウルベルガを陥落させたのか………?多くの犠牲を出したってのは本当なのか………!?」
リューセイの言葉に重ねるように、ドーラは冷淡に続ける。
「本当よ。私がソウルベルガを崩壊させた。………だからなんだって言うの?」
リューセイは歯を食い縛り目を強く瞑る。
身体を震わせながら、肩に掛けた光伝力放射砲に手を掛ける。
「……………そうか……………。信じてたのに……………。お前は……………犠牲を出さないって……………平和的に解決するって……………そう言ってたのに……………!!」
「黙れッ!!お前達が先に私達を騙していたじゃないかッ…!!絶対に許さない……………!!!死んだ仲間の為にッッッ!!!八つ裂きにしてやるッッッ!!!!!」
「…………ッセンチュレイドーラァァァァァ!!!」
光伝力放射砲を構え、リューセイは叫びながらドーラに向かって駆け出す。
「リューセイッッッ!!!」
ドーラも姿勢を屈め、地面を蹴ってリューセイに向かって飛び上がる。背後からズボッとムカデの尻尾を化現させそれをリューセイに振り下ろす!
ガキン!!バゴッ!!!
振り下ろされた尻尾を光伝力放射砲でガードする。
その衝撃でリューセイの足元がクレーターのように凹んだ。
ガチガチ…
ドーラはそのまま押し返し潰そうと力を込める。
リューセイはそれを光伝力放射砲で耐えている。
「やっと………お前と決着を付けられるなッッッ!!どっちが死ぬかここで決めるぞッッッ!!!本気で来いリューセイッッッ!!!」
「望む所だッッッ!!!!!」
ーーーーー
「リューセイ…おっ始めやがったか…」
「何落ち着いてるんですか!!私達も援護に入らないと…!!」
他人事のように言うダルクスにイズミルも戦いに加わろうと駆け出そうとしたその時!
「………ッ上です!!!」
「へっ?」
リーサがいきなり叫んだ。
ドガーーーーーァァァァァン!!!!!
巨大な影を作っていきなり降り降りた何かに吹き飛ばされるダルクス、イズミル、リーサ。
イズミルとリーサは同じ所に飛ばされる。
空中で瞬時に防御魔法【プロテード】を展開したリーサのお陰で、二人はダメージ無しで地面に落ちる。
「大丈夫!?イズミルちゃん!!」
「…ッつ!おかげで大丈夫ですけど………な、なんですかアレはぁ!?」
見上げるイズミルとリーサ。
そこには"鮮やかなピンク色をした巨大サソリ"が降り立っていた。
「さ、さ、さ、サソリぃぃぃぃぃ!!!」
リーサは顔を青ざめさせ両手杖を握って身体を震わせる。
「魔王の………仲間!?」
イズミルはディアゴに手を掛けながら言う。
『魔王の仲間ではないわ!』
ギシ…ギシ…ギシ…
巨大な体躯を軋ませながらイズミル達の方に向きそう声を発する巨大サソリ。
『…だが………"魔王に借りがある者"………そして………"狙う敵が一時的に同じ者"じゃ………!!!』
言い終わるや否や、巨大なハサミをイズミルとリーサに差し向ける!
ジャキン!!!
鋭いハサミの閉じる音が響くも、イズミルとリーサは咄嗟に飛び退き攻撃を避ける。
「ひ、ひ、ヒェーーーーー!?こ、こんなのとどうやって戦うんですかぁ!?」
キョロキョロと半泣きで見渡すリーサの目にダルクスの姿が遠くにうつる。
腰を擦りながら同じく吹き飛ばされたであろうダルクスは起き上がると手を大きく振りながら声を上げる。
「そっちは任せた!!俺はまず荷車を安全な所に移動…」
しかし、言い終わる前にダルクスの足元が突然爆発!ダルクスはまたも吹き飛ばされてしまう。
「だ、ダルクスさぁん!?」
『おらぁ!!命中だぁ!!』
そんな声がした方にリーサが目を向ける。
複数の戦車………その内の一つの砲台から硝煙が出ている。どうやらそこから放たれた砲弾によるものだ。
『姫様!!助太刀するぜ!!』
戦車からそんな声が響く。
「魔王にサソリに戦車に…ッ!!なんだって言うんですか!!」
イズミルは歯を食い縛り額から汗をタラリと流しながら言う。
「これじゃあリューセイさんに助太刀出来ませんよぉ!」
リーサが頭を抱えて叫んでいる。
「魔王はリューセイさんに任せるしかありません!!私達は自分達の事を気にしないと………うわぁ!?」
ドガァァァァァン!!!!!
巨大サソリの尻尾の針がイズミルが居た所に突き立てられる!
「イズミルちゃん!!!」
リーサが口元を抑え叫ぶ…が、直ぐにイズミルの声が上がる。
「大丈夫でぇ〜〜〜す…」
微かな声を頼りにキョロキョロとリーサが見渡し…見上げると、イズミルはなんとサソリの尻尾にしがみついていた。
「い、い、イズミルちゃわわーーーん!!??」
「私は大丈夫ですから…リーサさんは自分を守る事を最優先に…あっ」
言い終わる前にシパン!と尻尾を勢い良く振られ、彼方に吹っ飛んでキランと星になるイズミル。
「イズミルちゃわわわわわぁぁぁぁぁーーーーーんんんんん!!!???」
『口程にも無い!!覚悟するが良い、宝箱配置人よ!!!』
次はお前だとリーサにハサミと尻尾を差し向ける巨大サソリ。
ーーーーー
光伝力放射砲とムカデの尻尾を鍔迫り合わせながら膠着するリューセイとドーラだったがリューセイの背後で巻き起こった一連の出来事を見てドーラは驚く。
「スコピール!?それに戦車隊!?………なんでここに…!!………勝手な事を………!!」
その隙を見て、リューセイは一瞬少し腕を引いて、ドーラの体勢を崩し直ぐに光伝力放射砲を思い切り振る。
脇腹に命中し、ドーラは後方に少し飛ばされるが足を引き摺らせて直ぐに体勢を立て直す。
「よそ見するなよドーラ!!………本気で戦うんだろッ!!!」
チャキッと光伝力放射砲を構え直すリューセイ。
「………くッ…………分かってるわよ………!!」
ドーラは再び地面を蹴り、リューセイに飛び掛かった。
続く…




