第百七十四幕【Welcome to GOLD LEAGUE!!】
【ダイダラ大陸・ヤオローズ地方】
【ゴルドリーグ】
「ここが………眠らない大人の街………」
ぽそりと呟き、クサカベはそのネオンで煌びやかな街を眺める。
「何やってんのクサカベ?」
ガウラベルに呼ばれ、ハッとするクサカベ。
目の前には"Welcome to GOLD LEAGUE!!"と夜のゴルドリーグが描かれた壁があった。
実際は真っ昼間だった。
「良い?まだ昼だからそんなに賑わってないけど、夜になれば物凄く騒がしくなると同時に危険な街にもなる。ゴルドリーグはそんな所なのさ。だからクサカベ、アンタは勇者って身分を隠しておくんだよ?誰に目をつけられるか分かったもんじゃないんだから」
「凄く詳しそうに話すね〜?ガウラさん、結構ギャンブラーだったりする?よくここに通ってたんじゃないかな?」
ニコニコと笑いながら(フードで口元しか見えないが)アンカーベルトは言った。
「………まぁね。色々世話になったんだよココには………」
含みのある言い方でガウラベルは言い、一瞬目を瞑る。
少しの間の後、クサカベ達の方に振り返りパン!と手を鳴らす。
「さて!みんな、マスター鍵で開く宝箱や扉を再度開けに今まで向かった場所に再度戻り終わって…これからやっと冒険が進み新しい土地へ〜…と言いたい所だけど、ここは一旦冒険の区切りと言う事で…今日と明日はここ、ゴルドリーグで目一杯冒険を忘れて遊ぼうじゃないか!」
ガウラベルは人差し指を空に突き立て言い放った。
「おぉ〜………」パチパチパチ
クサカベとアンカーベルトが手を叩き関心をしてる中、ベロベロとヒュードロドに舐め上げられながらも全く気付いていない熊猫辣は一人不服そうに口を開く。
「………いや、遊んでる暇は無いだろう。魔王が暴れている中で呑気にカジノで遊ぶのか?」
空に掲げていた人差し指を熊猫辣に向けて、ガウラベルはチッチッと指を振る。
「分かってないねマオラ。このキツくしんどい旅には一時の休息は必要なの!ストレスの発散やメンタルを保つ為には遊べる時に遊ぶ!羽目を外す時は思いっきり外すのがデキる冒険者の基本だよ!」
クサカベとアンカーベルトは「なるほど」と頷いている。
それを見て熊猫辣はヤレヤレ…と溜息交じりで首を横に振る。
「まぁ…僕は皆に任せる。好きにしてくれ」
「でも、ゴルドリーグが活気付くのは夜からなんだ。だから、明るい内だけど宿屋で休息を取ろう。知り合いの宿屋があるんだ。そこに行って暗くなってから皆で街に出て遊ぼう」
そう言うガウラベルを先頭に、クサカベ達はその後に付いて行く。
ーーーーー
宿屋に着く勇者一行。
「ようこそおいで下さいました!!」
扉を開くとフロントの男がにこやかに迎え入れてくれるが、入って来たガウラベルに気付くと血相を変える。
「ゲッ!!!ガウラベル………ッ!!!」
「よ〜元気にしてるー?ベコタ」
ガウラベルとは知り合いのようで、ガウラベルはニコニコとベコタと呼ばれた男に手を上げて近付いていく。
「な、な、なんだ!!何の用だ!?…俺達の関係はもう終わっただろうが…!!」
「いやいや、今ちょっと仲間達と旅をしててね。その旅の途中で寄ったってだけ。元気そうだねベコタ」
ニコニコと話し掛けるガウラベルとは対照的に、ベコタは酷く嫌そうな顔をしている。
「あの…ガウラ姐さんとはどういうご関係で…?」
クサカベが恐る恐る質問する。
「あぁ。コイツはね…まぁ、言わば元カレだよ元カレ」
「元………カレッ…!?」
クサカベが驚く。
その反応を見て、ベコタはヤレヤレと首を振って更に続ける。
「それに、"8人目の元カレ"な。ガウラベル、その子は何人目の男だ?」
「違うよ!クサカベはただの旅の仲間!そんなんじゃないってば!それにアンタの後はそんなに…」
ガウラベルは上目で指を折って数える素振りを見せる。
「9…10…11…15…あれも入れたら…20…」
「ちょちょちょ!!ガウラ姐さん!?えっ!?そんなに!?」
クサカベは顔を引き攣らせている。
アンカーベルトは、ほ〜と口を尖らせ口を開く。
「ガウラちゃん…そんなに男好きだったんだねぇ〜…」
「不潔だ」
熊猫辣もジト目で呟く。
「おいおい、勝手に解釈するんじゃないよ!故郷から無一文で流れ着いて身寄りの無かった当時のアタイが必死に生き抜いた結果で…」
「そ、それで男達にカラダを売って…!?」
クサカベが口を抑えて驚いている。
…しかし、ベコタは溜息交じりに口を開く。
「…だと良かったんだがなぁ〜?………ガウラベルはな?ここ、ゴルドリーグで色んな職を転々としながら…下心丸出しですり寄ってきた男達を同棲を条件に付き合ってたんだよ」
「住む場所が無かったからね」
「んで、いざ手を出そうモノなら………分かるだろ?コイツの蹴りで何人も医者送りにされちまった」
「アンタもその一人だろ」
「全く…何人もの男が一緒になっては、ガウラベルのじゃじゃ馬っぷりに手が負えなくなって…男達の方から離れて行くのさ。見てくれだけ良くても性格がキツくて…」
「いらん事言ったら分かってるだろうねベコタ?」
ガウラベルはニコリと笑いながら指をポキポキ鳴らす。
「なんでもないです…」
「この街に身よりもなく辿り着いたって…ガウラちゃんは一体何があって…」
アンカーベルトが不思議そうに聞いた。
「まぁ色々あったんだよ…話せば長くなるから、またおいおい話すとして…」
ガウラベルは言いながらフロントのカウンターに肘をついてニコリとベコタを見やる。
「アタイ達疲れてるんだ。べコタ、今日はこの宿使わせて貰うよ?………勿論、昔のよしみで料金はチャラにしてくれるんでしょ?」
「ハァ???お前なぁ図々しいにも程が…」
バン!!
ガウラベルは机を叩く。顔はニコニコと笑ったままだがかえってそれが恐ろしい。
「わ、わ、分かった分かった!!奥側の部屋を勝手に使ってくれ!!」
「サンキューべコタ♪…じゃ、みんな行くよ!」
ガウラベルは宿屋の廊下を奥へと進んでいく。
クサカベはべコタに申し訳無さそうに何度かお辞儀をしてその後を付いて行く。
それにアンカーベルトと熊猫辣も続いて行くのだった。
(…ったく………尾底骨の古傷が久々に響いたぜ………)
お尻を擦りながら…昔ガウラベルに蹴り上げられた事を思い出しながらべコタは勇者一行の背中を見送るのだった。
ーーーーー
夜も更け、本来はどの街も寝静まる頃、ゴルドリーグはその正反対を行く様に血気盛んに賑わい始める。
向こうでは呼び込みの声、向こうではカジノのコインの音がジャラジャラと鳴り響き、酔っぱらいのへべれけな歌声が聞こえてくる。
「おーい、クサカベ起きな!」
ガウラベルに叩き起こされ、クサカベは飛び起きる。
「夜になったよ!遊びに行こうじゃないか!」
ーーーーー
昼とは様変わりした街の様子にクサカベ達は圧倒される。
「この熱気…酒の臭い…コインの金物の臭いに香水の臭い…ウプッ…色々混ざり合ってクラクラするな…」
熊猫辣は口元を抑えて気分悪そうにしている。
「慣れれば悪いもんじゃないよ?」
「ガウラちゃんはゴルドリーグでなんの仕事してたの?やっぱりお水の商売?」
アンカーベルトが顎を触りながら質問する。
「まさか。カジノのディーラーやったりホステスさんのボディガードやったり…その頃は僧侶になる為の修行も合わせて頑張ってたねぇ〜。その後、ダルクスに目を付けられて宝箱配置人・魔法補助担当になって………」
「あっちの通りは何かな?」
アンカーベルトは立ち止まって指を差す。
ピンク色の照明で彩られた怪しい通りが伸びている。
「アンタ、人の話聞きなよ!!そっちから話振っといてさぁ!!……………あっちは風俗街だね。行ってきなよ。アンタ興味あるんでしょ?」
「心外だなぁ。僕が興味あるのは大好きな魔物達の事だけ…それに、あんな場所行ったらこのフードを脱がないといけないじゃないか………あ!」
アンカーベルトは、店と店の間の路地に出店する怪しい露店を見つける。
「いかにも怪しい物が売ってそうなああいう露店が一番気になる!!ちょっと見てくるよ!!」
そう言って、アンカーベルトは駆け出して行ってしまった。
「全く………。アイツの趣味も分かったもんじゃないね。ほっといてカジノに向かおう」
ハァ…と溜息をついて歩き出すガウラベル。
「…でも、前にマオラちゃんが言った通り、こう、勇者が旅をほっぽり出して遊んじゃって良いのか若干抵抗があるんですけどね…」
クサカベが心配そうに声をかける。
「余計な心配だよ!それに、カジノで遊ぶったって、一応これからの旅を有利にする為には重要な要素で…」
「カジノが??」
「カジノの景品は勇者の旅をより良くする貴重なアイテムが勢揃いなんだよ!昔は最強の武器とか防具とか平気で置いてたけどね。流石にそれは勇者の射幸性を煽り過ぎるって禁止になったんだよ。とは言え中々使えるアイテムが多くてね。ここで遊んで楽しんで…冒険をちょっと有利にするアイテムも手に入る!一石二鳥じゃないか!」
「なるほど…」
ほうほう…とクサカベは頷く。
「さて、着いたよ!国営カジノ!色んなカジノが乱立してるけど…国営だと安心して遊べるだろ?」
「あの………僕、カジノなんて初めてなんで教えて下さいね」
「分かってるってば」
そう言ってガウラベルは国営カジノへと入って行く。その後をクサカベも着いて行くが、熊猫辣は立ち止まる。
「ボクは遠慮しておく。ちょっと街を周ってくるよ」
「なんでさ?マオラも一緒に遊ぼうよ!」
「いや………ボクはこういうのはあんまり得意じゃ無いから。二人で楽しんでおいてくれ」
熊猫辣はそう言って手を軽く上げると夜の街に消えていった。
「連れないねぇ〜…。あんまり遠くに行くんじゃないよ〜!」
熊猫辣を見送って、ガウラベルとクサカベはカジノへと入って行くのだった。
続く…




