第百七十二幕【次の目的地は…】
【魔界・クロトラジア】
【センチュレイドーラの魔王城・その中庭】
「おい、聞いたか?魔王軍四天王がみんなヤラれちまったって…」
「…バカ!全員じゃねぇ!バッカル様は無事だよ!!………それにしたって、イクリプス様にフラップジャック様………あと、あのなんてったっけ?もう一人、人間の奴が…」
「魔王軍四天王を倒しちまうなんて………その、『宝箱配置人』ってのは勇者よりも相当ヤバいんじゃねぇか?」
「いずれ俺達も相見える事になるのかなぁ…」
中庭に並べられた軍事トラック。
弾薬や砲弾などを荷台に詰め込んでいる兵士達の間でも例の話題で持ち切りだった。
「コラァ!!勝手に入ってきちゃイカン!!」
そんな中、一人の兵士の声が響いた。
補給作業をしている兵士達の中に、何処から入って来たのか小さい魔族の女の子が忍び込んで来ており、兵士の一人に腕を掴まれている。
「うわぁ!離してよぉ!!」
「全く、魔王軍の腕章まで盗みおって…!!」
その子の二の腕には何故か魔王軍の腕章が巻かれていた。
「違うよ!!これは姫様から直接貰ったんだよ〜?」
「嘘つくな!」
「ほんとだよ〜!」
騒ぎを聞きつけ、他の兵士達も集まって来る。
「何を騒いでるんだ?」
「いや、この子が魔王軍の腕章を勝手に…」
「だからこれはイジメられてた私に城下街に降りて来てた姫様が助けてくれた後にくれたんだよ〜!」
譲らず腕をブンブン振っている女の子。
ヤレヤレと首を振って、一人の兵士が声を掛ける。
「それで?嬢ちゃんはどうしてここに?」
聞かれ、女の子はブン!と掴まれていた腕を引き抜き、ムン!と仁王立ちする。
「私も姫様の役に立ちたい!一緒に戦うよ!」
「…はぁ…。嬢ちゃん?これは遊びじゃないんだよ。命を賭けた…本物の戦争なんだよ?」
「そんなの分かってるよ!」
「子供には危険過ぎるからね。お兄さん達が相手にしてるのはそれぐらい強大な敵なんだ」
「だから私も手伝いたい!姫様を………近くで応援したいよ!」
はぁ…と息を吐き、一人の兵士が女の子を担ぎ上げる。
「ちょ、ちょっと〜!降ろしてよぉ!」
「良いからお母さんトコに帰りな!」
兵士は女の子を担いだまま城下街へ続く正門の方へ向かう。
門の外へヒョイと降ろしてシッシッと手を仰ぐ。
「さぁ帰った帰った!お兄さん達忙しいんだから…」
「ぶぅーーー!分かったよ………」
頬を膨らませた後、女の子は城下街へと帰っていく。
それを見届け、兵士は元の位置へ戻っていった。
…しかし。
「………っと見せかけて戻っちゃうもんね〜!」
女の子は帰るフリをしただけで再び中庭に戻っていく。
今度は見つからないようにコソコソと、木や花壇の植木に身を隠しながら…トラックの陰にまでやって来る。
兵士達は雑談を交えながら詰め込み作業をしている。
女の子は隙を見て、トラックの荷台に登り…身を潜めた。
「よぉーし、じゃあ野営地にソロソロ向かうか。そっちから先のトラックはデルフィンガル方面の野営地に向かってくれ。こっちはソウルベルガ近くの野営地だ間違うなよ!」
兵士達がトラックに乗り込みエンジンをかける。
ドッドッドッ…
ファンタジーの世界にあるまじきガソリンで動く乗り物…。
魔族達が運用する乗り物は全てそうだった。
後部の排気口からは煙が上がっている。
案内旗を持った兵士が黒曜石で出来た時限転移ゲートに向けて旗を振っている。
そのゲートを次々とトラックがくぐっていく。
(待っててね姫様…!私も姫様のお側でお手伝いするから…!)
女の子は腕の腕章に手を当て…固く決意した表情をするのだった。
〜〜〜〜〜
一方…
宝箱配置人一行は、今や世界中のならず者が集まる危険な島と化した【元・独立国家サラアラウス】に来ていた。
整備されずボロボロになった王城の外に同じく取って付けられたように建てられたボロボロの墓石の前に、リューセイとリーサが手を合わせて拝んでいた。
それは、かつてこの国を治めていた王と女王の墓…リーサの父親と母親のものだった。
先に顔を上げたリューセイはやるせなさそうな顔で呟く。
「王族の墓がこんなひっそりと人目につかない所にみすぼらしく建てられてるなんてな…」
リーサも顔を上げ、無表情でただ墓を見つめてポツリと言葉を続けた。
「私のせいなんです…私がこの国を去ったから…何もかも上手くいかなくなって…民衆の反感を買って…」
「リーサのせいじゃないよ。元より、リーサを閉じ込めてなきゃ存続出来ないような国なら滅ぶべきだったんだ」
「それにしても…私っておかしいですよね?………父親と母親の墓を前にして…全く悲しくならないくて…」
「無理も無いって。物心付く頃にはあんな塔に閉じ込められてたんだから…」
「そうですね………忘れかけていた父親の最後の顔を見たのが鎌鼬さん…じゃなくて…黄鼠狼さんを罰しようとしていた時。まるで処罰を与える事を楽しんでいるような…そんな怖い顔でした…」
「その黄鼠狼って人も…早く見つかると良いな…」
「はい…私の事を覚えて無いハズですが…せめて…名前だけでも返してあげたい…」
そう言って再び手を合わせ目を瞑るリーサ。
リューセイはその場で黙ってリーサの祈りを待つのだった。
ーーーーー
「つまり…私に勇者達の前に立ち塞がるボスキャラ役になって欲しいと…?」
サラアラウスの海賊達が集まる酒場。
テーブル席に座るイズミルの前でトリンコロックが足を机に乗せて樽型ジョッキでビールを飲みながら言う。
「ハイ!それが私達から貴女にお願いしたい事なんです!………勇者一行が魔王を倒す為の勇者の剣を求めてドーメキ諸島に向かいます。まぁ本当は勇者の剣では無くて海賊王の剣だった…ってオチですが、今の勇者にはかなり強力な武器となります!」
「…で、そのアンタらが設置した"なんちゃって海賊王の剣"を護る海賊トリンコロックを演じろって事ね」
「その通り!勇者一行の前に立ち塞がって、彼らと一戦交えて下さい」
「良いの?ウチは手加減出来ないよ?勇者だかなんだか知らないけど…手を合わせるなら本気で行かせて貰うけど?」
「上等です!………ここで貴女に敗れるような勇者なら………魔王なんて倒せませんから!」
「言ってくれるじゃんか。………その話ノッた!ウチも勇者がどういう奴か気になるし!」
「ありがとうございます!………あ、それと………勇者との闘いではシュヴァルツの使用は………」
「分かってるって!………元々インテリアとして飾る用に………あとベイルランドに言う事聞かせる為にかっぱらったものだしね…」
イズミルはそれを聞いて満足気に頷くとサラサラと手帳に書き込んで席を立つ。
「それではそのようにお願いします!」
「アンタ達、次は何処に向かうの?」
「私達は…ここから東に向かって【カタラウワ大陸】の【ルジュアナ海岸】から陸に上がって…そのまま【ソウルベルガ】に向かいます。魔王に陥落されたって言われてるソウルベルガの状況も見ておきたいし…」
「大丈夫なの?魔王がまだ周辺うろついてるんじゃ?」
「なら尚更向かわないと!………今回の魔王はかなり勝手な事をしてくれてますからね…。ちょっと小突いて『魔王城で勇者が来るまで待ってなさい!』って言ってあげないと…」
「そんな簡単に行く話なの………?」
「魔王は影が薄くなきゃいけないんです!!こんなアクティブに人間界を侵攻されて存在感出されちゃ溜まったもんじゃないですもん!!魔王に慣れ始めてた世界が…再び魔王の脅威に怯え始めてるのは…色々…世界の情勢的にも危ういんです」
「…大変なんだね…アンタ達も…」
イズミルはキリッとした顔をトリンコロックに向け深々とお辞儀して酒場を出て行く。
ドン!
イズミルが酒場からでた直後、誰かにぶつかってしまう。
見上げると、それはダルクスだった。
「なんだお前か。トリンコロックの協力は仰げたのか?」
「はい!コチラは準備出来ました!」
「そうか。………考えたんだが、勇者一行にはこのサラアラウスを訪れないようにルートを調整しようと思う」
「え?どうしてですか?ここでドーメキ諸島に隠された剣の在処を聞いて回って貰おうかと…」
「ガウラベルがな…。アイツここの出身だろ?………アイツも知らないハズなんだ。ここが既に崩壊しちまってるなんて。色々思い出したくない事もあるだろう…しさ…」
「ダルクスおじ様がそう言うなら………。じゃあ、剣の聞き込みは何処で?」
「それはコクド交通港でしてもらうよう宝箱配置人協会に伝達しとく」
「良いんですか?………ガウラベルさんにも教えて上げた方が…」
「いや、アイツが知ったら…色々詮索したりで旅に支障が出るかもしれないだろ。知るとしても…魔王討伐の後でも遅くない」
「…………分かりました!」
イズミルが同意したのを見て、ダルクスはそれを言いに来ただけだったのかサラアラウスの波止場に戻っていく。
「そこから動くなよ"センチュレイドーラ"…お前の身勝手な行動もここまでだからな…」
ダルクスはそう呟き…ミリオン高速船に乗り込むのだった。
続く…




