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異世界から転生した勇者より宝箱配置人の方が過酷だった件  作者: UMA666
第四章【衝突、すれ違い、解放戦線…編】
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第百七十一幕【そして…雨が晴れる】

ザァァァ…


より酷く降る雨の中、雷で照らされる一瞬の明るさを頼りに森の中を進むフラップジャック、バッカル、スコピール。


バシャバシャ!


濡れた地面を鳴らしながら息を切らして、来た道を魔王軍野営地に向かってボロボロの三人は進んでいく。


バシャン!


徐ろに、ジャックが足をもつれさせ前に倒れてしまう。

バッカル、スコピールは立ち止まり振り返る。


「ジャックちゃん!大丈夫!?」


バッカルが焦った様子で声をかける。


「……………うん……………」


ジャックはゆっくりと身体を起こし起き上がろうとするが再度よろめいて手をついてしまう。


「……………ハァ……………無理……………」


「ジャックちゃん!どうしたの?」


「奴らが……………また……………そこまで追って来てる……………」


「それなら尚の事急がないと…!」


「……………ハァ……………ハァ……………」


ジャックはお腹を抑えている。

腹部、胸、肩の三箇所を撃たれ貫通せずに身体の中で留まっているシュヴァルツの弾。

魔族の治癒力を持っても、残った弾が傷が治るのを妨げてしまう。

ヒタヒタと流血は未だ雨に濡らされ止まらないでいる。


「急いで治療しないと…。早く野営地に戻ろう!」


「……………でも……………これ以上は……………」


「妾も肩を貸すぞ…!」


スコピールが屈んでジャックの腕を肩に回そうとする。バッカルもそれを見て真似をしようと屈むが…


「……………待って……………バッカル……………聞いて……………」


ジャックはバッカルを見据え制止させると、そのまま続けた。


「ジャックは……………ここまでで良い……………バッカルとスコピールは……………野営地へ急いで……………」


「なに言ってるんだよ!?ここで見捨ててなんて…」


バッカルが言いかけて、それを遮るジャック。


「見捨てろとは言わない……………そこの岩の後ろに……………隠れて待ってる……………助けを呼んできてくれたら……………助かる……………」


「…でも…!」


「……………ブラックの爆発のおかげで……………魔王軍の皆も……………気付いて向かって来てくれてるハズ……………お願い……………バッカル……………」


「………分かった。分かったよ」


バッカルは頷くとジャックの腕を肩に回し、近くにあった大岩の後ろへとスコピールと協力して移動させ、岩を背もたれにジャックを座らせた。


「じゃあ…助けを呼んでくるから!それまでの辛抱だよ!見つかっちゃダメだよ…!」


「……………大丈夫……………安心して……………」


バッカルは頷くと野営地に向かい駆け出そうとするが、寸前でジャックに腕を掴まれる。


「……………バッカル……………スコピールを必ず……………守ってあげて……………」


「う…うん…」


「ヒーローになってバッカル……………ブラックの意思を継いで……………」


「ヒーローとか…正義とか…よく分かんないけど…」


バッカルは強く頷く。


「任せて。もう誰も傷付けさせないから」


「……………お願いバッカル……………任せたからね……………」


バッカルは再度頷くとスコピールの手を握る。


「行くよスコピール!」


「あ、あぁ…」


バシャバシャ…


二人の姿は闇の中に消えていく。

それを見届けて…ジャックは一息つく。


バシャバシャバシャ…


しかし間もなく、別の方角から大勢の大人達の足音が聞こえてくる。

後から追ってきた信者達の残党。


ジャックは岩に手をつきながら立ち上がる。

ふらり…ふらり…と足元をおぼつかせながら、ジャックは信者達の前に出ていった。


隠れておくという約束だったが、ジャックは(はな)から守るつもりは無かった。

傷付いた自分と子供二人の足では信者達に直ぐに追い付かれてしまうのは目に見えていた。

誰かが囮となって時間稼ぎをしないといけないと考えた為に信者達の前に姿を現したのだ。


急に現れたジャックに信者達は驚き、直ぐ様シュヴァルツを一斉に構える。

その先頭にはコンペキの姿があった。


「おっとっと…フラップジャックさん。まだ図々しく生きながらえていたの」


「……………ハァ……………こっちの台詞……………」


「フフ…苦しそうだね。その怪我だと…流石のフラップジャックさんもこの数を相手には出来ないよね?」


「……………どうかな……………」


ジャックは足に力を込め、姿勢を屈める。

コンペキも剣を化現させ待ち構える。


バシャア!!


水しぶきを上げ、ジャックはコンペキに向かって飛び込んだ。

直ぐ様、コンペキは剣を振り被り…


しかし、ジャックはコンペキの真横を通り過ぎ、その後ろの信者に飛びかかった!


グシャア!!!


振り下ろされた頭のタコ足で叩き潰された信者は跡形も無く地面に血溜まりを広げる。


コンペキに見向きもせず、振り返りざまに別の信者二人を二本のタコ足で持ち上げ、お互いをぶつける。


グチャア!!!


飛び散る"信者だったもの"。

その返り血を浴び、ジャックは赤く染まって行くも雨でその血も流されていく。


「う、撃てッ!!撃てーーー!!!」


ババババババン!!!


一斉にシュヴァルツが発砲される。

発砲の光で森の中は激しく明滅する。


ーーーーー


「ッ…!!」


バッカルはシュヴァルツの発砲音を聞き立ち止まる。

後ろを振り返るが、そこからは暗くて先は見えない。


「助けに…!!」


ジャックの元に戻ろうと一歩踏み出すも…

バッカルは思いとどまる。


「……………ッジャックちゃん………!!」


ギリ…と歯を食いしばり、野営地に向かってスコピールの手を引っ張って走り出す。


「お、おい…良いのか!?今の発砲音は…!!」


スコピールが心配そうに言う。


「ジャックちゃんが…簡単にヤラれたりするもんか!!………ボク達はとにかく味方の助けを…!!」


そう言って、走るバッカルの目から一筋の涙が流れるのをスコピールは見逃さなかった。


ーーーーー


ジャックは頭のタコ足で弾を受け止めながら次々と信者達に襲いかかる。折れた木の枝に突き刺し、首をもぎ取り、胴体を引き千切り、巻き付き、締め上げ、全身の骨を粉々にする。

まるで弄ぶ様に、信者達を惨たらしく殺していく。

そんなジャックの身体からは踏ん張ったり力を込めたりする度に真っ黒な血が流れる。


「フフ…やはり腐っても魔族…人を殺す事を何とも思わない…無慈悲で冷酷な化け物なんだよ君は…!!」


シュッシュッ!!


コンペキが空中から化現し飛ばす青白く光る二本の剣。


ザシュッ!!


ジャックの身体を貫き刺さる。

一瞬ヨロめくも、ジャックは剣が刺さったまま手を止めない。


「ヒィィィ!!や、やめ…!!」


グチャア!!


慈悲を乞う者、逃げ出す者、腰を抜かす者も居たが、一人も残さず殺戮していく。

ジャックは最早殺人マシンと化してしまった様に淡々と信者達を潰していく。


とうとう、最後の一人を叩き潰して肩で息をするジャック。ゆっくりとコンペキの方に振り返る。その顔、身体は真っ赤に血塗られていた。


「あ〜あ〜…もう滅茶苦茶にしてくれちゃってさぁ…子供や奥さんが居る人だっていたのに…」


フラフラとコンペキを見据えながら近付いてくるジャック。


「死ぬ気かい?そんな状態で僕に勝てるとでも?」


刺さったままの二本の剣が引き抜かれ、再度ジャックの身体を貫いた。


ザクッザクッ!!


バシャア!!


ジャックはそのまま前に倒れてしまった。


「………ここまでか」


コンペキはパチンと指を鳴らし、ジャックに突き刺さっていた剣を消す。

水溜りには黒い血が滲み広がっていく。


「時間稼ぎをしたつもりだろうけど…無駄だよ。最初から狙いは君だけだったからね。フラップジャックちゃん…君を殺すだけでも魔王軍の戦力を大幅に減らす事が出来る」


「……………」


「魔王さんも君が死んだと知ったらどう思うかな?………それをやったのが宝箱配置人だと知った時は?……………面白くなりそうだね」


空を見上げると、厚い雲から隙間が出来始めており、若干青みがかった空が見える。

雨もいつの間にか、ポツポツ雨になっていた。


「おっと…。もう日が出て来る頃みたいだ。さて、僕は魔王軍が来る前に去らせてもらうよ」


そう言ってコンペキは森の中へと消えてしまった。


暫くして、グルッとうつ伏せから仰向けになるジャック。


「…………………………ドーラちゃん…………………………」


そう呟き、ジャックは空を見たまま動かなくなった。




〜〜〜〜〜





「姫様ッ!!!」


魔王軍野営地、センチュレイドーラの執務用テントにババロアが飛び込んでくる。

ビクリと肩を震わせ、毛糸で何か縫い物をしていたドーラは目を大きく開ける。


「な、何よ!!確かに、労いのプレゼントに手作りの人形はどうかと思ったけど…魔王様が直々に作ったものなんだから普通のぬいぐるみと価値が違…」


「そんな事言ってる場合じゃないですぞ!!」


ーーーーー


朝方、ババロアに連れられテントを出ると、広場にボロボロになったバッカルとスコピールの姿があった。

二人は息も絶え絶えで魔王軍兵士達に囲まれている。


「どうした!?何があった!?」


ドーラが兵士達を掻き分け中に入っていく。


「ドーラちゃぁぁぁ〜ん………うぐっヒグッ………」


バッカルが子供相応に泣きじゃくっている。


「妾の………妾せいじゃ………妾が余計な事をしたせいで………!!」


スコピールも悔しそうに顔を顰めている。


「何が………あったの………?」


ドーラも只事じゃないと察して困惑する。


「夜中に鳴ったあの爆発音の調査に向かっていた魔王軍の偵察隊が発見し保護したんです…」


隣の兵士がそうドーラに伝える。

ドーラは屈んでバッカルの肩に手を置く。


「バッカル…!!何があったの…!!他の魔王軍四天王はどうした!?」


「ウグッ………ヒグッ………」


バッカルは嗚咽が止まらず中々話し出せないで居た。


「宝箱配置人じゃ………全て宝箱配置人が仕掛けた事じゃ………」


代わりにスコピールが話し始める。


「宝箱………配置人………?なんだそれは………」


「お前達が勇者だと追っていた連中………其奴らは勇者などでは無い…!!ソウルベルガを………魔王軍をずっと騙しておったのじゃ…!!全て其奴らの罠じゃ…!!うっ………まんまと………そのせいで………魔王軍四天王………は………妾を守って………妾のせいじゃ………!!うぅ…」


スコピールも言葉を詰まらせ涙を流す。


「おひいさま…!!」


メタノールが駆け寄り、スコピールの肩を寄せ擦る。


「ちょ、ちょっと待って…!騙されてたって…他の皆がどうしたって言うの…!?」


「姫様…。今兵士達が確認中です。続報あるまでテントで…」


ババロアが言いながらドーラの手を握ろうとすると、ドーラは踵を返して野営地を後にしようとする。


「姫様どちらへ!?」


「私も…確認してくる…!!」


「い、いけません!今は兵士達に任せて…!!」


しかし、ドーラは話を聞かず野営地を出て行ってしまう。


ーーーーー


(そんな訳無い…魔王軍四天王がそう簡単にやられる訳が…!!)


森の中を駆けるドーラ。


兵士達が調査に向かった方角に、何があるのか確認する為に…何もない事を願いながら…


どれだけ時間が経ったか、かなり森の奥を進んだところで次第に異様な光景が見えてくる。


倒された木々…飛び散ったまだ乾いてない血溜まりに"人間だったもの"の残骸。


「うっ………」


ドーラは顔を青ざめさせ吐きそうになる口元に手を当てる。


そこには先に来ていた兵士達が周りを調査している。


「魔王様!?来られたのですか!?」


「………何があったんだ………」


「まだ調査中ですが………ここで魔王軍四天王と人間達との争いがあったと思われます…もっと向こうに進んだ先には大きく損壊した古城があり…夜の爆発音が鳴った場所だと推察されます」


「魔王軍四天王も居ただろう!?何処に居る!?」


「は、はい!見つかりましたが…」


「何処だ…!!案内しろ!!」


「いや…ですが…ま、魔王様…!!」


引き止める兵士を無視して先に進むが…

直ぐにその足を止める事になる。


「……………ジャック……………」


地面に仰向けに倒れているジャック。

その声にジャックを調べていた兵士が立ち上がりドーラに敬礼をする。


「ま、魔王様…!!その…フラップジャック様が…」


バシャ!


言葉を聞かずジャックに近付きそのまま流れ出たジャックの血と雨で濡れた地面に膝をつくドーラ。


「そ……………そんな……………」


「もう…我々が来た時点では既に………」


「ごめん、ジャックと二人にしてくれる…?」


「は、ハッ!」


兵士は再び敬礼すると、近くを調査していた別の兵士達に声を掛けその場から離れていった。


「ジャック……………どうして……………」


ドーラはゆっくりジャックを抱きかかえる。

次第に涙が溢れてくる。


「う………うぅ………ジャック………お願い………目を覚ましてよ………先に行かないでよ………なんで………」


ジャックを強く抱き締める。

しかしジャックは動かない。


「うぅ………私が行かせたから………私のせいだ………ゴメンねジャック………ゴメンね………うぅ………グスッ」


ドーラはジャックを抱き締めたまま日が暮れるまで泣いた。


ーーーーー


それから暫く後に兵士達から崩壊した古城からイクリプスのシルクハット、ランドルトブラックのベルトの破片が見つかった事を知らされる。


担架に担がれて野営地に運ばれていくジャックを横目に…泣き晴らし目が充血したドーラに兵士が駆け寄る。


「………姫様………これからどうされますか?」


「詳しく………バッカルとスコピールから話を聞く必要があるが………」


ドーラは手をグッと握り震わす。

キッと瞳孔が開く。


「『宝箱配置人』………。そいつらを何としてでも見つけ出せ………!!話を………直接聞くんだ………。我らをコケにして………本当に騙していたのかを………!!」


そう言って、ドーラは歯を食い縛る。


(リューセイ達………あいつらは一体………)


ドーラは空を見上げる。

今の自分の心とは裏腹に、夜の大雨がウソのように雲一つない夕焼けとなっていた。

ドーラは目を瞑る。暫くして、何かを決心したように目を開けると野営地に向かうのだった。






第四章【衝突、すれ違い、解放戦線…編】完




第五章へ続く…

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