第十七幕【誰もがレベル1から】
城下町を一通り探索してアイテムを漁ったクサカベとガウラベル。
「よし、そろそろ城下町の探索も充分じゃないですか?ね、ガウラ姐さん」
「そうだな。んじゃ次の目的地に向けて出発するか」
そう言ってガウラベルは懐にかけていたひょうたんの水筒の蓋をキュッと開けて中のものを軽く口に含んだ。
「なんですかソレ。お酒…?」
「バッカ、違うよ。牛乳だよ牛乳。アタイは定期的に牛乳を接種しないと平常心を保てないんだ」
「そ、そんなに牛乳が好きなんですか…?」
「なんだ?勇者は嫌いか牛乳?通りでチビな訳か。牛乳を飲め牛乳を!!牛乳を飲んだらアタイくらい背が伸びるぞ!?」
「いや別に嫌いじゃないですけど…牛乳飲んで背が伸びたら苦労しませんって…」
そんな会話をしながらエンエンラ王国から出る城門をくぐった所で一人の男が外から駆け寄ってくる。
「助けてくれー!!」
男はクサカベ達の前に立ち止まり、息を切らしている。
「どうしたんですか!?」
「大変な事になった…!私の…私の大切な指輪が…!!」
「なーるほど、これが用意されたイベントって訳…」
ガウラベルがポツリと呟く。
「なんか言いました?」
クサカベは聞き返す。
「…いや、なんでもない」
ガウラベルはパッと目をそらした。
「私が近くの森でキノコ狩りをしてたんだ。そしたらデッカイ熊の魔物に襲われたんだ!!咄嗟に指にはめていた指輪を投げて気を逸らしたうちに逃げてきたんだが…今は亡き妻との大切な結婚指輪だったんだ!どうか取り戻してくれないか!?」
男はクサカベの腕をガシッと掴み懇願してくる。
「…ぼ、僕は魔王を倒すという重大な使命を預かってます。そういった事は城の兵士に頼んだ方が…」
クサカベがそう言うとガウラベルはその言葉を遮り、男に問い掛ける。
「いや…アレだろ?もしかしてアンタはこの先の関所の交通許可書を持ってる〜…とかじゃないか?」
「…そ、そうですが…なんで分かったんですか?」
「大体このパターンだからな!勇者、残念だったね。この依頼は受けないと先には進めないみたいだぞ!この男の依頼を達成して関所の交通許可書を貰わないとな!」
「え、いやでも僕達は先を急ぐ身だし…」
「頼みますよ!あなたにしか頼めないんです!」
「いや、そういう仕事は兵士に…」
「頼みますよ!あなたにしか頼めないんです!」
「いや、そんな時は酒場の掲示板とか見てもらうと…」
「頼みますよ!あなたにしか頼めないんです!」
「なにこの人!!おんなじ事しか言わなくなったんだけど!!」
「勇者、無駄だよ。強制イベントは【はい】を選択するしかないからね」
「わ、分かりましたよ…。結婚指輪は僕が取り戻してみせます…」
「ほんとですか!?ありがとうございます!!場所は近くの【はじまりの森】と言われる場所です!どうかお気を付けて!」
そう言って男は何度も頭を下げた。
「ま、レベル上げに丁度良いイベントだ。ここはなるように身を任せて進もうぜ?」
そう言ってガウラベルは先を歩き始めた。クサカベはその後をいそいそと追いかけるのだった。
(そんな悠長で大丈夫なのか?魔王が世界を陥れようとしているんだ。急がないと間に合わなくなるんじゃ…?)
〜〜〜〜〜
【はじまりの森】
鬱蒼と生い茂る木々が空をも覆い、薄暗い中を進んでいくクサカベとガウラベル。
所々に分岐する道があり、ガウラベルから「行き止まりの方から行こう」と言われるクサカベ。どうやらそっちには宝箱が配置されている事が多いからだそうだ。
そんな感じで点在する宝箱を回収しながら、熊の魔物を警戒しつつ指輪が落ちてないか確認しながら奥に進んでいると…
「何をキョロキョロしてるんだ…?」
ガウラベルに言われる。
「え?いや、指輪が落ちてないか探してるんですよ。熊の気を引く為に投げたって言ってましたよね?」
「あー…、あのな?勇者。多分指輪は熊が飲み込んでる」
「そんなの分からないじゃないですか。まだ落ちてるだけかも…」
「いや、勇者。指輪は絶対に飲み込まれてる。分かるんだアタイには」
そんな会話をしていると目の前に【ス・ライムの群れがあらわれた!】
「お、やっと出てきたな!勇者!サクッとやっちまえ!」
クサカベは速やかに剣を…と掴もうとするが、モタついて剣を地面に落としてしまった。
「おい!何やってるんだよ!」
「わ、わ、ゴメンなさい!」
クサカベはわたわたと地面に落ちた剣を拾おうと…
「イテッ!刃先を掴んでしまった!」
「勇者!?おい!?」
「大丈夫!大丈夫ですから!」
「あーもう!」
ガウラベルは痺れを切らして杖で呪文をかける。
【ガウラベルはフレイムを唱えた!ス・ライムの群れに火炎のダメージ!ス・ライムの群れをたおした!】
「何やってるんだ全くもう!あんた剣握った事あるの?」
「…初めてです…」
「…ハァ…?それで良く魔王討伐に乗り出したねぇ?」
「面目ないです…」
「まぁ良いさ。そんな勇者の為に宝箱配置人が最善のルートを開拓してくれてるんだから。ここの魔物は今のアンタに丁度良い。慣れるまでバンバン敵を倒して経験を積んでいこう。どんなに傷付いたって、このアタイが居るんだから。心配すんなって!」
そう言いながらガウラベルは優しく微笑んでクサカベの背中をバンバンと叩く。
「うぅ…」
その優しさと不甲斐なさに泣きそうになるも、クサカベは首をブンブンと振り、剣を握りしめる。
(僕は勇者の末裔。絶対にくじけない。
今まで僕を馬鹿にしてきた人を見返してやるんだ!)
とは言ったものの…
〜〜〜〜〜
「勇者。もう帰ろう」
「え!?まだ指輪見つけてないですけど!?」
「アタイの魔力が切れた。さすがに蘇生呪文をあんなに連発してたら底を尽きるよ」
「…僕…、そんなに死にましたか?」
「死んでた」
「………スミマセン…」
「最初はそんなもんだって気にすんな!魔力が切れたのもそうだけど一番は牛乳も切れそうってのが一大事だ」
「そうですね…一旦帰りましょうか…」
そう言って落胆しながらクサカベは森の出口に向かおうとしたがすぐ立ち止まって
「ほんとにスミマセン…失望しましたよね?勇者の癖に弱くて…」
「気にすんなってば!それに、今日ここで得た経験値は無駄じゃない。アンタは確かにレベルアップしてるんだよ?」
「そうですかね…」
そう言って塞ぎ込んでるクサカベの前にガウラベルはやってきて…
「歯ぁ食い縛れ!!」
そう言って肩をガッと掴まれる!
(殴られる!!)
クサカベは歯を食い縛り目を瞑る!!
ガウラベルは間髪入れずにみぞうちに思いっきり膝蹴りをかました。
「どぶふっ!!!!?」
クサカベは膝から崩れ落ちる。
「どうだ?弱い気が吹っ飛んだだろ!!ウジウジすんな勇者!!あんたには世界の命運がかかってんだぞ!!勇者としての自覚を持ちな!!」
「ゲホッゲホッ!!普通…歯食い縛らせたらビンタとかじゃないですかね…ゲホッゲホッ!!」
(…でも、良い膝蹴りだった…。確かにこの痛みは僕の弱い気を霞ませてくれる程の痛み…)
「…そうですね…ガウラ姐さんの言うとおりです…勇者としての自覚を忘れる所でした…街へ戻りましょう!また明日、リベンジします!!」
「おう!その粋だ!」
…と、一歩を踏み出すがそのまま前にドシャリと倒れてしまうクサカベ。膝蹴りが効き過ぎたみたいだ。
「勇者?勇者!!おーい!!」
そんなガウラベルの呼びかけも次第に遠のいていき…
暗転
続く…
 




